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つながりはじめる“この場所”と“あの場所”

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2019.11.20

執筆者 : 岡野恵未子

復興公営住宅の集会所で、テレビモニターを数人で囲んで、バンドの練習風景の映像を観ている様子

福島県いわき市にある県営復興団地・下神白(しもかじろ)団地を中心に行われているプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」(以下、「ラジオ下神白」)。

このプロジェクトと連動し、Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラムの一環として結成された「伴奏型支援バンド」は、これまで「ラジオ下神白」が団地住民の方々と交流するなかで集めてきた「メモリーソング」のバック演奏を行うバンドです。12月に下神白団地およびその近隣で行われる予定のクリスマス会にて、団地の皆さんのコーラスに伴奏するため、都内といわき市で活動中です。

伴奏型支援バンド、活動中!

前回の初回練習から、都内では何度かバンド練習が重ねられてきました。レパートリーは初回にも練習した「喝采」「青い山脈」「ああ人生に涙あり」に加え、「君といつまでも」「宗右衛門町ブルース」の5曲に。これまでの「ラジオ下神白」が活動のなかで出会った方々のお気に入りの曲や十八番、「ラジオ下神白」と団地住民の方々にとって思い出深い曲などです。

練習のポイントは、これまで「ラジオ下神白」で積み重ねられてきた住民の皆さんとの関係性を意識すること。その関係性があるからこそ可能となる、その曲を聴いた方や歌った方がどんな風景を思い描くだろうか、演奏によってどんな景色を住民の皆さんの心に思い浮かび上がらせることができるだろうか、ということを大事にしながら行っています。

団地住民のリクエストに応え、電子ピアノを演奏する上原さん。

一方、下神白団地でも12月に向けた動きが起き始めています。12月のクリスマス会では、団地の皆さんにコーラスで参加いただく予定ですが、そのコーラス練習をサポートするメンバー、ピアノ担当の上原久栄さんも現地を訪ね始めました。初回の訪問では、団地の一角にお邪魔し、住民の皆さんのリクエストに応えながら電子ピアノで伴奏。12月に向けた交流を始めています。

バンド練習の動画をながめる、団地住民のみなさん。
団地住民からお話を聞くバンドメンバーの池崎浩士さん(左奥)、鶴田真菜さん(左前)。

メンバーも現地入り

また、バンドメンバーもそれぞれ現地を訪問。「ラジオ下神白」では、月に1~2回ほど、プロジェクトメンバーが団地住民の皆さんのもとを訪ね、ご自身のお話を伺ったり、曲のリクエストを集めたり、リクエスト曲を聴く機会をつくったりしています。今回、バンドメンバーもその活動に同行し、団地住民の皆さんとの交流をたっぷり行いました。現地入りを経験したことで、バンド練習のなかでも具体的な名前や場所が出てくるようになりました。「○○さんは歌ってくれそう」「これは○○号棟の○○さんのメモリーソングで……」など、“ここ”にいても、“あの場所”が思い浮かんでいるようです。

バンド活動は、概ね順調。ただ、「演奏者」ではなく「伴奏者」であるバンドという試みとしては、演奏を成功させることが目標ではありません。東京のバンドチームといわき市の団地の皆さん(被災前は様々な地域で暮らしてきた方々)という、異なる場所から集ってきた人々が、ひとつの体験を共有する場を立ち上がらせるためには、もうひと工夫が必要です。ディレクターのアサダワタルさんの言葉を借りると、「みんなが参加者」になるためにはどうしたらよいか。

歌詞をどう掲示するか、合図はどう出すか、口ずさんでもらいやすい環境、演出……。練習後のバンドメンバーによるミーティングでは、そんな話題もあがりました。

演奏を一方的に「してあげる」のではなく、「伴奏型支援バンド」という試みだからこそ可能性がある「みんなが参加者」になった風景を立ち上がらせることを目指して、練習と検討を続けていきます。
次回はいよいよ、本番の様子をお届けします。

執筆:岡野恵未子(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラム担当)

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