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日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み<奥能登国際芸術祭>

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2018.03.27

日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み<奥能登国際芸術祭>の写真

芸術祭が群雄割拠する日本で、数々の芸術祭のディレクターを務めてきた北川フラムさんが「日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み」としての新たな芸術祭を立ち上げました。それが昨年9月に石川県珠洲市で開催された<奥能登国際芸術祭>です。コミュニケーションディレクターとして、「最涯」と称される珠洲(すず)市に7万人を超える来訪者を集めた福田敏也さんは、どのような広報活動に取り組んだのでしょうか。当日行われた講座の様子をレポートいたします。

芸術祭とは何なのかという問い

コミュニケーションディレクターを引き受けた福田さんは、自問自答を続けながら広報プランニングに取り組んでいくことになります。「芸術祭の存在理由とは何なのか?」「珠洲が振り向かれる理由は何なのか?」。歴史をたどれば、かつて大陸交易が盛んだった時代の物流の要衝で、祭りや芸術などの文化があり、美しい儀礼や食文化が今日まで連綿と残されてきた珠洲。しかし、一方で日本の商業機能が江戸に移ったあと、その役割を終え、高度経済経済の恩恵も受けることなくフリーズドライされてしまった珠洲。交通アクセスも悪く、過疎地でもある珠洲での芸術祭開催を決めた北川さんに、「北川フラムにとっての芸術祭とは何なのか?」を今一度問い直す自問自答のドキュメントを書いたといいます。

奥能登国際芸術祭公式写真(撮影Naoki Ishikawa、画像提供:奥能登国際芸術祭実行委員会事務局)

総合ディレクター北川フラムさんの答え

北川さんに確認した自問自答ポイントは次のようなものでした。「連続的に持続されていくことを考えよう。過疎はマイナスじゃない。過疎だからこそ奇跡的に守られてきたもの、そこにこそ超プラスがある。地元で守り続けられてきた価値に気づいている人の最先端にいるのがアーティストだとすれば、彼ら・彼女らこそが土地の独自性に想像力を働かせることができるはずだ。これは、ダメなものを上から目線で助ける活動じゃない。守られてきた価値に敬意を払い、素晴らしさに共鳴する活動である。重要なのは気づきの伝染、さらにそこから生まれるコミュニティと未来への引き継ぎなのだ。」

<奥能登国際芸術祭2017>コミュニケーションディレクターの福田敏也さん。

「知らせる」から「評判を拡げる」への転換

北川さんとのすり合わせで疑問が晴れ始めた福田さんは、もう一度珠洲の特異性に目を向けます。忘れ去られた古き良き日本が守られた、貴重な地域価値を再認識してもらうためのきっかけになる芸術祭を、ただ「知らせる」のではなく、その「評判を拡げる」「気づきの連鎖を発生させる」「芸術祭コアファンから動かす」という発想の転換。そこにヒントがありました。残すべき地域価値に気づく人を増やす、気づきのコミュニケーションこそが、地域価値の維持装置としての芸術祭を継続して機能させることになるのではないか。

また、かつて大陸との交易をしてきた珠洲だからこそ、こまめにバイリンガル発信すれば広くアジア諸国まで届くのではないかと福田さんは考えました。そして、アーティストたちが珠洲の地で何を発見して作品制作にいたったのか、というストーリーをアーティストの言葉を通じて知ってもらうことで、芸術祭を開催する意味を珠洲市民に届けることに力点を置いたコンテンツをつくりました。アーティストが発見した珠洲という文脈で発信することで、アートや芸術祭のファンにも評判が拡がる流れを生み出す広報です。

フリーペーパー「おくノート」。

福田さんの考えた広報戦略

実際の広報ツールとしては、珠洲市の食や文化を紹介するフリーペーパー「おくノート」(全4部)と公式ウェブサイトの特集記事として公開されたインタビューシリーズ「珠洲を語る」を中心に据えて展開していきました。そしてその内容を多くの芸術祭ファンに見てもらうためにFacebook広告も活用しました。「おくノート」は、当初の珠洲を紹介するという路線から芸術祭情報提供に移行するなど、進行に合わせたシフトチェンジを経て、珠洲市の各家庭へのポスティング配布も継続的に行ったそうです。「珠洲を語る」では、珠洲の魅力の発見者という視点で、アーティスト、地元サポーターやボランティアスタッフなど異なる層の言葉を等価に扱い、他の芸術祭との差を明確にしながら、「評判を拡げる」コミュニケーション活動に取り組みました。

教頭の坂本有理(左)、コーディネーターの中田一会(中)、ゲストの福田敏也さん(右)。

珠洲の人たちの反応

講座の最後に行われた質疑応答では、地元の賛否についての質問もありました。県民性もあるかもしれませんが、賛成反対にはっきりわかれることはなく、少し遠巻きに見られている印象もある一方で、作品解説やサイト管理の仕事を通じて、作品の面白さを共有したり、珠洲に芸術祭が来たことの誇りを感じてもらえた手応えを福田さんは感じたそうです。北川さんは近隣住民を重要なターゲットと位置づけ、年配の方にも面白がってもらえるような、わかりやすい芸術祭を意識的に設計していたといいますから、その一定の成果はあったのではないでしょうか。

講座のなかで特に印象的だったのは、「都会人論理を疑う」という言葉。冬の北陸のごちそうはカニだから、お店に行けばおいしいカニにありつけるはず、という名産品とお店がパッケージされているという、思い込みはないでしょうか?珠洲の人たちにとってのカニは、市場に買いに行くのではなく、人からもらうもの。それは都会では見かけなくなった、貨幣経済を介さない、豊かなコミュニケーションの現れであると感じました。地域創生が叫ばれ、芸術祭が乱立する現代において、福田さんのお話から芸術祭広報のあり方を見つめ直すヒントがあったのではないでしょうか。

<開催概要>
「技術を深める(第2回)」
日時:2017年11月21日(木)19:00~21:00(18:45開場)
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:アートプロジェクトを伝えるための技術~地域と芸術をつなぐ、広報、PR、コミュニケーション・デザインとは?~
ゲスト:福田敏也(博報堂-Chief Creative X Technology Officer/大阪芸術大学デザイン学科教授/777 Creative Strategies代表取締役/FabCafe LLP. Founder & Creative Director)
コーディネーター:中田一会(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/コミュニケーション・デザイン担当)

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