地域のよりよい「文化の生態系」をつくるには?ー2日目後半(4/5)
執筆者 : 小林瑠音
2025.11.18
行政と民間のパートナーシップに着目し、自治体の政策と現場をどう紐づけていくのか、それらの方法が、これからの「公共」を立ち上げるためにどのような意義を果たすのかなどについて、秋田と沖縄の事例をもとに議論した連続講座「パートナーシップで公共を立ち上げる」。2日目のセッションとディスカッションを終えて見えてきたポイントや視点を、文化政策研究者の小林瑠音が振り返ります。
行政という「ジェネラリスト」機関の中に、文化芸術関係の専門家やアーツカウンシルという「スペシャリスト」をどうインストールしていくのか、その実践を全国に先駆けて牽引してきた沖縄県と那覇市の事例をお聞きしました。
ここでは、国庫を原資とした設立14年目の老舗アーツカウンシルであっても、懐事情は安泰ではなく、プログラム・オフィサー全員が任期付非常勤という雇用の不安定さや、自走化・産業化のみに集約されない評価軸の設置といった課題が明らかとなりました。他方で、事業報告会や、なはーとダイアローグ、地方紙への寄稿など、徹底して文化芸術にまつわる「言葉の流通」に力点を置く姿勢が特筆できます。(この点は、秋田市の事例でも、日々の実践にまつわる言葉の拾集と発信が重視されており、共通性が見出せます。)首長部局や政治家も巻き込んだ対面・紙面での言葉の蓄積を介して、プレーヤーを増やし、既存の関心層以外に接近していく、いわゆる「ロビイング」の重要性が見えてきたのではないでしょうか。
また、後半には、芸術分野の「生態系」についても話題が広がりましたが、確かに「パートナーシップ」という概念を巨視的に捉えるならば、芸術分野全体のキャリア形成を行政と民間で共に思案し、人材を循環させていくことも重要です。既に、官と民で人材が行き来する、いわゆる「回転ドア式」のキャリア展開は、霞ヶ関でも実践され始めていますが、文化政策部局において民間の専門家を登用するケースは、文化財や著作権関係、研究職等を除いては、いまだ限定的です。自治体においても中途採用や経験者採用の導入が促進されていますし、公務員試験も年齢制限(上限)が緩和されたりSPIが併用されたりと、かなり間口が広がっていますが、那覇市のような文化政策関連の専門職採用(行政職員の昇進ポストではなく民間からの新規登用)は、京都府、京都市、神戸市、京丹後市等、前例がまだまだ少ないのが現状です。
その意味で、今回の連続講座は、官民の課題を持ち寄り、新たな連携の糸口を共有する貴重な機会であったと思います。これまでにも、トヨタ・アートマネジメント講座(1996〜2004年)、アサヒ・アート・フェスティバル・ネットワーク会議(2005〜16年)など、アートマネジメント関係者の全国的なネットワーク活動に加えて、アートNPOフォーラム(2003年〜現在)、自治体文化財団マネジメント講座(2016〜18年)、アーツカウンシル・ネットワーク(2018年〜現在)、公立ホールの連絡会議等、定期的に開催される同業者間の対話の場は多数存在してきました。他方で、今回のように、自治体、中央省庁、民間企業、アーツカウンシルや芸術団体の関係者に加えて、アーティストや研究者など、官民横断的に広く開かれた全国規模のミーティング・スポットは、文化政策領域において意外と少なかったのではないか?
これまで数々のネットワーク形成の場に携わってこられた芹沢さんも最後の締めくくりのなかで、このような「終わりのない対話」を続けていくことの重要性を強調されていました。今回の連続講座を含む「新たな航路を切り開く」シリーズが、全国各地のディレクター、プロデューサー、そして芸術文化関係者たちの「旅立ちのための港」としてだけでなく、航路の途中で立ち寄れる「帰省のための港」として、継続されていくことに期待したいと思います。
撮影:齋藤彰英