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ジャンルは「伴奏」?! 伴奏型支援バンド物語

2019.08.26

執筆者 : 岡野恵未子

ジャンルは「伴奏」?! 伴奏型支援バンド物語の写真

ジャンルは「伴奏」?!

復興団地で暮らす方々の合唱に「寄り添い、伴奏する」ために演奏活動を行う。そんな一風変わったバンドが立ち上がりました。

福島県いわき市にある県営復興団地・下神白(しもかじろ)団地で行われているプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」。団地の住民さんが住んでいたかつてのまちの記憶を、馴染み深い音楽とともに収録するラジオ番組を制作しています。

このプロジェクトと連動して、Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラムでは、これまで団地住民の方々と交流するなかで集めてきた「メモリーソング」のバック演奏を行う「伴奏型支援バンド」を結成。これから、都内のスタジオで練習を重ね、時には団地住民のもとへ通いながら、活動していきます。12月に団地で行われるクリスマス会に向け、都内では伴奏の練習が、団地では合唱の練習が、並行して進みます。

アセンブル1|厄災に向き合う術(すべ)としてのアート」というプログラムの一環として行われる今回の試みでは、バンド活動を通して、離れた場所での経験・出来事における共有の可能性を探ります。ある特定の場所やコミュニティ、ひとについて思いをはせ、想像し、時には実際に出会うことが蓄積されていくと、バンド活動-選曲や、練習、演出など-にどのような変化や展開が生まれるのか。もしくは逆に、バンド活動を前提とすることで、離れた場所への想像力や関係性はどのようにふくらむのか。約半年間かけ、新たな論点を見出すことや手法づくりを目指し、この実験的な試みを展開していきます。

7月、メンバー募集のオーディションが行われ、「現地に関わりたい」「音楽とコミュニティとを考えたい」など、それぞれに思いをもったメンバーが集まりました。

オーディションの様子。

初回スタジオ入り!

8月9日、都内某所。第1回目のスタジオ練習が行われました。

この日集まったメンバーは、「ラジオ下神白」のプロジェクトディレクターであり、今回のバンドではドラム担当でもあるアサダワタルさんと、キーボード担当の小杉真実さん、ギター担当の池崎浩士さん。事前に伝えられていた「喝采」「青い山脈」「ああ人生に涙あり」の3曲のメモリーソングを、それぞれ楽譜に書き起こしたり、自分なりにアレンジしたりして練習に臨みました。

想像力を養う

練習の合間、メンバーの頭に自然と思い浮かぶのは、伴奏に乗せて歌を歌うことになる住民の皆さんや、今回練習しているメモリーソングを教えてくれた方々。「このテンポじゃ歌いにくいかも」という会話などもはさまれながら、合奏を重ねました。

クリスマス会までにはもう2曲、レパートリーを増やす予定です。練習の合間には、これまでの「ラジオ下神白」の音源を聞き、語られるエピソードとメモリーソングを聴きながら、残りの2曲は何が良いか、などのメンバー会議も行われました。

「伴奏」がメインのこのバンドにとって、合唱チームの歌いやすさや観客の方の聞きごたえはもちろん、何よりその歌にまつわるエピソードと、住人の方の思いが重要となります。「喜んでくれるかなあ」「もう団地は出てしまった方だけど、聴きに来てくれるかなあ」など、伴奏によって起こりそうな色々なことを想像しながら、練習と選曲を行いました。

そんな様子からは、プロジェクトディレクターのアサダさんが今回の活動にあたって語った「『表現』が持ち上げてくれる『想像力』を養うことは、すなわち『わかろうとし続けること』を諦めないこと」ということばが思い起こされます。

音楽という表現で、遠く離れた場所と人に向き合う新しい試みとしてのこのバンド。

目指せ、武道館? 目指せ、CDデビュー?

いいえ、そのようにわかりやすいゴールを目指して進むのが目的なのではなく、団地住民・メンバー同士の出会いや体験を重ねながら、いかに「想像力」が発揮されていくかに挑戦していく試みなのだと思います。今回の練習でも、住民の方々に思いをはせることで、演奏表現や演出の仕方が変わったようでした。

ところで、バンドメンバーは、まだ団地住民の方々に会ったことがありません。今の段階では、声とエピソードと話から、住民の方々を想像しながら練習したりアイデアを出したりするしかありませんでしたが、今後はバンドメンバーも現地を訪ねる予定です。出会ったあとでは、また違った想像力が働くのでしょうか。それはバンド活動に、どんな影響を生むのでしょうか……。

このブログでは引き続き、「伴奏型支援バンド」の様子をお届けしていきます。どうぞお楽しみに!

執筆:岡野恵未子(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラム担当)

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