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「解決のヒントはおとなりさんがもっている2023」ヒアリング報告会

2024.02.20

執筆者 : 川満ニキアン

モニターの横に人が並んで座りながら発表している

東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、アートプロジェクトにまつわる課題や疑問についてともに学び、知見を共有する勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2023年11月に開催した第2回は、アーツカウンシル東京にて、9月から実施してきた他団体ヒアリングの報告会を実施しました。

「おとなりさん」を訪ねてみる

第2回目のジムジム会のテーマは、「解決のヒントはおとなりさんがもっている2023」。昨年度末に行われた「ジムジム会2022 歳末学び合い〜解決のヒントはおとなりさんがもっている〜」の第2弾を開催しました。

この企画は、各プロジェクトの事務局メンバーが、東京アートポイント計画の共催団体や、以前事業に関わっていた団体=「おとなりさん」を訪問。「拠点を訪問し、運営について尋ねてみたい」「企画や事務局の体制について相談したい」「なにか一緒にできることを探ってみたい」など、それぞれが事業に関わる興味関心や課題をもとにヒアリングを行い、協働するきっかけづくりや、ヒアリングで得た知見をこれからの事業運営に活かすことを目的として生まれました。

今回のジムジム会では、話を聞きに行った団体と、話を聞かれた団体、そして事業を担当するプログラムオフィサー(PO)がともに登壇し、各団体がヒアリングを通して得た学びや気づき、今後の取り組みについて発表しあいました。その様子をレポートでお伝えします。

ヒアリングの組み合わせ

  • ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー×めとてラボ(相互ヒアリング)

HAPPY TURN/神津島×アートアクセスあだち 音まち千住の縁、ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー

モニターの横に女性が二人座って発表している

神津島内で拠点「くると」を運営するHAPPY TURN/神津島(以下、HAPPY TURN)は、「活動拠点の運営」をテーマにヒアリングを実施。今後、拠点を持続的に運営していく方法や拠点を支える仲間づくりのヒントを得るべく、「くると」の運営スタッフである角村さんが、アートアクセスあだち 音まち千住の縁が運営する「仲町の家」と、ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー(以下、ファンファン)が運営する「藝とスタジオ」を訪問しました。

角村さんは、「仲町の家」では「草むしり交流会」、「藝とスタジオ」では「アートマネージャーPARTY」といった各拠点で開催されているプログラムに参加し、まちなかの拠点がどのようにひらかれていて、地域住民とかかわりを持っているのか、拠点を活用する人々の視点から2つの拠点の役割を確かめることからはじめました。プログラム参加後、事務局スタッフへのヒアリングでは、「運営面で難しく感じていること」「日々の活動の記録の仕方」「地域との関わり」「続けることの原動力になっていること」など多岐に渡って質問。話をして見えてきたことは、どちらのスッタフも「日々、拠点をひらき続ける」ことを一番大事にしているという点でした。

ファンファンのスタッフは、拠点を「保健室」にたとえ、「開けていたらフラッと訪ねてくる人がいて、相談しに来たりする。言葉にしてみてチャレンジできる場所になっている。そんな場所としてコツコツと続けてていくことが大事」と話したそうです。

角村さんはヒアリングを振り返り、「拠点をひらき続けることは些細なことで、なかなかその価値を説明しにくい。拠点を運営していると、地域にどのような影響があるのか、どれだけの人々にリーチしているのかなど、目に見えやすい成果を問われることも多いように感じる。だからこそ、拠点を『言語化』していくことを大事にしていきたい」と語りました。

ACKT (アクト/アートセンタークニタチ)×HAPPY TURN/神津島

モニターの横に3人が並んで発表している

国立市を舞台にプログラムを展開する「ACKT (アクト/アートセンタークニタチ)(以下、ACKT)」は、ともに事業を進める国立市の関係者も交えて、HAPPY TURNへヒアリングを行いました。

