誰と暮らす? どう住まう? これからの「家族」のカタチを考える

住まいの空間や暮らしの仕組みをデザインして、家族を「ひらく」

月日を重ねるごとに、家族と「わたし」の関係性も、生じる問題も変わります。さらに家族を取り巻く社会すらも刻一刻と変わっていくなかで、自分たちなりの「家族のカタチ」を探ろうとするとき、どのような家のあり方や地域コミュニティとのかかわり方があるでしょうか。

あらためて「家族」を「一つの共同体」として捉え直そうとすることで、多くの人にとって自分ごとになっていく(あるいは、なっている)育児や介護に、例えば、家族のなかに「他者」を介入させるような、新しい視点を得られるのではないかと考えています。

今回のゲストは、自らの家族に生じた育児・介護の課題から端を発し、兵庫県新長田で介護サービス付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さん。そして、人々がゆるやかにつながる空間づくりを手がけ、プライベートでもその視点をいかして家族関係を編み直しているいわさわたかしさんです。「家族のカタチ」という、答えのない状況に向き合うお二人の思考と実践について、アートプロジェクトにおけるコミュニティや拠点形成のあり方と重ねながら話を伺います。

詳細

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

参加費

無料

どこまでが「公」? どこまでが「私」? まちを使い、楽しむ暮らしをつくる

建築やグラフィティの視点から、都市空間の「公私」の境界線を探る

アートプロジェクトはまちなかで行うことが多いため、「公共性」について考えさせられる場面に遭遇することがあります。日常生活のなかで「公」的な場所と「私」的な場所は、対比関係にあるものとして捉えがちです。しかし、「公=みんなのもの/場所」として捉えることで、「公」を一人ひとりの「私」が重なり合い、立ち上がっていくものとして考えることができるのではないでしょうか。

今回のゲストは、まちでの一人ひとりの行動や視点に変化を促すことで、都市の印象や公共空間に対する気づきにつなげるユニットmi-ri meter(アーティスト/建築家)と、ブラジルのグラフィテイロに関するフィールドワークを通じて「まちは誰のもの?」という問いをもち、文化人類学的アプローチから「公共性」を考える活動を行なっている阿部航太さん(デザイナー/文化人類学専攻)です。この2組に「公」と「私」との関係性について、それぞれの実践やリサーチについてお伺いします。

「公」と「私」の境界線とは何か。また、公共的な空間と自分との間に、居心地のよい距離感をつくるために必要な思考や身体性とは、どのようなものでしょうか。ゲストの思考と実践から、そのヒントを探ります。

詳細

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

参加費

無料

OUR MUSIC 心技体を整える

公共空間で音楽を展開するために、専門家の視点を交えて手法を探る

公共空間で「音楽」を展開するために、必要な条件とは何だろうか? 音楽が頻繁に用いられるアートプロジェクトやイベントをオープンな空間で実施する上で、周辺環境とどのように共生することができるだろうか?

東京プロジェクトスタディ2018「Music For A Space 東京から聴こえてくる音楽」でナビゲーターを務めた清宮陵一(VINYLSOYUZ LLC 代表/NPO法人トッピングイースト 理事長)が、公共空間で音を出す際の条件について、まちづくり、医療、法律、宗教、サウンドにまつわる5名の専門家へインタビューを行います。

飯石藍さん(公共空間プロデューサー)、稲葉俊郎さん(医師)、齋藤貴弘さん(弁護士)、近江正典さん(僧侶)、ZAKさん(サウンドエンジニア)の多角的な視点を介して得た現場に応用可能な論点を、公開編集会議を行って一冊にまとめます。

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進め方

  • ゲスト5名のインタビュー
  • 公開編集会議

メディア/レターの届け方 2019→2020

多種多様なドキュメントブックの「届け方」をデザインする

アートプロジェクトの現場では、さまざまなかたちの報告書やドキュメントブックが発行されています。ただし、それらの発行物は、書店販売などの一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要です。

多種多様な形態で、それぞれ異なる目的をもつドキュメントブックを、どのように届ければ手に取ってくれたり、効果的に活用したりしてもらえるのか? 資料の流通に適したデザインとは何か? 東京アートポイント計画では、川村格夫さん(デザイナー)とともに各年度に発行した成果物をまとめ、その届け方をデザインするプロジェクトを行っています。受け取る人のことを想像しながら、パッケージデザインや同封するレターを開発します。

