わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編

多摩地域を舞台に、地域の文化的、歴史的特性をふまえつつ、さまざまな人々が協働するネットワークの基盤づくりを進める『多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting』。その活動の一環として2021年度に開催した連続ワークショップの記録集です。

さまざまなフィールドで活動するゲスト6名を招いたレクチャー編と、写真家・豊田有希をゲストアーティストに迎えたフィールドワーク編を収録。別冊附録では、レクチャー編の内容を読み解きました。

首都東京を辺境として外から見ることを試みる、あるいは自分自身に執着する「わたし」を、辺境と定置き外から見ることを試みるとき、辺境としてのそれらを照らす光として、水俣、沖縄、福島、あるいは新潟といった、近現代の日本を支えた地に助けを借りたいと思います。水俣や沖縄、福島に立ち、その地の歴史を持って首都東京を見ること、東京あるいは多摩を相対化し、立脚点をずらし、視点を変えていくことで、これからの私の、私たちの暮らしについて、新しい眼差しを得ることができないか、あるいは、大変に遅まきながらであっても彼の地とのこれまでとは違う、一方的な搾取を超えた何かを紡ぐことができないかという願望に基づいた仮説でもあります。立脚点をずらしていくこと、その回転運動が血流をよくし、あるいは呼吸をしやすくするのではないか? 反転させてみること、あちら側からこちらを見ること、これらを成すために、アートは時に思いもよらない(危ういながらも確たる、そして変わり続ける事を肯定する)足場を提供します。

(p.3)
もくじ

なぜ、多摩の未来の地勢図をともに描くのか?
宮下美穂(NPO法人アートフル・アクション事務局長)

レクチャー編
第一回 生きてきてくれてありがとう。安心と楽しいを一緒に育む
高橋亜美(社会福祉法人子供の家 ゆずりは所長)

第二回 揺らぎと葛藤を伝える−水俣病患者相談の今
永野三智(一般社団法人水俣病センター相思社職員)

第三回 ハンセン病療養所で描かれた絵画−国立療養所菊池恵楓園・金曜会の作品を見る
木村哲也(国立ハンセン病資料館学芸員、民俗学者)

第四回 分断のなかにつながりを発見する−アートプロジェクト{つながりの家}と「旅地蔵」
高橋伸行(アーティスト、愛知県立芸術大学教授)

第五回 「なりたい自分になる」とは?−「カマボール」の企画・実施に携わって
松本渚(NPO法人釜ヶ崎支援機構職員、釜ヶ崎芸術大学運営チーム・かまぷ〜)

第六回 老い、ボケ、死に向き合うための「演劇」−劇団OiBokkeShiの活動からの提案
菅原直樹(俳優、介護福祉士、劇団「老いと演劇」OiBokkeShi主宰)

開催記録

別冊附録 語り合うことで見えてくること−フィールドワーク試論

フィールドワーク編 講師:豊田有希
第1回 黒岩地区で写真を撮るということ−「あめつちのことづて」の制作をめぐって
第2回 黒岩の暮らしのこと−黒岩地区にお住まいの方々と一緒に
第3回 多摩地域での制作①−リサーチを始めて
第4回 多摩地域での制作②−多摩ニュータウンと堀之内
第5回 「REBORN プロジェクト」坂本展①−さかもと復興商店街より
第6回 「REBORN プロジェクト」坂本展②−展示とその後
第7回 コンタクトシートなどについて−フィールドワーク、リサーチでの気づきの残し方

*PDFは、「レクチャー編」と「フィールドワーク編」の2冊と別冊附録をまとめたものです。

2022年のジムジム会スタート! 9つのアートプロジェクト事務局が、オンラインで集う勉強会

「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」は、東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、定期的に行っている勉強会です。
2022年度は、9つのプロジェクトによる新たな顔ぶれでスタート。20名以上のメンバーがオンラインで集った、第1回目の「ジムジム会」をレポートします。

東京アートポイント計画、2022年度のポイントは?

