プロジェクトを拡げる「メディア」のつかいかた
執筆者 : 東京アートポイント計画
2019.02.25
2018.09.25
執筆者 : 小林拓水
アートプロジェクトの担い手が、それぞれの活動を紐解きながら、アートと社会についての新たなテーマを共有するトークイベント「Artpoint Meeting」。その第6回が、2018年7月29日、原宿の「TOT STUDIO」で開催されました。
今回のテーマは「プロジェクトを育てる『活動拠点』のつくりかた」。ゲストは、共創活動を促すユニークな空間や家具・什器づくりを手掛けてきた「岩沢兄弟」。最近では、東京アートポイント計画のアートプロジェクトの一つ「HAPPY TURN/神津島」(主催:東京都、アーツカウンシル東京、NPO法人神津島盛り上げ隊)で新たな活動拠点づくりにも取り組んでいます。
岩沢兄弟の仕事と考え方を入り口に、「お金がない」、「在るものを使う」、「場のルール」、「空間の色気」、「対話を生む仕掛け」等のキーワードでテーマを紐解き、多くの発見に繋がったイベントの様子をレポートします。
台風一過の熱い太陽が照りつけたこの日。まずは東京アートポイント計画のプログラムオフィサー・嘉原の趣旨説明からスタートしました。
「東京アートポイント計画では、NPOと共にまちなかでアートプロジェクトを実施しています。大切にしているのは、一過性の“イベント”で終わらせず、継続性を持った仕組みに落とし込むこと。そして継続性を持つためには、きっかけが生まれ、生まれたものが育まれていくための場=“活動拠点”が重要です」。
まちなかで展開するアートプロジェクトにとって「活動拠点」は、プロジェクトを体現する場。日々の活動がゆるやかに開かれ、その匂いにつられて人が集まり、気づけば新しいアイデアが形になっていく「企みの基地」です。東京アートポイント計画のディレクターであり、今回のトークで聞き手役を務めた森は、それを「学校における部室のような場所」と喩えます。
「メンバーが集う場があることによって、そのチームのカルチャーが継承されるような効果も生みます。東京アートポイント計画はこれまで組織づくりに重点をおいた事業展開をしてきましたが、今、改めて場所が重要なのではないか、『活動拠点』が必要なのではないかと考えています。特に最近では、豊かなプロジェクトほど、豊かな活動拠点を持ち、上手に運用しているようです。その秘訣はなにか。アートプロジェクトに相応しい活動拠点のつくりかたとはなにか。今日はそのヒントを岩沢兄弟おふたりから伺います」。
続いてゲストの岩沢兄弟が登場。人が集い、営みが生まれる活動拠点は、どのようにつくることができるのか。これまで手掛けてきた事例をもとに、おふたりならではの空間づくり、関係づくりのアプローチを紹介しました。
岩沢兄弟が手がける空間のポイントは、人が触れたくなったり、参加したくなったりする仕掛けを組み込むこと。おふたりがオフィス兼イベントスペースとして運営していた東京・日本橋の活動拠点「Co-Net」(2008年〜2012年)での取り組みから話が広がります。その場所で岩沢兄弟は、勉強会やトーク、音楽イベント等を開催していました。多様な人が集まる場で、いかに良い雰囲気をつくるか。卓さんは、運営をする中で意外な方法をみつけたそう。
「僕はノイズミュージックやハードコアといったジャンルの音楽が好きで、ライブ活動もしているんですが、難解な内容だと受け取られることも多く、演奏していると中には渋い顔をする人もいるんですよ。その壁をどうにか飛び越えたいなと思って、『カレー食べ放題付き』のライブ企画をやってみたんです。だってお腹いっぱいで怒ったり不機嫌になったりする人ってあまりいないじゃないですか(笑)。そうすると、すぐには理解不能なこととか難解なパフォーマンスをしていても、お腹いっぱいだから許される。結果的に、出演者も来場者も満足してくれたし、難しめなテーマのトークイベントなどでも同じ方法でうまくいったりしました。『この方法、自分のイベントでも真似させてください!』と声をかけられたりもしましたね」。
「食」をツールに、気持ちをほぐす。例えば、活動拠点にキッチンをつくることで、そんなコミュニケーションの工夫も可能になります。
