まちに点在するプレイヤーをつなぎ、地域の文化的な潜在力を浮かび上がらせる——「Kunitachi Art Center」×ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)【ジムジム会2024 #2 レポート】

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2025.02.10

執筆者 : 杉原環樹

さえき洋品店と看板に書かれた空き店舗の入り口。ガラスの引き戸に貼られたポスターを眺める人や、きれいに改装された室内に入っていく人がいる

東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、活動を展開する際の手法や視点を学び合ったり、悩みや課題を共有し合う勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2024年度は全体のテーマを「パートナーシップ」として行っています。10月18日に国立市の「Kunitachi Art Center 2024」を見学した、第2回の様子をレポートします。

まちに広がる活動を、ひとつの枠組みでつないで見せる

アートプロジェクトの事務局は、行政や地域の施設、まちで生活する人たちとどのような関係を築くことができるのか。そんな「パートナーシップ」のあり方を探るべく、すでに地域で協力関係を広げている現場を訪ねている今年のジムジム会。その第2回では、国立市で「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」を展開する一般社団法人ACKTが開催していた、回遊型のイベント「Kunitachi Art Center 2024」をみんなで回りました。

店舗の入った建物と歩道の間にあるスペースに、15人ほどの参加メンバーが輪になって並んでいる

地域のギャラリーやカフェ、ショップなど、普段は展示をしていないお店も含む複数のスペースをひとつの枠組みでつなぎ、参加者をまちの新しい顔に出会わせる「Kunitachi Art Center」の取り組み。そのはじまりは、ACKTのディレクターで、国立市で複数の機能を兼ねたスペース「museum shop T」も運営するデザイナーの丸山晶崇さんが、同じ地域で活動する「Gallery Yukihira」や「STUDIO322」のメンバーと話していた際、少し離れた互いの拠点を歩いて回ったらおもしろいのではと、何気なく思いついたことに端を発します。

「最初は身内同士の話で、大きくしようとは思っていなかった」(丸山さん)という取り組みは、コロナ禍による最初の緊急事態宣言が迫る2020年3月に第1回を迎え、15箇所のスペースに、多摩を拠点とするアーティストらが作品を展開。その後、第3回までを有志で行いました。並行して、2021年にはACKTと東京アートポイント計画の共催事業として「ACKT」がスタート。「Kunitachi Art Center」も、第4回より共催事業の一環として開催することになりました。現在、ACKTでは、参加作家とスペースのフォローや、広報、ボランティアの募集など、事務局機能を担当しています。

第5回となる今回の2024年の秋開催には、18のスペースが参加。従来と同じく国立を中心としながらも、国分寺市や立川市から後援や協力を受けるなど、その規模は確実に広がりを見せています。

日常を拡張させ、市民同士のネットワークをつくる

ジムジム会の当日は、あいにくの小雨模様。国立駅北口の坂の上にある日用品店「OCUYUKI」の前で集合したメンバーは、はじめに丸山さんからイベントの背景を聞いたのち、すぐ近くの「Gallery Yukihira」へ歩いて移動。丸山さんとともにイベントを立ち上げた2組のうちのひとつであるこのスペースでは、アーティスト・げこるさんの「ゆきくに」展が開催されていました。

会場へ足を踏み入れると、部屋の中央にはテントが置かれ、壁一面には、線の引かれた大きなベニヤ板と、その上に貼られた無数のドローイングが。じつは、このベニヤに描かれている線は国立の地図であり、一枚一枚の絵は建物、不動産を表しているといいます。

蛍光灯の光る室内に、床と壁ギリギリまで単管で組んだテントのようなものが立っている。テントには工事用の幕が張られ、部屋の白い壁面には小さなイラストがびっしりと貼ってある
白い壁にびっしり貼られたたくさんのイラストを見ている人

もとは雑木林だった一帯を、大正から昭和期の開発で住宅地とした国立のまち。げこるさんはその歴史のリサーチに基づき、ときにテントのなかでドローイングを制作。絵が売れるたびに地図の空いた箇所に新しい一枚を置くことで、土地の循環を表現していたのです。さっそく出会った不思議な光景に、ジムジム会のメンバーも興味深く目を向けます。

