観察し、ほどき、解し、理解の緒を見出していくことー2019年度 小学校連携授業の記録

本書は、2019年度に『小金井アートフル・アクション!』が実施した二つの小学校との連携授業の記録です。
小金井市立前原小学校での「スライム自由研究の記録」、小金井市立本町小学校での「小学生のためのプログラミング入門」のほか、インタビューを収録しています。

目次

スライム自由研究の記録(小金井市立前原小学校)
いきいきと遊び、観察し、展開する―算数をめぐって|須之内元洋(札幌市立大学講師)
先生たちとやってみた! スライム自由研究のしおりとドキュメンテーション
世界の見方と算数――スライム実験の経験から
好奇心をもって自分で理解すること 木下 晋(画家)インタビュー

小学生のためのプログラミング入門(小金井市立本町小学校)
ドキュメンテーション――気づき
読み書きとしてのプログラミング|久保田晃弘

アーティスト・クロストーク《オンライン》(音まち10年目特別企画)

アートプロジェクト『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』(通称:音まち)では、まちなかを舞台に多彩な分野で活躍するアーティストを招聘し、10年にわたって市民参加型プログラムを展開してきました。それらの作品づくりの過程には、アーティストのみならず、まちの人びとが参加者として関わっています。

「アーティスト・クロストーク」は、2020年度に活動10年目を迎える音まちが企画するトークシリーズです。音まちでプロジェクトを展開している野村誠さん(作曲家)、大巻伸嗣さん(現代美術家)、アサダワタルさん(文化活動家)が、活動の垣根を超えた様々なゲストと雑談のように語らいながら、トークテーマを掘り下げていきます。

詳細

#01 ひょうたんから駒が出るようなはなし ―まち、人を動かす、名づけられない「作品づくり」について―

  • アーティスト:野村誠
  • ゲスト:Nadegata Instant Party
  • モデレーター:熊倉純子(解説)、櫻井駿介

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#02 大巻伸嗣×地域アート?『アートなんてわかんねぇ!』

  • アーティスト:大巻伸嗣
  • ゲスト:山出淳也、市民チーム「大巻電機K.K.」の皆さん、 「水郷ひた芸術文化祭2018」市民スタッフ
  • モデレーター:熊倉純子(解説)、森司

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#03 会えない日々と、気配のゆくえ

  • アーティスト:アサダワタル
  • ゲスト:山川冬樹
  • モデレーター:Lana Tran、冨山紗瑛

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IMM東京2020 オンライン美術館 アーティスト・インタビュー

アートプロジェクト『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』の一環である「イミグレーション・ミュージアム・東京」(通称:IMM東京)は、活動10周年を迎えた2020年度に期間限定でオンライン美術館を公開しました。

現代日本における「移住と移民・多文化社会」をアーティストたちはどのように見つめ、作品を制作しているのでしょうか。本映像では、IMM東京を主宰する岩井成昭さんが、李晶玉さん、岩根愛さん、高山明さんをゲストアーティストに迎えてインタビューを実施し、現代美術を通じたそれらのアプローチを紐解きます。

あの手この手で繋がるには? コロナ状況下でのアートプロジェクトを考える

全国の緊急事態宣言は解除され、東京都と近県をまたぐ移動の自粛要請もあと2日で終わり。それでも、人が集まることのリスクは高いまま。

そんな状況下の2020年6月17日、アートプロジェクトの事務局による事務局のためのジムのような勉強会「東京アートポイント計画 ジムジム会」の第2回を開催しました。

今回もオンライン上で開催したジムジム会。参加者による活動の共有やディスカッションを展開しました。当日の内容をレポートします!

