ACKT まちを舞台に編まれる芸術と文化

アートやデザインの視点を取り入れた拠点づくりやプログラムを通じて、国立市や多摩地域にある潜在的な社会課題にアプローチするプロジェクト『ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)』。

さまざまなプログラムや取り組みを伝える表面と、国立市やその周辺エリアのマップを掲載した裏面で構成された8つ折りのペーパーメディアです。

評価の準備運動。アートプロジェクトの「評価」ってどうやってやるの?

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年7月に実施した第3回の「ジムジム会」では、「ファンタジア!ファンタジア!−生き方がかたちになったまち−」(以下、ファンファン)のディレクター・青木彬さんをむかえ、東京アートポイント計画の大内伸輔の進行のもと、「評価」についてディスカッションしました。

「ファンタジア!ファンタジア!」悩みからスタート

大内伸輔(以下、大内):今年度の東京アートポイント計画では、年度始めに目標を設定し、半期ごとに一緒に事業を振り返る「評価シート」の運用を始めるなど、事業評価のしかたをアップデートしています。その「事業評価」について、「ファンファン」の青木さんから相談がありました。青木さんによると「昨年度末に事業評価をしようとしたら、評価の素材や基準の設定など足りないものがあることに気づいた。今年は事業が終わってからではなく、事業を進めながら評価について考えたい」ということでした。ならばいっそのこと、この課題をジムジム会で共有して考えていけるといいんじゃないかと。それで今日は、事業評価について青木さんの問題意識を中心にみんなで話したいと思います。では青木さん、ファンファンでの事業評価について課題になっていることからお話しください。

青木彬(以下、青木):ファンファンは5年目の事業ですが、年度末に事業報告書を書きながら、自分たちの「ここができなかった」「ここを改善したほうがいいな」など振り返りをしています。ただ毎年同じ課題を引きずっていることに気づき、大内さんに相談しました。年度末に一度振り返るだけだと徐々に忘れてしまう。報告書を書いてすぐに目標をたて、1年を通して取り組むことが重要だと思ったのです。

大内:東京アートポイント計画でつくっている「評価シート」ですが、これまでは年度始めに目標を立ててもらい、年度末にその目標について評価するというサイクルでした。今年度からは評価のタイミングを上半期と下半期の2回にわけたほか、評価のプロセスを共催団体と共有するかたちに変えました。
ファンファンでは自発的に、その評価シートの「目標」の欄に、通常の目標に加えてさらにブレイクダウンした細かな目標を記載しました。こうすることで、より具体的なアクションに通じる内容となっています。なぜブレイクダウンした目標を追加したのですか。

ファンファンの評価シートの一部。赤い部分がブレイクダウンした目標

青木:昨年、非営利団体向けの「事業のロジックモデルをつくろう」という講座に参加したことがきっかけです。事業としてのコンセプトを具体的なアクションや目標に落とし込むワークショップで「このくらい具体的な内容にしないと、次のアクションも漠然としてしまうんだな」と気付いたのです。それまでは、自分たちの活動が「わかりにくい」面があるのも面白いと思っていましたが、もっとわかりやすい言葉に落とし込むのも重要だと痛感しました。

大内:一つの達成目標に対して、さらに複数の達成目標をたてていく方法は、「ロジックモデル」の特徴でもありますよね。前回のジムジム会での「理念」の話にも共通すると思いますが、立ち戻る部分を常に確認しながら事業を進めていけるといいなと思います。このあとみなさんとのディスカッションに入っていきますが、話すポイントをいくつか青木さんにつくってもらいました。

数値でははかれないからこそ、独自の評価方法が生まれていく

青木:今回、ディスカッションしたいなと思うポイントは、おもに「自己評価」「外部評価」「評価の素材の集め方」「10年事業を続けるための姿勢」の4つです。

大内:それでは、各チームにざっくばらんに聞いてみたいと思います。「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)は5年以上続くプロジェクトですが、評価についてどのような悩みを抱えていますか。ディレクターの中村さん、いかがでしょう。

