官民に開かれた全国規模のミーティング・スポット:継続化への期待ー2日目を終えて(5/5)
執筆者 : 小林瑠音
2025.11.18
行政と民間のパートナーシップに着目し、自治体の政策と現場をどう紐づけていくのか、それらの方法が、これからの「公共」を立ち上げるためにどのような意義を果たすのかなどについて、秋田と沖縄の事例をもとに議論した連続講座「パートナーシップで公共を立ち上げる」。1日目のセッションを終えて見えてきたポイントや視点を、文化政策研究者の小林瑠音が振り返ります。
秋田市の事例の強みは、官民学に広がる全方位的なパートナーシップと、それを可能にしてきた各セクションの機動力にあるように思います。とりわけ、首長公約に紐づいた上位計画、役所内での部局横断型の調整会議、民間企業との連携協定に加えて、美大教員やNPO職員の専門知。何より、齋藤さんと三富さんという「個」の力が大きい。
それでも、齋藤さん曰く「秋田は偶然かつ必然でうまくいっているけれども、人事異動で人が変わるとどうなるかが課題」。つまり、どんな成功事例であっても、首長の交代や担当職員の異動によって、方針が転換され、予算要求の熱量が下がると振り出しに戻ってしまう可能性がある。
そこで、この行政組織における「人事異動のジレンマ」を払拭すべく、芸術分野独自のノウハウやネットワークの活用と継承を目指して、全国各地の自治体で、「文化政策関連の専門職員の採用」や「アーツカウンシル制度の導入」など新たな試みが展開してきました。(その先進事例が次の沖縄の実践です)
翻って、秋田市では、それら新しい制度の導入ではなく、既存の行政システムの中で内発的に工夫が施されてきた点に特徴が見出せます。専門家を招聘した市議会勉強会や人事発令に基づいたプロジェクトチームなど、既にある仕組みを活用しつつ、前例のない前例をつくっていくこと。それによって、「人」が代わっても「経験」を残し、「考え方」を継承する、すなわち「個」から「制度」を生み出すための実験が重ねられています。
加えて、「無目的な文化施設」、「芸術祭ではなく文化創造」、という一見すると時代(トレンド)に逆行するような、事業評価に難儀しそうな計画案が実装されてきた背景には、無条件に忖度しない「よそ者」を政策立案過程に引き込むと同時に、目の前にある仕組みや営みを重視してきたパートナーシップの極意があるように思います。あらためて、地方都市から「前例」をつくっていくことの意義とその強度を実感しました。
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相互に依存し合い、新しい共通の領域をつくるー2日目前半(3/5)
撮影:齋藤彰英