私たちの移動の経験はどう変わる? 「移動」と「つくる」ことをめぐって

遠隔のアーティスト・イン・レジデンスから、アートプロジェクトのあり方を探る

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、海外への移動にとどまらず、国内の移動も大きく制限せざるを得ない状況を生み出しました。現在は緩和された状況ではあるものの、ステイホームをせざるをえなかった経験は、これまで「移動」する行為を当たり前に享受していたことを実感する機会でもありました。

移動と密接にかかわる現場のひとつに、アーティストが、いつもの活動拠点から離れ、さまざまな土地に滞在して制作するアーティスト・イン・レジデンス(AIR)があります。現在の「移動」に関する先行きが見えづらい状況において、さっぽろ天神山アートスタジオでは、アーティストが札幌に訪れることなく、遠隔のままAIRを行う試みが行われています。滞在を伴わないAIRという形式では、どのような協働のかたちがあるのでしょうか。そもそも「移動」にはどのような効用があり、これからの移動の経験はどのように変わっていくのでしょう。

今回は、同スタジオでディレクターを務める小田井真美さん、映像エスノグラファーとして人々の移動の経験を研究する大橋香奈さんをゲストに、お二人が取り組んでいる実践や研究から、これからのアートプロジェクトのあり方を探ります。

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記録映像

場所をひらくことは何を生み出す? 物語が滲みあう場を立ち上げる

福祉施設を地域へひらく「嫁入りの庭」から、拠点のあり方を学ぶ

コロナ禍以降、他者との物理的距離をとりウイルスのような見えない存在と共生することが当たり前になった現在、まちなかに拠点のあるアートプロジェクトはどのように変化していくのでしょうか。アートプロジェクトの基盤となる「拠点」のひらき方について、わたしたちは考えを進める必要があります。

宮城県仙台市にある「嫁入りの庭」は、かつての嫁入り道具のように老人ホームに入居する人と一緒に引っ越してきた家具や植木、まちの記憶が宿った道具などが運ばれてくる場所です。かかわる人が限られ、閉鎖的になりがちな福祉施設が、どのようにまちと接点をもつことができるのか。こうした誰でも立ち寄れる場所をまちと施設の間につくることで、「かかわりしろ」を生み出そうとする試みから、拠点のあり方のヒントが得られるかもしれません。

今回は「嫁入りの庭」のある社会福祉法人ライフの学校の理事長の田中伸弥さんと、庭の設計を担当したtomito architectureの冨永美保さんと林恭正さんの3名をゲストに、庭づくりのプロセスやその背景にある想いについて話を伺います。

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記録映像

オンライン報奏会(ほうそうかい)2020

福島と東京、それぞれの場所でつながり続ける

2020年4月、緊急事態宣言が発出されて以降、多くのアートプロジェクトが中断し、同時にオンラインを含む新たな手法を検討すべきなのか、議論を余儀なくされました。アートプロジェクトの現場へ足を運ぶことが難しい状況で、それぞれの場所にいながら、プロジェクトを成立させるために、どのような手立てがあるのでしょうか。

アサダワタルさん(文化活動家)を中心に、福島県いわき市にある県営復興団地・下神白(しもかじろ)団地で行われているプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」も、現地訪問が困難になり、オンラインでの開催方法を模索しています。

2016年からはじまったこの取り組みでは、住民が住んでいたかつてのまちの記憶を、馴染み深い音楽とともに収録するラジオ番組を制作し、それらをラジオCDとして住民限定に配布・リリース。こうした活動を軸に、立場の異なる住民同士やふるさとの交流を試みています。

また2019年には、住民の「メモリーソング」のバック演奏を行う「伴奏型支援バンド(BSB)」を結成。関東在住のミュージシャンが団地住民のもとに伺い、現地から遠く離れているからこそ音楽を通じた「想像力」で、住民との関係を深めてきました。

そして2020年。コロナ禍においてオンライン訪問を継続しつつ、「会えない」という状況だからこそできる「表現×支援」の関係をより深く見つめながら、3回シリーズの報告会を行います。音楽をかけながら行うラジオ風トークを軸に、記録映像の上映、またBSBによる演奏、住民との中継コーナーなどを実施。「報」告会でありながら、演「奏」会でもあるオンラインの場づくりです。

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スケジュール

9月22日(火)14:00〜16:00
第1回 2017年〜2018年の報奏

12月27日(日)14:00〜16:00
第2回 2019年の報奏 とりわけ伴奏型支援バンド(BSB)編

2月23日(火)14:00〜16:00
第3回 表現・想像力・支援編

ゲスト:いとうせいこうさん

関連サイト

ラジオ下神白プロジェクトウェブサイト

記憶・記録を紡ぐことから、いまはどう映る? 見えないものを想像するために

他者の記憶やまなざしを借りて、まちの姿を捉え直す

社会状況や人の営み、ときには自然災害によって移ろいゆく土地の風景。いま、わたしたちが目にしている風景は、どのような出来事の変遷を経て、形成されてきたのでしょうか。それをなぞろうと、他者の記憶や記録というフィルターを通して風景を眺め直したとき、「いま」の捉え方はどのように変容するでしょうか。

