水性|Artpoint Radio 東京を歩く #7
執筆者 : 屋宜初音
2025.03.19

「Artpoint Radio 東京を歩く」では、都内にあるさまざまな拠点を訪ね、その運営にかかわっている方にインタビューを行い、その様子をラジオとレポート記事の2つの形式でお届けします。
拠点によって、その業態や運営の手法、目指す風景はさまざま。そうした数多くのまちなかにある風景には、運営者たちの社会への眼差しが映し出されているのではないでしょうか。
本シリーズでは、拠点の運営にかかわるひとびとの言葉から、東京の現在の姿をともに考えていきます。
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第8回は東京都小平市にある「WALLA」を訪れました。西武多摩湖線青梅街道駅から徒歩10分ほど、住宅街のなかに畑や果樹園などの耕作地が点在する、のどかな風景が広がるエリアです。
このエリアで活動を続けてきたWALLAは、1階をギャラリースペース、2階を運営メンバーのシェアアトリエとして2019年にオープン。約5年の活動期間を経て、2024年12月をもってクローズすることになりました。インタビューに伺った日は、ちょうどクローズイベント「さよならのかわりに」が行われた翌々日。ギャラリースペースにはその名残がたくさん残っていました。
今回お話を伺ったのは、WALLAの立ち上げから運営に関わる大石一貴(おおいし かずき)さん、大野陽生(おおの はるき)さん、前田春日美(まえだ かすみ)さん、吉野俊太郎(よしの しゅんたろう)さんの4人。立ち上げからクローズに至るまでの経緯、活動のなかで生まれたこと、そしてそれぞれにとってWALLAはどんな場所だったのかをお聞きしました。
大石:WALLAは、英語でガヤとか、エキストラといった意味の言葉です。人が集まって、僕たちもエキストラになりつつ、ガヤガヤした場所にするみたいな、そういう思いを込めて名付けました。
大石:そうですね、場所の名前としてつけました。僕たちはあくまでWALLAを使っている人たちなので、12月のクローズの告知も、WALLAから4人全員が出ていって、そうすると同時にWALLAはなくなります、みたいな回りくどいことを言っているんです。4人が一つの目的を持ってコレクティブ的な活動をするというよりかは、それぞれが別々の活動や目的を持って集まっていて、それぞれが果たしていくことがある。それをWALLAという場所が担保していた感じです。
大石:みんなで名前を決める会があったんです。台所にある四角いテーブルを囲んで候補を提案しあって。そのなかで誰かが「WALLA」を案として持ってきていて。語源とか意味を調べていくと、みんなのイメージに近いね、それで行こう、という感じで決まりました。
前田:候補がたくさん挙がっていたんですけれど、投票制にしたのではなく、WALLAという案が出てきたときに、「それで!」と自然に決まった印象がありますね。
大石:2017年に、いまのメンバーのうちの3人、先輩の大野さんと、後輩の前田さんと、僕とで連続で個展をしようと話したのがきっかけです。そのときはWALLAの話はまだしていなくて、単純に展覧会をやろうということで話しました。そのあとに僕が新しくシェアアトリエをつくろうとしたときに、最初に声をかけたのがその2人でした。こういう場所にしたいね、みたいな、意識として共通している部分がたくさんあったので、3人で何かやっていけるといいなと思っていましたね。
前田:そうでしたね。展示の打ち上げか、飲みの席で、拠点をつくりたいっていう話をしたよね。
大石:ちょうどその時期は、僕らがお世話になった人たちがアーティストランスペースなどを立ち上げていて、アトリエとしてだけじゃなく、別の使いかたもするスペースとして運営していくという流れが近くにありました。なので、いろいろな機能がある場所を持つことに対して違和感はなかったし、作家活動としてそういうかたちもあるよねって、自然に話が進んでいったというか。もともと僕と前田さんは在学時期が重なっていたので、大学で作品についてとか制作活動について、よく話をしていた記憶があります。大野さんは大学の先輩であると同時に、同じバイト先だったりして近い存在でした。