お互いの実践から、活動のヒントを見つけよう

多様な人が関わり合い、表現を紡ぐアートプロジェクト。その根っこである「集うこと」ができない状況下で、いかにして人と人は出会い、繋がればいいのでしょうか。

東京アートポイント計画では3月以降、各プロジェクトの事務局会議も含め、実際に集まることは控えてきました。でも、だからといって活動そのものを止めていたわけではありません。こんな状況だからこそ、ますますアートプロジェクトは必要なはず。

そう信じ、あの手この手を駆使して行ったアクションや、新たな工夫を共有するところから第2回をスタートしました。テーマは「これからの活動のありかたを考える」です。

シニア世代のクラブ活動をオンライン化

最初に実践報告をしてくださったのは、小金井で市民とともに活動するアートプロジェクト「小金井アートフル・アクション!」の運営に関わる伊藤安寿華さん。

小金井では、「えいちゃんくらぶ(映像メモリーちゃんぽんくらぶ)」という活動を2018年度からスタートしました。参加者は70歳前後の人を中心としたシニア世代。映像をつくったり、遊んだりするクラブです。

本来であれば2月29日、3月1日に作品上映会を予定していたのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて中止に。その代わりに立ち上がった企画が、オンラインでの作品発表会「ONLINEえいちゃんふぇす」です。その名の通り、オンラインで映像作品を公開したり、トークを展開したりする催しです。

▲過去のえいちゃんくらぶの様子。

●課題:オンライン化に対する抵抗感

シニア世代の人が中心となると、インターネットに親しんでいる度合いも人それぞれです。「ONLINEえいちゃんふぇす」では、一人ひとりと話し合いながら発表方法を決めました。詳しくは伊藤さんの日報にも書かれていますが、すぐに参加表明をしてくれる人もいれば、インターネットに公開するのは嫌だと考える人、実名公開は避けたい人など様々でした。公開を希望された人の作品は、動画サービス「Vimeo」を使い、期間限定で配信。当初の上映会とはまた違う形での公開となりましたが、発見も多かったといいます。

●工夫:電話でトークをつなぐ!

そしてオンライン化にあたってもうひとつ工夫したのは、ラジオ形式のトーク企画。えいちゃんくらぶの講師である角尾宣信さんがパーソナリティとなり、テーマごとにゲストを交え、合間にメンバーの方に電話でコメントを聞く形でトークを収録・配信しました。電話という馴染み深い方法を使うことで、自然かつリアリティのあるトークになるよう心がけました。

●挑戦:メーリングリストの丁寧な導入

こういった「ONLINEえいちゃんフェス」の他、新たにメンバー間のGoogleメーリングリストをつくり、情報共有する仕組みにも挑戦。使い方のわからないメンバーとはメールでフォローするなど試行錯誤を重ねました。

結果、メーリングリスト上では、おすすめの映画の共有や近況報告、あたたかい言葉のやりとりなどが交わされているそう。「えいちゃんくらぶ」は、映像を中心に地域内のゆるやかなつながりを生む活動だと改めて認識しました。

今後は、ネットに不慣れな人でも参加しやすいアナログ寄りの企画や、外出自粛のなかで孤独感を深めた人をフォローするような企画も展開していきたいとのことでした。

▲報告と今後の展望をはなしてくださった伊藤さん。

ビデオレターで離島の外と中をつなぐ試み

続いての発表は、東京都の離島のひとつ、神津島(こうづしま)で展開するアートプロジェクト「HAPPY TURN/神津島」(以下、「HAPPY TURN」)。事務局の中村圭さんと飯島知代さんから報告をいただきました。

HAPPY TURNもまた、今回の緊急事態宣言以降、プロジェクト拠点「くると」を閉鎖するなど、活動内容を変更してきました。そうした“集えない”中で生まれた新たなアイデアが、動画インタビュー企画です

神津島は、仕事や学業、家族の事情で島を離れる人が少なくありません。そんな元島民から、現在も島に暮らす人に向けたビデオレターを送ってもらい、交流をしてみてはどうかと考えました。

●工夫:テレビ編集経験のある移住者の力を借りる

島を離れる人もいる一方、様々な移住者も毎年やってきます。神津島にもまた、東京と大阪で10年以上、テレビ番組の編集を手掛けてきたなしこさんがいました。今回はなしこさんのディレクションのもと、Zoomの録画機能も駆使し、ビデオレター「やーい!」を完成させました。

元島民の中には、疎遠になってしまっていた人もいます。それでも今回の取材を通して画面越しに再会し、改めて「島への想い」を伺う貴重な機会になりました。

オンラインで収録し、テレビ番組風に編集した楽しい内容。告知用CM動画も制作した。

●課題:公共放送での放映叶わず…

元島民による熱い想いとメッセージ。これをなるべくたくさんの現島民に届けるのが、HAPPY TURNチームの目論見でした。そこで企画当初より目指していたのは、島独自の公共放送「神津TV」での放映です。