また、岩沢兄弟はオフィスのデザインも数多く手がけています。企業から寄せられる悩みの多くは、「アイデアが生まれる空間をつくりたい」「異なる部署間のコミュニケーションを円滑にしたい」等。そういった課題に応えるのは、使う人が用途を考えられるオリジナルの家具や装置です。
たとえば、ついたてやホワイトボード、植木鉢に車輪をつけて可動式にした「車輪家具」や、円形回転台付きの「中華料理店風テーブル」、さまざまな用途が生まれる「L字型ついたて付テーブル」等をこれまでに制作してきました。
「アイデアやコミュニケーションを生むためには、まず『決まったことしかしない人が多い』状況を変える必要があります。そのために、あえて空間の使い方を説明したり、家具の位置を指定したりせず、自由にアレンジできるようにするんです。そうすると、意外な使い方が出てきて面白い。例えば、L字型のついたて付テーブルを技術職の人が営業職の人に情報を伝えるために展示台として使ったり、部活動の告知としてポスターを掲示したりしていたり、などありましたね」と、卓さん。
次に、東京アートポイント計画「HAPPY TURN/神津島」(以下、神津島)の一環で、岩沢兄弟が今年6月から手がけている活動拠点のつくりかたを紐解くことに。
神津島では、元々ラーメン店だった建物を活用し、新たな拠点として地域に開こうとしています。かつて地域で親しまれていた飲食店ということもあり、この場所には固有のストーリーが根付いています。しかし、記憶や想いが色濃く残っている場所の場合、「思い出」の扱いには注意が必要だと卓さんは指摘します。
「例えば店主のお母さんが残した生活記録をインスタレーション的に展示することもできます。それはたしかに魅力的です。だけど、そうすると『活動拠点』ではなく、鑑賞するための『作品』になってしまって、人々が新たに関わる余地がなくなってしまう。だから、こういった場所で空間づくりをするときは、特定の個人の想いに偏った設計にならないように意識しないといけない。思い出を集めた歴史館のようになってしまうと、どうしても閉じたものになってしまうから。新たなコンテクストを付加できるように客観的な視点をもって、その場にある物を再編集していく。それが僕たちの役割だと考えています」。
神津島の例に限らず、アートプロジェクトで「活動拠点」となるような場所は多くの場合、歴史や記憶を刻んだ品々が残っています。そんな現場では、プロジェクトにとって不要なものと必要なものを判断していくことが求められます。
「そんなときは、買い物をするときも地域に根ざした商店に行ってまちの人と積極的に会話し、活動拠点を構えようとしている場所について聞いてみるんです。そうして、その場所が地域の人にとってどんな文脈のもとに置かれていて、どんな記憶を背負っているのかを掴む。そういったリサーチは、物の取捨選択の裏付けにもなるんですよ」と卓さん。
オフィス空間からイベントスペース、アートプロジェクトの活動拠点まで、さまざまな空間を手がける岩沢兄弟。では、アートプロジェクトだからこそ工夫しているポイントはあるのでしょうか。その疑問に対し、仁さんは、人々の関係性の違いに注目した仕掛けについて、明かしてくれました。
「オフィス空間であれば、上司と部下とか、営業職と技術職とか、役割が固定しているから、その関係性をほどくことでコミュニケーションが生まれやすくなります。でも、アートプロジェクトのように、地域に開き、誰でも参加できるような場において、人の役割はそもそも曖昧。だから、あえて役割をゆるやかに規定してくれる既存の物を使いながら、関係性がシャッフルされる仕掛けをつくりたいと思っています。例えば、『カウンター』って便利な装置なんですよ。カウンターのどちら側に立つかで、『提供する側』なのか『提供される側』なのかが規定されるので。だからカウンターの内側に自由に入れるようにして、分かりやすく役割が変わるようにデザインすると、新たなコミュニケーションが生まれます。『店員さん』『お客さん』が自然と変わりうる。いわば『ごっこ遊び』を加速させる装置をつくり、誰もが一回メンバーになれる仕組みを提供します」。
