編み集める/本のつくりかた・つかいかた
執筆者 : きてん企画室
2020.03.18
2020.02.27
執筆者 : きてん企画室
ジムジム会とは、「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」のこと。2019年度は「届けかた・つなぎかたの筋トレ」をテーマに掲げ、アートプロジェクトの運営にまつわる考えかたや方法を共催団体と身につけていきます。今回も“ジムジム会の事務局”であるきてん企画室がレポートをお届けします!(前回のレポートはこちら)
今回は届けたい相手とつながるための多様な手段のなかで、とくにSNS(social networking service)を取り上げます。2つの実践発表とゲストのレクチャーを通して、SNSのつかいかた・つづけかたを考えます。
SNSとは、個人間のコミュニケーションを促進し、社会的なネットワークの構築を支援する、インターネットを利用したサービスのこと。趣味、職業、居住地域などを同じくする個人同士のコミュニティを容易に構築できる場が提供されており、たとえばFacebook、Twitter、Instagram、LINEなどがあげられます。
近年、アートプロジェクトの各現場でも、参加者に向けた情報発信はもちろん、関係者間の連絡や、プロセスの記録などでSNSが活用されるようになりました。ただし「SNSを使いこなせている!」「SNS運用が得意だ!」という参加団体は少ない様子。
そこで今回は、参加団体から事前にSNSに関するアンケートを集めつつ、その使いかたや続けかたについて考えることにしました。
最初の実践発表は、アートプロジェクト「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」(以下、「YATO」)を共催している、社会福祉法人東香会の宮崎由子さんです。「YATO」のInstagramについてお話しいただきました。
現在「YATO」のInstagramには、映像作家でありプロジェクトのアーカイブ担当・波田野州平さんによる「まちだのきろく」が投稿されています。もともとは活動拠点である町田市の忠生地域を事務局メンバーが撮影し、「#今日の忠生」とハッシュタグをつけて投稿しようとはじめた試み。しかし、地域で暮らしているメンバーが少なく、投稿が滞っていました。
転換点は、ある日の事務局定例会議。波田野さんがフィールドワークで撮影したまちの写真を共有したところ、「おもしろい」とメンバー内で盛り上がったそう。そこから波田野さんが町田のまちをフィールドワークして、写真とことばを投稿する「まちだのきろく」がはじまりました。
現在も波田野さんのフィールドワークはつづいていますが、Instagramの更新頻度はまちまち。また、イベントのときは運営に手一杯でSNS更新にあまり手が回っていないことが課題です。
ひとつのテーマや、プロジェクトらしい手法は見つかりましたが、継続性や運用の体制にまだまだ工夫の余地がありそうです。
次の発表者は、アートプロジェクト「HAPPY TURN/神津島」(以下、「HAPPY TURN」)を共催しているNPO法人神津島盛り上げ隊の飯島知代さんです。異なるプロジェクト同士でのつかいかたを比較するため、HAPPY TURNでもInstagramアカウントの運用についてお話しいただきました。
「個人的にもInstagramをよく使ってきたし、好きなんです」と言う飯島さん。もともとはプロジェクトのウェブサイト内のブログで情報発信をしてきましたが、より手軽に更新しやすいからという理由で2018年2月にInstagramをはじめました。
島内ではまだ浸透しておらず、「何しているかよくわからない」と言われがちだという「HAPPY TURN」。そこでInstagramでは、神津島で暮らす身近な人々に向け、拠点を通じて何をしているのかを知ってもらうための手段として活用しています。
更新頻度は1週間に1、2回。気をつけている点は、子供たちの顔が写らないように加工をするなど配慮をしたり、「神津島」関連以外のハッシュタグ「#アーツカウンシル東京」や「#空き家」などをつけて、アクセスする人の間口を広げること。事務局メンバーが3名のため、「YATO」と同じようにイベントの際はSNSに手が回らないことが悩みのひとつです。
SNSがきっかけで出会ったプロジェクトパートナーもいます。拠点の空き地に芝生を養生するため、Instagramで「芝生に詳しい人いませんか」と投稿したところ、雑誌『ソトコト』で「HAPPY TURN」の記事を見た農業を研究する大学院生が、助っ人として現れました。プロジェクトについて検索した人の受け皿としてもSNSは役に立ちます。また、卒論を書いている学生が島民にインタビューしに来たこともあったそう。
島内や島外の人とつながっていくための情報発信を続けている「HAPPY TURN」。飯島さん以外の人も発信できる仕組みなど、少ない人数で続けていくための体制づくりをより考えられそうです。
後半では、SNSに関する情報発信の課題や疑問をゲストを交えて考えました。
ゲストは、株式会社インクワイア代表取締役・モリジュンヤさんです。まずはじめに、編集者として活躍されているモリさんが、ウェブやSNSでの情報発信の流れを整理し、お話しくださいました。
モリさんは情報発信の仕組みを、物流に例えて解説されました。
まずは発信する情報の「仕入れ」。1週間や1日のうちの活動の種類や頻度、コストを洗い出し、普段の活動で仕入れがどれくらいできるのかを考えます。
たとえば「YATO」の場合、「仕入れ」のタイミングはカメラマンさんがフィールドワークにいくとき。月に何回フィールドワークが行われて、1回につきどれくらいの写真と映像が集まるのかがわかれば、発信できる数が見えてきます。
その後仕入れたものをどのように「加工」して見せるのか。すぐに発信するものをつくるのか、ストックしておくものをつくるのか。また発信するときの枚数や大きさ、静止画か動画かなど、適したフォーマットを考えます。
次にどこに「流通」させるかを選びます。自分たちの活動と相性の良い人や活動を知ってもらいたい人はどんな人か、活動内容やテーマはどういう興味・関心を持った人にささりそうかを考え、どのような手段やメディアを使えば届きやすいかを考えて選びます。
そして最後に「販売」。接客マナーのように、どういう話しかけかたで、どんなメッセージを発信すれば、届けたい相手に反応してもらいやすいのかを考えて発信します。
SNSでの情報発信の場合、届けたい相手がどんな人で、何に関心があって、最近はどんなトレンドなのかを日々調査することも重要とのこと。「人も社会も変化するので、同じことをやり続けていればOKにはならないのが、情報発信の悩ましいところです。変化を掴みながら少しずつやりかたを変えていくことも大事だと思います」(モリさん)
最後に、事前にアンケートで収集したSNSに関する悩みを共有し、モリさんからもアドバイスをいただきました。
●「SNSを動かせていないが…やったほうがいい?」
→「前提として”みんなやっているからやらないといけない”という意識で情報発信を始める組織が多いですが、まずは目的の整理をして、その手段を考えることが大事です。その目的にSNS発信が沿う場合はやったほうが良いでしょう」(モリ)
●「体制づくりと継続が難しい」
→「繋がりのある人たちといかに継続的にコミュニケーションしていくかが大事です。やる気があったので3ヶ月間頻繁に更新していたけど、その後忙しくなったから滞って……というような運用では、事業の情報発信は安定しません。継続するための仕組みを考えることが大切です」(モリ)
「工程を分けて考えたり、担当者を決めたり、定例会議にSNSの議題を入れるなどのルーティンに組み込むこともいいのでは」(中田)
そのほか、「SNS、メルマガ、ウェブサイトの使い分けや「情報が受け手に伝わっているのか不安」、「サポーターに配信を任せた場合の内容や運用ルールの管理の仕方」、「プロジェクトアカウントの上手な終わらせ方」などの質問もあがりました。
ジムジム会も残すところあと1回。最終回のテーマは「編み集める/本のつくりかた・届けかた」です。