早速完成したビデオレターを持ち込み、放映の依頼に伺いました。……が、残念ながら、調整が折り合わず、放映できないことに。残念ではありますが、今回は頭を切り替えて、再開後の拠点「くると」で特別放映することにしました。今後の展開を見据え、さまざまな準備を進めています。

「次の課題は地元行政との連携」と、飯島さん。

実際に会うことや、密に集うことができない今、各アートプロジェクトでは、あの手この手で「集まる」「つながる」方法を探っています。後半のセッションでは、Zoomの「ブレイクアウトルーム機能」を使ってこれらの課題について議論を重ねました。

詳しくはまた次のレポートにてご報告します!

(執筆:きてん企画室)

Cross Way Tokyo 自己変容を通して、背景が異なる他者と関わる

メディアづくりを通して、自分とは異なるルーツをもつ人とかかわる

自分とは異なるルーツをもつ人とコミュニケーションをとろうとするとき、何かしらのハードルを感じる人は少なくないのではないでしょうか。さまざまな背景をもつ人々が暮らす東京では、誰しもが日々のなかで自分とは異なるルーツをもつ人々とすれ違っているはず。もしそうした人々とかかわりをもちたいと思ったとき、どのように関係性を築くことができるでしょうか。専門的な技術やイベントを介した出会い方だけではなく、それぞれの日常の延長線上で実践できることを考えたいと思っています。

文化人類学的なアプローチをもちながら、多岐にわたるデザインワークを行う阿部航太(デザイナー)をナビゲーターに、背景の異なる他者とかかわろうとするときに自身のなかでハードルとなっている要素とは何かについて向き合います。

ゲストに、海老原周子さん(一般社団法人kuriya代表、通訳)、金村詩恩さん(ライター/エッセイスト)、川瀬慈さん(映像人類学者)を迎え、レクチャーやフィードバックを受けつつ、インプットとアウトプットを重ねます。最終的に、各メンバーの関心や課題意識を軸にしたメディアの立ち上げを目指して、その過程で自身の思考を更新していくことを試みます。

詳細

スケジュール

8月22日(土)
第1回 自己紹介/ディスカッション わたしにとっての「移民」とは

9月5日(土)
第2回 レクチャー 移民を取り巻く構造を現場から学ぶ

ゲスト:海老原周子 (一般社団法人kuriya代表/通訳)

9月26日(土)
第3回 ディスカッション/ワーク ハードルを越えるための「態度」を探る

10月10日(土)
第4回 レクチャー/ワークショップ 上野のまちで、他者の存在に目を凝らす

ゲスト:金村詩恩 (ライター/エッセイスト)

10月24日(土)
第5回 ディスカッション/ワーク 身の回りの日常を他者の視点で捉え直す

11月14日(土)
合同共有会

11月21日(土)
第6回 レクチャー/ワークショップ メディアの構築性を学ぶ

ゲスト:川瀬慈 (映像人類学者)

12月5日(土)
第7回 分科会

12月19日(土)
第8回 ディスカッション/ワーク トライアル作品制作で得たもの

1月9日(土)
第9回 ワークショップ 原点に立ち返り、本制作への助走を開始

1月17日(日)~2月7日(日)
第10回 メディア制作 課題を潰しながら、制作のギアを上げる

1月31日(日)
合同共有会

2月27日(土)
第11回 メディア制作

ゲスト:金村詩恩 (ライター/エッセイスト)
川瀬慈 (映像人類学者)

3月28日(日)
第12回 8か月間の歩みを振り返る。そして5年後の自分へ

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])ほか

参加費

一般30,000円/学生20,000円

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

ナビゲーターメッセージ(阿部航太)

このスタディの基本的な姿勢は、「自分が変わる」ことを楽しむことです。もちろん、とてもセンシティブなトピックに取り組むことになりますし、その過程で自分自身の未熟な部分に直面することにもなるでしょう。それでも自分が起点となり、他者と関わりながら変化していく豊かさを楽しんでいきたいと思います。