大野:もう一人の吉野さんとは、僕との縁がたまたまあったんです。とある地方での展覧会に参加したときに吉野さんと一緒で、そこでこれから場所をつくるっていう話があるんだよねと話題にしたら、興味を持ってくれたのがきっかけでした。
吉野:運用をはじめるにあたって、参画する人数をもう少し増やそうという話があったらしくて。僕はアトリエが欲しいわけではなかったんですが、ギャラリースペースとしても利用できるという話を聞いて、ここでなら展覧会の企画などもできるかもしれないと思い見学させてもらいました。そこからは、ますますかかわりが深くなっていって。
大石:いろんなところを探していたんです。不動産サイトとか、ジモティーというサービスとか。そんななかで偶然、安くてDIYが自由にできて、しかもちょうど価格が下がったタイミングでこの建物が目に留まりました。「これはいましかない!」と思って、すぐ連絡して、この家を借りることになりました。
前田:ここは、もともとコインランドリーだった物件で、家の入口とは別にお客さんのための入口と大きな窓があります。わたしたちが借りる前はおばあさんが住まわれていたんですけど、床の高さとかを生活しやすいように改装していて。大きな窓とドアが魅力的だなと思ったことや、展示をできる空間が欲しかったこともあって、自分たちでDIYをして、コインランドリーだった場所をギャラリーとして使える空間にしました。
吉野:僕は展覧会を企画することが回数的にも多かったかもしれませんが、かといって誰かの企画が連続するということもあまりなかったですね。順序を決めていたわけでもなく、でもこの間は吉野が企画をやっていたし、次は大野さんかしらねみたいな感じで、企画なり展覧会なりをなんとなく順番に担当しながらコンスタントに続けていました。あとは企画を担当するにはそれなりに集中できる時間が必要なので、現実的に二つ三つを連続でというのが難しい側面もあったのかも。
企画を進めるにあたっては4人のうちの誰かがやりたいのであれば、基本的にはその人自身が責任をもつ、という協定で運営していました。作業を分担するにしても、一つひとつの企画に対してのそれぞれの距離感とか、立ち位置とか、役割みたいなものは、ある程度明確にしていたと思います。
大野 :思い返すと、僕はプレスリリースをつくっていることが多かったですね。分業というわけではないですけど、いろんな機会にプレスリリースをつくっていた気がします。前田さんは、運営の中盤からはずっとSNSでの発信を担ってくれていましたね。
大石:僕はウェブサイトのなかに開設した、テキストメインの展示壁「WALLA Board」の企画運営とか、あとは契約書やお金の管理や、大家さんとの不動産の手続きなどをやっていました。そうした事務的なことは場所を持ってから鍛えられましたね。プレスリリースもそうですが、誰かに連絡するとか、来場者への対応とか。事務的なことをする、ということは一つの展示をつくる上で必要不可欠なものです。たとえばチラシについても、毎回しっかりつくるとか、どういう内容がチラシに入ってなきゃいけないとか、事前に確認するとか。4人とも共通して、そうしたフローはとてもよい経験になったと思います。
大石:先ほど挙げた「WALLA Board」というのはまさにそれかなと思います。ウェブサイト上のWALLAです。WALLAは今年、4年半を経てクローズするんですけど、WALLA Boardだけは僕が続けていくことになっています。そういった、媒体を通した表現や展示空間の在りかたは、今後の自分の活動にもつながっていく気がしています。
前田:わたしは、ここをやっていたことが、はじめてパフォーマンス作品をつくるきっかけになりました。この場所がないと、その作品は生まれなかったなと思います。ずっとこの場所にかかわり続けることで生まれた作品だったので、どこかの場所を一時的に借りて、パフォーマンスを考えるという経験とは全く違ったなって思うんです。
大石:むしろ一人じゃできないなって思っていましたね。一人で場所をもつと、自分のもてる関係やつながりに限界もありますよ。実際にWALLAをやっていても、メンバーの誰かが企画したら、そこに参加しているのはそのメンバー以外は初めて出会う作家だったりするし、来てくれる人も初めて出会う人が多かったり。そうしてどんどんコミュニケーションやコミュニティが広がっていくのを実感していました。そういうことは、やっぱり一人では難しいんじゃないかなと思います。
