編み集める/本のつくりかた・つかいかた
執筆者 : きてん企画室
2020.03.18
2019.11.12
執筆者 : きてん企画室
ジムジム会とは、「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」のこと。2019年度は「届けかた・つなぎかたの筋トレ」をテーマに掲げ、アートプロジェクトの運営にまつわる考えかたや方法を共催団体と身につけていきます。今回も“ジムジム会の事務局”であるきてん企画室がレポートをお届けします!(第1回のレポートはこちら)
第2回のテーマは「リズムを刻む」。イントロダクションでは、きてん企画室・中田一会から、「定期レター」の利点やリズムの意味についてお話ししました。
「定期レター」とは、機関紙やニュースレター、メールニュースなど定期的に届ける広報媒体のことをこの会では指します。定期レターの良い点は、情報集約のタイミングや、担当を横断したチーム、受け手に思い出してもらうなどの機会をつくれること。
中田が編集協力している東京アートポイント計画のメールニュースは、企画開催の有無に関わらず、月1回のペースで配信。盛り上がりのあるときもないときも発信し続けることで、定期レターが「事業のリズム」を刻んでいます。
そして、今回はゲストに写真家・加藤甫さんをお招きしました。アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど長期的なプロジェクト型の記録撮影を数多く担当。また中田と加藤さんは、今年度、徳島県主催の「伝わる広報ゼミ」の講師をしています。
加藤さんのユニークな点は、長く続いていくものに伴走しつつ、必ずしも自分で撮らなくても良い仕組みを仕掛けたり、企画そのものにアドバイスもする、「黙っていないカメラマン」であることです。
イントロダクションの後は、実践発表へ。後半では「定期レターのつくりかた・つかいかた」をテーマに、2つのケースを共有しました。
2011年に始まったアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(以下、「音まち」)は、2012年から定期レターを発行。当初は事務局内でのプロジェクト進捗共有用だったものから、徐々に目的や機能が変化し、現在は足立区民など地域の人々に向けた広報紙として1万〜1万2千部発行しています。
事務局長・長尾聡子さんと、定期レター編集長・槇原彩さんには、主に2018年度の誌面リニューアルのポイントをお話しいただきました。
2015年度から2017年度まで8頁/年2回発行だったものを、2018年度から4頁/年4回発行にリニューアル。その際新しいデザイナーと相談し、地域の人々にもっと読んでもらうために、人をメインに立て、スタイリッシュになりすぎない方向にしようと決めました。
1〜2面は特集記事、4面はプロジェクトに関わる人々のインタビュー記事「音まちの人びと」とフォーマットが決まっています。また、6つのプロジェクトの各担当者が執筆する「音まちの日々」では、プロジェクトが形になるまでの産みの苦しみなど、楽しいばかりではないアートプロジェクトのリアルな声が伝わってきます。
人にクローズアップした内容に変えたことで、アートプロジェクトの見えかただけでなく、事務局、アーティストなど、地域の人や関わる人の多様さが外に伝わりやすくなりました。
また電車の中などちょっとした時間にも読みやすいよう、字を大きくしたり、Web版も始めるなど、読む人のことを考えたつくりになっています。
定期的にプロジェクトの特集記事を組んできたことで、定期レターがプロジェクトのアーカイブの役割も果たしています。新しいメンバーが入ってきたときには、説明資料として渡しているそうです。
現在の制作チームは、企画・進行管理の槇原さんとデザイナー、「音まちの人びと」のライターの3名は固定。記事執筆は各プロジェクトの担当者が行います。
発行している1万〜1万2千部のうち、足立区に2千部、アーツカウンシル東京に2千部、そのほかアートスペースや大学、美術館、千住の駅やお世話になっているお店に配布しています。