また、このスタディではさまざまな思考方法と出会うことで、自身の世界をとらえなおしてみることを試みます。座学だけではなく、外に出てまちを歩いたり、手を動かしたり、メンバーそれぞれの興味や特技を活かし、実践を重ねながら考えていきます。

このスタディのテーマは、海外に(も)ルーツを持つ人たちに対する私自身の迷いがそのまま反映されています。おそらく似たような思いを抱えている人もいるのではないでしょうか? メンバーの方々と一緒になって、悩み、考え、つくっていくことで、ここでの経験を言語的な理解だけにとどめず、日々の生活の中に落とし込んでいくことができたらと思っています。

スタディマネージャーメッセージ(上地里佳)

「移民」や「海外ルーツの人々」ということばをよく聞くようになり、わたし自身、日々の暮らしのなかで異なる文化や言語をもつ人々と場をともにする機会が増えてきているのを感じます。距離としては近づいているのに、コミュニケーションをとろうとするとき何か失礼なことを言ってしまうのではないかと悩んでしまう。相手を思うほどにコミュニケーションが億劫になりがちになる。その感覚をどう越えて、新たな関係性を築く一歩をつくっていけるのか、このスタディで探っていきたいと思います。

阿部さんのナビゲーターメッセージでも触れていますが、この問いは、わたしたちの日常生活が、多様で、複雑な、他者とのかかわりが満ちていることを再認識することからはじまるように思います。例えば、普段何気なく使っているものや食べているもの、ことばや技術など、自身の日常生活をつぶさに見てみること。これまでの歴史を学ぶことや、実践者の方々の話を聞いてみることなど。

そんな試行錯誤のなかで思考をやわらかくしながら、背景が異なる他者と出会い、関係性を築いていく態度や方法を探っていければと思います。最終的には「態度と実践方法」をまとめたメディアを立ち上げて発信することを通して、じんわりと自らを変容させていく時間を、わたし自身も含め、スタディメンバーとともにつくっていければと思います。

東京プロジェクトスタディ紹介映像

プロジェクト紹介映像

トーキョー・スカルプチャー・プロジェクト 2027年ミュンスターへの旅

コロナ禍の東京で、いま可能なパフォーマンスのかたちを見つけ出す

トーキョー・スカルプチャー・プロジェクトは、10年に1度の芸術祭「ミュンスター・スカルプチャー・プロジェクト」を参照しながら、「彫刻・パフォーマンス」をキーワードに2018年度からはじまりました。その後、2年にわたり「東京彫刻計画」というフィクションの設定を使って、まちなかの公共彫刻についてリサーチすることで「公共」について考えています。

そうしたなか、新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。他者や社会に対してどのように接し、どのようにいるか。わたしたちの日々の「パフォーマンス」も、強制的に変化しました。「東京で何かを“つくる”としたら」という問いは、いままで以上に難しいものになったのではないでしょうか。

今回は、ナビゲーターの居間theater(パフォーマンスプジェクト)と佐藤慎也(建築家)とともに、現在の東京で、どのようなパフォーマンスが可能なのか、感染者数や情勢を鑑みつつ、オンラインと対面を織り交ぜて考えます。ゲストアーティストによるワークショップを通じてパフォーマンス・建築・彫刻・映像・サウンドアート・写真など、それぞれのつくり方に触れ、自分の手を動かします。最終的に「検査」をテーマにした小作品「パフォーマンス検査キット」の制作を行うことを目指します。

詳細

スケジュール

9月2日(水)
第1回 オリエンテーションと自己紹介 『トーキョー・スカルプチャー・プロジェクト』に向けて

9月27日(水)
第2回 遠足 すみだ向島EXPO 2020をめぐる

10月18日(日)
第3回 ワークショップ 空想地図をつくりながらつかむ都市のリアリティ

ゲスト:今和泉隆行さん(空想地図作家)

10月23日(金)~10月25日(日)
第4回 ワークショップ 「それ」以外をリサーチして、つくる

ゲスト:トチアキタイヨウ(ダンサー/振付家/演出家)