「ギャラリーって、普段はなかなか入りづらいですよね。でも、Kunitachi Art Centerのような機会をつくると、新しい人にも来てもらえる」。そう話すのは、ギャラリー代表の福嶋幸平さん。よく行くカフェが参加しているから、ほかの店にも入ってみる。「そんな日常を拡張させる体験は、国立のような住宅地でこそ重要だと思うんです」と語ります。

横断歩道を写真右に向かって渡る6人の人。先頭の人が写真左の方を指差し、後ろを歩く人が指さされた先のほうを笑って見ている

続いて一行は、駅の南口側へ。「Gallery Yukihira」が比較的新しいスペースだったのに対して、次に訪れた「コート・ギャラリー国立」は、1994年から親子3代にわたり続く老舗のギャラリーです。普段は主に貸しスペースですが、訪問時は企画展として、鮮やかな色彩が印象的な作品を制作する青山夢さんの「変身獣の住処」展が開催されていました。

ビルの入り口。ガラス張りの入り口と、室内の壁も一部がガラスになっており、中にいる人や展示された作品の様子が少し見える。手前には展覧会のポスターが貼られた看板がある
木目の床と、白い劇面とコンクリートの壁面が混ざった室内。壁には1.5メートルくらいの大きな作品や、小さな30センチくらいの作品が点々と飾られている。部屋の中央には参加メンバーが集まり、解説を聞いている

同ギャラリーが「Kunitachi Art Center」に参加したのは、第4回から。「市民と関わるきっかけになる」というのがその理由だと言いますが、コンクリート打ちっぱなしの広く静謐な空間は、「Gallery Yukihira」とはまた異なる空気感で参加者を迎えてくれました。

一方、国立の象徴とも言える大学通りを横断した先の、路地のビルの3階にあるのが、丸山さんが運営する「museum shop T」です。1階に豊富なメニューや大盛りが売りのイタリア料理店、2階にやはりボリューム満点の丼物が人気の和食料理屋が入るこのビルは、近隣の一橋大学の学生などから愛されている、若者が多く集まる建物です。

「地域の文化と本のあるお店」をコンセプトにしたショップや、デザイン事務所機能を兼ねた「museum shop T」では、人気漫画家で、書籍や雑誌のイラストなども手掛ける堀道広さんの「ライス大盛り無料」展が開催されていました。会場には展示名通りの大盛りのご飯のオブジェなどユニークな展示物が並んでおり、参加者からは笑いが溢れました。

床と壁の白い室内・奥にはソファがあり、ソファの横には「ライス大盛り無料」と書かれた顔は目パネルのようなものがある。壁には点々と小さな作品が並び、部屋の中央には円形のテーブルと、その上に高さ1メートルを超える巨大な「赤いお椀に盛られた大盛ご飯」のオブジェがある
壁面に飾られた複数の絵画と、その下には木目の什器が並び、黒い器や雑誌が並べられている。それをかがんでみる人や、立って見ている人がいる

会場の堀さんにお話を聞くと、「国立に住んで5年目。クリエイターも多いまちですが、普段は個人で活動しているので、あまり出会う機会がなくて。今回の催しに参加して、初めて仲間として認めてもらえた感じがします」との声が。Kunitachi Art Centerは、地域のなかでのつながりを求めるつくり手にとっても、貴重な機会になっているようです。

まちのグラデーションのなかで、人の営みと文化に出会う

「museum shop T」を後にした一行は、大学通りをぞろぞろと南下。途中、一橋大学の入り口に立ち止まり、丸山さんに代わって案内役となったACKT事務局の加藤健介さんから国立の歴史についての簡単なレクチャーを受けたあと、さらに谷保駅方面へ向かいます。

レンガ調の大きな建物のある敷地の中で、傘を差し、輪になって解説を聞いている参加メンバー

「国立は、全国のなかでも4番目に小さい市です。ただ、その小さいまちに、グラデーションのようにさまざまな表情があるのが魅力です」と加藤さん。たしかに歩いていると、計画された学園都市の整然としたまち並みのなかにも、駅前の賑やかさから、一橋大学の敷地を超えた後の静かな住宅地へと、徐々に風景の質感が変化しているのが見て取れます。