2019年度は成果物をひと袋にまとめパッキングしました。

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進め方

  • 同封する発行物の仕様を確認する
  • 発送する箱の仕様や梱包方法の検討
  • 発送までの作業行程の設計
  • パッケージと同封するレターのデザイン・制作

家族が聞く 東京の戦争のはなし

家族から戦争体験を聞き、「継承」についての展示と対話の場をつくる

もっとも身近な「家族」という存在。自分が生まれる前の時代や出来事について、語られたことや聞けたことがある一方で、近しい間柄だからこそ話せなかったことや、知りたくても聞けなかったことがあるかもしれません。

今回は、2018年に開催した「部屋しかないところからラボを建てる」の実践編として、家庭内で行われてきた戦争体験の継承について考える展示と対話の場をつくります。東日本大震災以降、仙台を拠点に土地と協働しながら記録をつくる一般社団法人NOOKの瀬尾夏美(アーティスト)、小森はるか(映像作家)、磯崎未菜(アーティスト)が、「部屋しかないところからラボを建てる」の参加メンバーからなる「かたつむり」とともに、第二次世界大戦を経験した祖母の話を息子と孫が聞くための場をつくり、その様子を映像化します。

先の戦争が終わってから74年が経ち、戦争を体験した人々が少なくなっていくことは、体験者の声を介して、世代を超えた語り継ぎの機会がなくなっていくことでもあります。東京大空襲を経験した東京において、戦争体験者の子や孫と企画者が「いまあらためて何を聞きたいか」を話し合い、体験者本人へのインタビューを行うことで、新たな語りの生成の実践と、「家族内継承」という営み自体の検証を行い、これからの時代の「継承」について思考を深めます。

*このプロジェクトは、「厄災に向き合う術(すべ)としてのアート」の一部として実施しました。

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進め方

  • 展覧会づくりに向けた議論
  • 家族間でのインタビューの場づくり
  • 展覧会と関連イベントの企画・制作

 

展覧会

日時:2019年9月19日(木)〜23日(月・祝)13:00~18:00
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田 6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])

 

関連イベント

9月21日(土)14:00〜15:00 ギャラリーツアー
本展企画メンバーが解説を行うツアー。
ナビゲーター:柳河加奈子(かたつむり)、磯崎未菜(NOOK)
定員:15名

15:00〜18:00 公開会議「これからの継承を考える」
本展のテーマとなった出来事の「継承」について、かたつむりとNOOKのメンバーが集い、企画の実践を通して考えたことから、今後の活動について会議する。
定員:15名

9月22日(日)15:00〜17:00 てつがくカフェ

「家族に聞けること、聞けないことってなんだろう?」をテーマに、対話を通してそれぞれの考えを深める。
ファシリテーター:八木まどか(かたつむり)
定員:15名

 

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

ジムジム会 2019

9つのアートプロジェクトの実践から学び合う事務局の互助会

アートプロジェクトは、企画や広報、経理などを担当する事務局の人々によって支えられています。しかし現場は人手が不足しており、時間がないなかでやり方を模索し、それぞれが悩みを抱えながら活動しているのが多くの現状です。

「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」(通称:ジムジム会)は、テーマも実施エリアも携わる人々もさまざまなアートプロジェクトの工夫やこだわり、葛藤を共有しながら、互いに学び合うための場です。

2019年度は「アートプロジェクトの広報とは?」をテーマに、ウェブサイトやSNS、本のつくり方や使い方について議論を深めました。

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スケジュール

9月20日
第1回 “広報”をやめる/ウェブサイトのつくりかた・つかいかた

10月16日
第2回 リズムを刻む/定期レターのつくりかた・つかいかた

ゲスト:加藤甫(写真家)

11月22日
第3回 打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた

ゲスト:入谷佐知(認定NPO法人D×P)

12月18日
第4回 手段を選ぶ/SNSのつかいかた・つづけかた

ゲスト:モリジュンヤ(株式会社インクワイア)

1月8日
第5回 編み集める/本のつくりかた・つかいかた

ゲスト:川村庸子(編集者)

