はじめのシート[配信編・収録編]

配信収録講座では、機材の操作方法に関するレクチャーだけでなく、映像コンテンツ制作の際に生じるコミュニケーションの必要性について取り上げました。はじめのシート[配信編・収録編]は、企画を立ち上げ実施するまでに必要なチェックポイントを確認できるツールです。以下の資料解説や、講座レポートと合わせてご活用ください。

*ウェブサイトからダウンロードを行い、エクセルでの使用を推奨します。プルダウン(項目の選択)はダウンロードするまでお使いになれません。エクセルが使えない場合、Googleが提供しているスプレッドシート等でもひらくことができます。
*PDF版を印刷し、記入しながら使うこともできます。

▶ 講座のレポートはこちら
「アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座」レポート【前編】
「アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座」レポート【後編】

資料解説

ここでは、ツールに関する解説/映像コンテンツの制作手順や考え方をご紹介します。

映像コンテンツ(ライブ配信・収録配信等)の制作に向けた段取り

「対面イベント」「収録配信イベント」「ライブ配信イベント」は、それぞれ得意なことが異なります。手段を検討する前に、まずは制作コンテンツの「実施主旨の優先順位」を考え、それに適した手段を検討します。流れとしては、以下を想定してみるといいでしょう。

  • 主旨の優先順位検討
  • 手段の検討(ライブ配信・収録配信・対面イベント)
  • コンテンツ概要と会場状況の確認
  • 規模の確認
  • 運営メンバー構成の検討
  • スケジュールの検討

また、優先順位の検討・確認を通してイベントの骨格を視覚化することで、コンテンツ制作に関わる内部スタッフだけでなく、外部委託者との円滑なイメージ共有を行なうことができます。

企画の主旨を踏まえ、優先順位を考える

企画をつくる際に優先する項目として、例えば以下の1〜7などが考えられます。

  1. 詳細な情報伝達
  2. アーカイブ性
  3. 広域性
  4. 社会状況に応じた即時性・即効性
  5. 視聴者の参加性(相互性・共同作業)
  6. ライブ感
  7. 専門性

優先したい項目に応じて、相性の良い実施手段を検討していきます。例えば1〜3を優先したいのであれば「収録配信」が向いており、3〜6であれば「ライブ配信」が、5〜7であれば「対面イベント」での実施が相性の良い手段となるでしょう。

一方で、それぞれの手段には相性の悪い項目があります。アーカイブ性の高い手段(収録映像)では、ライブ感との相性が良くありません。それを補うために、観客を入れたハイブリッド方式による収録も候補として考えられますが、スタッフ数の増大や現場で必要となるコミュニケーションが複雑化します。また、物理的な問題として登壇者と観客の間にカメラが設置されてしまうなど、会場構成も難しくなります。そのため、ハイブリッド方式ではなく収録方法を工夫してライブ感を補うことをおすすめします。

例えば、収録前に事前アンケートを募集し視聴者の参加性を補う。あるいは、収録会場に少数の鑑賞者役スタッフを入れ、「拍手」や「笑い声」など臨場感を感じさせるノイズを含めて収録することにより、ライブ性を補う方法などを検討してみましょう。

会場の条件や、映像コンテンツの概要を定める

実施手段の検討後は、映像コンテンツの概要、使用会場の確認を行いましょう。例えば、あらかじめ確認すべき項目として以下をあげることができるでしょう。

  • コンテンツに関する確認項目
    実施日と準備期間/広報期間/内容/コンテンツの長さ・本数/視聴料の有無/使用プラットフォーム/遠隔登壇者の有無/観客の有無
  • 会場に関する確認項目
    室内もしくは屋外/周辺の音環境(騒音具合:幹線道路・駅・空調)/会場の広さ/照明環境(明るさや会場照明の種類)/ネット環境の有無/LANケーブル使用の可否/ネット回線速度

また、事前に映像コンテンツを公開するプラットフォームの特性も確認しましょう。視聴料の有無や映像の質(解像度やクリアさ)によって、使用できるプラットフォームが変わります。