緑地帯に沿うように伸びる歩道を、写真手前方向に向かって、傘をさして2列くらいの幅になって歩く参加メンバー

そんな景色の移り変わりを感じながら、次に向かったのは、閑静な住宅街の一角の、広い敷地に立つモダンな建物です。こちらは「ZEIT-FOTO kunitachi」。1978年、写真を美術作品として取り扱う日本初のコマーシャルギャラリーとして、東京・京橋に開廊した「ZEIT-FOTO SALON」のオーナー、故・石原悦郎さんの自宅を使ったスペースです。

緑の縁の窓が印象的な、二階建ての白いお宅が奥に見える。参加メンバーがそこに向かってぞろぞろ歩いている。
白い壁面、木目の天井とフローリングのあるリビングのような空間。壁には写真作品が飾られていた李、腰の高さの本棚や、黒いリビングテーブルとチェアが置いてある

ここで開催されていたのは、2025年に東京都写真美術館での個展開催も決定している写真家・鷹野隆大さんの「写真」展。残された写真用品や年代物の家具、観葉植物などが静かに置かれた生活空間のなかに、男性ヌードを含む鷹野さんの写真がさりげなく、ときに大胆に飾られた光景は、独特の緊張感を帯び、参加者たちの目を惹きつけていました。

「ZEIT-FOTO kunitachi」の住宅街からまた南に向かい、大学通りがさくら通りと直角に交わるあたりからは、より庶民的なまち並みが広がります。「このさくら通り沿いに紹介したいものがあるんです」。加藤さんがそう言って案内したのは、4本の大きな新芽を大理石で温かく掘った、彫刻家・山本恵海さんの《たけくらべ》(2018)という野外彫刻です。

道路と歩道の間の緑地帯に置かれた白い彫刻を触る参加メンバー。

この作品は、2015年から国立で開催された全国公募の野外彫刻展「くにたちアートビエンナーレ」の一環で、2018年に設置されたもの。大学通りやさくら通りには、この展示の際に制作された彫刻が多く残っています。「一方、野外彫刻は市民にはなかなかアクセスしづらく、そうした意識から市民参加型の取り組みとしてはじまったのが、僕たちの活動であるACKTです。今回の『Kunitachi Art Center』には山本さんにも参加していただいています」と加藤さん。イベントの背景への理解を深めつつ、さらに谷保方面へ歩きます。

路地の先に広がる、市民の実験の場所

人気デザイナー・小泉誠さんのスタジオ「Koizumi Studio」や、展示スペース「soko」、心地良さそうな空気が通りにも伝わる「Maru Cafe Kitchen」などの会場の前を通り、次に向かったのは、国立富士見台団地の一角にある「富士見台トンネル」です。

建築家の能作淳平さんが、自身の事務所も兼ねてつくったこのスペースは、さまざま人が日替わりで自分のお店を出すことができる「シェアする商店」であり、近年人気の高まっている谷保駅周辺の盛り上がりを象徴するお店です。出店する店舗も、カフェやご飯屋さんのようなものから、おはぎやおこわに特化した専門店、花屋まで多種多様。訪問したときは、手打ちそばのお店が出店中でした。

のれんのかかった店舗に入る参加メンバー。ガラス面の大きな扉からは中が見える

また、同じ国立富士見台団地には、一橋大学や津田塾大学の学生が、NPOとともに代々経営しているカフェや地域物産店などが並ぶ商店街もあり、日常的な風景のなかにも人々の長年の営みの蓄積が色濃く感じられました。

団地の1階にある細長い室内の店舗スペースを歩くメンバー。天井にはカラフルな球体のオブジェが点々とつられている

南武線の線路を越え、谷保駅の南口へ。その駅前にある「谷保駅南口緑地」では、市民に活用されているとは言い難いこのスペースを、参加者やガーンデンプランナーとともに月に数回手入れし、市民同士の出会いの機会とする、ACKTの「GREEN GREETINGS」という活動も行われています。

緑の生い茂った緑地を、手前の道路から見ている参加メンバー。中央の人が手ぶりをしながら解説をしている

さて、この緑地の斜向かいにある「さえき洋品●(てん)」が、今回のツアーの最終地点です。その名の通り、元洋品店の空き店舗を2023年から自分たちの手で改装し、2024年の春に本格的な運用をはじめたこの場所は、ACKTの活動拠点であり、さまざまな実験の場でもあります。