10月28日(水)
第5回 振り返りとディスカッション 「つくること」への思考を広げる

10月31日(土)~11月7日(土)
第6回 ワークショップ 一方的に音を受け取る「手段」を考える

ゲスト:大和田俊(アーティスト)

11月11日(水)
第7回 振り返りとディスカッション 「問い」をひらく、「トーキョー」を想う

11月14日(土)
合同共有会

12月11日(金)~12月13日(日)
第8回 ワークショップ デートをして、シナリオを書き、上演してみる

ゲスト:友政麻理子(現代美術家/映像作家)

12月16日(水)
第9回 振り返りとディスカッション 「デート」の振り返りと最後のクリエイションに向けて

1月22日(金)~3月7日(日)
第10回 クリエイション 変化する社会状況のなかでつくる

1月31日(日)
合同共有会

3月8日(月)~3月20日(土)
第11回 郵送上演 『パフォーマンス検査(キット)』

4月17日(土)
第12回 上演時間をつなぎあわせるような最後の振り返り

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])ほか

参加費

一般30,000円/学生20,000円

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

ナビゲーターメッセージ(居間 theater +佐藤慎也)

このスタディは、「ミュンスター・スカルプチャー・プロジェクト」という10年に1度の芸術祭を参照しながら、彫刻・パフォーマンスというキーワードに据えて2018年から始まりました。2年にわたり「東京彫刻計画」というフィクションの設定を使って、街なかの公共彫刻のリサーチをおこなったり、「公共」について、そこから派生して「東京の工事」について考えたりしてきました。

そしてその過程で、パフォーミングアート(舞台芸術)と美術における「パフォーマンス」の境界線が融解していること、一方で、文脈やつくりかた・考えかたの部分では明らかに違いや差があることが、あらためて実感レベルでわかってきました。さて今年度はスタディの軸をどのようにしようかというところ、新型コロナウイルスの感染が拡大してきました。

“東京で何かを「つくる」としたら”。この問いかけは大きすぎて、いま、何かをつくるにも難しい気がします。さらには、昨年度の活動キーワードのひとつだった「公共」ということばも、いまのこの状況下ではやはり捉えきれない。

一方で、外出自粛の状況下では、これまでにあった(けれど見ていなかった、露呈していなかった)さまざまな社会的な問題が、浮き彫りになりました。私たちはあらゆる問題の最中にあって、これから、どのような目線で、何の・誰のために、どのような態度でつくっていくのか。居間 theaterは「パフォーマンスプロジェクト」ですが、じゃあいま、どんなパフォーマンス作品が可能なのだろうか……。

答えはすぐには出ないでしょうが、このプログラムはスタディですから、参加者のみなさんと一緒に試行錯誤を重ねて、考えていきたいと思います。

そしてそのために、今年度は何人かのアーティストにもお力を借ります。いくつかのジャンルのアーティストにお越しいただき、小さいワークをすることで、それぞれのアーティストのつくりかたを垣間見させていただく予定です。

もちろん、過去のスタディに参加していなくても全くかまいません。アーティストが何かをつくる過程を「知って」、自分で実際に手や頭や体を動かしながら、つくることを一緒に「やってみて」、その過程で得たなかでの問い、もやもや、発見などを共有して「考える」。そういう作業をやってみます。

そして、そういう小さい作業の積み重ねが、「東京」で何かを「つくる」ことに繋がると思うのです。

スタディマネージャーメッセージ(大内伸輔+村上愛佳)

パフォーマンスがやりにくい時代。彫刻が攻撃される時代。ナビゲーターたちが2017年にミュンスターで描いた夢は、こんな時代にどのような姿で立ち上がるのでしょうか?