吉野:あとは作家として、お互いが制作と発表を続ける刺激にもなればいいなって話していたよね。
大石:そうでしたね。みんな大学を卒業してすぐのタイミングだったので、どこかで発表する機会ができるとか、ギャラリーに所属するということなんかもまったく想像できない時期だったんです。貸し画廊を借りたり、自分たちで場所を見つけて企画をつくったりする人も周囲に増えていたし、アーティストがサバイブする方法について考えていました。
吉野:WALLAをコレクティブや団体ではないとする思想にはコレクティブに対する反発というか、それらとは違ったあり方を考えてみたいという意識がありました。とはいえ集団ではないと言いつつ、相互に困ったことを支援し合っていこうとする互助組織みたいな側面は確かにあって。だからここをはじめた当初から、あんまり無理をしないようにしようとは話していましたね。誰かが大変そうになったら、その企画を少し助けてあげるとか、担当を明確に分けきるだけではなくて、得意な人やできる人が補助していけるように。
大石:そこは修正しながらでもありますね。運営をはじめて2年経ったぐらいで、毎月の定例会をはじめました。そうしないとまとまらないし、それぞれがどういう状況かを共有できないということになって。でも、定例会そのものはお互い苦ではないし、しっかりやるべきだよね、という感じではじまりました。
前田:きっと、そういう連絡とか報告があまり苦じゃない4人だった、というのが一番大きいのかな。場や展示に対する姿勢というよりも、コミュニケーションのとりかたが似ていたんだと思います。
大石:僕は制作と企画はわりと別に考えているかな。企画をつくるときに、作品をつくるのと同じようなことをしているとは思わないし。企画だけじゃなくて、本をつくったり、別のコミュニティでアーティストユニットをしていたり、それぞれ別の肩書きで別のことをやっているから、そういう感覚なのかもしれないですね。僕自身は彫刻家としての活動がベースにありますが、こういう作品をつくってますと決めてしまうよりは、もう少しふわっとしてるほうが好きなんです。
吉野:僕はセットで考えていますね。もし展示することが作品や作家にとっての晴れ舞台だとしたら、「つくること」は必ずしも絶対的な中心というわけではないはず。そもそもつくることだけが美術ではないと考える観点から、ものの見せかたとか、何を見せるのかに注目すること自体に不思議はないんじゃないかなと思っています。僕はこの場所で作品制作はしていないと言っていますけれど、ある意味では自分の制作として、企画づくりにかかわってきたという気持ちでいます。
大野:僕も吉野くんに考えが近くて、企画と制作は割とセットというか。ずっと勉強してるみたいな感じで、企画の経験が制作にも活きています。僕は場所に反応してつくるようなタイプなので、しっかりそこの場所を見たいとか、良さを引き出したいという視点は、WALLAで企画を組むなかで鍛えられたのかなと思っています。
前田:閉じるときは閉じるし、ひらくときはひらく、そういう、あいまいな場所としてWALLAを使いたいと思っていましたね。アトリエとギャラリーが別にあって、ギャラリーは発表する場所というかたちをよくとると思うんですけど、どちらの意味も含む曖昧な場所を持つことで、目的によっていつでもひらかれた場所としてアクセスできます。それってなかなかないことで、自分が場所をもっているからできる状態であり、その状態だからこそできる作品もあるんだと思います。
吉野:良くも悪くもすこしずつ敷居が上がってしまった気がします。一人ひとりが本当に真剣に展覧会に取り組んで、かつ4人それぞれが拾ってきた知見を追加していくので、どんどんギャラリーのような仕草が増えていくんですよ。
