[資料紹介]アーカイブについて知りたい
BACKプロジェクトを続けるために
アートプロジェクトを続けるほどに増えていくのが、記録です。最近では、そのほとんどがデジタルデータになり、量も膨大になりました。それをあとから整理するのは大変な作業です。だからこそ、先回りして、早くに取り組んでおきたい。でも、どうやってやればいいのでしょう?
まずは『アート・アーカイブの便利帖』を手に取ってみることをおすすめします。本書は、アートプロジェクトのアーカイブに役立つノウハウをまとめた入門書です。アーカイブをはじめるための準備から「作成→整理・保管→共有」という基本的な作業の流れ、具体的なシーンに合わせたヒントを収録。資料の名前の付け方や、保管方法など自分たちの現場をイメージしたり、実際に使ったりしながらアーカイブづくりができます。
あらためて、アーカイブをするメリットとは何なのでしょうか? 本書では以下の3つを挙げています。
・記録を整理することで業務の「効率化」をはかること
・記録を活用し、「対外効果&対策」に役立て、社会的な信頼性を高める
・記録によって共有知識を蓄積し、「人材育成」に役立てる
いずれも活動を続けていくために必要な要素といえるでしょう。アートプロジェクトの運営で発生する記録をアーカイブ化していくことは、活動の継続性を裏支えするものとなります。
本書のなかで何度も繰り返されているのは、アーカイブはプロジェクトのメンバー「全員」で取り組むことだということです。自分たちにとって何が大事な記録なのか、どのようなルールで残していくか、どのように活用していくのか。アーカイブの作業を通して、議論を重ねることは、プロジェクトの目的や活動を共有していくプロセスにもなることでしょう。
『アート・アーカイブの便利帖』を読み通したあとに、手を動かすときは『アート・アーカイブ・キット』も役立ちます。どのようなワークフローで進めればいいのか? どのタイミングで、どのような記録が発生するのか? そんな問いかけを自分なりに整理するための見取り図となる進行表や業務分類表などが収められています。
もっとアーカイブのことを深く知りたいと思った人には『アート・アーカイブ・ガイドブック β版』があります。『アート・アーカイブ・キット』や『便利帖』は本書のエッセンスを使いやすく、簡便にまとめていくなかで生まれたものでした。じっくりとアーカイブを考えるために、併せて読んでみるのもいいと思います。
アーカイブをプロジェクト化する
ここまで見てきたように、アーカイブとは、記録を整理し、さまざまな人が使えるものに変えていくことです。プロジェクトを「実施する」のとは、異なる技術や担い手が必要になります。それは「アーカイブする」ことを、ひとつのプロジェクトへと拡張していくことにもつながっています。
『記録と調査のプロジェクト「船は種」に関する活動記録と検証報告』は、記録や調査を専門とするメンバーが、「種は船」という進行中のアートプロジェクトに伴走した試みをまとめたものです。実施メンバーとは別に、記録に特化したチームがいることでプロジェクトにかかわる多くの人たちの「声」や、さまざまな記録が残されました。
「船は種」の翌年には、同様の試みとして『地域におけるアートプロジェクトのインパクトリサーチ 「莇平の事例研究」活動記録と検証報告 概要版』が制作されました。10年にわたって続いてきたプロジェクトの記録を残すことは、プロジェクトの意義や価値を確認する作業につながりました。記録を増やすことは、新たな視点でプロジェクトを評価することにもなっていきます。
『三宅島大学誌』は「三宅島大学」というプロジェクトが終わったあとに、活動を「振り返る」ことをプロジェクト化した一冊です。プロジェクトの設計思想、関係者インタビューやクロストークの記録、伊豆三島の比較調査など「三宅島大学」という取り組みの記録と検証が複数の視点からなされています。
アートプロジェクトを企画し、運営していくプロセスにアーカイブを位置づけていくことは大事なことですが、なかなか手が回らないのも事実かと思います。そんなとき、異なるスキルをもった人たちとチームを組んだり、アーカイブそのものをプロジェクトとして立ち上げたりすることも、ひとつの手になると思います。
アーカイブを続けるために
アーカイブはプロジェクトの持続性を支える大切な活動です。その記録があることで、プロジェクトの価値をより多くの人たちに届ける可能性もひらけることでしょう。アーカイブこそ、続けていくことで意味が生まれてくるもの。だからこそ、自分たちなりに続けていける方法を探していくことも大事になってきます。
『ノコノコスコープ のこすことのあそびかた』では「定点、固定、ズームなし」といった簡単な映像撮影のルールを使うことで、記録を残していく手法を提案しています。
また、2022年度からはアーカイブのノウハウや、さまざまな担い手の人たちの取り組みを紹介する動画シリーズ「Art Archive Online(AAO)」も配信しています。
ぜひ、ここまで紹介してきたコンテンツを見て、読んで、使って、アーカイブに取り組んでみてください。