既存のシチュエーションを飛び越えてきたナビゲーターが、変わりつつある東京の風景や人と向き合う姿に同行しましょう。

今回は居間 theaterと佐藤慎也さんに加え、4人のアーティストをゲストに迎えました。5回に渡るワークショップを通して、パフォーマンス・建築・彫刻・映像・サウンドアート・写真などさまざまなメディアに参加者たちは触れていきます。

変わりゆく世界、変わりゆく表現に立ち向かうナビゲーターの強い想いを側で感じ、自身のなかで生まれた新たな問いや発見を深めていきましょう。

東京プロジェクトスタディ紹介映像
スタディ紹介映像

共在する身体と思考を巡って 東京で他者と出会うために

非言語のコミュニケーションやその身体性について議論を深める

アートプロジェクトの現場では、誰かと何かをはじめようとするとき、考えや視点の違いを理解しながら、互いのイメージを擦り合わせ、つくり方を議論します。そこで起きるコミュニケーションは、「言葉」に限ったものではありません。むしろ、表情やしぐさ、声色、動き、間など身体を用いた非言語の領域が、日々のコミュニケーションに大きな影響を与え、支えています。

新型コロナウイルスの感染拡大を経たいま、互いに目を見つめ、相手の息づかいを感じ、何気ないしぐさを眺めながら話をする、そんな当たり前のことが気軽にできなくなりました。そうした状況だからこそ、あらためて「コミュニケーション」や「身体性」について考えられることがあるのではないでしょうか。

今回は、和田夏実さん(インタープリター)、南雲麻衣さん(ダンサー)、加藤甫さん(写真家)の3名のナビゲーターとともに、身体性の異なる人々の世界に触れ、「言葉だけではない」コミュニケーションのあり方について考えていきます。ゲストは、米内山陽子さん(劇作家/演出家/舞台手話通訳家)、田中結夏さん(舞台人/舞台手話通訳者/手話通訳者)、関川航平さん(美術作家)です。

詳細

スケジュール

8月23日(日)
第1回 ガイダンス お互いの顔が見えないまま「出会う」「ともにある」

9月13日(日)
第2回 ワークショップ わたしたちは本当に出会ったのだろうか

10月4日(日)
第3回 ワークショップ 撮る/撮られるから、他者の無意識に触れる

10月31日(土)
第4回 ディスカッション それぞれのもやもやから出会う

11月14日(土)
合同共有会

11月28日(土)
第5回 ワークショップ
フィクションを織り交ぜながら、自分の分岐点について書く

12月6日(日)
第6回 トーク 翻訳する身体と思考を巡って

ゲスト:米内山陽子(劇作家/演出家/舞台手話通訳家)
田中結夏(舞台人/舞台手話通訳者/手話通訳者)

12月20日(日)
第7回 トーク 既存の「自己紹介」の手前にあるものとは?

ゲスト:関川航平(美術作家)

1月10日(日)
第8回 ディスカッション わかりやすさ/伝わるはやさだけにとらわれない言葉を味わう

1月31日(日)
合同共有会

2月7日(日)
第9回 オンライン鑑賞 南雲麻衣のパフォーマンスから「フィクションを織り交ぜる」を考える

2月14日(日)
第10回 プレゼンテーション これまでの経験を表す

3月14日(日)
第11回 試作展示 誰にもなれない自分の身体に、一番近いコミュニケーションのあり方とは

進め方

  • メンバー全員での定例ディスカッション会を月1回開催
  • 各回のディスカッションのあとに、自身の考えや問いを整理し、思考の変遷を記録するために作文(エッセイ、日記など)を書く
  • 当面の間は、オンライン実施の予定だが、状況に応じてROOM302(3331 Arts Chiyoda内)で実施する場合がある
  • メンバーは、ROOM302にて自主活動を行うことが可能

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])ほか

参加費

一般30,000円/学生20,000円

関連サイト

東京プロジェクトスタディウェブサイト

ナビゲーターメッセージ(和田夏実)

「他者と出会うこと。」まだ先行きの見えない、大きな変化の中で、私たちは互いにどんな風に出会い、どうしたらその人らしさを知ることができるのか、そんなとっても身近で、とっても壮大な実験に、ようこそ。

私は、コーダと呼ばれる両親がろうの聴こえるこどもとして生まれ、手話を第一言語にして育ちました。手話という手で空間に描くように構成される言語と、音や文字で線状に紡がれる日本語という音声言語。それぞれの間で、インタープレート(通訳)していく中で、こどもながら、全然伝わっていないのではないか?! という場面に数多く遭遇しました。それは言語自体の翻訳の難しさももちろんですが、温度や空気、気配といったその人らしさを構成するものを、誰かが介在して伝えることの難しさでもありました。