たとえば、オルタナティブスペースが持っている「やっちゃえ!」みたいな雰囲気ではなくて、ギャラリーだったらこうやりますとか、しっかり運営するならこうするとか。プレスリリースもそうなんですけど、きちんとやることが増えていった印象です。運営をはじめた初期の頃だったらすごく緩やかに受け入れられただろうという企画も、少し眉をひそめながら、「これをやるんだったら、ここはこうしないといけない」とか、「この部分を残すためにはどういう工夫が必要か」とかを、ちゃんと考えるようになってしまった。それはよく言えば企画について考える技術力が蓄積されたということであるんですが、悪く言うと……堅苦しくなったというか、厳しくなってしまったということだと思います。WALLAは5年目にクローズに至ったわけなんですけど、ある意味それなりの行き詰まりというか、臨界点を感じていたのかもしれないですね。
前田:わたしも堅くなってしまった印象はありますね。本当は、一日限りの企画とかもできたはずだけど、なかなかできなくなっていて。
大石:そうですね。最初はそういうイメージもあったんですけれど、集まった4人で、それぞれがもっと良くできるんだと真剣に取り組んでいくと、たしかにクオリティは上がっていくんですが、なんでもOKみたいな感じじゃなくなってしまった。
吉野:途中でコロナウイルスの影響を挟んだのも大きいですよね。初期の勢いのままできるはずだったものが、ちょっとストップ、ということになったので。オープンして2年目がコロナウイルスの影響が拡大した時期だったので、そこから3年4年と続けたときには、なおさら最初のテンションとは違うものになっていました。
大野:感染経路を判断できるように準備するという意味でも、一つひとつ確認しておくことがあったりとか、そうした名残もあるのか、細かい部分をしっかりしなきゃという意識が、今日まで続いてる気がします。
吉野:WALLAは場所の名前だけれど、それでもどうしたって集団でもあるから、個人の行いがWALLAに帰属する面もあるんですよね。あるいはWALLAで行ったことは個人に返ってきてしまうというプレッシャーみたいなものも、良くも悪くもあった気がします。だからこそ報告とか、プレスリリースをつくる段取りとか、しっかりやるべきところをきちんとやっていく。
大石:それはありますね。自分がしっかりしていないと、ほかの3人もそのように思われてしまうみたいなところは考えていました。
前田:アトリエを別で持つことになったので、はじめはわたしがここから抜けるという提案をしたんです。WALLAっていうのは場所の名前だから、メンバーが抜けたとしても別の在り方で進んでいくんじゃないかと思っていたので、その前提で話をしました。そしたら徐々に、それぞれの考えが「WALLAを閉める」という方向になっていきました。
吉野:この4人のバランスと、1年目から足並みを揃えてやってきた4年半があるじゃないですか。そのバランスが崩れたときに、前田さんではない、0年0か月目の人が入ってくるとテンションの差も生まれるし、この場所での知識と経験の差もあるし、性格とか方針とか、あるいは目指していることのすり合わせが難しいし、すり合わせることにものすごい労力を割かなければならなくなると思ったんです。なので、僕は前田さんが抜けるという提案をしてくださったときに、もうこのタイミングが閉める好機なんじゃないかと思いました。
大野:WALLAがそもそも、建築の耐久年数的にも不安な部分があるなということをずっとどこかで考えていたんです。それで、前田さんが抜けると聞いたときに、続けるルートと同時に建物としての限界を何とかしなきゃいけないっていう気持ちが僕のなかにありました。大石くんとも話して、たとえばこの2人だけでも残って続けるっていうルートも考えたりして。
大石:個人的にはもうちょっとWALLAは続いていくのかな、という思いもありました。でもやっぱり、初期からやってきたメンバーに思い入れがあるので、その一人が抜けることに対する寂しさも感じていて。僕ももうここをアトリエとしては使っていなかったのですが、それでもWALLAを続ける方法をいろいろ悩むなかで、ここまで話した場所に対する課題意識も鑑みて……。最終的には、いま終わらせるほうが自分の新しいステップにつながると思ったということと、全員にとってもそういう機会になるならむしろポジティブなことだなと考えるようになりました。
前田:そうですね。話してからは結構すんなりクローズするという方針に向かっていって。そういう道が用意されたのは、意外だったかもしれない。でも、それぞれと話したり、5年間やってきたこのメンバーじゃないといけないっていう思いは、たしかにそうだなと思います。