文化に時間をかける「ことば」をひらく―東京アートポイント計画の10年から紐解いてみる―

中間支援にまつわる言葉を語らい、深める

文化事業には時間が必要です。土地のことを知る。人と人との関係を築く。いろんな方法を試す。そうして、ゆっくりと醸成される価値があります。とはいえ、そこに至るまでの道のりは、さまざまな人と「ことば」を介して事業の意義を共有し、一つひとつの実践を積み重ねていくことが求められます。

2009年に始動した「東京アートポイント計画」は2018年に10年目を迎えました。都内の47のNPOとともに38件のアートプロジェクトを展開してきました。プロジェクトの立ち上げから複数年をかけて、年間を通した持続可能な活動を支援すること。それぞれの活動には、専門スタッフであるプログラムオフィサーが伴走し、個々の事業だけでなく、中間支援の仕組みづくりも行ってきました。

今回は、東京アートポイント計画の10年にわたる試行錯誤をまとめた『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018―』に登場する「ことば」について語り合います。ゲストとともに議論を深め、時間をかけて文化事業を育むための新たな「ことば」づくりも試みます。

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スケジュール

2019年9月10日(火)

第1回 徹底解説! 東京アートポイント計画 中間支援の仕組みを分解する

東京アートポイント計画とは何か? アートプロジェクトの現場では何が起こっているのか? よりよい実践につなげるために必要なこととは? これまでの実践から見えてきた、さまざまな「条件」を、約200冊のドキュメントを紹介しながら、共有します。

2019年9月17日(火)

第2回 文化政策の流れを比べてみる 「10年単位」で起こること

文化事業の背景にある文化政策の流れを意識しながら、東京アートポイント計画の10年の歴史を読み解きます。そして、他地域の文化政策の歩みと重ねてみることで時間をかけることで生まれる実践の可能性をディスカッションします。
ゲスト:鬼木和浩(横浜市文化観光局文化振興課 施設担当課長(主任調査員))

2019年9月25日(水)

第3回 アーティストは何をつくっているのか?

アーティストは、一体、何をつくっているのでしょうか? 複数年の時間をかけることで現場では何が起こるのか? 新しい手法や未見の表現を扱う「創造」活動を軸に掲げる文化事業において、どのように「アート」を語っていけばよいのか? 現場の風景から紐解きます。
ゲスト:アサダワタル(文化活動家)

会場

3331 Arts Chiyoda 3F ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302)

参加費

各1,000円

ナビゲーターメッセージ(佐藤李青)

今年の春に『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018―』(以下、本書)を発刊しました。わたしたちが2009年から取り組んできた「東京アートポイント計画」の10年の試行錯誤から獲得した知見を収録した一冊です。今回のレクチャーシリーズは本書の「ことば」を使い倒そうという企画です。

本書はわたしたちの軌跡を伝えるだけでなく、それが各地の実践の後押しになることを願ってつくりました。すでに取り組んだ実例として使ってもらうことで、これからの実践に踏み出す足掛かりにしてほしいと思っています。

たとえば、

実践するとこんなこと起こるんです。なので、やってみましょう!
持続的な活動にはこんなものが必要なんです。なので、用意しましょう!
成果が出るには、このくらい時間がかかるんです。なので、続けましょう!

そういう会話が本書を介して生まれてほしい。今回のレクチャーシリーズにかける想いも同様です。

レクチャー第1回は、大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)がスピーカーを務めます。東京アートポイント計画の設立当初から事業を担ってきた大内より、本書のセクション1「中間支援の9の条件」を中心に、普段はなかなか見えにくい東京アートポイント計画の中間支援の仕組みやアートプロジェクトの現場をつくる条件にまつわる「ことば」をひらきます。本書に収まり切らなかった実例も交えてお送りします。

第2回は、ゲストに鬼木和浩さん(横浜市文化観光局文化振興課 施設担当課長(主任調査員))をゲストにお迎えします。本書のセクション2「これまでの歩み2008→2018」を使い、東京アートポイント計画の歩みを文化政策とのつながりから振り返ります。鬼木さんより文化政策の流れや横浜での実例を伺いながら、文化事業と文化政策の影響関係や紐づけるための「ことば」を探ります。

第3回は、アサダワタルさん(文化活動家)をゲストにお迎えし、ご自身が携わるアートプロジェクトを立ち上げ、動かすときに、どのような「ことば」を使っているのかをお伺いします。本書に収録した東京アートポイント計画の現場の「アート」や「アーティスト」にも触れながら、「創造」を軸とした文化事業の語り方を深めます。

各回で募集はしていますが、全回通しで受講いただくのがおすすめです。参加者のみなさんとも「ことば」を交わす時間を取りたいと思っています。ぜひ、ふるってのご参加をお待ちしております!