中村圭(HAPPY TURN):島に暮らしていると、日常の面でも「庭の草を刈っているか」「仕事をちゃんとしているのか」など、島の人たちから暮らしの「評価」を日々受けています。一方「HAPPY TURN」のようなアートプロジェクトは、必要性を感じてもらえないこともありますが、なかには理解してくださる方も少しずつ増えています。目先の評価ではなく心に響くかどうかという活動の評価もいただけているんだな、とじわじわ感じています。 

大内:島の人々の暮らしに直結した場所で行っているプロジェクトなので、一つひとつ関係性を丁寧に積み上げていますよね。多摩エリアで活動する「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」(以下、多摩の未来の地勢図)の宮下さんはいかがでしょうか。市などの行政とも連携していますので、外部評価も常に意識していると思います。

宮下美穂(多摩の未来の地勢図):お話をききながら我々の「評価軸」はなんだろう、と考えていたところです。我々の法人が以前行っていた事業(小金井アートフル・アクション!)では、小金井市も入れて評価委員会をつくりました。当初は、よくある来場者数など数値をもとにした評価が中心でしたが、最終的には数値化せず、どのように客観性を持たせるかを議論し、長大な報告書をつくりました。さまざまなエピソードを抽出し、教育関係者・文化政策関係者・市民などさまざまなステークホルダーの方からコメントももらいました。

大内:数値ではなく言葉だと膨大なものになりますよね。

青木:アートプロジェクトは参加者数だけで測れない部分が大きいので、エピソードに対しいろんなバックグラウンドの人たちからフィードバックを得るのはいい方法ですね。ファンファンは最近、福祉施設と共催事業をスタートしました。施設の方々に、事前/事後のアンケートを取ろうと思っています。どのように設問を設定するかを考えていたところなので、宮下さんのお話は参考になりました。
「HAPPY TURN」も「多摩の未来の地勢図」も地域性が違うので、活動する場所によっても評価方法は変わっていきますよね。数値に表しにくいからこそ悩みます。

大内:だからこそ、新しいチャレンジがどんどん出てくるのは面白い点でもあります。

どんな人にも伝わる方法を探る

青木:今年からスタートした3つの事業は、社会課題をテーマとした事業だと思いますが、評価についてどのように考えられているのでしょうか。

大内:「めとてラボ」の和田さんはいかがですか。

和田夏実(めとてラボ):いまは事業をどう説明するかに悩んでいます。さまざまな人を巻き込むときに、はっきり言い切らない余白も大事だけれど、伝わらないのでは意味がないかなと。特に我々が関わっていく、ろうの方や高齢の方に同じ目線で伝えていくことが重要だと感じています。先日ろう学校にリサーチにいきましたが、その学校の先生にじっくりと時間をかけて話をしたら、伝わった実感がありました。ただ、これから事業の発信を進めていくうえで、会ったり直接話したりできない人に伝えるときに、誤解なく自分たちの思いが伝わるか、悩んでいます。

大内:「めとてラボ」は翻訳やコミュニケーションについて考えているチームでもあるので、言語や身体の違いのある人に伝わるよう、慎重になりますよね。ジムジム会は悩みを投げ合う場なので、これからもぜひ悩みをぶつけてください。ちなみに青木さんは活動を始めたとき、地域の人にどのように共有していきましたか。

青木:直接会って話したほうが早いと思ったので、コミュニティのハブになっているカフェにいって、2時間くらいお茶をするなどしました。

大内:メディアをどのようにつくるかも重要ですよね。以前、墨田区で「墨東まち見世」というプロジェクトを実施していたときに、高齢者にどう伝えるかを研究してチラシをつくっていました。文字を大きくして電話番号をバーンと入れて。「HAPPY TURN」でも通信を発行していますが、島の人に親近感をもってもらうために手書きにしていますよね。編集を担当している飯島さんにも、この4つのポイントについてきいてみたいのですが。

飯島知代(HAPPY TURN):『くるとのおしらせ』は1ヶ月に一度発行していて、30号以上つくっています。島に住んでいる方々は屋号を持っていて、年配の方には「君はどこ(の屋号)?」ときかれたりするのですが、最近は「『くると』の者です」というと「ああ、あそこね」といわれることもあり、年配の方たちにも届いているのかなと実感しています。
それから、この4つのポイントのなかでは「自己評価」について、チーム内だけではなく個人単位でやってみてもよいかもと思いました。

エモーショナルな部分をどうやって評価につなげる?