2022年5月に行われたジムジム会。プログラムオフィサーらと各事務局のメンバーがZoom上で集合。これまで継続してきた6つのプロジェクトに加え、今年から新たに3つのプロジェクトが参加。各事務局からディレクターや事務局長、会計担当などのメンバーが集いました。

前半では東京アートポイント計画ディレクター・森司の挨拶の後、東京アートポイント計画事業の実施方法である「共催事業」の基本を学びました。

「この2年はコロナ禍で非接触のイベントが続いていましたが、今年度は対面での事業も少しずつ増えていく状況になることを期待しています」とディレクターの森。続けて、「今年度は事業評価のプロセスをひらき、事務局との双方で評価していきます」と述べました。
評価軸はプロジェクトの「運営」と「企画」。この2つの視座は、アートプロジェクトを持続的に行っていくためにどちらも必要なものです。年度の初めに1年間の目標を立て、年度末に双方で評価を行います。

共催って?共催事業、基本の「き」

次に、プログラムオフィサーの大内伸輔より、東京アートポイント計画の「共催事業」とは何かについて、話しました。

アートプロジェクトの拠点づくりやコミュニティの育成を目指しスタートした東京アートポイント計画は、今年で14年目を迎えます。これまで通算で56の団体とプロジェクトを実施。「助成」ではなく、東京都とアーツカウンシル東京、そして各プロジェクトを運営する団体とがパートナーシップを組む「共催事業」で実施していることが特徴です。
共催事業である理由。それは単発のイベントではなく通年のアートプロジェクトの実施を通じて、共催団体が持続可能な活動を行う基盤整備をしていくことを目指しているからです。東京アートポイント計画で事務局を担う共催団体は、スタートしたばかりのNPO法人や一般社団法人が多いのですが、大内をはじめとするアーツカウンシル東京のプログラムオフィサーと一緒に、二人三脚でプロジェクトを進めていきます。これから1年間プロジェクトを運営するにあたり、大内から改めて、年間の計画や、広報のフロー、情報管理のルールなどについての説明がありました。

東京アートポイント計画は、社会に対して新たな価値観や創造的な活動を生み出すための拠点となる「アートポイント」をつくる事業です。東京都・アーツカウンシル東京・NPO*との共催で行っています。当たり前を問い直す、課題をみつける、異なる分野をつなぐ――そうしたアートの特性をいかし、個人が豊かに生きていくためのよりよい関係や仕組み、コミュニティづくりを目指しています。

東京アートポイント計画公式ウェブサイト

9つのプロジェクト始動!各プロジェクト、自己紹介

一度休憩を挟み、各プロジェクトの自己紹介へ。昨年から継続したプロジェクトのなかで、長いものは6年目。新たに加わったのは「めとてラボ」「KINOミーティング」「カロクリサイクル」です。それぞれのプロジェクト事務局から、簡単な自己紹介と、「最近はまっていること」を一人ずつ話していきました。

各団体の事務局のメンバーは、東京アートポイント計画のプロジェクトに関わる以外に、キュレーター、デザイナー、通訳者、ダンサー、文化施設スタッフから、バスの運転手や子育て中のお母さんまでさまざまな仕事やバックグラウンドを持ちます。「最近はまっていること」も千差万別。ベランダ菜園、空き家改修、語学、農業、パワーリフティング、自転車、山登り、社交ダンス、吹き矢、アニメ鑑賞など、今年も多様なメンバーが集まりました。

各プロジェクトの2022年度の企画を紹介します。

HAPPY TURN/神津島

昨年度からの継続事業、神津島村を中心に活動。島での拠点づくりやコミュニティを醸成してきたプロジェクト。今年は拠点「くると」をより開くことを目標に、親子や移住者を対象にしたアートプログラムを展開しています。

・詳細は公式ウェブサイトから

ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―

昨年度からの継続事業、墨田区を中心に活動。アーティストや研究者と出会い、豊かに生きる想像力を学ぶプロジェクト。今年は福祉施設との協働や、地域アーカイブの活用、日常の当たり前を見直すワークショップなどを開催します。

・詳細は公式ウェブサイトから

Artist Collective Fuchu [ACF]

