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2つの顔で課題に向き合う/まちで味方をつくるには?(APM#03 前編)

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2017.07.19

執筆者 : 杉原環樹

2つの顔で課題に向き合う/まちで味方をつくるには?(APM#03 前編)の写真

「ART POINT MEETING#03 -まちで企む-」フロアディスカッションの様子

ART POINT MEETING #03 –まちで企む- レポート前編

 「アートプロジェクト」と一口に言っても、それぞれの現場には活動のスタイルや根本的なアート観、社会との距離感などの点で驚くほどの幅があるものです。東京アートポイント計画が昨年6月より始めた「ART POINT MEETING」は、そんなさまざまな志向性を持ったプロジェクトの担い手が集い、言葉を交わすトークイベント。その第3回目が、2017年7月2日、東京・武蔵野市の図書館「武蔵野プレイス」で開催されました。

 今回のテーマは「まちで企む」。八王子市議会議員を務めながら同市で空きテナントの活用プロジェクト「AKITEN」を運営する及川賢一さん、足立区で「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の事務局長を務める吉田武司さん、JR中央線の高円寺から国分寺間を舞台に「TERATOTERA」を展開してきた小川希さんと、東京の各所で存在感のあるプロジェクトを仕掛けている3人のプロジェクトリーダーが登場しました。

 これまでの回にも増して、アートとまちの関係についての各人の考え方の違いが浮かび上がり、聞き手も巻き込んだ活発な議論が起こった今回のART POINT MEETING。はたして彼らは、何を目指してまちにアートを投げ入れ、その実現のためにどんな工夫をしているのでしょうか? イベントの様子を、ライターの杉原環樹がレポートします。

3名のプロジェクトリーダーは、何を“いじって”いる?

 東京都議会議員選挙の投票日でもあったこの日。会場には80名超の参加者が集まり、活況を呈しました。イベントはまず、東京アートポイント計画のディレクターである森司の趣旨説明からスタートします。

 今回登場する3人が手がけるプロジェクトには、現在進行形のものも、すでに卒業したものも含め、東京アートポイント計画と共催経験があるという共通点があります。しかし、それぞれがまちと関わる意図は「三者三様」と森。今日のポイントとして、彼らがまちと関わるなかで「何を“いじって”いるのか?」に注目してほしいと話しました。

オープニングトーク:東京アートポイント計画ディレクター・森司

アートプロジェクト代表と議員。2つの顔でまちの課題に向き合う

 1人目の登壇者・及川賢一さんは、経営コンサルティング会社勤務やカフェ経営を経て、2011年に地元である八王子の市議会議員選挙に無所属で立候補し、当選。翌年には仲間のクリエイターたちと、空きテナントを活用するアートプロジェクト「AKITEN」を開始した、異色の経歴の持ち主です。

NPO法人AKITEN代表/八王子市議会議員・ 及川賢一さん

 そんな及川さんのトークテーマは、「まちの課題はアートで解決できる?」。市議会議員として公的な活動をしながら、アートプロジェクト「AKITEN」というもうひとつの車輪を動かしている意図とは何なのか? そうした考え方に至った経緯を次のように語ります。

「アートプロジェクトの可能性のひとつは、問題提起をすることに優れている点だと思います。この可能性を実感したのは、東日本大震災後の原発をめぐる問題のなかで、音楽家の表現の方が政治家の言葉より伝わると感じたこと。空きテナントが増えることによる商店街の過疎化という問題に対しても同じです。駅前でいくら演説をしてもなかなかわかってもらえない。しかしアートプロジェクトで空きテナントの活用可能性を体感してもらえれば、言語的な説明を超え、人の感覚に訴えることができるんです」。

こうした発想からAKITENでは、作品展示やトークイベント、リノベーションスクール、地元の食文化を発信するファーマーズマーケットなど、幅広いプログラムを空きテナントを活用して展開してきました。

テナント募集中の物件を一時的に借り、短期間でイベントを企画開催し、空きテナントや地域の魅力を体感してもらうのが「AKITEN」の手法。(写真提供:AKITEN)

「試みを通して、人々に『まちの理想像』や『現状』に触れてもらい(問題提起)、現場で直面した課題を行政にフィードバックして、解決に取り組む(問題解決)。二つの立場をつなぐことで可能になる、そんなまちづくりのあり方を目指してきました」。

 どんな空間も、使用によって初めて価値が生まれるもの。以前は自分たちからテナントオーナーに空間の提供を頼んでいたものの、「近年は使って欲しいと頼まれるようになった」と及川さんは言います。この取り組みも一因となり、八王子の中心市街地の空きテナント率は、2012年の約15%から2016年には約9.9%まで改善。使える物件が少なくなったことから、AKITENの拠点も八王子駅から西八王子駅付近へ移りました。

 2016年1月に開店した「たねカフェ」は、AKITENの活動から生まれた具体的な成果のひとつです。「障害者が働けるカフェを作りたいが、場所がみつからない」という相談を受け、テナントの紹介や店舗デザインをAKITENメンバーがサポートしました。実現にあたっては、東京都の厳しいバリアフリー条例が課題になりました。

