「解決のヒントはおとなりさんがもっている2023」ヒアリング報告会
執筆者 : 川満ニキアン
2024.02.20
東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、アートプロジェクトにまつわる課題や疑問についてともに学び、知見を共有する勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。令和5年度の最終回となる今回は、卒業する3団体を中心とした振り返り座談会と相談会を実施しました。
2024年2月20日に開催された第3回のテーマは、年度の最終回にふさわしく「はじまりの目標と現在地」。今年度の東京アートポイント計画の共催事業は8つ。そのうち共催6年目になる3つが卒業を控え、今後を見据えた準備を進めています。
6年という月日のなかで、アートプロジェクトを実施する事務局にどのような変化があったのか。そして活動する地域や関わる人々へどのような影響を及ぼしたのか。卒業直前、みなさんの輝かしい顔つきが印象的な当日の模様をお届けします。
まずは、プロジェクトの伴走者であるアーツカウンシル東京のプログラムオフィサー(以下、PO)の大内さんが、東京アートポイント計画の今年度の事業の拡がりや活動の成果を総括して話しました。
今年度は、新たに3つのアートプロジェクトで拠点がオープン。カロクリサイクルの「Studio 04」、めとてラボの「5005(ごーまるまるごー)」、ACKTの「さえき洋品・(てん)」が、それぞれの場所を立ち上げ、ひらきかたを模索しています。それに合わせて、今年度のジムジム会でも「活動拠点」をテーマに取り上げ、映像プログラム「Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと-」を制作しました。また、団体同士の連携企画や交流もさらに増え、団体同士が協働してワークショップを企画したり、ヒアリングの共有会を実施するなど、運営課題を共有する横断的な取り組みも加速しています。
さらに、自治体の担当者や首長との継続的な関係構築に取り組めている団体もあり、これからの展開に繋げていけたらと振り返りました。
続いて、卒業団体による座談会へ。今年度で卒業する「HAPPY TURN/神津島(以下、HAPPY TURN)」「ファンタジア!ファンタジア! ー生き方がかたちになったまちー(以下、ファンファン)」「Artist Collective Fuchu[ACF](以下、ACF)」の3団体は、2017年より共催事業をはじめて6年目になる、いわば“同級生”です。
それぞれ東京アートポイント計画で共催事業を始めた初年度は、どんな目標を掲げていたのでしょうか。
神津島、墨田区、府中市と、異なる地域を舞台に活動する3事業ですが、共通する成果として、自分たちの事業の強みを知り、ブランディングへつなげられるようになったことが挙げられます。また、共催期間中の取り組みを通じて事務局機能を強化し、事業運営資金を獲得するための術を身に着け、行政や企業との協業の機会を得るなどパートナーシップを強めることもできました。
それぞれにとっての6年間は、どのようなものだったのか。何を考え、どのような変化を感じていたのか。これまでの活動や今後の展望に関するお題のなかからランダムで、サイコロを振りつつ語り合いました。
最初のテーマは「持続性(活動資金)」について。活動とは切っても切り離せないお金。そこから3団体それぞれの未来に向けたスタンスが垣間見えてきます。
「今年がラストイヤーだとわかった頃は少し戸惑いもありましたが、卒業を間近に控えたいま、そこまでネガティブには捉えていません」と切り出してくれたのは、ACFの新井さん。共催期間中にさまざまな企画を運営するなかで、メンバーで徹底的に対話を重ね、「チームビルディング」に注力してきたACF。大人数のチームではありますが、チーム内での共通言語やビジョンが成熟したことで、予算分配を含めたプロジェクトの進め方についても、しっかり話し合えるチームに成長しました。「卒業するからこそ、自分たちがやりたいことは何なのかを改めてチームで話し合う良い機会となりました。POに伴走してもらいながら、人材面と事業面の基礎をしっかり固めることができたからこそ、今があります」と語りました。
