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OUR MUSIC 心技体を整える—これまでの話と、これからの話—

2020.04.20

執筆者 : 清宮陵一

OUR MUSIC 心技体を整える—これまでの話と、これからの話—の写真

「アセンブル2|OUR MUSIC 心技体を整える」は、アートプロジェクトの現場で起こりうる屋外などの公共空間での音楽の演奏にあたり、公共空間における音楽の在りかたについての調査や、音量に関する規制の成り立ちの分析を行うプログラムです。「音」にまつわるさまざまな領域の専門家や、今まさにアートプロジェクトの現場に関わる方々とともに、音楽が奏でられる空間での共生のあり方を考えました。
企画運営を担当した清宮陵一(VINYLSOYUZ LLC 代表/NPO法人トッピングイースト 理事長)による、本プログラムを振り返るレポートをお届けいたします。

これまで、音と公共との関係性を考えるプロジェクトを約6年間に渡って、Tokyo Art Research Lab事業および東京アートポイント計画事業の一環として、調査・実践してきた。今回の『OUR MUSIC 心技体を整える』は、その調査・実践を踏まえた、現時点での回答と考えている。

2014年、私は主に東京の東側をベースに音楽がまちなかでできることを拡張すべく、NPO法人トッピングイーストを立ち上げた。これまでに、地域の子供達が響きの美しい音楽を体験できる「ほくさい音楽博」(※01)、アーティスト和田永と共に電化製品を楽器化しオーケストラを目指す「エレクトロニコス ・ファンタスティコス!」(※02)、コムアイ、寺尾紗穂、コトリンゴら女性音楽家が東東京をリサーチする「BLOOMING EAST」(※03)といったプロジェクトを実施・運営してきた。

和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」 (撮影:Mao Yamamoto)。
ほくさい音楽博(撮影:三田村亮)。

プロジェクトを実施していく中で、出会う様々な人の関わり方や、交渉する様々な人の立場を本当にひとつひとつ、徐々に知るようになっていった。活動に興味のある人、ない人、二つ返事でよっしゃ!とサポートしてくれる人、テコでも動かない人。プロジェクトを動かしながらそういった人や考え方に、一喜一憂している自分。きっと、同じようなことに打ちあたっている人がたくさんいるだろうなあといつも思っていた。そういったちょっと遠くの仲間に、もう少し実践的に何か使えるような「提言」はないものか、と思うようになっていた。

Tokyo Art Research Lab 東京プロジェクトスタディ スタディ3「Music For A Space – 東京から聴こえてくる音楽 -」

これまでの勉強会(※04)やスタディ(※05)は、直接集まって、それぞれその場に居る人の考え方を理解したり、ゲストの方々のお話を時には生い立ちまで深く丁寧に聞いたりすることで、いわばその空間をチューニングしていく作業だったように思う。もちろん、その作業はとても大事だし、これからも続けていきたいと思っているが、この原稿を書いている2020年3月31日は、直接集まってチューニングすることが許されない状況にある。

『OUR MUSIC 心技体を整える』(※06)の構想当初は、当然、新型コロナウイルスは存在しなかった。しかし、今回の社会状況に限らず、公共の中で何か(音楽に限らず)を実践していく時には、会ってゆっくりチューニングしている場合ばかりではないことが多々起きてくる。それは私が今現在、準備している「隅田川怒涛」(※07)というプロジェクトの中でも頻発していることだ。「公の場で思いっっっっきり音楽する!芸術する!」空間を隅田川のあちこちに作ることと、それがトラブルになってしまうことは表裏一体である。年々公共空間での芸術活動への風当たりは厳しくなる雰囲気を感じている。
そこで、どうしたら芸術活動を行ったりサポートをしたりしていく中で、心が安らぎ、技が磨かれ、体のバランスを保てるのか?その、ある種人間の根源的とも言える部分を、様々な専門家の方々にインタビューして提言書という形で冊子にまとめる作業を行いたいと考えた。今回、インタビューしたのは、公共空間プロデューサーの飯石藍さん、弁護士の齋藤貴弘さん、僧侶の近江正典さん、医師の稲葉俊郎さん、サウンドエンジニアのZAKさん。音と公共の関係性を考えるという広大なフィールドに立つために、この5名の専門家のあまりにも個性豊かな機知に富んだお話を、朝日出版社で「公の時代(卯城竜太・松田修、2019年)」を編集された綾女欣伸さんと、いつもお世話になっている美術ライターの杉原環樹さんとで伺って、纏める機会を得た。