今回のゲストは、記録の少ない敗戦直後の東京の姿を探るため、米軍やアメリカ人個人によって撮影された写真を収集し、アメリカが見た「Tokyo」と日本人にとっての「東京」の差異に着目して研究を行ってきた佐藤洋一さんと、東日本大震災や戦争の記憶をもつ人やまちを訪ねたりしながら、そこで出会った風景や言葉を記述することで土地の記憶の継承に取り組む瀬尾夏美さんです。

いま見ている風景や知っている出来事について、視点をずらしたり、他者の記憶やまなざしに出会ったりすることで、わたしたちが生きる時代について考えることにつながりうるのか。史実からはこぼれ落ちてしまう声を、どのように継承しうることができるのか。このような問いを抱えながら、お二人が重ねてきた実践、そこから生まれた問題意識や可能性について話を伺います。

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会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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ゆるやかに混ざり合う社会はどう生まれる? 「違い」を「出会い」に変換する

多文化な暮らしをつくるための文化・芸術の可能性を考える

電車のなか、コンビニ、レストラン……日々の暮らしのなかで、異なる文化や言語をもつ人々と場をともにする機会が増えてきています。国境を越えて移動する人々が増加し、多様な文化が同居するいま、「移民」としてではなく、同じ土地に暮らす「わたしたち」となるには、どのような視点やアクションが必要なのでしょうか。

今回のテーマは、「違い」を「出会い」に変換する。「移民」の若者を異なる文化や国をつなぐ可能性をもった存在として捉え、多文化の居場所づくりの研究・実践を重ねる徳永智子さんと、多文化が混在する兵庫県新長田において、それぞれの文化をかけ合わせながら展開するパフォーマンスなどに取り組む横堀ふみさんをお迎えします。

「違う」ことで分断されたままにするのではなく、「新たな発見や出会い」としてつなげるための実践とは何か。同じ土地に暮らし、これからの社会を担っていく一人として、多様性を受け止めながら、これからの暮らしをつくっていくための文化・芸術の可能性を探ります。

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会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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誰と暮らす? どう住まう? これからの「家族」のカタチを考える

住まいの空間や暮らしの仕組みをデザインして、家族を「ひらく」

月日を重ねるごとに、家族と「わたし」の関係性も、生じる問題も変わります。さらに家族を取り巻く社会すらも刻一刻と変わっていくなかで、自分たちなりの「家族のカタチ」を探ろうとするとき、どのような家のあり方や地域コミュニティとのかかわり方があるでしょうか。

あらためて「家族」を「一つの共同体」として捉え直そうとすることで、多くの人にとって自分ごとになっていく(あるいは、なっている)育児や介護に、例えば、家族のなかに「他者」を介入させるような、新しい視点を得られるのではないかと考えています。

今回のゲストは、自らの家族に生じた育児・介護の課題から端を発し、兵庫県新長田で介護サービス付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さん。そして、人々がゆるやかにつながる空間づくりを手がけ、プライベートでもその視点をいかして家族関係を編み直しているいわさわたかしさんです。「家族のカタチ」という、答えのない状況に向き合うお二人の思考と実践について、アートプロジェクトにおけるコミュニティや拠点形成のあり方と重ねながら話を伺います。

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ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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どこまでが「公」? どこまでが「私」? まちを使い、楽しむ暮らしをつくる

建築やグラフィティの視点から、都市空間の「公私」の境界線を探る

アートプロジェクトはまちなかで行うことが多いため、「公共性」について考えさせられる場面に遭遇することがあります。日常生活のなかで「公」的な場所と「私」的な場所は、対比関係にあるものとして捉えがちです。しかし、「公=みんなのもの/場所」として捉えることで、「公」を一人ひとりの「私」が重なり合い、立ち上がっていくものとして考えることができるのではないでしょうか。

今回のゲストは、まちでの一人ひとりの行動や視点に変化を促すことで、都市の印象や公共空間に対する気づきにつなげるユニットmi-ri meter(アーティスト/建築家)と、ブラジルのグラフィテイロに関するフィールドワークを通じて「まちは誰のもの?」という問いをもち、文化人類学的アプローチから「公共性」を考える活動を行なっている阿部航太さん(デザイナー/文化人類学専攻)です。この2組に「公」と「私」との関係性について、それぞれの実践やリサーチについてお伺いします。

「公」と「私」の境界線とは何か。また、公共的な空間と自分との間に、居心地のよい距離感をつくるために必要な思考や身体性とは、どのようなものでしょうか。ゲストの思考と実践から、そのヒントを探ります。

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会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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家族が聞く 東京の戦争のはなし

家族から戦争体験を聞き、「継承」についての展示と対話の場をつくる

もっとも身近な「家族」という存在。自分が生まれる前の時代や出来事について、語られたことや聞けたことがある一方で、近しい間柄だからこそ話せなかったことや、知りたくても聞けなかったことがあるかもしれません。