マスクや画面、透明のビニルシート。私たちを守り、隔てるもので、受け取りにくくなってしまったものが想像以上にたくさんあることに、日々驚いています。けれども同時に、それは今まで知らぬ間に受け取っていた、その人らしさがたくさんあったことに、気づいた機会でもありました。

南雲さんと直接会って手話で会話したり、実験したりしていた時に、ぽこっと生まれていた会話の空間(たぶんまんまるの空気の球みたいな形をしていたと思う)が、画面を介すると時間のズレや目線に気づけず、一緒にいる感覚がしないこと(四角くてガチッとした箱に入って、パラレルワールドの先の彼女に話しかけている感じがする)。会議で話し始めるタイミングをどうにもつかめず、「あっ、どうぞ。」という機会が増えたこと。そういえば、小さな頃、どうにも電話を信じることができなかった5歳の私は、何に恐れていて、何があったら信じることができたんだろう、と考えたりします。

ここは毎日の中のコミュニケーションの中に生まれるほんの少しの違和感について、みんなで話し合い考えることを目指した、プロジェクトスタディです。南雲さんの手話もダンスをも現すからだ、写真を撮ることと視覚的な会話について考えている加藤さん。3人と、スタディチーム、そしてこれから出会う、皆さんと。

ざらざらとした不思議に出会い、これは「リズム」の話かしら。「意識」の方向の話かしら。と考えたり、ともになんだろう、と悩み、ともに絵を描いたり、写真を撮ってみたらどうだろう! とつくったりする、そんな実験にご一緒できたら嬉しいです。

ナビゲーターメッセージ(南雲麻衣)

このコロナの影響で、私たちの身の回りのコミュニケーションが少し変化していきました。

第一にマスクをして会話することの困難さ。私の場合ですが、口元が見えなくても人工内耳を使用すれば大体聞き取れます。けれど、言葉を理解する前に、この人はどんな気持ちでこのことを言ったのかをその人の声色からは判断することができないことに気づきました。マスクの奥にある表情が隠れてみえないことにもどかしい気持ちでいます。

ちょっと難しい話をし始めるときに変な顔をする人や、言葉に迷っているときに口をパクパクさせる人など、言葉だけではないところ、その人の顔の表情からも、人間は無意識に情報を読み取っているのではないでしょうか。

これまで苦もなくコミュニケーションできていた人も、マスクやフェイスガードによって声が届かないことを実感することが増えたのではないでしょうか。サービス業では、接客中に身振りなどで伝えようとするパワーが以前より増してきたと思います。私は、マスクからのぞく笑顔に、目尻の皺に注目する癖が身についてしまいました(笑)。

第二に、テクノロジーの進歩により、手話という視覚言語にテクノロジーが追いついてきた感覚があります。巷で流行っているオンライン飲み会や遠隔講演会などは、コロナ禍以降から盛り上がりを見せています。また、手話がわからない人もわかるように字幕を付けるなど、当事者側から発信するアクセシビリティも見られるようになりました。リモートの手話講座はいつも満員だそうです。これまでなかったことでした。

手話とテクノロジーの相性の良さと便益性を発見できたのと同時に、手話という言語は身体をも伴う言語であることを、私のなかで改めて実感しています。オンライン上では、相手の身体がそこにないせいなのか、立体ではない二面の画面であるせいなのか、相手をマークして投げる会話のキャッチボールが、いつもよりうまくキャッチできず戸惑う感覚があります。それはまるで、全力疾走しながら、会話を受け止めている感覚になり、あとから疲労感と物足りなさを感じます。

コミュニケーションの以前に、一人一人の身体や表情がそこに「在る」というリアリティが、ある一定の期間に急速に薄れました。今はその状況を互いにシェアリングできたことで、これまで見えてこなかったものをなんとなく掴みかけているところです。それが一体なんなのか、一人でもやもやしているのではなく、スタディという名前を借りて参加者とともに探してみたい。みんなが同じ状況に立たされた「共在感覚」と一人ひとりの異なる身体を、しぼりだしながらも言葉にして記録し、後世に残すことに大変意味があるのではないかと思います。