昨年度からの継続事業、府中市を中心に活動。年齢や職種が多様な人が交流しながら、誰もが表現できるまちをつくることを目指しています。今年度は拠点の開設と、企業との連携により廃棄素材の活用を試みるプロジェクトを昨年から継続して行います。

・詳細は公式ウェブサイトから

移動する中心|GAYA

昨年度からの継続事業、世田谷区を中心に活動。昭和のホームムービーを活用して、記録から現在を見つめ直すコミュニティアーカイブプロジェクト。今年は例年のワークショップに加え、外部団体と連携したプログラムを実施予定です。

・詳細は公式ウェブサイトから

ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)

昨年度からの継続事業、国立市を中心に活動。多様な人々が交流するプラットフォーム形成から新たな文化や社会課題への視点をつくります。今年度はアーティストとともに行うプログラムや、市内の遊休施設を活用した、活動の拠点づくりを目指します。

・詳細は公式ウェブサイトから

多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting

昨年度からの継続事業、多摩地域を中心に活動。小学校や養護施設と協働しながら、多摩地域の地勢を参加者と探り、暮らしを見つめ直すプログラム。今年度は昨年に引き続き、小学校を拠点に教員や地域のネットワークの形成、多摩の地勢をとらえなおすワークショップなどを行います。

・詳細は公式ウェブサイトから

めとてラボ

今年度からの新規事業、都内各所で活動。異なる身体性、感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会をつくるプロジェクト。拠点形成、実践者や専門家・事例等のリサーチをはじめ、チームづくりや事業成果を可視化するプラットフォームづくりを行います。

・詳細はアーツカウンシル東京ウェブサイトから

KINOミーティング

今年度からの新規事業、都内各所で活動。フィールドワークや映像制作を軸に、海外にルーツを持つ人たちの協働の場をつくるプロジェクト。活動を通し、参加者自身のルーツと、現在生活しているエリアやコミュニティとの関係性を探ります。

・詳細はアーツカウンシル東京ウェブサイトから

カロクリサイクル

今年度からの新規事業、江東区などで活動。これまで東北を中心に被災の経験を記録してきた一般社団法人NOOKが事務局となり、災禍に関わる対話のプラットフォームづくりを目指します。

・詳細は公式ウェブサイトから

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各プロジェクトについて、詳しくは東京アートポイント計画公式noteもご覧ください。

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こうして自己紹介が終了。次回、6月には、「広報」をテーマに開催します。

アーツカウンシル東京の主催で設定したジムジム会は全5回の予定ですが、例年、事務局側が自主的に集まるオフ会のような集まり「ゆるジムジム」なども実施されています。別の地域で活動する団体とも横のつながりが生まれ、それぞれの活動や悩みを共有できる場が、ジムジム会の大きなメリットでもあるのです。

運営裏話〜初めて手話通訳を導入〜

最後に運営側の裏話として、手話通訳についても触れたいと思います。今年度加わった「めとてラボ」にはろう者のメンバーもいるため、今回のジムジム会から手話通訳を導入。ジムジム会では初の取り組みとなりました。

これまでにもジムジム会の情報保障としては、UDトーク(自動文字起こしのサービス)を試したことがあり、今回も導入しましたが、オンラインでの手話通訳は初体験。事前のリハーサルでは「画面共有やスピーカービューだと手話通訳が見えなくなる」という課題を確認し、手話通訳者を「スポットライト表示」で画面に常に表示させたり、通訳の交代は画面のオンオフで行ったりと、細かな調整を行い、本番はスムーズに進行できました。

・参考記事「Zoom ✕ UDトークで、リアルタイム字幕を表示するには? 実験してみました

参加した団体からは「手話の方と一緒にZoomミーティングをしたのは初めてで、とても新鮮でした。自分の話していることが手話になっていることを考えると、自分の話す速度や言葉づかいを意識する瞬間がありました」という感想も。

手話通訳が入ることで、自然と話すスピードや伝わる言葉を意識するようになったようです。各団体にとって、アクセシビリティへの意識やスキル向上のOJTになる可能性も見えた会でした。