大内:その視点は今回入れていなかったかもしれませんが、運営するスタッフ一人ひとりにとっての目標も大事ですよね。自分の成長がチームの成長につながります。
Zoomのチャットにもコメントがきているので読みますね。「アートプロジェクトは数値ではなくエモーショナルな部分で評価されることが多い印象です。そのエモーショナルな部分をどう評価するかが難しい」と。たしかに、エモーショナルな部分をいかに冷静にみせるかですよね。

青木:評価の手法ではないかもしれませんが、最近は記録を動画に残すようにしています。動画は、現場を体験していない人にもエモーショナルな部分を共有できる素材だと思っていて。場の雰囲気を生のまま伝える方法の一つだと思います。

大内:SNSの隆盛もあり、動画は伝えるツールとしてより身近になりましたよね。紹介ムービーをつくっているプロジェクトも多いですが、たしかにエモーショナルなことを伝えられるメディアだと思います。そろそろ時間ですが、青木さん、何か聞けていないことなどありますか。

青木:聞けていないポイントもありますが、この4つのポイントは全部つながっている課題だと思います。我々「ファンファン」が活動する墨田区では、文化的な活動を長く続けている人が多い地域です。ここで長く残っていくにはどうすればよいか、評価の方法を探りながらこれからも考えていきたいです。

大内:東京アートポイント計画の事業は「10年単位で考える」といったことをキーワードにもしています。まずは10年続けるために、1年目、2年目、3年目と一つひとつステップを踏みながら目標を立て、振り返るようにしていけたらいいなと思います。

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今回のジムジム会は、グループワークやレクチャーなどをせず、「評価」というテーマで悩みや工夫をゆるやかに共有する場となりました。評価を考えることで、事業がどう伝わっているか、どう受け止められているかを抽出していくことは、活動を続けていくうえで重要なプロセスです。1年目の事業から5年以上続く事業まで、それぞれ課題や視点は違いますが、それらを言葉にすることでお互いに気づきの多い会となりました。

(執筆:佐藤恵美

ろう者の感覚を知る、手話を体験する

手話でのコミュニケーションの基礎とろう文化を学ぶ「アートプロジェクトの担い手のための手話講座」。

3ステップある講座のひとつ「ろう者の感覚を知る、手話を体験する。」が2022年7月、3331 Arts Chiyoda 3F ROOM302にて開かれた。

講師は、俳優/手話・身体表現ワークショップ講師の河合祐三子さん、手話通訳は、瀬戸口裕子さん。ステップ1の講座の様子を、実際に講座を体験したライターの視点からお届けする。

「目で見ることに慣れよう」

7月4日、第1回を実施。この日のテーマは「目で見ることに慣れよう」だ。

河合さんが参加者に、自身のサインネーム(特定の人物を簡単な手話で表現した「あだ名」のこと)を共有することからはじまった。

講師の河合祐三子さん。

続いて、参加者それぞれに名前をたずねていく。参加者が音声日本語で伝えた言葉を通訳である瀬戸口さんが手話であらわし、それを河合さんが受け取る。河合さんは、参加者それぞれの名前を手話であらわし、参加者はその手の動きをじっと眺めていた。

「手話は目で見てとらえたものをもとにつくられたものが多い言語なんです」と河合さんは語る。

それをふまえて行ったのが、ボールをまわすワークだ。ルールは、リズム良くボールを回すこと。最初は1つで行ったが、途中からはボールの数や回すものを増やしていった。さまざまな場所からものが受け渡されるので目が忙しい。