以下のテキストも活用していく予定です。

伴奏型支援バンド/「ラジオ下神白」

福島の復興公営住宅の住民さんの、思い出の曲を奏でるバンドメンバー募集!

アーツカウンシル東京では、2011年7月から東京アートポイント計画の手法を使った被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo(ASTT)」を行ってきました。その一環で、2016年からアサダワタルさん(文化活動家)を中心に、福島県復興公営団地・下神白(しもかじろ)団地に暮らす住民さんに、まちの思い出とメモリーソングについて話を聞き、それをラジオ番組風のCDに編集し、団地内限定で200世帯へ一軒一軒届けるプロジェクト「ラジオ下神白」を行っています。

今回は、住民さんたちの「メモリーソング」のバック演奏をする「伴走型支援バンド」のメンバーを募集します! 団地を訪問し、メモリーソングとエピソードを聞き、都内のスタジオで練習。2020年3月までに住民さんの合唱を支えるバンドになることを目指します。

遠く離れた土地で、音楽を通じて一人ひとりの「わたし」と出会い、かかわっていくことは可能なのか。東京にいながら、東北の災禍とのかかわり方を探ります。

*このプロジェクトは、「厄災に向き合う術(すべ)としてのアート」の一部として実施しました。

詳細

スケジュール

  • 7月下旬に都内でメンバー顔合わせ
  • 8月に団地への最初の訪問
  • 月1回、都内でスタジオ練習
  • 団地集会場で開催するクリスマス会にて、初演予定

参加資格

  • ギター、ベース、キーボード、管楽器などの演奏経験が多少なりともあること(ただし、技術は問いません)
  • 福島県いわき市内の復興公営住宅に通えること(1泊2日を3回程度)
  • 都内で定期的にスタジオ練習ができること(平日夜や土日に、月1回3時間程度)
  • 懐メロに関心があること
  • 性別や年齢不問

‘Home’ in Tokyo 確かさと不確かさの間で生き抜く

東京で‘Home’の感覚を保つ、日々の工夫を映像化する

「ここは自分の‘Home’だ」という感覚は、何によってもたらされているのでしょうか? それは、他者や生き物やモノとかかわりながら暮らしを営むなかで、芽生えるものかもしれません。一方で、関係性の変化や予期せぬ出来事によって、その感覚が失われることもありえます。そのように考えると、‘Home’という感覚は、確かさと不確かさの間で揺れ動く、変化と可能性に満ちたものと言えます。

東京は、国内で最も移動者数が多い流動的な都市です。進学、家族の事情、仕事、災害など、多様な理由により東京で暮らす人がいます。かれらにとって、‘Home’とはどのような意味をもち、何によって成り立っているのでしょうか。さまざまな環境や条件のなか、自分の‘Home’だと感じられる工夫をして生き抜く人たちの日々の実践に着目します。

ナビゲーターの大橋香奈(映像エスノグラファー)を中心に、ゲストとともに自分や他者にとっての‘Home’のありようを理解するための態度や方法を学び、映像作品(プロトタイプ)をつくります。

詳細

スケジュール

8月17日(土)
第1回 ‘Home’ in Tokyo に取り組むために

8月31日(土)
第2回 調査協力者との関係を考える

ゲスト:加藤文俊(社会学者/慶應義塾大学環境情報学部教授)

9月7日(土)
第3回 被災地における‘Home’のあり方

ゲスト:岩佐明彦 (法政大学デザイン工学部建築学科教授)

9月28日(土)
第4回 ゲストトーク+ディスカッション

ゲスト:加藤文俊(社会学者/慶應義塾大学環境情報学部教授)

10月5日(土)
第5回 人の生活に根ざしたアプローチを学ぶ

ゲスト:冨永美保+伊藤孝仁(tomito architecture)