一方で「資金面については、プロジェクトが始まった段階から、卒業を見越して考えておくべきだったと痛感しています。ぜひ来年度も継続するプロジェクト事務局の皆さんも、今のうちから未来のことを見据えておいてほしい!」と話すのは、HAPPY TURNの飯島さん。HAPPY TURNでは、卒業後もアーティストプログラムを継続するために、この1年を通して他の助成金への応募をPOとともに“訓練”し、実際に2つの助成金の採択を受けることができました。また、活動資金を得る手段を増やそうと、拠点をフリースペースとして貸し出す準備や、ゲストハウス運営や飲食店の活動を始め、活動の枝葉を広げる準備をしています。
「HAPPY TURNと同じく、シビアで現実的な問題ですよね。でもポジティブに感じている部分もあるんです」と、ファンファンの青木さん。今年度はファンファンの活動参加者から、仕事の依頼が来るなど、ファンファンを入口にした新たな関わりも生まれているそう。また、これまでは無償にしていたプログラムの参加費について、幾らが適正額だと思うかというアンケートを参加者にとってみたところ「自分たちでも驚くような金額が書かれていた」とプログラムの価値について再確認。今後は学びという軸をそのままに、新たな事業として取り組んでいく予定です。
続いてサイコロが出したトークテーマは、今年度のジムジム会のメインテーマにもなった「活動拠点の立ち上げや運営」です。
活動初期は大きな拠点を持ちたいと考えていたものの、拠点を持つことの難しさに繰り返し直面してきたACF。宮川さんは「現在は管理・コスト面を総合的に勘案して、拠点は極力持たない方向性でいます。府中市内の拠点を転々と巡っていくなかで生まれるつながりが次の展開のヒントになることも」と、拠点を持たない動き方自体にもACFらしさがあると前置きしながら、府中市場の空きスペースを無償で借り受けた拠点「やど(仮)」についても、並行して盛り立てていけたらと現状の認識を共有しました。
対して、墨田区の複数の場所で活動を続けた後、東向島の町工場だった建物を、1階をスタジオ、2階をシェアオフィスとしてDIYをして2021年に「藝とスタジオ」を開いたファンファン。現在は定例開催のオープンスタジオなど、拠点としてのルーティンがすっかり定着し、整いつつあります。
活動拠点に意識的だった二者。一方で、HAPPY TURNは当初、そこまで拠点を持つことを視野には入れていませんでした。中村さん曰く、アートプロジェクトとして「目的を持たない居場所」をチームで作るうえで、最初は正直戸惑いもあったそう。しかし、拠点「くると」をひらき、「とりあえず開けてみよう!で気づくことや、あとから響いてくることがありました」と振り返りました。角村さんは「神津島は土地柄が独特で、なにげなく会ってお喋りする場所がない。くるとができて新しい居場所が生まれたことは、島で暮らす人々にとっても“大事件レベルの第一歩”だったんだと思います」とコメント。
くるとを訪れたことがあるACFの宮川さんは、「観光シーズンではないときに行ったこともあって、島を散策していると、住民の皆さんから不思議がられることも多くて。くるとは島民も島外の人も誰でもふらりと立ち寄れるような居場所だから、ここなら島に住んでいる人たちとも、自然と関われると思いました」と応えました。
座談会も折り返しの後半戦へ。サイコロの目に導かれながら「あなたにとってアートプロジェクトとは」というテーマに入っていきます。
HAPPY TURNの中村さんは、プロジェクトを始めてから、アートや表現と自分との距離がぐっと縮まったことで「興味がないと思っていても、触れることでピタッと心地よくなる表現や作品がある。それを誰かに届けようと振りまいていくのがアートプロジェクトなのでは」と話しました。アートに触れたことで、自らの感覚だけでは判断できない、他者が大切にしていること、その想像力に至るきっかけになったそうです。また、飯島さんも神津島で生活するなかで、アートプロジェクトはなくてはならない「生きやすくあるための手段」になっていたと語りました。
続いて、ファンファンの磯野さんが挙げたのは、プロジェクトに参加しはじめたときの印象的なエピソード。ワークショップの企画中「ファンファンぽくなるといいよね」と言葉をかけられて、当初は「?」だったという磯野さん。プロジェクトのなかに役割を持って入り、企画を運営したり、プロジェクトに関わる人たちと言葉を重ねたりするなかで徐々にチューニングがあっていき「ファンファンぽい」のニュアンスが言語化できるように。その「体得」の感覚こそが、自分がアートプロジェクトで得たものだと述べました。