河合さんは、このワークのコツを次のように語る。「視野をどのように確保するかがとても大事です。人間はどうしても見える範囲が決まっています。また合図・アイコンタクトも重要。渡す相手が気づいていなかったら合図を出してもいいし、他の人に渡す判断をしてもいいかもしれません」

続いて行ったのは、キャッチボールだ。参加者は2列に分かれ、対面の人にボールを投げる。その際、渡し手・受け手が互いにアイコンタクトをとる。

途中からは、実際のボールは使わず、ボールがあると見立てて、キャッチボールをした。誰に渡すか、どのように投げるかは人それぞれだ。ボールの数も増減し、大きさも変化する。投げる人の動作を細かく見ていないと、どんな大きさのボールが、どのような速度・軌道で向かっているのかをイメージするのが難しい。

続いて、数字の1~5をあらわす手話を教えてもらい、それを活用したワークを実施。手話で数字をあらわし、次の人を指差す、指された人は、次の数字をあらわし、また次の人を指差すというシンプルなものだ。慣れてくると同時多発で行ったり、指差しはせずに表情や目のみで次の人を指定したりするなどのルールが追加された。

河合さん「お互いに視野を広げてアイコンタクトをとる。耳が聴こえない人は、視線や表情、身体でコミュニケーションを取り合っています。お互いに確認をとって『今いいよ』というふうに。合図がないと受け取れなかったり、驚いてしまったりするんです」

次に行ったのは、自分の意図を伝えようとするワークだ。伝え手は2つのカップを持ち、目線、表情、顎で自身の意図を伝えようとする。たとえば、「どちらかを選んでほしい」「片方が美味しい・片方はまずい」などだ。

コップのなかに3つのものが入っていて、そのうちの一つを選ぶワークも実施。どれを示しているのか、もの同士が近いとどれを指しているのかわかりづらいことがあった。

河合さん「相手が違うものを取ろうとしているのであれば、視線をずらしたり、顎を使ったり、首振りしたり、表情を使って伝えましょう。必要以上に大袈裟である必要はありません」

この日、最後に行ったワークは、伝達ゲームだ。お題を受け取った人は、音声を使わず身体で表現したり見立てを使いながら、次の人にお題として指定されたものを渡していく。

相手が渡そうとしているものと、自分が受け取ろうとしているもののイメージがすれ違い、リレーされていくと違うものになってしまう場面もあった。「ホットタオル」を表現していたはずが、リレーによって「活きのいい魚」というイメージに変化していったのだ。

河合さん「今日のワークは、見る・伝え合う・感情を受け止めるをやりました。これは聴こえる人、聴こえない人、関係なく皆さんが日頃やっていることだと思います。腰が痛いとか、ここがかゆいなど、生活のなかで自然とやっている身体表現が人それぞれある。

今日の体験を踏まえて、視野をひろげ、まわりの人がやっている自然な動作を見たり、自分を表現してみたりしてみてください」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、そこでいくつかの質問が河合さんに投げかけられた。

Q. 指差しに抵抗があるが、失礼ではないのか?

河合さん「手話では、指差しで主語をあらわします。指差しをすることで、誰が話をしているのか、誰のことを話しているのか、はっきりと示すことができるので、むしろ大切なんです」

Q. ろう者とのコミュニケーションでやってはいけないことは何か?

河合さん「たくさんあります。たとえば、会話中に目線を逸らすこと。目線を逸らすと、そこで会話が中断してしまうため。目線を外したくなるような気になることがあったら、相手に少し待って、とまず伝える必要があるんです」

「全身を使って伝え合おう」

7月11日、第2回を実施。この日のテーマは「全身を使って伝え合おう」だ。手話での挨拶(片手を額の横で上げるような動き)をひとつ教えてもらい、実際に挨拶してみることからはじまった。

