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非営利団体のブランディングとは? 「理念」を整理することからはじめよう!

2022.08.17

執筆者 : 佐藤恵美

非営利団体のブランディングとは? 「理念」を整理することからはじめよう!の写真

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年6月に行われた第2回では、コミュニケーションデザイナーの柏木輝恵(かしわぎ・きえ)さんを迎え、「非営利団体のブランディング」について考えていきます。

ブランディングに必要なのは「会議」よりも「話し合い」

情熱を持って活動を始めても、日々の多忙な業務のなかで、活動の意義やその成果を振り返ることがあとまわしになりがちなアートプロジェクトの現場。東京アートポイント計画に参加する非営利団体もこうした悩みを抱えています。

今回のジムジム会の目的は「プロジェクト発信のポイントを考えるための想いが伝わるブランディングや理念の考え方、整理の仕方を知る」こと。一見非営利団体には縁がなさそうな「ブランディング」という観点から、レクチャーとグループワークを通して自分のプロジェクトを見つめ直し、言葉にしていきます。

講師は、兵庫県加古川市でコミュニティづくりや組織支援を行うNPO法人シミンズシーズの事務局次長をつとめる柏木輝恵さん。柏木さんは10年以上にわたり非営利団体とのチームづくりやコミュニケーションの場づくりに携わるなかで、たびたび「思いが伝わらない」という現場の悩みに触れてきました。そこで思いを伝えるには、団体の「理念」を軸にしたブランディングが重要だと考え、『NPOのための思いを伝わる言葉にするワークブック』(発行:NPO法人シミンズシーズ)を制作しました。

今回はこの本にあるワークシートを使ってワークショップを行っていきます。

[ジムジム会 第2回の流れ]

  1. 柏木さんによるレクチャー
  2. 事前に記入したワークシートをもとに団体内で話し合う
  3. 2で話し合ったことを、他団体と共有、フィードバックをもらう
  4. 3の内容を、また団体内メンバーで話し合う

「今日は、ためらわず、感じたことを出し合ってください。Zoomを介した話し合いですのでリアクションも3割増しでお願いします」と柏木さん。ブランディングに必要なのは「『会議』よりも『話し合い』」と話します。

「ブランド」とは信用や信頼を得ること

まずは柏木さんのレクチャーから始まりました。私たちの日常生活において「ブランド(Brand)」は身近なもの。その語源をたどるとBurned」という牛を区別する焼印のことだそうです。つまり、自分が飼っている牛がどれかを識別するために入れた印が、品質を保証し、価格差を生んで生む印となっていきました。

誰もが知るブランドを思い浮かべると、その特徴は明確で一貫性があります。その背景には「志」があり、それにともなう行動や表現が一体となり、それが信頼や信用につながっていく。さらにほかとの「差異化」があるのも重要です。

しかし一貫した「志」をどのように伝えると、具体的な参加や関わりにつながっていくのでしょうか。そのポイントは「ゴールデンサークル理論」と呼ばれるものがあります。

ゴールデンサークルとは、中心から「Why(なぜ)」→「How(どうやって)」→「What(何を)」と外側に広がっていく円。その順で伝えることで共感を生みやすいという理論です。人は「なぜそれが生まれたのか」「なぜそれをやっているのか」に心を動かされる。そのストーリーが人を動かし、共感を呼ぶのだそうです。

「Why」というストーリーが共感を呼ぶ

「なぜ(この取り組みをしているのか)」を伝えるには、まずは「自分たちは何者か」、つまりアイデンティティや存在意義につながる「理念」を明らかにする必要があります。

今回のワークショップではその部分を考えていきますが、「理念」は抽象的な言葉でもあるので、具体的なブランディングの用語「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「スピリット」「スローガン」にわけて考えるとイメージしやすい、と柏木さん。「ミッション」が日々果たすべき使命であるのに対し、「ビジョン」はその先にどんな社会や地域を描くかという未来のこと、「スピリット」は一人ひとりの大切にすべき精神のことなど、理念と一口にいっても目的によって何を語るかが違ってくるのです。

企業のブランディングとNPOのブランディングの違いについて、「理念を軸にすること自体は変わりません」と柏木さん。ただ、商品を売る場合はマーケティングを行い市場で何か求められているかを基準にすることが多いですが、NPOの場合は、内部から「変えたい」という思いからスタートしているのではないか、と柏木さんは話します。その思いを理念として言葉にしていく。できるだけ短く、コンパクトに伝えていくことが重要です。