10月26日(土)
第6回 デザインリサーチのアプローチを学ぶ

ゲスト:水野大二郎(デザインリサーチャー/京都工芸繊維大学KYOTO design lab特任教授)

11月2日(土)
第7回 デジタル・ストーリーテリングを学ぶ

11月10日(日)
合同共有会

11月16日(土)
第8回 それぞれのフィールドへ向かう

12月7日(土)
第9回 それぞれのフィールドでの気づきを共有する

12月21日(土)
第10回 個人の「つくる」を互いに支える

1月11日(土)
第11回 映像作品(プロトタイプ)をみんなで観る・振り返る

1月19日(日)
合同共有会

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])

参加費

一般30,000円/学生20,000円

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

関連レポート

ナビゲーターメッセージ(大橋香奈)

私は生まれてからこれまでに、国内外で20回の引越しを経験しました。一つの家、地域に定住することなく転々としていたので、唯一の‘Home’と呼べるような場所がありません。私にとって‘Home’は特定の場所ではなく、移動するたびにつくりなおし更新される、自分を取り巻く多様な関係性の拠点のようなものです。一つの場所にしっかりと根を張って暮らし続けてきた人からすると、確かな拠り所なく漂っている「根無し草」のように思われるかもしれません。私も、自分の経験をネガティブに捉えていた時期がありました。けれど、ジョン・アーリという社会学者が書いた、いくつかの本に出会ってから考え方が変わりました。 アーリは自身の研究のなかで、「移動(あるいは移住)」の経験のもつ意味や価値に目を向けています。私は、アーリの本を読んで、さまざまな背景をもつ人びとの移動(移住)の経験と、彼/彼女にとっての‘Home’という感覚がどのようなものなのかに興味をもつようになりました。

このスタディでは、全国のなかで最も移動者数が多く流動的な都市である東京で生きる人びとにとって、「自分の‘Home’」という感覚はどのようなもので、何によってもたらされているのかを、参加者とともに考え、調査し、映像で表現してみたいと思っています。その過程では、社会学、建築、デザインなど、異なる分野の専門家をゲストに招き、調査や表現のための態度や方法を学びます。

このスタディが、自分にとっての‘Home’の意味を考え直したり、他者にとっての‘Home’の意味をよりよく理解したりするきっかけになることを願っています。また、将来、想定外の移住をしなければならなくなったり、確かだと思っていた自分の‘Home’が揺らいだりしたときの拠り所になることを期待しています。

東京彫刻計画 2027年ミュンスターへの旅

架空の芸術祭を通して、東京における「公共」について考える

1977年にドイツではじまった10年に1度のアートイベント「ミュンスター彫刻プロジェクト」は、日本におけるアートプロジェクトに大きな影響を与えています。今回は、東京でミュンスター彫刻祭のような「『東京彫刻計画』という芸術祭が、10年に1度行われている」という設定のもと、わたしたちの周りにあるさまざまな彫刻をゼミ形式でリサーチします。2018年度に行なったプロジェクト「2027年ミュンスターへの旅」の発展版です。

東京における「公共」をどのように捉えるか。アートはいかにアプローチしていくのか。アートプロジェクトも演劇もまちなかで盛んに行われているいま、彫刻のもつ時間感覚や、彫刻をつくる人の身体、あるいは彫刻に接するわたしたちの身体感覚、まちのなかで存在することの意味などさまざまな要素が、何かをつくり、考えるためのヒントになるのではないかと考えています。

ゲストに、ストリートアートに詳しい毛利嘉孝さん(社会学者/東京藝術大学教授)と、まちの成り立ちに精通している今和泉隆行さん (空想地図作家)を迎え、「公共」に対する考えを深めます。また、フィールドリサーチを通してパフォーマンスの視点から公共彫刻を探り、最終的に小規模の作品創作を目指します。

詳細

スケジュール

8月4日(日)
第1回 はじめましてと、紆余曲折した昨年のこと

9月11日(水)
第2回 東京における「劇場外の演劇」について

9月29日(日)
第3回 美術におけるパフォーマンスについて

10月6日(日)
第4回 お茶会とフィールドワーク

10月21日(月)
第5回 ストリートアートから考える「公共空間」

ゲスト:毛利嘉孝(東京藝術大学教授/社会学者)

10月26日(土)
第6回 ティノ・セーガルのパフォーマンス見学!