会場確認においては、抜け落ちやすい項目として「周辺の音環境」や「照明環境」があります。そうした情報(映像におけるノイズ)は現場にいる時には気づきにくいもの。ぜひ、会場確認の際にはスマートフォンなどを使って数分間動画を撮影し、映像を客観的に確認するようにしましょう。そうした環境や条件などを踏まえ、マイクの種類や補助照明の検討を行います。

企画規模をまとめ、共有できるようにする

以上を踏まえ「はじめのシート[配信編・収録編]」に企画内容をまとめ、実施規模を確認します。シートにまとめることで確認項目の漏れや、外部委託スタッフとのミーティングを円滑に行いながら、必要なスタッフ数や機材構成を検討することができます。企画の準備状況に応じて変更や追加項目が出た場合は、適宜修正を加え、現場の運営を安心・安全に進めるためのコミュニケーションツールとして活用していただければ幸いです。

もくじ
  • 説明(シートの使い方)
  • はじめのシート[配信編]
  • はじめのシート[収録編]
  • はじめのシート[配信編]選択項目の参照シート
  • はじめのシート[収録編]選択項目の参照シート
  • めとてラボ

    誰もが「わたし」を起点にできる共創の場を

    視覚言語(日本の手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり、異なる身体性や感覚世界をもつ人々とともに、自らの感覚や言語を起点にコミュニケーションを創発する場をつくるプロジェクト。手話を通じて育まれてきた文化を見つめ直し、それらを巡る視点や言葉を辿りながら、多様な背景をもつ人々が、それぞれの文化の異なりを認め合うための環境づくりを目指している。

    実績

    めとてラボでは、誰もが「わたし」を起点にできる共創的な場づくりを目指し、その環境や仕組み、空間設計などを含めた幅広い視点からのリサーチを続けている。また、活動のなかでさまざまな専門家や実践者と出会い、ヒアリングやディスカッションを通して視覚言語やろう文化を複数の視点から捉え直すことで、これからの活動にとって必要な取り組みを発見しながら実験を重ねている。

    2022年度は、拠点づくりのためのリサーチと、手話通訳環境の整備と技術やツールの開発を目指す「つなぐラボ」を行った。自らの身体や言語を見つめ、それに合う空間を設計していくことは、それらを肯定していくプロセスでもある。拠点づくりでは、“ろう者の身体感覚や手話言語からなる、会話空間を起点とした空間設計があるのではないか”という視点から、アメリカにあるろう者のための大学・ギャローデット大学の取り組みから生まれた「デフ・スペース」に着目。国内にあるデフスペースを再発見すべく、拠点や文化施設、各地域のろうコミュニティのリサーチのため、福島、長野、愛知を訪れた。2023年度には米・ギャローデット大学と筑波技術大学大学院にてデフスペースデザインの研究をしていた福島愛未を招いたイベントを行ったほか、一般社団法人日本ろう芸術協会とともに西日暮里に新たな拠点「5005(ごーまるまるごー)」をオープンした。内装や什器の設計においても、デフスペースリサーチで得た知見を取り入れ、今後も実験を続けていく。

    手話は視覚を起点としている言語で、音声言語は聴覚を起点としている。そこには、視覚と聴覚のそれぞれからなる言語体系ゆえのリズムや、対話の重なり方、空間の使い方などさまざまなズレが生じる。このズレを意識しながら、いかに共創へと接続するかを模索していくために、手話通訳の現場においてどのようなルールや条件、進め方のリズムが必要なのかを探究し、技術やツール開発を行う「つなぐラボ」を開始した。異なる文化や感覚の間をどのようにつないでいくのかを検討するため、手話通訳者だけではなく、さまざまな言語間の通訳者、翻訳者にヒアリングを行っている。

    また、暮らしのなかにある手話をどのように継承し、保存していくのかという観点から、各地に残る地域特有の手話言語のリサーチや、暮らしのなかにある手話の記憶・記録をアーカイブするための取り組みも実施。消滅危機言語である手話の記憶・記録のアーカイブについて考える「ホームビデオ鑑賞会」では、聴者とろう者がともに集い、ホームビデオを見ながらの対話を通して、ろう者の暮らしのなかにある文化や時代の変遷に考えを巡らせた。

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    誰もが「わたし」から出発できる場をつくるために——めとてラボインタビュー