河合さん「同じ挨拶だとしても、年齢が上、同級生など関係性によって、身体のニュアンスが変わりますよね。手話もそうなんです。

違う部分があるのはおじぎです。聴者はおじぎで目線を下げると思います。でもろう者は下げません。目線を合わせてアイコンタクトをして挨拶します」

この日、主に行ったのは身体全身を使って、何かを伝え合おうとするワークだ。

たとえば、実際のボールを使わずに、ボールがあると見立てて渡しあうワーク。ルールは、ボールを渡すとだんだん重くなったり、軽くなったりしていくこと。

河合さん「重いものを受け取ったときと軽いものを実際に受け取ったとき、表情も変わるはずです。肩の動きが変わるかもしれません。重いかな、と予想して受け取って、意外と軽かったみたいなこともあるでしょう。普段の動きを思い出しながら、全身を使って表現してみてください」

続いて行ったのは、出されたお題を身体で表現して伝言リレーするワーク。ルールは、お題とされるものの輪郭をなぞり説明するのではなく、実際に使っているときの動作などで伝えること。

河合さん 「伝えようとして、相手とずれてしまうのは当たり前のことです。ずれていると気づいたときに指差しとか、表情など表現を工夫してみるのが大切です。

また受け手は、相手の手だけではなく、表情、身体全体の動きをみてください。たとえばマグカップの渡し方一つとっても、小指をたてて渡すのと、雑に渡すのでも印象が違いますよね。それも情報になる。指の形によっても違うでしょう。カップといってもいろんな種類があります」

さらに、ものを伝えるのではなく、そこに感情やそのものの状態も含めて伝言するというルールが追加される。たとえば、お茶ではなく「熱いお茶」だ。

河合さん「渡した後の動きにも情報があります。壊れやすいものを手放すときは、そっと手放すかもしれない。あるいは、臭いものと汚いもので微妙に動作が変わる。臭いものは、においから距離をおきたい動作が強いかもしれない。息を止めるかもしれない。そういった身体感覚を思い出してみてください」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、ある質問が河合さんに投げかけられた。

Q. 身体表現はオーバーリアクションの方がいいのか?

河合さん「場所・環境によります。聴こえる人も状況によって、ひそひそ声、大声など自然に変えますよね。手話だと身体が動くので、大きく見えたのかもしれませんが、状況に合わせてコントロールするのがいいと思います。

ひとつ共有したい話があります。スマートフォンの話です。ろう者は使い方に特徴があると思うんです。画面をスクロールしたり、操作するときの指先に手話が混じっていたり、触り方にろう者っぽさを感じるときがあります。

そもそもスマートフォンの使い方は人それぞれの特徴があると思うので、ぜひ観察してみてください。動き・速さ・スピード。電車に乗っていて駅を確認する仕方も、ろう者と聴者は違うんですよ」

「質問に答えてみよう」

7月25日、ステップ1の最後である第3回を実施。この日のテーマは「質問に答えてみよう」だ。冒頭に河合さんが次のことを共有する。

河合さん「先週言い忘れたのですが、気づいたことがありました。聴こえる人は、察して動いてしまう人が多いということです。音声言語で共有されたことを1を聴いて、10行動してしまう。たとえば、他の人に出された指示を先読みして、自分が指示される前に動いたり。そんなときわたしたちろう者は待ってほしい、と思います。誰に対して、何をしてほしいのか、先走って行動するのではなく、少し待ってほしい。聴者はハイコンテクスト、ろう者はローコンテクストの文化に馴染みがあり、それぞれにずれがあるように思います」

この日行ったのは、一人がお題を身体であらわし、もう一人が何をあらわしているのか答えるワークだ。答える方法は、空中に指を動かして文字を書く「空書き(そらがき)」か、手のひらに文字を書く「手のひら文字」だ。

河合さん「『空書き』は相手側の向きに合わせなくて大丈夫です。縦書きでも、横書きでも大丈夫ですが、読み手の目線に入る距離、大きさで書くのがおすすめ。自分と相手の視界に入るように書きましょう。