今回は、2018年に開催した「部屋しかないところからラボを建てる」の実践編として、家庭内で行われてきた戦争体験の継承について考える展示と対話の場をつくります。東日本大震災以降、仙台を拠点に土地と協働しながら記録をつくる一般社団法人NOOKの瀬尾夏美(アーティスト)、小森はるか(映像作家)、磯崎未菜(アーティスト)が、「部屋しかないところからラボを建てる」の参加メンバーからなる「かたつむり」とともに、第二次世界大戦を経験した祖母の話を息子と孫が聞くための場をつくり、その様子を映像化します。

先の戦争が終わってから74年が経ち、戦争を体験した人々が少なくなっていくことは、体験者の声を介して、世代を超えた語り継ぎの機会がなくなっていくことでもあります。東京大空襲を経験した東京において、戦争体験者の子や孫と企画者が「いまあらためて何を聞きたいか」を話し合い、体験者本人へのインタビューを行うことで、新たな語りの生成の実践と、「家族内継承」という営み自体の検証を行い、これからの時代の「継承」について思考を深めます。

*このプロジェクトは、「厄災に向き合う術(すべ)としてのアート」の一部として実施しました。

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進め方

  • 展覧会づくりに向けた議論
  • 家族間でのインタビューの場づくり
  • 展覧会と関連イベントの企画・制作

 

展覧会

日時:2019年9月19日(木)〜23日(月・祝)13:00~18:00
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田 6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])

 

関連イベント

9月21日(土)14:00〜15:00 ギャラリーツアー
本展企画メンバーが解説を行うツアー。
ナビゲーター:柳河加奈子(かたつむり)、磯崎未菜(NOOK)
定員:15名

15:00〜18:00 公開会議「これからの継承を考える」
本展のテーマとなった出来事の「継承」について、かたつむりとNOOKのメンバーが集い、企画の実践を通して考えたことから、今後の活動について会議する。
定員:15名

9月22日(日)15:00〜17:00 てつがくカフェ

「家族に聞けること、聞けないことってなんだろう?」をテーマに、対話を通してそれぞれの考えを深める。
ファシリテーター:八木まどか(かたつむり)
定員:15名

 

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

伴奏型支援バンド/「ラジオ下神白」

福島の復興公営住宅の住民さんの、思い出の曲を奏でるバンドメンバー募集!

アーツカウンシル東京では、2011年7月から東京アートポイント計画の手法を使った被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo(ASTT)」を行ってきました。その一環で、2016年からアサダワタルさん(文化活動家)を中心に、福島県復興公営団地・下神白(しもかじろ)団地に暮らす住民さんに、まちの思い出とメモリーソングについて話を聞き、それをラジオ番組風のCDに編集し、団地内限定で200世帯へ一軒一軒届けるプロジェクト「ラジオ下神白」を行っています。

今回は、住民さんたちの「メモリーソング」のバック演奏をする「伴走型支援バンド」のメンバーを募集します! 団地を訪問し、メモリーソングとエピソードを聞き、都内のスタジオで練習。2020年3月までに住民さんの合唱を支えるバンドになることを目指します。

遠く離れた土地で、音楽を通じて一人ひとりの「わたし」と出会い、かかわっていくことは可能なのか。東京にいながら、東北の災禍とのかかわり方を探ります。

*このプロジェクトは、「厄災に向き合う術(すべ)としてのアート」の一部として実施しました。

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スケジュール

  • 7月下旬に都内でメンバー顔合わせ
  • 8月に団地への最初の訪問
  • 月1回、都内でスタジオ練習
  • 団地集会場で開催するクリスマス会にて、初演予定

参加資格

  • ギター、ベース、キーボード、管楽器などの演奏経験が多少なりともあること(ただし、技術は問いません)
  • 福島県いわき市内の復興公営住宅に通えること(1泊2日を3回程度)
  • 都内で定期的にスタジオ練習ができること(平日夜や土日に、月1回3時間程度)
  • 懐メロに関心があること
  • 性別や年齢不問

Artpoint Meeting 2019

社会とアートの関係性を探るトークイベント

「まち」をフィールドに、人々の営みに寄り添い、アートを介して問いを提示するアートプロジェクトを紐解き、最新のテーマを追求するアーツカウンシル東京が企画するトークイベント。アートプロジェクトに関心を寄せる人々が集い、社会とアートの関係性を探り、新たな「ことば」を紡ぎます。

2019年度は、地域で場所をひらくこと、あるいはプロジェクトを企むことの意義について議論を深めます。

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スケジュール

2019年7月7日開催
Artpoint Meeting #08 –10年の“こだわり”を浴びる–

  • ゲスト:蛇谷りえ
  • 会場:TOT STUDIO

2020年2月9日開催
Artpoint Meeting #09 –生きやすさの回路をひらく–

  • ゲスト:孫大輔
  • 会場:TOT STUDIO