    カロクリサイクル

    カロク(禍録)をめぐる表現とネットワーク

    各地に蓄積されてきた「過去の災禍の記録=禍録(カロク)」を読み込み、現在に応用するためのプロジェクト。災禍の歴史をたどり、地域の歴史を掘り起こし、それらに向き合う人々と出会い、話し合い、ワークショップや展示を通じて表現を行う場をつくることから、災間期をともに生きるためのネットワークづくりを目指している。

    実績

    東日本大震災以降、仙台を拠点として、災禍にまつわる記録を活用し、体験を語り継ぐための実践を行ってきた一般社団法人NOOK。2022年から活動拠点を東京に移し、これまで培ってきた知識や技術をいかし、災間期を生きるためのアートプロジェクト「カロクリサイクル」をスタートさせた。

    2022年度は、「リサーチ」と「ネットワークの形成」を主軸として、事業発信やワークショップを実施。都内の災禍にまつわる歴史を探るため、東京都慰霊堂や都立第五福竜丸展示館など戦災や震災、水害等に関する施設への訪問やまち歩き、活動関係者へのヒアリングを行い、そこで得た気づきや考えをnote『カロク採訪記』で定期的に発信。ワークショップ参加メンバーも執筆に加わり、さまざまなネットワークが広がりつつある。オンライン番組『テレビノーク』では、各地の災禍のリサーチや記録活動に携わる担い手などさまざまなゲストを迎え、知見や技術を共有し合う場をつくった。

    また、過去の記録に触れたり、実際にリサーチや記録したりする活動を通して、新たな表現をつくるワークショップ「記録から表現をつくる」も開催した。絵画やテキストなどの記録物から表現を試みている実践者とフィールドワークを行ったり、参加者が関心のあるテーマを設定し、リサーチや制作を進め、記録から生まれる表現を探ったりすることに挑戦。2023年度には有志が自らの関心をかたちにする展示も行った。

    そのほか、ふたつ以上の土地をオンラインでつなぎ、同時に映像や本などの資料を見て、ディスカッションを行う「カロク・リーディング・クラブ」や他団体と協働しながら江東区を中心とした災禍・防災・まちづくりに関する勉強会も実施しながら、対話を重ねるための場づくりと地域に根ざしたネットワークづくりを試みている。2023年度には東京と名古屋をオンラインでつなぎ関東大震災と伊勢湾台風の記録を読んで対話を行ったほか、「てつがくカフェ」を開催した。

    2023年度からは江東区・大島四丁目団地内に構えた拠点「Studio 04(ぜろよん)」を中心に活動を行った。オープン時には「窓」を巡る語りと写真で構成した展覧会「とある窓」を開催。公募で集まったリサーチャーは地域の人たちに話を聞き、文章にまとめ、展示用の冊子づくりまで行った。開室日には、年代や国籍の異なる住民たちがゆるやかに過ごす場所になっている。

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    誰もが「災禍の記録」を語り、きくことで、記憶は生き続ける——瀬尾夏美「カロクリサイクル」インタビュー

    KINOミーティング

    異なる「ルーツ」と出会い、協働の場をつくる

    海外に(も)ルーツをもつ人々とともに、都内のさまざまなエリアで映像制作を中心としたワークショップを行うプロジェクト。背景の異なる人々との出会いや対話を軸とした映像制作を通して、新たなコミュニケーションや協働のあり方を発見する場をつくり出す。また、参加者が主体的にかかわれるプログラムの研究・開発も目指している。

    実績

    団体が過去に実施した映像制作のプロジェクト「Cross Way Tokyo―自己変容を通して、背景が異なる他者と関わる」と「Multicultural Film Making ―ルーツが異なる他者と映画をつくる」にかかわったメンバーが、ワークショップクルーとして参加者をサポートする体制を構築。経験者が継続してプログラムにかかわれるような仕組みづくりに取り組んでいる。

    2022年度は、池袋・板橋・大山・要町を対象エリアとしてワークショップを開催。中国や台湾、タイ、ベトナム、アメリカなどにルーツをもち、映像制作の経験や言葉のレベルが異なる7名の参加者が集まった。参加者は3人1組のグループとなって、インスタントカメラや録音機、ビデオカメラを活用し、対象エリアにまつわる「思い出」をテーマに、まちなかでの撮影・編集、上映を行った。お互いがもつルーツや経験、まちへの記憶について何度も対話を重ね、それぞれの価値観を反映させた『変身』『ひみつ』『JST(日本標準時)』という3つの作品を完成させた。