そのように、人が「触れてみたい、参加したい」と感じる空間には、心を惹かれる“色気”があるはず。その“色気”とは一体どうやってつくるものなのでしょう。仁さんからは、意外な答えが返ってきました。
「どんな空間も、装置も、まっさらで綺麗にまとめすぎると、展示品のようになってしまう。そういうものに、人は手を出せません、だからあえて引っかかる、『淀み』のような部分が大切なんですよ」。
綺麗なだけでもだめ、役割が明確すぎていてもだめ。アートプロジェクトにおいて、豊かなコミュニケーションを促し、新たな関係性を紡ぐには、目に見えない空間の「デザイン」も必要です。
今回のArtpoint Meetingはいよいよ終盤になり、会場からの質疑応答へ。
最初の質問は、「地域で新しい活動を始めるとき、快く思わない人たちも出てきてしまう。そのような人たちをどのように巻き込んでいけばいいのか」というもの。そのような課題に対して、「よそ者」であることをポジティブに使ってきたと卓さんは言います。
「『よそから来たよく分からないヤツが何かやってるぞ』って状態だからこそ、できることがあると思うんです。僕らがよく使うのはだじゃれ。相手を笑わせてしまえば打ち解けやすいです。あと、こどもが先に参加することで、親がつられて興味を持ってくれることもよくあります。他にも作業中に活動拠点を開いてプロセスを見せたり、相手の懐に飛び込んで関係性をつくるようにしています」。
続く「活動拠点づくりを終えた後、どのように地域に預けるべきか」という質問には、仁さんは「完成形をつくらないこと」だと答えました。
「僕の場合は、あえて使い方を考える余地を残して空間をデザインしています。完成形だと壊しちゃいけないと思うし、触れにくくなるから。格好良すぎて使われなくなるぐらいなら、最低限格好悪くならない状態で地域の人が運用できるデザインにまとめる。あえて完全なものにしないことで、使う人が試行錯誤して変えていけるようにしています。本当は、活動拠点を使いはじめてからもう一回、声をかけてもらえるのがベストですね」。
最後は、アートプロジェクトや活動拠点づくりの今後について、登壇者それぞれがまとめました。
「僕は、プロジェクトを『育てる』という点がまさに気になっています。神津島の場合は、『プランターがあるんだけど何植えよう?』という相談がきたのに、色々考えたら『土壌改良からやるしかない!』となっていった感じ。主催するNPO法人神津島盛り上げ隊のメンバーと一緒に、活動拠点づくりだけでなく、活動や地域そのものの問題にも向き合っています。企業案件とは違い、地域におけるアートプロジェクトは長く続くもの。持続性にこだわっていきたいと思うようになりました」(卓さん)。
「アートプロジェクトにおける活動拠点って、自分たちも、巻き込む周りの人たちも、仕事だけでなく、生活やプライベートな部分が滲み出てくるものだと思っています。仕事モードだけで考えるのではなくて、ちゃんとオフの部分にも目を向けて設計する必要があるなと感じています」(仁さん)。
そして、最後は、東京アートポイント計画ディレクターの森による総括で締めました。
「岩沢兄弟は、空間づくり“だけ”の仕事をしているのではなく、ある種アーティスト的に、活動拠点づくりを通じ、地域の物語や関係性を再編集するようなアクションをしています。まさにそれこそ、拠点づくりがプロジェクトを育て、人を育てる手段でもあると私たちが感じている点です。最近では、民家やまちの遊休スペースを再生して活動拠点として使うようなアートプロジェクトも増えてきました。神津島も含め、こういった新しい『つくりかた』そのものについても、これから開発していければと思います。ぜひ皆さん、一緒に参加してください」。
今回の「Artpoint Meeting」では、プロジェクトを「育てる」という視点で、活動拠点づくりについて考えてきました。ビジネスとアートの両方を横断しながら、クリエーションを続ける岩沢兄弟には、ハードとソフト両方における「活動拠点のつくりかた」のヒントをいただけたのではないでしょうか。始まったばかりの神津島の今後や、次回の「Artpoint Meeting」もどうぞお楽しみに。
(イベント撮影:加藤 甫)