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美術館と図書館の機能が混ざり合う、太田市美術館・図書館(小金沢智)

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2018.03.27

美術館と図書館の機能が混ざり合う、太田市美術館・図書館(小金沢智)の写真

最新の芸術祭やアートプロジェクト・文化事業から注目トピックを紹介していく公開講座「アートプロジェクトの今を共有する」シリーズ。第1回では、美術館の名を冠しながらも、周辺街区との連携や、市民参加型のプロジェクトを積極的に展開する太田市美術館・図書館のコンセプトと取り組みに注目し、事例として取り上げました。会場には、4月にグランドオープンしたばかりの同館の取り組みに関心を寄せる、たくさんのお客様にお集まりいただきました。その様子をレポートいたします。

市民とのワークショップによって設計された新たな文化交流施設

日本博物館史の振り返りから、同館学芸員・小金沢さんのお話はスタートしました。館内に工房が併設されるなど、教育普及機能を備えた宮城県美術館、美術館がゆるやかにまちに開かれるきっかけとなった金沢21世紀美術館など、美術品の収集や研究という従来の機能にとどまらず、教育普及機能の拡充や美術館の外にまで及ぶ活動の広がりを見せる傾向があります。そこから22万人が暮らす太田市へ目を移すと、図書館は4館あるものの美術館はありませんでした。

太田市美術館・図書館は、空洞化がすすむ太田駅周辺の賑わい創出を目的に生まれた施設です。市が太田駅北口ロータリー跡地を買い上げ、まちづくり拠点型の文化交流施設として整備するという方針が、2013年5月の政策会議において発表されたことをきっかけに動き出します。建築の基本設計は、建築家の平田晃久さんと市民によるワークショップを経て検討され、最終的に美術館と図書館という異なる施設が複合的に混ざり合うようなプランが採択されました。太田市直営の施設として、総合ディレクションをスパイラル/株式会社ワコールアートセンターが、収書支援を紀伊国屋書店が担う形で、2017年1月14日にプレオープン。4月1日には晴れてグランドオープンを迎えました。同月23日には、遠田誠さんによる演出・振付の開館記念パフォーマンス「オオタドン」が花を添えました。太田市の歴史や名物などを盛り込んだ祭唄に乗せ、地元のチアダンスや太極拳のチームなどが勇壮な踊りや唄を活き活きと披露する映像からは、市民ひとりひとりが持つ地元への誇りが感じられます。

開館記念パフォーマンス「オオタドン」(撮影:Shinya Kigure+Lo.cul.P)

開館記念展のために太田で生まれた作品たち

続いて、同月26日から開催された開館記念展「未来への狼火」についても作品画像を織り交ぜながらご説明いただきました。地元作家を紹介するとともに、現代美術家たちには実際に太田市に足を運んでもらい、新作を制作しました。藤原泰佑さんは太田のまちの姿を描き、淺井裕介さんは太田の土を用いてボランティアとともに壁画を描き、シンガーソングライターの前野健太さんは太田での詩と歌の制作に挑みました。また、地元の詩人、清水房之丞さんの詩をスロープの壁面に掲示し、太田で両親が出会ったという石内都さんの、母の遺品を撮り続けた写真のシリーズを展示したほか、片山真里さんや林勇気さんといった注目を集める若手作家も名を連ねました。

開館記念展「未来への狼火」会場風景(撮影Shinya Kigure+Lo.cul.P)

美術館と図書館の機能がまざりあうことによる出会いや発見

続いて開催した展覧会は、「本と美術の展覧会vol.1『絵と言葉のまじわりが物語のはじまり~絵本原画からそうぞうの森へ~』」と題し、絵本を全体のコンセプトの題材にしたもの。例えば、須永有さんの絵に長嶋有さん、福永信さんの解説コメントが添えられ、大小島真木さんの作品は、鑑賞者が作品のなかに物語を探し出し、そこから描いた絵や文章を展示室内に埋めるなど、文章と絵画がゆるやかに接続し、流れ出していくようです。

本と美術の展覧会「絵と言葉のまじわりが物語のはじまり」会場風景(撮影:Shinya Kigure+Lo.cul.P)

まちなかでの展開と今後の課題

活動は展示室内だけにとどまらず、館内のいたるところまで拡張し、なかにはまちに飛び出すものもあります。例えば、「まちじゅう図書館」は、図書ディレクターである花井裕一郎さんによる企画で、太田市内の商店や事務所のオーナーが所蔵する思い入れのある本を、太田を訪れた人や市民が自由に手に取り、それをきっかけに館長との会話を楽しんでもらうための触れ合いを生みだす図書館です。2017年1月14日にオープンし、現在は41の施設が参加するまでになりました。

ユニークな活動を続け注目を集める一方、幾つかの課題もあります。ものづくりのまち太田にある地元企業や専門家、また近隣の美術館や自治体、海外のアートセンターとの連携を図るにはどうすべきか。アートプロジェクトをまちなかでどう展開していくべきか、美術館と図書館というふたつの事業をより積極的にコラボレーションさせるにはどうしたらよいのか。また、その人材育成をどうすべきか、など考えていくべきことはまだあるということです。

太田市の文化再生をめざして

最後に設けられた質疑応答のコーナーでは、近隣の館林市在住の方から「もともと車社会なこともあり駅近隣には歩く人もまばらで、文化に対する関心も薄い地域だったが、この施設ができたことで若い親子連れが駅周辺にも集まるようになってきた。また文化に若い世代が目を向けるようになり、太田市の文化再生の兆しが見える」といった変化が共有されるなど、参考になるコメントもありました。

総合ディレクションを担うスパイラルのシニアキュレーター岡田勉さんは「美術館施設としては小さいが、まちなかを使うことで世界一大きな美術館になるのではないか」とおっしゃっているそうですが、そんな壮大な野望を秘め、動き出したばかりの太田市美術館・図書館が今後どのような広がりを見せてくれるのか、ますます今後が楽しみです。

続く第2回では、会期を終えたばかりの「札幌国際芸術祭2017」から、事務局マネージャーの細川麻沙美さんをお迎えしてお話を伺いました。まさに「今」を共有する内容になりましたので、次回レポートにもご期待ください。

【開催概要】
「アートプロジェクトの今を共有する(第1回)
日時:2017年9月15日(金)19:30~21:00(19:15開場)
会場:3331 Arts Chiyoda ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14 3F)
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:無料
テーマ:これからの文化施設とアートプロジェクト
~まちから得たものをまちへ返す「太田市美術館・図書館」の試み~
ゲスト:小金沢智 (太田市美術館・図書館学芸員)
コーディネーター:橋本誠 (アートプロデューサー/一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

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