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アートセンターのような《さいはての「キャバレー準備中」》(EAT&ART TARO)

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2018.03.27

アートセンターのような《さいはての「キャバレー準備中」》(EAT&ART TARO)の写真

Tokyo Art Reaserch Lab公開講座「アートプロジェクトの今を共有する(第3回)」には、現代美術アーティストのEAT&ART TARO(以下、TARO)さんをお招きし、最新作《さいはての「キャバレー準備中」》のお話を中心に伺いました。誰もが毎日関わる「食」は、日本各地で行われる芸術祭やアートプロジェクトなどでも、様々な役割を担っています。特に地域型芸術祭においては、土地に根付く食文化や名産品を活かしたメニュー開発や、地域住民が運営するレストランなどの取り組みも増えています。そんななか、食をテーマに作品をつくるアーティストのTAROさんが、芸術祭の現場で求められる役割はどのようなものなのでしょうか。食がつなぐアートと地域のあり方について話が展開された当日の様子をレポートします。

人々を食でつなげてきたEAT&ART TARO

調理師として働いていたTAROさんは、美術館やギャラリーでのケータリングをきっかけに、10年ほど前から作品制作を始めます。自らが注文した飲み物が自分の次に注文する人に渡っていき、“次の人におごる”連鎖を生む《おごりカフェ》や、離れた場所にいる人と宅配便を使って手づくりの食事などを交換し合う、文通ならぬ《食通》など、食で人々をつなぐ作品を手がけてきました。

千葉県市原市で開催された<いちはらアート×ミックス>(2014)では、おにぎりをおいしく食べるためという設定で運動会を行う《おにぎりのための、毎週運動会》を発表し、幅広い世代を集めました。“運動会の後のおにぎりのおいしさ”を味わうことを大切にしたため、食材にはあえてこだわらず、どこでも手に入るものを選んだといいます。

作品は広く地元住民に愛され、市原市の3つの小学校では、会期終了後も、運動会競技の大玉ころがしはおにぎりころがしに姿を変えて受け継がれています。2017年の同プロジェクト実施時には、ほぼ地元住民に運営も引き継がれ、運動会に対する住民たちの主体性と熱意を感じたため、自身は身を引き、作家名自体を冠することもやめたそうです。

いちはらアート×ミックス 2014で行われた《おにぎりのための、毎週運動会》の様子。

越後妻有の主婦たちとの協働作業

<大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015>では、越後妻有「上郷クローブ座」で地元の主婦たちが郷土料理中心のコース料理を提供する動きを、《「上郷クローブ座」レストラン》として演劇仕立てで展開しました。主役となる主婦のみなさんに気軽に参加してもらうため、あえて演劇であることは伝えず、あくまでも料理を出すときにお客さんに少し話しかけるだけ、と伝え、帰宅後に夕飯の支度ができる時間設定にするなどの工夫をし、大きな疑問も持たれずにうまく事が運んでいました。しかし、2017年に演出家が参加した公演では、「どうも演劇をしている気がする」「稽古ってどういうこと?」などと少しずつ主婦たちの疑問が膨らんできてしまい、今後、プロジェクトが一筋縄では立ち行かなくなることを懸念したTAROさん。2018年夏の大地の芸術祭における発表に向けて策を練っているそうです。

《さいはての「キャバレー準備中」》

アートセンターのような《さいはての「キャバレー準備中」》という作品

続いて、本題である最新作《さいはての「キャバレー準備中」》のお話に。奥能登半島の突端にある石川県珠洲(すず)市を舞台とする「奥能登国際芸術2017」のためのリサーチを続けるうち、かつてフェリー待合所だった海沿いのレストランが廃業したという知らせを受け、視察に向かいました。珠洲には珍しいフランス風のしつらえから映画「華麗なるギャッツビー」に登場する舞踏会のシーンを連想したTAROさんは、元レストランを「準備中の」キャバレーに変貌させることを思いつきます。常に準備中のキャバレーの片隅で飲食を楽しみながら、芸術家たちが集ったフランス発のキャバレーのように、芸術祭スタッフや珠洲市職員、ボランティアスタッフやアーティストなどが集う、アートセンターのような作品が誕生しました。

観客に滞在してもらうための食

“準備中のキャバレー”というキーワードに惹かれた人々が集うようになり、イベント告知時にはチケットが数日で売り切れたり、1日の最大集客数が1200名に達したりと、大きな評判を呼ぶようになります。会場構成は、裏口から厨房を抜けて中に入ると、自由に過ごせるカフェあり、最後にキャバレーの楽屋のようなしつらえがある空間を設けました。料理を主役とせず観客が場所にとどまってもらうための要素と考え、地元食材だけを用いるのではなく、キャバレーにありそうなパフェやクリームソーダなどを出しました。

主催者からのオーダーとの向き合い方

これまでにたくさんの芸術祭に招聘されてきたTAROさんですが、主催者からのオーダーに応えようとリサーチに力を入れすぎると、何をつくっていいかわからなくなったり、地元で困っていることを解決してあげなければと考えすぎて、かえって作品が魅力を失ってしまうこともあったといいます。時にはオーダーをそのまま受け入れず、アーティストができることに向き合うのも重要なこと。オーダーとのバランスをとりつつも、作品をどう別の次元にジャンプさせるかを重視して考えを巡らせていくそうです。

スタッフとの関係性が可能にすること

これまでに数々のプロジェクトを可能にしてきたTAROさんにとって、実現を支えてくれるスタッフの存在は大きなものです。経験上、ボランティアに頼るだけではスタッフが集まらないことを知っていたTAROさんは、食事を提供して得た利益から給料を支払うことでお金をまわしました。

今回のキャバレーでも、ホールをまわしてくれるスタッフがいるからこそ、会期中も自身が裏方にまわることができ、会期後に作家本人がいなくなった後も、地元住民だけで継続してもらえる可能性を探ることにもつながりました。実際に、看板をそのままにしてキャバレーを残すよう調整しているそうです(本講座終了後の2018年1月12日付け、<奥能登国際芸術祭>お知らせページで《さいはての「キャバレー準備中」》の貸館開始が発表されました)。

講座の最後には会場からの質疑応答も行われました。「何をもってプロジェクトの成功と考えるか」との問いに対して、TAROさんは「アーティストである自分としては、珠洲という最涯の地にキャバレーをつくることができた時点で成功と考えています。例えば人口を増やすなど、成功を図る物差しは様々ですが、それはそれ。とはいえプロジェクトの様々な側面を楽しんでもらえたり、評価してもらえるのは素直にうれしいし、その人たちの考える成功はそこにあるのだと思います」と答えました。

今年行われる大地の芸術祭では、北川フラムさんから「革新的な作品を頼むよ」と言われているというTAROさん、どのような作品を生み出すのか、今から楽しみです。

<開催概要>
「アートプロジェクトの今を共有する(第3回)」
日時:2017年12月22日(金)19:30~21:00(19:15開場)
会場: ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費: 無料
テーマ:EAT&ART TARO《さいはての「キャバレー準備中」》の舞台裏~食がつなぐアートと地域の次なるかたち~
ゲスト:EAT&ART TARO(現代美術アーティスト)

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