今年度で活動3年目となるACKTは、谷保駅前にある拠点「さえき洋品●(てん)」のオープンに向けて準備を進めていくなかで、地域の人々が拠点に訪れやすくなる仕組みを考えたいと、

拠点「くると」の事例を参考にしてみることにしました。

ACKTの安藤さんは特に印象に残ったこととして、HAPP TURNのメンバーが「くると」に「屋根のある公園」というキャッチコピーをつけていることについて話します。

「拠点について説明をするときに“アートプロジェクト”という言葉を使ってもなかなか伝わりにくい。『くると』のように、キャッチコピーがあるだけで拠点との距離感は近くなるので、地域の人へ説明するときの強みになると思った」と、拠点の意義や役割を地域の人へ届けるコツを学びました。

また、報告会では、拠点運営にまつわる話だけでなく、ACKTが行政と連携していく上での課題感についても共有。行政と団体の双方がもつミッションを摺り合わせていくこと、アートプロジェクトを運営する上での「共通言語」をつくることの難しさについて話しました。ACKTの丸山さんは、さまざまな課題を振り返りながら、「プロジェクトの成果だけをみてもらうのではなく、企画の段階から一緒に考える時間をつくる方向へ変化させたい」と言います。今回のヒアリングは、市の関係者に参加してもらうことで、意識共有を図る目的もあったようです。

今後、「さえき洋品●(てん)」だけでなく、拠点の付近にある公園を使ってなにか新しいことに取り組みたいというACKTメンバー。「行政との協働なしにはできなかったこともあるので、今後は市の職員とも考える時間をもちながら、その成果を事業に落とし込み、アートプロジェクトとして見せられるものつくっていきたい」と、展望を語りました。

ACKTの活動については、以下の記事からもご確認いただけます。

KINOミーティング×カロクリサイクル

モニターをつかって発表している人と、椅子に座って並んで発表を聞いている会場の人々

都内各所でルーツが異なる人々と映画制作のワークショップを行っている「KINOミーティング(以下、KINO)」は、江東区で災害の記録を活用したプロジェクトを展開している「カロクリサイクル」と相互ヒアリングを実施。それぞれ東京アートポイント計画で活動をはじめて2年目ということもあり、お互いにプロジェクトの内容を紹介しあいながら、主に企画・制作のプロセスや広報の仕方、仲間づくりについて共有しました。

参加者が主体となり、作品制作を行うプログラムに取り組むという共通点のあるKINOとカロク。話のポイントとなったのは「プロジェクトや作品の届け方」。

「プログラムを行っていくなかで、制作された作品やその過程を外部にどのように届けていったらいいのか掴めずにいた。届けたいと思って必死にウェブサイトやアーカイブブックを制作してきたが、果たしてこれは誰が見るんだろうと、受け手の顔が浮かびづらかった」と言うKINOメンバーの阿部さん。KINOではこれまでスタッフが中心となって広報を行っていましたが、今回のヒアリングでの一番の気づきとなったのは「作品を作った参加者自身が、作品を届ける」という参加者を巻き込んだカロクの取り組みでした。

カロクのプログラム「とある窓」では、参加者が展覧会のスタッフとして、来場者にプログラムの内容や制作に関わった作品について話す場がありました。カロクの中村さんは、プロジェクトや作品を参加者が主体的に紹介していくことについて、「参加者が活動を通してだんだんできるようになって行けばいいと思っているし、はじめから完璧にしなくていい。今回のプログラムは参加者のための場でもあったので、自力でやれることは任せるようにしている」と、緩やかに参加者を巻き込み、運営スタッフだけではない目線での広報にチャレンジしていくことの可能性について共有しました。

KINOとカロクの手法が異なるように、プロジェクトのかたちによって、広報の仕方はさまざま。今回のヒアリングを通して、両者ともに改めてプロジェクトの意義を見つめ直したり、そのプロセスや成果を伝える工夫について考える時間となりました。