さえき洋品店と書かれた店舗の前の道路に集まる参加メンバー。明かりのついた店舗に手を向けて解説している人がいる

その試みのひとつ「ただの店」は、公募で集まった出店メンバーがそれぞれお金を介さない企画を提案、活動を行うことで、参加者同士のつながりを生み出すという活動です。現在は、レコードプレイヤーを持ってきてみんなで一緒に音楽を聴く、みんなで花に触れる楽しさを知る、みんなで自由に造形を楽しむなど、さまざまな企画が定期的に行われているようです。「この取り組みには多くの反応があり、いまは7組の方々に自分の『店』として使っていただいています。拠点を持つことによって、いろんなことが動きはじめるのを実感していますね」と加藤さん。

訪問時は、さきほどの彫刻家・山本恵海さんと、鮮やかな花の絵を描くアーティスト・三鑰彩音さんの二人展が開催されていました。道と連続するような広い入口を抜け、二人のコラボレーション作品などを眺めつつ2階に上がると、窓からは外の路地がとても親密に感じられます。こうしたまち並みとの一体感を持つ建物を拠点に選んだことにも、暮らしのなかにある小さな営みの手触りを大切にし、人がそれと出会う回路をつくってきたACKTの姿勢が感じ取れました。

白い壁面をスポットライトが照らす8畳くらいのスペースに、参加メンバーが入っている。壁には絵画が並べて飾ってあったり、中央の白い什器の上には冬季のようなものも置いてある
二階の高さから、道路に並んでいる参加メンバーを見下ろすように撮っている。何人かがこちらに手を振っている

まちの持つ文化的な土壌の豊かさを見直す

ツアーが終わり、参加者たちは緑地の前で振り返りを行いました。

「普段から地域の方々に文化に親しんでもらいたいと思ってまちに携わっている」と語る加藤さんは、「Kunitachi Art Center」をやって良かったこととして、「国立に30年ほど住んでいるご夫婦に『こんな場所があるんだ』と言ってもらえたこと」とコメント。こうした、まちのなかにインパクトのある場所が点在していることを実感したという感想は、いろんな参加者から聞かれたと言います。

一方、ACKTの事務局長の安藤涼さんは、イベントと市民の距離を近づける一つの工夫として、今回導入したスタンプラリーに触れます。押したスタンプの数に応じてトートバックやステッカーなどがもらえる仕組みで、つい会場をめぐりたくなってしまうところがポイント。「今回スタンプラリーを導入して、まちの新しい面に出会えた、自分も何かしてみたいという声を多くいただきました。ACKTの普段の活動はまだ少しまちの人と距離があることもあり、イベントの参加者を増やすうえでは、このようなわかりやすい入口が重要だと思います」。

線路をまたぐ高架橋の前にあるスペースに輪になって集まっている参加メンバー。

同時に、前回のカロクリサイクルと都立第五福竜丸展示館の1対1のパートナーシップとは異なり、国立ではパートナーがまち中に幅広くいることによる難しさもあります。そうした点を踏まえ、参加者から今後の展望を尋ねられると、加藤さんは「誰でも参加可能にして総花的になってしまうのも違うと思うんです。気軽に参加してもらうことと、自分たちが何を見せたいかということの接点が大事」と指摘。スタンプラリーについても導入するかどうかで議論があったことを明かし、「今後も悩みながらやっていく」と語りました。

最後にコメントを求められた国立市の職員からは、「市役所的に言うと、市民が(美術館のような場所ではなく)身近な場所でアートやアーティストと触れ合える環境があることが重要なこと。まちの規模が小さいからこそ、できることもあると感じた」という感想も。

実際、今回のツアーに参加しながら感じたのは、徒歩で回れるほどの範囲のなかに、バラエティに富んだスペースやショップ、そして活動する人たちを内包している、国立というまちの文化的な土壌の豊かさでした。日々の暮らしのなかでは、市民も見過ごしてしまいがちなそうした蓄積を、まちを回遊するイベントという、さりげない枠組みを使って多くの人に見えるようにすること。そのようなゆるやかなつながりのつくり方、広げ方に、ACKTの「パートナーシップ」の考え方があるように感じました。

ガラスに貼られた「KUNITACHI ART CENTER」のチラシ

「パートナーシップ」をテーマに実施している、今年度のジムジム会。第3回では、小金井を拠点に多摩地域で活動する「多摩の未来の地勢図」と、昭島市立光華小学校との取り組みについて取り上げます。

撮影:小野悠介(20枚目除く)

プロジェクトについて

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