インタープリターである和田夏実さんとは、何年も前から手話の先にある視覚身体言語の面白さや、感覚が異なる者の環世界など話し合って、ワークショッププログラムなどを作ってきました。私の手話を翻訳し、音声言語に伝える彼女のパーソナリティを信頼しています。バックグラウンドが違う私たちが二人三脚でやってきたこともこのスタディで発揮できたらと思います。

ナビゲーターメッセージ(加藤甫)

写真を撮っている時、僕には写したい「所作のポイント」みたいなものがあります。それはわかりやすい決定的瞬間的なものではなく、意識と無意識の中間くらいの、撮る側と撮られる側どちらかの主張が強すぎない、ちょうどいい塩梅の自我の入り方。そういうものを撮ることが僕は「写真」らしいと考えています。撮影者として、所作やたたずまい、人がただ居ることなどから感じる「なにか」。普段ファインダー越しに考えていることの正体っていったいなんなんだろう? ということをテーマに扱っていきたいと思っています。それは、「共存する身体」であったり、「他者」であったり、「コミュニケーション」を考えることに通じるはずです。

いま僕は、6歳になるダウン症の息子と暮らしています。

彼は発育が遅く、まだ言葉を話すことはできません。話せないけれどもちろん意思はあって、その意思の発し方は独特です。ジェスチャーや音、文脈などを使って伝えようとします。彼の発露を「どう受け」「どう返す」のか、僕自身も想像力を駆使しながら試行錯誤する毎日です。

彼らは「療育」と呼ばれる、発育の遅れを補うための訓練を受けています。社会で生きていくために、他人とコミュニケーションが取れるように。そこに立ち会い、息子の成長を嬉しく見ている反面、なぜ彼らはそのままでは生きていけないのだろうと思うことがあります。

「成長」ってなんだ? 社会に適応していくことばかりが「成長」なのだろうか?

コミュニケーションにおいて、発する側だけでなく受ける側のありようも、同じように大切な気がします。だから、このスタディでは身体と視覚を主な手がかりに、コミュニケーションの受け方についても考えていきたいと思っています。

スタディマネージャーメッセージ(嘉原妙)

思い立ってあの人に会いに行く、隣に座って、声色や表情、その人がまとう空気に触れながら話をきく。そういう当たり前のことが、こんなにも愛しいと感じていたんだと気づく日々です。2020年春から、わたしたちが目にする暮らしの風景は一変しました。マスク、ビニールシート、パーテーション、消毒液の香り、透明の膜で覆われた暮らしの風景は、人と人、人と社会の距離を物理的にも、心理的にも、どんどんと遠ざけていくようで心許ない気持ちになります。こんなにも遠ざかった者同士が、ちゃんともう一度出会うことができるのだろうか。そもそも、こうなるずっと前から、わたしたちは他者とちゃんと出会ってきていたのだろうか。分断の肌触りを日々体感しながら、そんな問いをわたしは抱えてぐらぐらと揺れています。

大げさかもしれないけれど、人は、生きていく上で、自分とは異なる他者の存在を知ること、また、そこにその人が「いる」んだと実感することが、自分自身の存在を確かめる拠り所となっているのではないかと思うようになりました。そして、その人とコミュニケーションを重ね、互いの考えや感覚の違いにハッとして、ときには喜んだり、悲しんだりしながら、自分と他者との距離感を知っていくこと。この人と人との「間」の部分に触れようと手を伸ばすふるまいは、他者と出会うときのヒントになるんじゃないか、そんなことをぐるぐると考えています。

今回、インタープリター(通訳者/解釈者)の和田夏実さん、ダンサーの南雲麻衣さん、写真家の加藤甫さんという3名のナビゲーターと共に、「身体」を軸に「コミュニケーション」にかかわる実験・実践を重ねていくスタディを立ち上げました。ナビゲーターの3名、運営チーム、そして参加者のみなさんと、それぞれの異なる身体性や眼差しを交換したり、ときにはぶつけ合ったりしながら、わたしたち一人ひとりの「間」にある「何か」への触れ方、ふるまい、他者を想像する新たな方法やとっかかりのようなものを一緒に探ってみたいと思っています。

東京プロジェクトスタディ紹介映像
スタディ紹介映像