多摩の未来の地勢図 cleaving art meeting×多摩エリアの図工の先生

ホワイトボードをつかって発表している女性

多摩地域を舞台にプログラムを展開する「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting(以下、多摩の未来の地勢図)」は、特定の団体へのヒアリングではなく、事業で取り組んでいるプログラム「ざいしらべ」での現場の課題について事務局長の宮下さんが報告しました。

「ざいしらべ」は、多摩地域の小学校の図工専科教員を主な対象として、個人では手に入れにくい自然素材や大型素材の提供、伝統的な技術や技法、素材、ICTに関するワークショップなどを通じて、授業での表現や造形の拡張を促すきっかけをつくっています。

ほかにも、技術が持つ広がりや役割、歴史的な背景について知見を深めたり、各機関と連携し、素材や技術の情報、ワークショップや授業の様子を整理・アーカイブし、教員や地域とのネットワークづくりを行っています。

活動をはじめて3年が経ち、活動が広域に展開しつつも、一方で現場にはさまざまな困難があることも見えてきました。特に宮下さんが感じているのは、教員とのネットワークをつくり活動しようとプロジェクトを進める際に、教員の集まりのなかでも、年齢や立場が異なる相手とのコミュニケーションや経験の引継ぎが難しいといった状況があること、またそうした状況が外側からでは見えてこないということでした。

現場で建設的なコミュニケーションを成り立たせるためにはどうしたら良いかを考えたとき、ひとつは、事業が地域に対してどう開かれていくか。もうひとつは、普段関わらない人、異物となる人、例えばアーティストが現場に入り込む状況をつくっていくことがこの課題を乗り越えるために必要だと宮下さんは話します。そして、実際に小学校にアーティストを滞在させるプログラムを検討するなど、変化に向けて動き出しています。

「新しいことを取り入れることで、新たな衝突が起きると思うが、その衝突自体がもしかしたら現場での閉塞感を揺すったり、違う角度から見つめることができるようになるのではないかと思っている。新しい取り組みを通して、ともに考えていく現場をつくりたい」と話しました。

Artist Collective Fuchu[ACF]×ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー

5人が並んで座っている。そのうちの二人がマイクを持って会話している

府中市で活動する「Artist Collective Fuchu[ACF](以下、ACF)」は、プログラムや拠点の運営を参考にしたいと、オンラインで「ファンファン」にヒアリング。

ACFは、府中市で「だれもが表現できるまち」を目指して、アートと府中をテーマにしたラジオ番組の放送やワークショップ、展覧会づくりなどに取り組んでいます。今年度は特に、府中市の企業が提供する廃材を創作の場に活用する仕組みづくりなど「ラッコルタ―創造素材ラボ―」(以下、ラッコルタ)に力を入れて事業を進めてきましたが、その活動のなかで企業や自治体、今までアートに関心がなかった人々とつながる機会が増えてきました。

ラッコルタ担当の宮山さんは、このつながりを深めていきたいと、以前から興味のあった福祉の分野で、多様な人が関わりあうきっかけがつくれないかと考えました。そこで、キュレーターとして活動する傍ら、社会福祉士を目指すファンファンのディレクターである青木さんへアプローチを試みました。

宮山さんは、ヒアリングを振り返り、「福祉側の制度を学び、その基礎のもとでアートを使ってできることを学んでいきたい」という青木さんの言葉がとても印象に残ったと言います。

府中市の高齢者施設でラッコルタでのワークショップの開催を検討しているタイミングでもあったため、「ACFでも現場の声を聞いたり、勉強会からはじめて自分たちから学んでいきたい」と、意欲をみせました。

ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー×めとてラボ

モニターの横に3人が並んで発表している

最後の発表は、視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となって活動する「めとてラボ(以下、めとて)」と「ファンファン」のグループです。こちらの2組は、6月に協働企画したワークショップ「藝とスタジオのひらきかたを考える『言語を超えて他者と出会う』」の成果について報告しました。