また音まちは、月1回メールニュースの配信も。月1回と年4回のリズムを刻むことで、大型アートプロジェクトのコミュニケーションを円滑にしているようです。
続いての発表は、アートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!−生き方がかたちになったまち−」(以下、「ファンファン」)を共催している、一般社団法人うれしい予感の青木彬さんです。ファンファンによる定期レター「ファンファンレター」の、ユニークなつくりかたをお話しいただきました。
月2回発行されるB5サイズの「ファンファンレター」は、版をつかって印刷する「リソグラフ」をつかっています。事務局や地域の人で集まる日を設け、毎号みんなで元となる原稿を手作業でつくります。「レターづくりは地域の人と会う口実なんですよ」と、青木さんは言います。
つくりかたはまず、掲載する写真やテキスト、イラストを用意し、みんなで話し合ってレイアウトを決めます。次に素材を切り貼りし、2つの原稿をつくります。原稿完成までの所要時間は約2時間。できた原稿をリソグラフ印刷して完成です。
内容は、プロジェクトの案内や、イベントレポート、コラムなどさまざま。定期レターをつくったきっかけは、ヒアリングプログラム「WANDERING」を通じて地域の人から得た情報やアイデア、またファンファンの活動を発信するツールとして、定期レターの必要性を感じたからだそうです。
毎号250部ほど発行し、拠点の前を通りがかる方に自由に持って行ってもらったり、拠点近隣のカフェなどに直接届けに行っているそう。
青木さんは、「事務局のバイオリズムが、つくり方や情報量の差に反映されるのも良い」と言います。毎号つくり手が変わるため、差が出たり、事務局からの発信が少なかったりする号もあります。1年に1回発行するドキュメントではないからこその、つくっている時間のグルーヴ感が伝えられるという特徴があります。
2週間に1回、みんなで集まり・つくり・届ける。定期レターが、人に会うためのリズムを刻んでいました。
2つの事例についてゲストの加藤さんは、「音まちの4面『音まちの人びと』は、まちの人との関わりのきっかけになると思いました。以前ある地域でプロジェクトをやりたいというアーティストに声を掛けられたときに、『まちに配るフリーペーパーをつくろう』と提案したことがあります。まちの人をすてきに撮って掲載することで、載った人が第三者にプロジェクトを説明できるようになる必要が生まれる。そこからまちの危機などを考えてもらうきっかけになります」とコメントされました。
ジムジム会の最後は、質疑応答とディスカッションの時間です。
「記録写真を撮影するときに意図的に押さえている場面や、事務局が記録撮影するときに狙っておくと良い見逃しがちなシーンはありますか」
という質問に加藤さんは、「行政報告用かSNS用かなど、どこにどうつかわれる写真かを想定して撮影している。トークの空間だけでなく、建物の外観など、自分が当たり前と思っているところこそ必要なこともあります。見逃したかどうかに気づけるのは写真をつかう事務局の人たち。むしろカメラマンに教えてあげてくださいね!」と回答されました。
そこからカメラマンとのコミュニケーションに話が発展し、「撮影依頼の際にSNSでつかう、ブログでつかうなどの使用目的や、逆に例えばスライドは写さないで良いなどいらないものを伝えてくれるのも良い」とのこと。事前にカメラマンとコミュニケーションを取ることで、お互いにとってより良いものが撮れることがわかりました。
「つかいたい写真がどこにあるか毎回わからなくて困る」という質問には音まち事務局から、「フォルダツリー」(『アート・アーカイブ・キット』を参照)を参考に毎回、クラウドサービス(Googleドライブ、Googleフォト)とHDDに保存し、データ名も「日付・プロジェクト名」と統一し、誰でも簡単に管理できるようにしていると、解決のための工夫を共有してもらいました。
終わりに参加者に一言今日の感想を書いてもらいました。
参加者にとって、各事業に適した定期レターの発行頻度や部数、媒体、つくる目的を考えるきっかけとなったようです。次回のジムジム会のテーマは「打って出る」です。どんな会になるかお楽しみに。