11月10日(日)
合同共有会

11月13日(水)
第7回 折り返し地点で、半年を振り返る

11月30日(土)
第8回 「工事」についての自由なリサーチ

12月4日(水)
第9回 「アンダーグラウンド」に思いを馳せる

ゲスト:今和泉隆行(空想地図作家)

12月22日(日)
第10回 パフォーマンスにおけるフェアトレード

1月18日(土)
第11回 考えていることの作品化に向けて

2月2日(日)
第12回 「形式」を重ねてアイデアを作品にする

3月1日(日)
第13回 試演会『WORK IN PROGRESS』

進め方

  • 参加者それぞれの興味・関心をもとに、テーマを決めて各自、または少人数のチームでリサーチ
  • テーマは彫刻、公共空間、作品設置など東京彫刻計画にかかわることであれば自由(なぜならば、東京彫刻計画はフィクションだから)
  • 平日はリサーチの進捗共有やディスカッション、週末はフィールドワークや専門家へのヒアリング
  • リサーチ終了後、小作品(上演・イベントなどを試作)の発表を目指す

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])ほか

参加費

一般30,000円/学生20,000円

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

関連レポート

ナビゲーターメッセージ(居間 theater)

このスタディは昨年、「2027年のミュンスター彫刻プロジェクト招聘を目指す」というアイディアからはじまりました。

なぜそんなことを考えたかというと。
ナビゲーターを担当するにあたり、私たちは、東京における「公共」のことを想いました。公共というものをどう捉えるか、またアートはそれにどうアプローチしていくのか。アートプロジェクトも演劇も街なかで盛んに行われている昨今、あらためて考えたい(考えるべき)と思ったのです。

ただ、東京の中にいながら東京のことを考えるのはとても難しい。

私たちは2017年に初めてミュンスターを訪れました。
ミュンスター彫刻プロジェクトの面白いところのひとつは、街と作品の関係です。
作品と場所、作品と街の人、さまざまな関係性があり、それらは時間とともに変化していく。10年に1度の芸術祭は、街と作品の変化を定期観測するような存在のようにも感じられます。

そこで、東京を考えるために、ミュンスターの経験から始めてみることにしました。

一年間のスタディを経て、芸術祭のことだけでなく彫刻自体もとても面白いということがわかってきました。そして、さまざまな彫刻が東京の街なかに点在していることも。

居間 theaterは彫刻のプロでは全くありません。ただ、彫刻のもつ時間の感覚や、彫刻をつくるひとのからだ、あるいは彫刻に接する私たちのからだの感覚、素材の感覚、彫刻と周りの空間の関係、街のなかで存在することの意味、そういったさまざまな要素は、何かをつくったり考えたりするための、とても面白いヒントになるような気がします。

参加していただく方も、もちろん彫刻のプロではなくて構いません(もちろんプロも歓迎、むしろいろいろ教えてください!)。

私たちの周りにすでにある、東京の彫刻を出発点として何かをつくる。
そのプロセスを一緒に面白がって進めていければなによりです。

ナビゲーターメッセージ(佐藤慎也)

作品のための場である美術館や劇場に対し、生活の場である街に作品を置くことには、豊かさとともに難しさが存在します。40年以上前の作品がいまだに街に残るミュンスターでは、10年おきという長い間隔で開催されることにより、街と作品との関係が十分に考えられているとともに、作品に時代の変化がはっきりと現れています。次のミュンスターを考えるという馬鹿馬鹿しい問題設定は、目の前にある時代や街に対しても、重要なスタディとなることでしょう。

そんなことから考えはじめた昨年のスタディの中で、あらためて東京の街にも多くの作品があることに気づきました。そして、その制作年に注目して、10年おきにつくられた作品を見ていくと、やはり、作品や、作品と街との関係の変化が見えてきました。そこで、ミュンスターに倣い、東京において10年おきに行われてきた架空の彫刻をテーマとした芸術祭を妄想することで、東京、彫刻、芸術祭を考えるための新しいスタディが立ち現れてきました。そんな、昨年の紆余曲折を踏まえつつ、今年の紆余曲折に向けて、スタディをはじめます。