(執筆:佐藤恵美

アセンブル1 Multicultural Film Making ―ルーツが異なる他者と映画をつくる Multicultural Film Making Archives

さまざまなルーツをもつ人々が協働し、東京のまちを舞台に1本の映画をつくることを試みた「アセンブル1|Multicultural Film Making ルーツが異なる他者と映画をつくる」。本書は、その活動のプロセスをまとめたものです。

多様なルーツをもつメンバーが対話やリサーチを重ねて、制作に取り組み、上映会を迎えるまでを記録したレポートや、移民や多文化を専門とした研究者2名による論考、運営にかかわったスタッフの座談会などを英訳付きで収録しています。

東京は流動的な大都市です。夢を持ってやってきた人がいて、まだ道を探している人もいて、これから次のまちへ出発する人もいて、もちろん既に他の地に移り、過去東京であった出来事を懐かしむ人もいます。あなたも私も、いつか東京と別れる日が来るかもしれません。時間と距離を置いたら、このまちへの思いが変わって、ここでの出会いは人生の重要な糧だと気づくでしょう。私たちが一緒につくりあげた「 ニュー・トーキョー・ツアー」はまさにその物語です。

このブックでは、そんな映画がどのようにできたのか、活動の記録をお伝えします。このまちで、居場所を探している人、宙ぶらりんな自分で悩んでいる人、ルーツが異なる他者に関心を持つ人にとって変化のきっかけになることを期待しています。

(p.2「はじめに」より)
もくじ

はじめに

レポート#0~3
メンバーコメント A期
レポート#4~6
メンバーコメント B期
レポート#7~9

監督&メンバートーク「まちで見つけた自分と他者」
監督&メンバートーク「映画をつくる前と後 わたしたちの変化」

『ニュー・トーキョー・ツアー』
ーこの「まち」の新しい物語をつむいでいくのは誰か ハン・トンヒョン

わたしたちの「新しいまち」へ
ー多文化チームの協働による映画づくりプロジェクトの可能性ー 徳永智子

運営スタッフ座談会

おわりに

アートプロジェクトの運営をひらく、◯◯のことば。

まちなかを舞台にする「アートプロジェクト」には、日々の運営を支えるさまざまなノウハウや事業設計の方法があります。

この動画シリーズでは、そうしたアートプロジェクトの運営に必要な視点や課題について初歩から学ぶために、書籍『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』からテーマを選び、紹介します。

くるとのおしらせ

神津島を舞台にしたアートプロジェクト『HAPPY TURN/神津島』の企画や、島の伝統、伝承、地域文化などを発信する定期刊行物です。2021年度までに28号を発行しました。活動拠点である「くると」での配布のほか、島内の各世帯へ一斉配布されています。

*クレジットは最新号のものです。

テレビノーク

東日本大震災以降、仙台を拠点として、災禍にまつわる記録を活用し、体験を語り継ぐための実践を行ってきた一般社団法人NOOK。2022年から活動拠点を東京に移し、これまで培ってきた知識や技術をいかし、災間期を生きるためのアートプロジェクト「カロクリサイクル」をスタートしました。

オンライン番組『テレビノーク』では、各地の災禍のリサーチや記録活動に携わる担い手などさまざまなゲストを迎え、知見や技術を共有し合う場をつくります。

詳細

放送日時

2022年7月より、月1回程度配信

視聴方法

番組はYouTubeチャンネルでのライブ配信とアーカイブ映像の視聴が可能です。

関連リンク

「テレビノーク」のレポートをカロクリサイクルの公式noteで公開しています。

アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点

この映像では、独自の視点から時代を見つめ、活動を展開している5名の実践者に、2011年からいまへと続くこの時代をどのように捉えているのか、これから必要となるものや心得るべきことについて伺います。

ゲストは、港千尋さん(写真家)、佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、松田法子さん(建築史・都市史研究者)、若林朋子さん(プロジェクト・コーディネーター/プランナー)、相馬千秋さん(NPO法人芸術公社代表理事/アートプロデューサー)です。この10年を大きく俯瞰し、アートプロジェクトと社会の関係を紐解きます。