使いやすいサービス開発を目指して
BACK「デジタルアーカイブ・プロジェクト2015」では、分散しているデータをより簡単に一元管理できるアーカイブ・サービスのβ版開発を目指して進めてきました。
データを「集める」ことと「使う」ことをつなぎ、オープンなデジタルアーカイブを構築できる新しいサービスの提案や、実現のために実施した専門家ヒアリングの内容など、本年度の研究開発プロセスをレポートします。
アートプロジェクトの現場におけるデジタルアーカイブの課題
アートプロジェクトに本当に必要なアーカイブ・サービスとはどんなものでしょうか。忙しい現場で無理なく活用してもらうためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
今回のプロジェクトでは、なるべく簡単で、役に立つ仕組みを考えるべく、腐心してきました。
昨年度のTARL研究開発プログラムでは、「ResourceSpace」を活用し、データベースに文書管理の仕組みを加え、様々な資料を構造的に整理して格納するシステムとそのルールを考案しました。ResourceSpaceはカスタマイズ可能なので、各団体やプロジェクトにあわせて、資料整理の仕方を工夫できる点が便利です。一方、すでにクラウドサービスを活用してデータを整理している団体においては、ResourceSpaceに別途データをアップロードし直すという一手間が発生してしまいます。そのため、忙しい現場には浸透しづいのが課題でした。
そこで今年度のデジタルアーカイブ・プロジェクト2015では、現場での運用において、心理的な障壁をなるべく感じさせないサービス開発をテーマに掲げました。
また、アートプロジェクトを実施する団体は、同時期に複数のプロジェクトを抱え、プロジェクト毎に様々な人が関わっているため、情報共有が難しい場面も多いようです。しかも各プロジェクトメンバーが使い慣れているソフトや端末にあわせて、サービスを選ぶ必要があり、同じシステムを一斉に使用するのも難しいことが現実。これは多様な人が関わるアートプロジェクトならではの特徴であり、面白くもあるものの、データベース上で活動の把握がしづらいのは大変もったいない状況でもあります。
提案|クラウドサービスを繋ぎ、インデックス化する新しいデジタルアーカイブ・サービス
そこで「デジタルアーカイブ・プロジェクト2015」で新たに考案したのが、様々なクラウドサービス上にあるデータをフック(Hook)という仕組みを使い、インデックス化し、一括検索できるサービスです。
これならば、ResourceSpaceのようなシステムを一斉導入するのは難しくとも、すでに複数運用しているクラウドサービス上にあるデータを便利に使えるようになれば、情報管理がしやすくなり、プロジェクトマネジメントがスムーズになるのではないか。様々な場所に拡散して蓄積している情報を、一箇所で閲覧や検索が可能になれば、活動の可視化へ向けての第一ステップになるのではないかと本プロジェクトでは考えました。
FacebookやYouTubeなど複数のオンラインサービスを使って情報を管理しているチームの場合、サービスの情報を紐付けるHook(フック)を設定することで、それらの各クラウドを横断して情報を検索することできます。団体がプロジェクトメンバーごとにアカウントを発行し、それぞれ担当しているプロジェクトのデータを一元管理するイメージです。例えば、上記の図で言えば、UserAの場合はProject A, B, Cの情報をそれぞれ個別に検索できるようになります。
このデジタルアーカイブ・サービスのポイントは、個別のクラウドサービスが保存するデータが横断して検索できるようになるという点です。デジタルアーカイブ構築用に新たなアップロード作業を増やすことなく、プロジェクト全体の見取り図をつくることができます。
また、このデジタルアーカイブ・サービスではResourceSpace内データも検索することが可能で、クラウドサービスに加えて、本格的なデータベースとの連動が出来る点も強みです。
新デジタルアーカイブ・サービスの機能(予定)
・アーカイブインデックスの作成ができる。
・プロジェクト毎に管理者・エディター・フォロワーを登録できる。