大野:WALLAは場所の名前なんだと切り離して言っているんですけど、でもやっぱり5年近くも一緒にいたら、そりゃそうなるよという感じですよね。臓器の一部じゃないですけど、家が体で、我々がその臓器みたいな感じというか。なので、我々が変わっちゃったら何というか、全然違うものになっちゃいますよね。
大石:いまとなっては終わることを「そして伝説へ……(笑)」みたいに捉えることができるというか、なんか肩の荷が下りた気もしますね。
場所を運営するということは、コレクティブみたいに集団で何かをやってくこととは少し違って、お金も時間もかかるし、いろんなことを一人ひとりがきちんとやっていかないといけない。続けていくとメンバーそれぞれが歳を重ねて、いろんなライフスタイルの変化も訪れる。ずっとダラダラ続けていくほうが不健康な場合もあると思う。これが本当に正解だったかって言われるとわからないですけど、WALLAはその一例ではあるから、今後もいろんなスペースが、そのタイミングにどう向き合っていくのかは、クローズした我々としては興味がありますね。続けときゃ良かった、と思うこともあるかもしれないです(笑)
大野:山も谷もなく。ずっと人が集まっているという感じでしたね。イベントとして「鏡割り」はあったんですけど、それ以外はもう本当にご自由にどうぞ、という感じで。
大石:いろんなひとが来てくれたので、それぞれが挨拶しあったり、ありがとうございました、と伝えたり。
吉野:飲み会みたいな感じでしたね。でもそういうことをやることによって、瞬間的にですが一番最初の記憶に立ち戻ったような感覚もあって。ここをはじめたころもこんな感じだったよね、と思い出しながら。
前田:たしかに。オープニングパーティーもすごかったよね。2階まで人が溢れていたもんね。
吉野:2階ではゲームをしていたりして。
大石:この家に誰が来ているのか、自分たちも把握しきれないくらいだった記憶がある。
前田:この4人って、イベントがあると基本的にキッチンのある部屋にいて、お酒を提供したり、ご飯を持って行ったりとか裏方に回りがちなんです。途中でギャラリースペースを覗いたら、武蔵野美術大学の油画科出身の作家たちがいっぱいいました。
吉野:人が集まる機会があると、我々もいるんだけど、かといって我々が主役だとか話し相手として立っている感じにならないのが恒例ですよね。来た人同士が話しているみたいな。
大石:それがWALLAの良い使い方というか。
大野:クローズイベントも、これで終わるんだ、みたいなノリじゃなかったんです。
吉野:今後ともよろしく、くらいの感覚で。
大石:いままで、僕たちが4人合わせて一つに見られることも多分あったと思うんですよ。コレクティブではないという意識には、そこに対する抵抗もあったかもしれない。けれど今後は、個人として互いにかかわりが生まれたりとか、より客観的にそれぞれが個人として見られるなかで、また違うことが起こるんじゃないか、そうなったらいいなって思います。
大野:展示してくださった作家のみなさんは、やっぱり寂しがってくれましたね。
前田:なかには自分でスペースをつくりはじめている方がいて、その改装中にWALLAのことを思い出していたから、すごく残念ですってメッセージをくれたんです。そう言ってくれると、いまもつながりつづけている感じがしますよね。クローズをちゃんとお知らせしてくれて嬉しい、という反応もあって、いつの間にかなくなっているスペースが多いなかで、クローズパーティーというか、終わりですと言える機会をつくったことが良かったなと思いました。
吉野:WALLAがどういう場所だったのかは、なかなかすぐには答えづらいのですが……でも今後の話でいうと、アーティストランスペースであれアートスペースであれ、今後アーティストがかかわるものは、インストールの方法や見せ方、告知の仕方とかどんどん情報が共有されて、しっかりしていくと思うんですよね。ただ反面、「雑にする」ということができなくなる。WALLAでもそうでしたが、丁寧にやればやるほど、突発的なことが起こりづらくなると思っていて。もっと、より瞬間的に、ふっと火がついて消えるような……その瞬間性とか、勢いや汚さみたいなものがもっと残ること。あるいは復権するようなことも、たくさんあっていいんじゃないかと思っています。パッケージを用意して見せることができる人が増えていくからこそ、そうではないかたちが必要になる時期なんじゃないかなと。ポジティブな意味で、そういった雑さや、適当さや、気まぐれみたいなものが今後のスペースにあったらいいなと思うし、求められていくべきなんじゃないかなと考えています。