また、お題を表現する側は、できるだけワンアクションで伝えてみましょう」

実際にやってみると、ワンアクションで表現するのは難しい。お題のどの部分を、どの特徴を選ぶか、それをどのように表現すればいいのかを即座に判断しないといけないからだ。

河合さん「『美術館』というお題があったとき、ただ立つだけではなく、考えながら絵を眺める体の動きになるとワンアクションで伝わることもあるかもしれません。お題が『指輪』のときと『結婚式』のときでもあらわし方が違うでしょう。『神社での結婚式』だと、またさらに違います」

河合さん「まずは一発で伝えようとする。そして相手に伝わらなかったら次の情報を伝えていく。最初から一方的に伝えず、相手に確認しながら付け足していく方法もあります」

ここでルールが追加された。お題をあらわすカードに禁止事項が書かれており、それを避けながら伝え手は表現する。受け手は、それを見ながら、ホワイトボードに受け取った情報を書いていく。

河合さん「受け手が受け取ったものを書くとお互いに次のイメージがしやすくなりますよね。最初は、サンドイッチなのかハンバーガーなのかわからないけど、『手で掴んで食べる何かであること』はぼんやりイメージできる。さらにやりとりを重ねて書いていくと、より具体的なイメージができていく。ろう者はこういうやりとりをしています。イメージを連想しながら、答えにたどり着いていく。そんな物事のとらえ方をしているんです。

人のコミュニケーションは、身振り、顔の表情、声の抑揚など非言語の部分が大きな影響を受けていると言われています。つまり、コミュニケーションは言葉の意味のやりとりだけではないんです。非言語コミュニケーションからも受け取っているものが多くある。それを頭の中でイメージして、相手がどういうことを言いたいのか解釈する。聴こえない人もそうやって、日々コミュニケーションしているんです」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、複数の質問が寄せられた。

Q. 空書きをするとき、漢字で書くのがいいのか、ひらがなで書くのがいいのか?

河合さん「いろいろなタイプがいます。漢字がわかっても、読み方がわからない人もいるんです。手のひら文字の場合は、漢字だとありがたいです。空書きは、どっちでもOK。とりあえず漢字で書いて、伝わらなかったらひらがなでもいいかもしれません」

Q. 一方が知らないものを伝えたい場合は、どうするのがいいのか?

河合さん「さまざまな方法で表現する。わからないときは、要素を抽出して、段階的に伝えていくとか。コミュニケーションは年代とかでもズレていく。それは当然なので、やりとりを繰り返しながら伝え合っていく。諦めてしまう人も多いけれど、諦めずやりとりを続けてほしいです」

「『目で見る言語』である手話を体得していくための、柔軟体操のような講座です」ステップ1の紹介文にはこう書かれている。まさに柔軟体操だった。

普段無意識に行っている「見る」という行為を身体を動かしながらほぐす。他者の手の動き、表情、目線、身体全体を見る。伝える行為の最中だけではなく、その前後から見る。受け取ったものを表現し、相手のリアクションを見ながら、ずれを確認する。さまざまな「見る」を体感することで、「見る」からはじまるコミュニケーションと出会い直せた。

この経験をもとに、次のステップである「手話と出会う。」に参加できるのが、今から楽しみでならない。

(執筆:木村和博/編集:嘉原妙/撮影:齋藤彰英)

関連情報

■step2|プラクティス:手話と出会う。 *申込終了
2021年度に公開した「映像プログラム」を教材に、手話でのコミュニケーションの基礎を学ぶオンライン講座です。映像プログラムは、いつどこからでも視聴いただくことができます。

■step3|コミュニケーション:手話を使い会話する。[対面講座(全6回)]  *申込終了
アートプロジェクトの現場のシーンを想定した会話を通して、手話でのリアルなコミュニケーションを実践できる対面講座です。
イベントの受付対応や、展示会場や劇場での座席のご案内、ショップでの商品説明や販売対応災害時の対応、自動販売機やお手洗いのご案内など、いま、参加者が学びたい手話表現やコミュニケーションをロールプレイ形式で身につけます。詳細はこちらから

「評価への準備」からはじめよう。|アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば

アートプロジェクトの運営にまつわる「ことば」を取り上げ、現場の運営を支えるために必要な視点を紹介する動画シリーズ「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば。」から、「評価への準備」を公開しました!

