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アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のリスクマネジメント

2018.04.10

アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のリスクマネジメントの写真

アートプロジェクトの心構えや、現場で求められる技術について掘り下げていく全4回の公開講座シリーズ「技術を深める」。第3回は、市民参加型アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉事務局長の吉田武司さんをゲストにお迎えしました。さまざまな人がかかわり、まちなかで展開するアートプロジェクトには、どのようなリスクが潜み、どういった仕組みでリスクをマネジメントすることができるのでしょう。吉田さんの知見を共有いただき、実践的なワークを通して考えた講座の模様をレポートします。

アートプロジェクトとってのリスクマネジメントの必要性とは

最初にファシリテーターの橋本誠から、リスクをテーマに講座を開催する理由や、具体的なリスクの洗い出し方についてイントロダクション・レクチャーがありました。アートプロジェクトになぜリスクマネジメントが必要かというと、プロジェクトに関わる人や物事を守るためです。リスクは「法規・社会通念・人や環境に起因するもの」の3つのアプローチ別に洗い出すことができます。こうしたリスクを可能な限り想定し、対策(回避・予防・軽減)を重点的に打つことが必要となります。リスク整理の方法は、ひとつのプロジェクトを時系列に準備段階・実施段階・終了後の3つの時制に分けることも可能です。続いて、ゲストの吉田武司さんから〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉を事例にお話いただきました。

ファシリテーターの大内伸輔(左)、ゲストの吉田武司さん(右)(撮影:川瀬一絵)。

《Memorial Rebirth 千住》実施体制

アーティスト大巻伸嗣さんによるプロジェクト《Memorial Rebirth 千住》は、無数のシャボン玉で見慣れた景色を幻想的な空間へと変貌させるアートパフォーマンス作品です。千住のまちで7年続くもので、昨年11月に実施された際には、ボランティア含む総勢133名のスタッフが参加し、のべ3,000人以上が来場。スタッフは、年齢や住まい、職業やモチベーション、かかわり方の密度も様々。全スタッフが同レベルで全体把握をするのは困難なため、受付、屋台運営、会場設営など持ち場ごとにチームをふりわけるとともに、チームリーダーを配置。各リーダーが全体の動きを把握し、チームメンバーと情報共有しながら準備を進める体制をとっています。

想定されるリスクは時期によって変化します。運営の核を担う事務局は、隔週で行う進捗確認の中で随時リスクを整理。また共催者や、コアにかかわるメンバーとは月に1度程度ミーティングをし、リスクを確認しているそうです。また、これまでの7年間のノウハウを元に、課題や経験については、できる限りマニュアル化しています。

撮影:川瀬一絵

《Memorial Rebirth 千住》プログラム実施までの流れ

実施に向けて、準備段階から実施まで、どのようにリスクマネジメントをしているのでしょうか。プロジェクトが動き出す春の時期。会場を決め、周辺の設備や住民、アクセス、まちのイベントなどをリサーチします。この時点のリスク対策としては、応急手当の講習をスタッフ向けに行い来場者への対応に備えること、さらにボランティア保険の加入によって、関わるスタッフも守ります。個人情報の取扱い方についての指導や、会計講座なども行い、予めルールをスタッフ間で共有しておきます。7〜9月の夏の時期には、作品にまつわる講習やワークショップを通して作品への理解を深めたり、プレ企画を実施して地域住民へ活動の周知と協力を仰ぎながら、本番を想定したリスクを再確認。また、かかわるメンバーとは日々の集まりや決起集会などの交流会を通して、信頼し合える関係づくりを行います。10月以降は広報物を制作し、雨天時の対応や進行表・備品リスト・緊急時マニュアルなどの最終確認を行います。万全の準備をして11月の実施に至りますが、想定外の事態が起きることもあります。そうした場合には主催チームが緊急で集まり、相談して対応します。

アートプロジェクトの特徴のひとつは、さまざまな立場、年齢、モチベーションを持った人たちがかかわることです。このようなプロジェクトのリスクマネジメントにおいて大切なのは、立場や知見が異なる人を活かせる体制づくりと何でも言い合える関係や場をつくること。そのために、「“ちょっとしたこと”の積み重ねが“人”や“こと”を守ることにつながるのではないかと実感しています」と吉田さんはレクチャーを締めくくりました。

撮影:川瀬一絵

グループワーク

講座の後半では、参加者はグループに分かれ実践的なワークショップに取り組みました。架空のプロジェクトの企画書をもとに、準備・実施・終了後、それぞれの段階におけるリスクを想定して、付箋に書き出していきます。書き出したリスクを「影響度と発生確率」で評価しながら、机上の模造紙に分類し、グループメンバーで共有。さらに、影響度と発生確率の高いリスクから順に、予防と発生時の対策方法を検討し、発表しました。

レクチャーやワークショップを通して、参加者たちは、リスクマネジメントへ向き合うための態度と、実践的な技術について学ぶことができたのではないでしょうか。吉田さんのお話の中で、挨拶をすることやともに食事をすることなど、人と人の信頼関係を築くことの大切さに言及されていたことが印象的でした。今回の講座が、参加者それぞれの現場での運営のヒントになっていくことを願っています。

<開催概要>
日時:2018年2月7日(水)19:00〜21:30
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:第3回 アートプロジェクトのリスクに向き合う技術〜関わる人や物事を守るリスクマネジメントとは?〜
ゲスト:吉田武司(アートアクセスあだち 音まち千住の縁 事務局長)
ファシリテーター:大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、橋本誠(一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

プロジェクトについて

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