この協働企画は、昨年開催したジムジム会「たくさんの人と出会うための方法。サインネームを考えよう!」の実施や、手話通訳の導入など、めとてが東京アートポイント計画で事業をはじめ、ジムジム会全体のアクセシビリティに対する取り組みが広がったことがきっかけです。

ファンファンの磯野さんはワークショップの目的として「藝とスタジオの拠点を開いていくときに、誰に対してオープンにしているのか、そのオープンは誰しもが来られるようにできているのか。自分たちもアクセシビリティについて学んでいきたいという気持ちがあった」と言います。

ワークショップでは、音声言語を用いず指差しやジェスチャーで会話することからはじめ、「シェイプイット」というコミュニケーションキットを用いて身体をつかって表現することにチャレンジしたり、名前や出身、年齢を身振り手振りで伝えてみるワークを体験。ろう者・難聴者とかかわるなかでの知識や手話といった技術よりも、まずは互いにコミュニケーションのかたちの幅広さやおもしろさを知る機会をつくりました。

また、ファンファンの拠点にめとてのメンバーが訪れ、活用してもらうことで、拠点のアクセシビリティについても発見があったようです。めとてメンバーからは「互いが持っている強みや特徴を活かして、次回もなにかでできないか」という声も。この協働をきっかけに、双方の活動拠点で新たな取り組みが生まれる可能性が感じられる場となりました。

藝とスタジオで実施されたワークショップの様子は、以下のレポートから詳細ご覧いただけます。

報告会を経て

会場側の参加者のひとりがマイクを持ってしゃべっている

ジムジム会を終えて、参加者からは以下の感想が集まりました。

KINO+カロクメンバーの報告は、プロジェクトに何が必要で、どんな手があるのか分からない中で行っていた初期のジムジム会のことを思い出しました。運営や内容の話だけではなく、普段使うツールの話や、広報の仕方など、本当に日常に必要な事務的な小さなことの情報共有を振り返る時間も大切だと思いました。なかなか拠点を開いているとプログラムの話になりがちでできないことが多いです。

拠点を多く開けることの意義や、一言で表すような名前がついていることは参考になった。また、地方公共団体と共に活動するにあたってのプロジェクトへの巻き込み方など、もし自分たちが動くとなった時に向けて頭に入れておきたいと思った。他のプロジェクトの知らない取り組みを知ることで自分たちの活動のヒントになった。

それぞれの活動で、悩むことや、ぶつかる壁は共通している部分も多いことがわかりました。自分たちが問題の渦中にある時には、目的を見失いそうになったり、身動きが取りづらくなったりするけれど、横の繋がりがあると、自分たちの課題がどこにあるのか、問題の現在地把握が客観的にしやすいという事がわかり、今後も積極的に、周囲のアートプロジェクトの活動の情報をしっかりキャッチしていきたいと思いました。今回参加させていただいた事で、“おとなりさん”とよりしっかり繋がっていくきっかけを持つ事ができ、とても嬉しく思いました。

第1回目のジムジム会では、他の団体の顔ぶれや大まかな活動内容を共有する会を行いましたが、今回のヒアリングや報告の場からは、各団体の現場でのチャレンジや取り組むべき課題をより深く知ることができ、今後の運営の糧となるような新たな発見も多かったのではないでしょうか。

このヒアリングを通して出会った「おとなりさん」との関係が、各団体の現場をさらに豊かにし、新たな活動が育まれるきっかけにつながればと思います。

前列と後列に分かれて参加者が並んでいる、記念写真。背景のモニターには子供たちが映っている
撮影:小野悠介

お知らせ

●東京アートポイント計画の活動についてはこちら

●これまでのジムジム会レポートはこちら

●ジムジム会の手法を紹介するPDF冊子はこちら

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