大野:自分にとってWALLAは作家として活動している期間の大半を過ごした場所です。だから自分自身の活動の基礎的な部分を、人とかかわりながら、勉強させてもらった場所だなと思います。今後については、僕はコーヒーを淹れるのが好きなんですけれど、ちゃんと人にも出せるようになったりとか、焙煎の勉強をしたりだとか、自分でそういう場所を持ちたいなと思っているんです。WALLAで培ったノウハウとか、技術を活かして、飲食とともに美術作品を鑑賞したり、展示できたりする活動をしたいですね。
前田:WALLAはわたしにとっては風通しが良い場所だったなと思っています。WALLAの運営を通して人とかかわることと、自分の作家活動とが、すべて密接にかかわっていたかというと、必ずしもそうではない。でも、人がいる空間について考えることは、自分の作品に影響があったのかなと振り返って思います。今後も空間と人のかかわりとか、自分の作品との関係性みたいなものは考えていきたいことなので、WALLAのようにオープンにしなくても、作品を置いて考えられる場所は自分で持ちたいです。作品をつくることと、誰かに見せることが地続きであることで発生する面白いことがあるんじゃないかと思っているんです。それが自分自身のパフォーマンスで実践できた経験があるからこそ、これからも考えていけたらいいなと思っています。
大石:WALLAは理想としていたような場所になったんだな、と思っています。場所があることで、そこに人が来て出会いが生まれる。僕たちがつくったイベントや展示や作品を通して、それを見にくる人がいて、出会うはずがなかった人が出会う。そういう場づくりの理想としていたことがWALLAではできたんじゃないかなと思います。今日もまた、このインタビューで初めて会う人とWALLAの話が出来たように、この5年近くの日々で、本当にいろんな人に出会いました。本当に数え切れない数の人と。そうして新しいことにつながっていくきっかけとしてWALLAがあったのなら、こんなに幸せなことは無いなと思います。
今後は別のかたちで場づくりが出来たらいいですね。本当に場所というものは、あらゆる概念として存在すると思っていて。展示空間もそうですし、ウェブサイトとか、コーヒーがある場所とかいろいろあります。僕は最近出版をはじめたので、本という媒体のなかで、また新しい場所をつくるのもいいなと思っています。
――
思っていたよりさっぱりしているな、というのがWALLAのインタビューを通して感じた第一印象でした。それはおそらくインタビューに至るまで、長い時間をかけてWALLAの在り方について議論し、それぞれのなかでクローズという選択肢に納得していたからなのでしょう。
さまざまな拠点のお話を聞いていると、場の運営を続けていくなかで出会った人や生まれた光景を大切にしたいから、継続する道を選びたいという言葉も多く耳にしました。しかし運営しているのはあくまで人間。場を続けていくなかで、やはりさまざまな変化が生じていきます。運営しているひとびとの変化にあわせて、拠点がひらいたり閉じたり、変化していくのも当たり前のこと。WALLAのインタビューを通して、どんな拠点にもかたちを変える柔軟さや身軽さがあるということをあらためて実感しました。またその試行錯誤のなかでさまざまな経験や知見がうまれ、場所がなくなってもそういった経験は続いていくのだということも。
――
WALLA
* 2024年12月にクローズ
住所:東京都小平市仲町615-29
アクセス:JR武蔵野線新小平駅から徒歩20分、西武多摩湖線青梅街道駅から徒歩10分
公式ウェブサイト:https://walla.jp
話し手:大石一貴、大野陽生、前田春日美、吉野俊太郎
聞き手:櫻井駿介、小山冴子、屋宜初音
執筆:屋宜初音
編集:櫻井駿介、小山冴子
執筆者 : 屋宜初音
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