第5回レポート Tokyo Art Research Labコミュニティ・アーカイブ・ミーティング ――能登・仙台・東京
執筆者 : 本多美優
2025.05.21

市民の手によって、地域の記録を残し、活用していく「コミュニティ・アーカイブ」。
そのスキルを、 複数の地域や経験を重ね合わせることから、広く共有する場をつくります。 記録を残すことは、出来事の記憶を伝えることにつながっています。とくに各地で頻発する災害の現場では、多くのものが失われる一方で風景や出来事を記録しようとする無数の試みが生まれています。
2024年、能登半島は1月の地震と9月の豪雨で大きな被害を受けました。本プロジェクトでは各地の災害にかかわり、活動を続けてきたメンバーが集まり、能登への応答のなかから、互いのスキルを共有するためのディスカッションを行います。
――プロジェクトメンバーのディスカッションの記録を、レポートとして公開し、繰り返す災害のなかに生きる術としての「コミュニティ・アーカイブ」のありかたを広く共有します。
第2回のミーティングでは、被災地での記録への向き合い方といった現場の人々の抱える課題と、そこで記録されたものをどう保存・活用していくかといったプラットフォーム面の課題の、大きく2つの方向で議論が広がりました。
今回のミーティングではこれらを分科会として分け、プラットフォーム面の現状と課題に焦点を当てて議論を掘り下げます。また、今回は映像ワークショップ合同会社の明貫紘子さんの紹介により、一般社団法人Code for NotoのCTOを務める川田創士さんにもゲストとして参加してもらいました。
一般社団法人Code for Noto 川田創士さん
静岡県出身、石川県在住。現在のCode for Notoの代表であり大学の先輩でもある羽生田文登さんが、2013年にデータアナリストとして石川県に出向・移住し、能登の伝統文化をデジタル上にアーカイブする取り組みを始めたことをきっかけに、川田さん自身もデータサイエンティストとして活動に参加。
その後、2024年1月の震災を機に、能登の活動に本格的に関わるため、羽生田さんを含む大学の仲間3人で一般社団法人Code for Notoを設立。2024年7月に金沢市内に移住。
Code for Noto設立後、映像ワークショップの明貫さんとも連絡を取り合い、お互いのイベントに参加したり、情報交換をしているといいます。
Code For Notoのロゴ
Code for Notoは、令和6年能登半島地震をきっかけに設立された一般社団法人です。
Code = プログラミングで課題を地域の課題を解決するツールという枠を飛び出し、Data(データ利活用)・Art(アート)・Note(デジタルアーカイブ)の側面から、能登半島の美しさや歴史、やさしさを後世に繋ぐため、データのプロフェッショナル集団としての活動を続けています。
例えば、Code for Notoのプロジェクトのひとつである『Our city timeline』では、インターネット上で地域の歴史年表を閲覧・編集できるプラットフォームを独自に制作し、公開しています。その年表はただ閲覧できるだけでなく、一般市民が独自に保有している記録写真などを追加することができるため、より多くの人が参加することで、より幅広く具体的な歴史年表がつくり上げられていくプラットフォームにもなっています。
そのほか、石川県内の人口・世帯数をデータビジュアライズしたマップを制作・公開したり、県内外の写真展への技術協力を行ったり、サイネージでの映像と写真の上映による能登の魅力発信を行うといったさまざまな形で、技術面から能登を支えるための活動に取り組んでいます。
県庁によるアーカイブ事業特設サイトの公開
Code for Notoのように個人から立ち上がるアーカイブの事例がある一方で、自治体規模での大きな取り組みもはじまっています。
2025年1月29日より、石川県庁によるインターネット上でのアーカイブ事業「能登半島地震アーカイブ 震災の記憶・復興の記録:石川県」の特設サイトが公開されました。
このウェブサイトでは、発災から3か月間の初動対応にあたった期間の資料を中心に、国や被災した市、町、それに全国の自治体などおよそ150の機関から提供を受けた写真や資料を公開しています。
また、県によると、これまでにおよそ2万点の資料が集まり、このうちおよそ500点を1月29日から、3月末にはさらに500点ほどをウェブサイト上で公開するとのことです。