ACFの新井さんは、ACFとしてのアートプロジェクトを「協創」と表現。アーティストとして表現活動をしながら関わっているメンバーも多いACFですが、プロジェクトに参画して、市民を巻き込みながら、自分ができることややりたいことを周囲と折り合わせていくアートプロジェクトは、ほかの表現活動と比べると「地域コミュニティ」的な側面が強いかもしれません。アーティスト気質な人だけでなく、アートに少し遠くても、事務局長・広報・会計として適任な人材を巻き込んでいくことがとても重要です。「6年前にPOから言われてよくわからなかったアドバイスが、6年経った今なら嫌というほどよくわかります」と、仲間を見つけていくことの大切さを強調しました。
最後のお題は「未来への展望」。3つのアートプロジェクトが東京アートポイント計画を卒業後、どんな姿を想像しているのか、展望を語り合いました。
ACFはこの6年間で事業面と人材面をしっかり耕すことができたと新井さん。「共催事業終了後、活動資金の額は変動しますが、それはあくまで次のステージに行くうえで必要なこと。協賛企業や自治体との協力、助成金など、資金面の手立てはいくらでもあります。困ったときはPOや他のプロジェクト事務局に『遊びに来ませんか?』と声をかけたりできるような関係性を残したまま、次に進みたいです」。来年度は、東京アートポイント計画で培った力を存分に発揮して、かねてより温めていた芸術祭を秋頃に開催すべく動いていると意気込みを語りました。
事業後半、墨田区の福祉施設や関係者と協働することが増えたファンファンは、プロジェクトをきっかけに、法人が墨田区の福祉関係のイベントにも呼ばれることが続きました。アートと福祉分野の親和性について体感しながら、同時に現代社会での二者の乖離を強く感じたといいます。青木さんはこれからもファンファンをはじめとする活動をつうじて「アートと福祉の団体が当たり前に協働し、ひとところで活動している風景を、5年後・10年後に一緒に創りたい」と画策しています。
HAPPY TURNの飯島さんは「共催事業中にアーティストプログラムを実施することで島に何が起こるのかを体感しました。今後も神津島がその定番の地として根付いていけたらいいなと思っています」。中村さんは「くるとの利用者の層をさらに多様で厚くするためにも営業時間を伸ばせるようにしたい」と宣言。角村さんがそれに応じて「島に住んでいるとみんな顔を知っている人ばかり。そうした場所で育った子どもたちが、くるとでさまざまな人と出会うことで、いつか島を巣立ったとき、島外の社会で通用する“戸惑わない力”を身につけてもらえれば」とコメント。アートプロジェクトやひらかれた活動拠点があることで、10年後の神津島が少しでも豊かになっているように、と切実な展望を語りました。
座談会のあとは、卒業する3団体をそれぞれに3ブースで囲む形式で、相談会を実施しました。ACFのもとを訪れたACKT(アクト/アートセンタークニタチ)は、国立市と協働するプロジェクト。自治体との連携経験も豊富なACFから、具体的な連携方法や評価を受ける場合の評価軸について相談しました。
ファンファンのもとを訪れた、めとてラボ。以前よりアクセシビリティに関して話し合う機会の多い二者ですが、今回はめとてラボの拠点「5005」を、よりひらかれた場にするために、藝とスタジオのケースから学ぼうと、運用方法や工夫していることなどについて聞きました。
また、HAPPY TURNのもとをACKTのメンバーが訪れ、飯島さんがプロジェクトスタッフになった経緯や、神津島事情、そして島という環境で生きていくために必要なアートプロジェクトの切実さについて語り合いました。
3団体のこれまでとこれからに学び、今回もたくさんの交流が生まれた2023年度の第3回ジムジム会。もしかすると、座談会の冒頭で紹介された「初年度の目標」は、まだ実感の伴わない、方向性を見出すために立てられた言葉だったかもしれません。そこにそれぞれが6年間の経験や体験でもって徐々に息を吹き込んでいくことで、結果的に血が通い、重みのある言葉になっていったのではないのでしょうか。それをアートプロジェクト事務局とPOだけで完結させるのではなく、ほかの事務局にもひらいていくことができた、有意義なジムジム会となりました。
東京アートポイント計画を経て、さまざまな力や言葉を培った3団体。その活動の便りが東京のあちこちから聞こえてくるのが今からとても楽しみです。これからも、共催団体同士で悩みを持ち寄り、語らい、学びを深める時間はまだまだ続きます。
撮影:小野悠介