この動画では、東京アートポイント計画で、アートプロジェクトの中間支援に携わる専門スタッフ(プログラムオフィサー)が、『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(略して「ことば本」)から「ことば」を選んで、紹介しています。

今回取り上げた「評価への準備」について、ことば本では以下のように書かれています。

評価への準備ーープロジェクトを続けるために

プロジェクトをやりっ放しにせず、きちんと「評価」を行う。そして、効果的な評価のためにはその準備も不可欠となる。

まずは「何のために評価を行うのか」という目的の確認から。次の実践に向けた改善のためか、成果を他者へ説明するためか、それとも新たな社会的価値を提示するための評価なのか。有効な評価を行うためには、関係者による議論を通じて、その目的への目線合わせが必須となる。それによってプロジェクトの評価項目や、成果の活用方法が変化する。また、評価の良し悪しを感覚的な判断に委ねないために、評価の材料となる記録や調査がカギとなる。

プロジェクト終了後に、こうした準備をはじめるのは大変であるため、とにかくスタート地点で評価まで見据えて準備をしておくことが大切だ。

あとは状況の変化に順応し、想定外の成果へも目配せしながら、軌道修正していけばよい。プロジェクトの一連の活動に評価を位置づけ、そこまでの流れを事前に設計しておけば、忙しい現場の真っ只中でも自然と先回りをした動きができるようになるだろう。

『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本<増補版>』アーツカウンシル東京、2020年、77頁より。本書は、以下のリンク先よりPDFダウンロードにてお読みいただけます。

東京アートポイント計画が、 アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>

評価は、プロジェクトが終わった後に、活動を振り返ることからはじめることも多いかと思います。ことば本では「スタート地点」から「準備」をしておくことを強調しています。それは、準備となる記録や調査は、後からやろうとすると、とても手間がかかることであるのも、理由のひとつです。評価の対象や目的を意識しながら、プロジェクトを動かすことで、評価の素材を集めることができるようになります。

では、何から手をつければいいのか? 動画の後半では「評価の準備」に必要な記録やアーカイブの参考図書として、『アート・アーカイブの便利帖』を紹介しています。アーカイブのポイントや具体的なテクニックなどを収録した本書を片手に、ぜひ、ご自身のプロジェクトのアーカイブに取り組んでみてはいかがでしょうか?

アート・アーカイブの便利帖ーアート・プロジェクトをアーカイブするために知りたいこと

ほかにも、Tokyo Art Research Labのウェブサイトでは、アーカイブに役立つツールの『アート・アーカイブ・キット』や、詳しくアーカイブについて知りたい方に向けた『アート・アーカイブガイドブック β版』も公開しています。

アート・アーカイブ・キット

アート・アーカイブ ガイドブック(β版)

調査や評価についてのドキュメントもあります。

アートプロジェクトを評価するために:レクチャーノート

アートプロジェクトを評価するために2 ―評価のケーススタディと分析―

アートプロジェクトのつかまえかた:「評価」のためのリサーチの設計と実践の記録

記録と調査のプロジェクト『船は種』に関する活動記録と検証報告

「莇平の事例研究」活動記録と検証報告(地域におけるアートプロジェクトのインパクトリサーチ)

アートプロジェクトの運営で「評価」を使いこなす。そして、持続的なプロジェクト運営や豊かなかかわりづくりにつなげていく。その一助として、ご紹介した動画や資料を、ご活用ください!

Tokyo Art Research Lab「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば」の再生リストはこちら

「活動拠点」を見つけよう。|アートプロジェクトの運営をひらく、〇〇のことば。

アートプロジェクトの運営にまつわる「ことば」を取り上げ、現場の運営を支えるために必要な視点を紹介する動画シリーズ「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば。」から、「活動拠点」を公開しました!