    2023年度には、まちを歩きながら、写真と映像、インタビュー音声を用いて映像を制作するワークショップとして「シネマポートレイト」を北区と新宿区で開催。新たに、過去の参加者を対象にした「ステップアップワークショップ」も始動した。参加者が互いの日常生活に密着し、対話を重ねる短編ドキュメンタリーや、「再会」をテーマにしたフィクションづくりにも挑戦し、演技やシナリオ制作、カメラオペレーターなど必要な技術と思考を培う場づくりを行った。ワークショップの最終日には上映会を行い、詩人・管啓次郎と漫画家・かつしかけいた、写真研究者の村上由鶴、行動学者・細馬宏通をゲストに迎え、言語も文化も異なる人々が協働し、作品づくりに取り組む場の可能性について言葉を交わした。

    また、現場では拾いきれない気づきや疑問を共有する場として「(スペース・ルーム)スキマを言葉にしてみるラジオ」の配信を行うなど、対話と作品づくりを基盤としたコミュニティの形成に向けて試行錯誤を重ねている。

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    「映像制作」がつむぐ多文化のコミュニティ——阿部航太「KINOミーティング」インタビュー

    メディア/レターの届け方 2022→2023

    多種多様なドキュメントブックの「届け方」をデザインする

    アートプロジェクトの現場では、さまざまなかたちの報告書やドキュメントブックが発行されています。ただし、それらの発行物は、書店販売などの一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要です。

    多種多様な形態で、それぞれ異なる目的をもつドキュメントブックを、どのように届ければ手に取ってくれたり、効果的に活用したりしてもらえるのか? 資料の流通に適したデザインとは何か? 東京アートポイント計画では、川村格夫さん(デザイナー)とともに各年度に発行した成果物をまとめ、その届け方をデザインするプロジェクトを行っています。受け取る人のことを想像しながら、パッケージデザインや同封するレターを開発します。

    2022年度は10冊の成果物をひと箱に梱包ました。箱には各冊子から抜粋した、アートプロジェクトの現場で生まれた「ことば」を印刷しています。

    詳細

    進め方

    • 同封する発行物の仕様を確認する
    • 発送する箱の仕様や梱包方法の検討
    • 発送までの作業行程の設計
    • パッケージと同封するレターのデザイン・制作

    アートプロジェクトの運営をひらく、◯◯のことば。[評価の実践編]

    この動画シリーズは、アートプロジェクトの運営に必要な視点として「評価」の考え方について紹介します。実践例として取り上げるのは、足立区で活動する『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』が市民とともにつくるアートパフォーマンス「Memorial Rebirth 千住」です。

    2021年度には、「Memorial Rebirth 千住」が歩んだ約10年を、絵物語、事業にかかわってきた人の声、そして多様な評価分析の手法で紐解く『アートプロジェクトがつむぐ縁のはなし 大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住」の11年』を発行しました。

    Artpoint Meeting 2022

    社会とアートの関係性を探るトークイベント

    「まち」をフィールドに、人々の営みに寄り添い、アートを介して問いを提示するアートプロジェクトを紐解くため、アーツカウンシル東京が企画するトークイベント。アートプロジェクトに関心を寄せる人々が集い、社会とアートの関係性を探り、新たな「ことば」を紡ぎます。東京アートポイント計画の一環として、2016年に開始しました。

    2022年度は、アートや表現活動を通じた学びのあり方や、映像を通じたコミュニケーション、記憶の継承について議論を深めました。

    詳細

    スケジュール

    2022年11月23日開催
    Artpoint Meeting #10 –アートがひらく、“学び”の可能性–

    • ゲスト:鞍田崇、宮下美穂、森山晴香、河野路、宮山香里、西郷絵海
    • 会場:武蔵野プレイス 4Fフォーラム

    2023年1月9日開催
    Artpoint Meeting #11 –映像を映す、見る、話す–

    • ゲスト:阿部航太、森内康博、馬然 MA Ran、松本篤、尾山直子、神野真実、アサダワタル、小森はるか、細馬宏通
    • 会場:東京都写真美術館 1Fホール