・エディターは、プロジェクトに対してHookを追加できる。自分の追加したHookは削除できる。
・フォロワーは閲覧・コメントのみ。
・管理者は、プロジェクトの削除、ユーザー管理・権限管理・Hook管理などすべての権限を持つ
検証|開発途中の専門家からのヒアリング
こうした新サービスの可能性や、課題を洗い出すために、デジタルアーカイブ・プロジェクト2015では、3名の専門家にヒアリングを実施しました。それぞれのコメントやアドバイスを簡単にご紹介します。
1)ドミニク・チェン氏(起業家・情報学研究者)
ドミニク氏はICCの映像アーカイブの設計にかかわられ、クリエイティブ・コモンズの考え方を日本に紹介するなどの活動をされています。
▼ドミニク氏からのコメント/アドバイス
・データを記録し、共有する基底のモチベーションとしての「楽しさ」をどう作るか
・アートプロジェクト向けならではのアーカイブのメリットをどう作るか
・どうやって集団化した記憶にまつわるコミュニケーションの導線を作るか
結局のところ、アーカイブの仕組みを工夫しても楽しいものではないと、広がりません。アートプロジェクトの価値を周囲に伝えるにはどうしたらいいかなど、全体の方針についてアドバイスをいただきました。またいかに複数のメンバーでサービスを利用し、コミュニケーションを生み出していくかも重要な点です。
2)大向一輝氏(情報学研究者)
大向氏は、国立情報学研究所に所属されており、様々なデータベースや、CiNiiなどを開発されています。蓄積された情報をどう外に出していくかについての知見をお持ちです。デジタルアーカイブの仕組みを持続可能にするにはどうしたらよいのか。そして利用団体の状況が変わってもデータを生き延びさせる方法についてお話を伺いました。
▼大向氏からのコメント/アドバイス
・デジタルアーカイブをRDF*にしておくことで、活動本体がなくなっても生き延びられるのではないか
・データ入力などに関しては、日常業務に仕事を増やすことにはならないようにする工夫がいる
・開発コストや管理コストを下げるのが重要
・運用のためには最低限のフォーマットの設定をする方がいい
*RDF(Resource Description Framework (リソース・ディスクリプション・フレームワーク):ウェブ上にある「リソース」を記述するための統一された枠組み
各データに付随するメタデータをきちんと構築し、データベース本体とは別に保存することで、個別のクラウドサービスが終了しても、デジタルアーカイブを生き延びさせられるのではないかとご提案いただきました。
3)水野祐氏(弁護士、Arts and Law理事)
アートやクリエイティブな活動専門の法律家集団の一員である水野氏には、サービスを展開していく上で、法律的にはどんな課題があるか伺いました。
▼水野氏からのコメント/アドバイス
・サムネイル表示のために、各データの画像をシステムの中に保存することは要検討(キャッシュであれば問題ないとの見解)
・外部サービスとの連携にあっては、各サービスの利用規約との整合性を取る必要がある
・アカウントHookの機能については、ユーザーのプライバシーに対する配慮から、仕様を検討する必要がある
上記に注意して開発を進めれば、大きな問題はなさそうだとのお答えでしたが、利用規約の整備には細やかな注意をしていく必要があることがわかりました。
まとめ│使いやすいサービスを目指して
三人の専門家にヒアリングし、全体としては便利なアーカイブ・サービスになりそうだとの感想をいただけました。一方で、まだまだ機能やインターフェースについての検討と改善が必要です。実際にサービスとして公開するためには、法的な課題もクリアする必要があります。
「デジタルアーカイブ・プロジェクト2015」による新デジタルアーカイブ・サービスは、ベータ版開発を終え、現在クローズドテスト準備中です。今後は、サービス提供のための法整備に係る議論も並行しながら、アートプロジェクトの現場で使いやすいサービスための試験運用と機能改善・開発が必要だと考えられます。
アートプロジェクトにかかわるみなさんには、今後、テストに協力いただくタイミングもあるかもしれません。なるべく早くお披露目できるように、さらに進めていきます。どうぞよろしくお願いいたします。