「たとえば、バリアフリー条例ではエレベーターのない建物には福祉施設がつくれません。しかし障害者の方々には、自分で階段を上り下りできる人も多い。そこで議会に提案をして、八王子では都内で唯一、バリアフリー条例の緩和を行いました。かつては厳しい条件のため、施設はまちから離れた郊外に作らざるをえなかった。でも、障害者の人と身近に接することで達成される心のバリアフリーこそ、重要だと思うんです」。

AKITENメンバーが開設をサポートした「たねカフェ」(運営:NPO法人しあわせのたね、写真提供:AKITEN)

 「これからのまちづくりでは、ただ人口の引っ張り合いをするのではなく、まちに関わる人を増やすことが重要」と及川さん。彼にとってアートとは、まちの課題に人の意識を向けるためのひとつのツールであり、そこにはつねに、現実を行政面から具体的に改善しようとする議員の意識が並走しています。アートの専門家はなかなか持つことの少ないこの姿勢にこそ、AKITENのプロジェクトとしての特殊性があると感じました。

聞き手:東京アートポイント計画 プログラムオフィサー・嘉原妙

関係性=可能性。まちの人たちと見たい風景を共有する

 続いて登場したのは、吉田武司さん。吉田さんは足立区で現在展開するアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」のほかにも、埼玉県北本市での「北本ビタミン」、東京都三宅島での「三宅島大学」など多くのアートプロジェクトに、そのまちの住人になりながら関わってきました。「まちで味方をつくるには?」と題されたプレゼンでは、プロジェクトを進めるなかで必要となる地元の人々との関係性の築き方を中心に、その体験が紹介されました。

アートアクセスあだち 音まち千住の縁 事務局長・吉田武司さん

 「人との関わりがあって初めてできる作品がある」。そのように吉田さんが実感する原体験となったのは、2008年よりスタッフとして関わった「wah document」の活動だと言います。現在、各地で活躍する現代芸術活動チーム「目」の前身にあたるこの活動体では、一般参加者からアイデアを募り、実現の道を探る試みが展開されました。ただしそのアイデアは、「空中から照明をぶら下げる」「家を持ち上げる」など、荒唐無稽なものばかり。しかしそれを何とか具体化するなかで、人々との連帯が生まれます。

「たとえば照明のアイデアでは、実際に2メートル四方の照明器具をヘリから下げて飛ばしたのですが、一見、何の利益もない試みへの協力者を見つけるのは大変でした。ところが交渉を進めるなかで、ヘリや私有地を貸してくれる人が現れた。すると、実現不可能に思えたアイデアを多くの人が信じるようになり、プロジェクトがドライブしていくんです。見たい風景を共有できるようになる、そんな感覚に魅了されました」。

wah document《wah31「照明器具を飛ばす」(2008年12月27日)》(写真:Wah Documentウェブサイトより)

 2013年に関わった「三宅島大学」(※)でも、地元の理解が課題に。プロジェクトのために三宅村役場の職員として働き始めた吉田さんですが、「アートプロジェクト」はなかなか浸透せず、職場では消極的な空気も一部にあったといいます。

(※)プロジェクトは2011年~2013年で実施。

「身内に味方を作らないと前に進めないなと思いました。そこで、『お酒の席や喫煙所での会話を大切にする』、『住民しか知らない情報を集める』、『反発ではなく共通点を探る』など、地域での自分の振る舞い方を基本的な部分から見直しました。簡単なことですが、続けるうちに少しずつ本音も聞けるようになり、味方も増えていきました」。

 努力の甲斐もあり、アーティストや地元の人が講師となり、自分の知識やスキルを他の人に伝える開発好明さんによるアートプログラム《100人先生》の参加者も増加。最終的には地権者や役場の人も関わるようになり、それぞれが持つ三宅島の知識や資源を共有する場になったと言います。

三宅島大学《100人先生》99人目「凧づくり先生」。様々な人が先生になるプログラム。詳しいレポートは当時の事務局ブログに。(写真提供:三宅島大学)

 現在事務局長を務めている「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」にも、多様な住民が参加。アーティスト・大巻伸嗣さんによる大量のシャボン玉で風景を変貌させる人気プログラム《Memorial Rebirth 千住》では、東京藝術大学の学生から地域の学校のPTAや先生、足立区の職員まで、約150人が運営に携わります。

「まちの人たちに運営まで参加してもらい、その役割を地域の中でリレーのように受け継いでいるのが継続の肝です。そこから『大巻電機K.K』という、シャボン玉マシーンの管理を行う市民チームも誕生し、足立に独自のネットワークを生み出しています」。

アートアクセスあだち 音まち千住の縁大巻伸嗣《Memorial Rebirth 千住 2015 足立市場》。5,000人近くの人たちが訪れる人気のプログラム。地域の老若男女が運営チームに参加し、当日までともに企画をつくりあげていくことも醍醐味。(写真提供:アートアクセスあだち 音まち千住の縁)

 こうした活動を通して吉田さんは、「関係性=可能性」だと感じると話します。目的がわかりづらいと思われがちなアートプロジェクトでも、そこに理解者から批判者まで大量の人が関わることによって、何かが生まれる可能性が拓ける。そのとき、吉田さんの担ってきた役割とは、プロジェクトのマネジメントという以上に、住民として入り込み、些細な会話や交流を通してまちの雰囲気や空気を変えていくことにあるのかもしれません。

聞き手:東京アートポイント計画 プログラムオフィサー・佐藤李青

>>レポート後編へ続く

(イベント撮影:高岡弘)

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