現在は、県が独自に収集した記録だけでなく、SNSなどでの発信を通して一般市民からの情報提供も、ウェブサイト上のフォームから受け付けています。
アーカイブをいかす、続けるための課題
このような状況を俯瞰し、せんだいメディアテークからオンラインで参加した小川直人さんは、東日本大震災の経験も交えて、アーカイブ事業が直面する課題を共有しました。
まず直面する課題は、アーカイブを保管する倉庫(インターネット上のアーカイブであればサーバーにあたるもの)の維持の問題です。
県によるアーカイブ事業であれば、ある程度長期的な維持が期待できるものの、東日本大震災においては震災後10年を経て、行政主体のサービス等は次々と閉鎖している現状もあるといいます。
そして次の課題は、アーカイブを発信・活用し続ける仕掛けの問題です。
記録は、ただ保管して蓄積するだけではなく、そこに市民が参加して閲覧・利用し、繰り返し活用することが非常に重要で、そうすることにより、コミュニティ・アーカイブとして記録を生かし続けることにつながります。
せんだいメディアテークで毎年3月に開催しているイベント「星空と路」のように、定点観測のように過去の記録を伝え続ける取り組みや、ワークショップ等を設けて、市民参加の場を持ち続けることも重要になります。
デジタルアーカイブを行う上でのデータ収集や整理のしかた
Code for Notoの川田さんは、デジタルアーカイブを行っていく上では、データ整理や収集においても課題があると付け加えて説明します。
一般市民が誰でも参加できるコミュニティ・アーカイブの場合、集まった膨大なデータをひとつにまとめていく上で、情報の粒度やフォーマットの統一が難しい傾向があります。
現状のCode for Notoでは、専門スタッフが情報の取捨選択を行い、加工・整備を通した上で公開しています。
せんだいメディアテークでも同様の課題がありますが、一般公募した情報を、一度イベントなど少数に閉じた場で共有し、そこで情報整理を行った上で公開するというプロセスを踏むため、ある程度スタッフの負担軽減や公共性の担保にもつなげられているといいます。
生きたコミュニティ・アーカイブを継続する上では、イベントやワークショップといったフィジカルな場での取り組みとデジタル上での取り組みを、どう組み合わせて実施するかが非常に重要だと言えそうです。
Code for Notoによる「Notoまちづくりタイムライン」という取り組みでは、震災が起こってから現在までに、どんな支援団体がどこで活動を行い、自治体や協議会がどんな会議を行い、どんなメディアによる発信がいつ行われたか、といった情報を、タイムライン形式で集約して公開しています。
このようなデジタルアーカイブを通して、未来に別の地域で災害が起こった際に、過去の教訓を活かしやすくすることを目指しているといいます。
また、このような断片的な記録を続けていくことによって、教科書のような「大きなタイムライン」からは消えてしまうような記録を後世に残すことで、「記録を通して地元の橋渡しをしたい」とも語ります。
一方、データの収集と公開および活用においては、著作権や所有権の扱い方も重要です。
まだまだ手探りの課題はあるものの、明貫さんや川田さんは、被災地の現状と日々向き合いながら、データ・アーカイブに関する権利上のノウハウを蓄積し、交換しています。
このようにして、災禍の記録を教訓として活用しやすい形で残すことで、長い年月が経ったあとにも問題を再検証しやすく、未来の防災につなげられる可能性があることがわかりました。
今回は、Code for Notoでの取り組みを事例に、デジタルアーカイブとその運用、プラットフォームづくりにまつわる課題にフォーカスし、議論を掘り下げました。3月には、せんだいメディアテーク内にて「わすれン!」主催の展示イベント「星空と路—3がつ11にちをわすれないために—(2025)」も開催。
Tokyo Art Reserach Labによる本ミーティングとの協力企画「わすれン!記録活動ミーティング——能登から/能登へ——」と題するトークイベントでは、明貫さんがモデレーターとなり、川田さんらも出演予定です。
次回は、特別編としてイベントレポートをお届けしたあと、本ミーティング企画の最終回として、これまでのディスカッション内容を振り返ります。
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