稲葉俊郎さんへのインタビューの様子。
近江正典さんへのインタビューの様子。

5名へのインタビューは、どなたのお話も、その人だからこそ見える視点と経験、思考の蓄積に満ちあふれたものだった。この濃密な話をまとめ、共有可能にするにはどういったかたちがふさわしいのか。ちょうどインタビューを終えたばかりのタイミングで行った2月24日の公開編集会議では、参加者の経験談も交えて、どんなインタビューがなされたのか、どういった纏め方があり得るのかを議論した。

10名ほど集まった参加者からは「日本はアートに対してだけでなく、いろんなことに対しての許容範囲が狭いなと最近特に感じていたので、ぐさぐさ心にきました。クレームという言葉が世界で1番嫌いなんですけど、言ってくる方にもそれなりの理由があるわけで。でも企画制作する側にも強い想いがあるし。完全に気持ちを共有しあって上手くいくことなんてなかなか無いとは思いますが、まだまだ踏み込んでいける部分はあるんじゃないかなと」といった意見や、「公共事業は何も言われないことがいいこと、ということからの脱却こそがめざすべきではないでしょうか。いいものはきちんといいものだと言うことと、その評価軸、そしてそれを言いやすくさせる仕組みを作ることこそが残る価値になると思いました」、「やったもん勝ちではなく、地道に交渉を重ねて、下地を作っていく。多数決の民主主義、公共の福祉と、アートの包括性の話も興味深かった」、「対話し続けるしかないというか、人は自分の欲を満たしたい生き物だし、そんな簡単に相手は変わらないものなのだから、相手を知ろうとすることを諦めないでいないとな……と。身体のことも、音楽のことも、法のことも、行政のことも」といった感想が寄せられた。

そう、結局、対話を続けていくしかない。ひとつの正しい答えやルールがあるわけではないのだ。そして、健全な対話を続けていくためには、常に心技体を整えておく必要があるように思う。この提言書『いま「合奏」は可能か? 心技体を整えて広場にのぞむために』が、ぜひその一助になれば、嬉しい。

VINYLSOYUZ LLC / NPO法人トッピングイースト 清宮陵一


*本プログラムの内容をまとめた冊子『いま「合奏」は可能か? 心技体を整えて広場にのぞむために』pdfリンクはこちら

『いま「合奏」は可能か?心技体を整えて広場にのぞむために』

参考サイト:

01
ほくさい音楽博 アーカイヴ動画 (2019年2月10日)

02
エレクトロニコス・ファンタスティコス!とは?

03
BLOOMING EAST CINRA.net記事

04
トッピングイースト「BLOOMING EAST」 プロジェクト勉強会「OUR MUSIC」
(全4回)
2017年11月25日〜2018年3月11日
第1回 「音になってみる」
第2回 「リスナーになってみる」
第3回「公共になってみる」
第4回「OUR MUSIC」

05
東京プロジェクトスタディ「Music For A Space / 東京から聴こえてくる音楽」
(全12回)
2018年9月19日〜2019年2月24日

06
Tokyo Art Research Lab アセンブル2「OUR MUSIC 心技体を整える」
(全5回インタビュー+公開編集会議)
2020年2月7日〜2020年2月24日
*プログラムの内容をまとめた冊子『いま「合奏」は可能か?心技体を整えて広場にのぞむために』PDFはこちら

07
Tokyo Tokyo Festival スペシャル13「隅田川怒涛」

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