「さまざまなプロジェクトを行うなかで、団体として変わる部分と変わらない部分があると思います。そのなかでも変わらない部分が、団体として受け継がれるDNAと考えてみてください。その部分を紐解くことが『自分たちらしさ』のヒントになるでしょう」

エピソードから「自分たちらしさ」を言葉にしていく

ここからはワークショップへと移ります。事前にそれぞれがワークシートに記入した次の2つのことを、団体内で共有していきました。

  1. 喜ばれたエピソード
  2. 私たちの活動の意義と大切にしている行動や価値観

活動6年目の「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)のチームを中心に、どんな話がされたのかを紹介していきます。HAPPY TURNでは、4人のメンバーが参加しました。「信用や信頼につながるブランディングのためには、意図をみんなが共有してパッと答えられるのは重要だと思う。その言葉ができたら、どこかに貼っておくのもいいかも」とメンバー。

HAPPY TURNでは、「くると」というスペースをつくり、週に3回ほど開放しています。「くると」に集う人はワークショップに参加したり、スタッフとして掃除のアルバイトをしたり、ただ来て話して帰ったり、と利用方法はさまざまです。

「1. 喜ばれたエピソード」を一人ひとり紹介するなかで子育てで忙しいお母さんたちに喜んでもらった」経験が複数話されました。「家で子育てをしていると社会から孤立してしまうけれど、『くると』に来ると、社会とつながることができる」と話すメンバーも、自身が子育てをしながら運営に携わります。

またほかのエピソードとして「子供が『ここで友だちができた』と話していたのが印象的。特に、Iターンで移住した家族の子供はなかなか関わりがつくりづらいですが、ここで友だちができた、と。子供たちが両親ではない大人に出会う経験も重要ではないか」と話されました。

次に二つ目の項目である「活動の意義」として「いろんな人がいるなかでいろんな価値観に触れ合える」「やってみたいことが安心してできる」「自分とは違う価値観と向き合える」があがりました。さらに「大切にしていること」は「だれでも来られる場所にしておくこと。自分たちの常識を押し付けるのではなく、見守ったり寄り添ったりすること」などがあがり、HAPPY TURNでのプロジェクトの意義を再確認していきました。

20分ほどメンバー間で話し合ったあと、HAPPY TURNはほかの3団体と合流し、話しあったことを共有していきます。ほかの団体からは「HAPPY TURNは島という地域の特徴が現れているプロジェクトだと思いました。その『島らしさ』が外に発信されるといいですね」などのコメントがありました。

その後、また団体のメンバーのみで話し合っていきます。ここからさらに言葉をしぼっていく作業です。HAPPY TURNも、キーワードがたくさん出ました。「自由」「安心」「楽しい空間づくり」「つながる」「解放」「他者や自分と向き合う」「遊びごころ」「しる」「やってみる」「いきやすさ」「オープンマインド」「ウェルカム」「であう」………。時間内には絞りきれませんでしたが、一人ひとりが活動への思いを言葉にし、共有する経験は貴重な時間となりました。

活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくために

最後に、柏木さんから理念を策定していくステップが紹介されました。

理念策定のステップ

  1. 素材をさまざまな角度から洗い出す
  2. 素材を抽出する
  3. (文章にしたり、箇条書きにしたり)抽出した素材を項目ごとにまとめる
  4. 項目間の整合性を確認する
  5. まとめた素材を短く・らしく磨いていく

「今回は限られた時間のなかで1や2を行いましたが、理念をつくりそれを言葉にしてくにはもう少し時間をかけて取り組む必要があります」と柏木さん。

「今日のようにまずは団体のなかで話して、すり合わせていくのが大事です。『何をやるか』も日々も重要なことですが、『何のために』という本質的な部分、どこに自分たちらしさがあるのか、もぜひ心に留めてください。短い言葉で内外にわかる状態にしていくのが行動につながるのではないか、と思っています」

ジムジム会終了後の参加者アンケートからは、各団体の手応えが見受けられます。

「他の団体の方と話しながら考えることで、別の角度から自団体の特色が見えてきました」

「団体としての目的やプロジェクトの意味などなんとなく理解しているつもりでしたが、いざ言語化となると自分の言葉で話すのは難しいな、と感じました。もっと考える力や知識を身につけていきたい」

「理念とミッションがごちゃごちゃになったり、個人軸のスピリットと組織軸のバリューが混ざったりして会話をするからかみ合わないのかもしれないという気づきもあり、再度皆で整理しながら話し合いをしようと思いました」

自分たちの「らしさ」を改めて見つけ、メンバーで共有し、言語化していく。活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくための重要なステップとなったようです。

(執筆:佐藤恵美

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