この動画では、東京アートポイント計画で、アートプロジェクトの中間支援に携わる専門スタッフ(プログラムオフィサー)が、東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>(略して「ことば本」)から「ことば」を選んで、紹介しています。

今回取り上げた「活動拠点」について、ことば本では以下のように書かれています。

活動拠点ーー拠点となる場をみつけよう

まちなかでのアートプロジェクトでは、拠点を構えることが効果的だ。「事務局」の事務所として機能し、事務作業やミーティングのための場所として活用することに限らず、プロジェクトを展開する地域のなかで、アーティストやボランティアスタッフ、地域の関係者が集まり、ともにまちにプロジェクトを仕掛ける計画を練り、作業を重ね、活動を発信していく場所となる。

日々、そこでざわざわと活動していることが、地域との顔のみえる関係づくりにも有効に働くだろう。また、活動拠点は、さまざまな情報がストックされていく場でもある。部室のように、人が変わっても活動の歴史が蓄積されていく。 その環境が、新しく加わってくるメンバーの育成の助けになるだろう。

『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本<増補版>』アーツカウンシル東京、2020年、48頁より。本書は、以下のリンク先よりPDFダウンロードにてお読みいただけます。

東京アートポイント計画が、 アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>

「拠点」という言葉から、まっさきに思い浮かぶ風景は何でしょうか。仕事のためのオフィスや、作業場と行き来しやすいカフェだったり、あるいは自宅周辺のことだったり、遠出の際には観光案内所がその役割を担うかもしれません。

ここでは、アートプロジェクトにおける「活動拠点」の考え方について紹介します。まず重要なことが、単発でイベントをひらく貸しスペースや、特定の機能を設えた店舗を指すものではない、ということです。

アートプロジェクトでは、地域住民や企画参加者をはじめ、ひとびとが豊かに生きていくための関係づくりや創造的な活動が生まれる仕組みづくりを大切にしています。活動拠点となる場をひらくことによって、さまざまなひとびとが顔を合わせる機会が生まれたり、企画が終わった後にも訪れることのできる居場所になったり、そこで出会った人同士で新たな企画が生まれたりすることもあります。

具体的な事例については、こちらの記事でも紹介しています。

アートプロジェクトの拠点形成 足立区、墨田区、町田市、そして神津島

さまざまな手法で「活動拠点」をつくる

拠点そのものではなく、拠点をひらくプロセスや、ひらくための仕組み自体をプロジェクトにすることも。制約の多い新築物件ではなく、使い古された空きテナントや遊休地を「ひらきなおす」ために、多くのひとびとを巻き込んでゆく。言い換えるなら、拠点形成が最終的な「目的」ではなく、あくまで途上にある「手法」として捉えてみるということです。

AKITEN運営マニュアル[空きテナントを使ったアートプロジェクト]

としまアートステーションYのつくりかた

活動をひろげるために、あえて「建物」がない場所を選ぶプロジェクトも。まっさらな場所の上に、参加者と一緒にオブジェをつくったり、作品を描いたりしてみる。さまざまな関わりしろが重なりながら、地域に関わるひとびとが行き交う風景をつくりました。

川俣正・東京インプログレス―隅田川からの眺め ドキュメント2010

淺井裕介×東京アートポイント計画

国内のみならず、東南アジア9カ国 83カ所のインディペンデントなアートスペースをリサーチ、収録した資料を見渡してみてもいいかもしれません。

【新装改訂版】 東南アジアリサーチ紀行―東南アジア9カ国・83カ所のアートスペースを巡る

『これからの文化を「10年単位」で語るためにー東京アートポイント計画 2009-2018ー』(26頁〜)でも、プログラムオフィサーの知見から「拠点づくり」の要件をまとめているので、ぜひご覧になってください。

これからの文化を「10年単位」で語るために ― 東京アートポイント計画 2009-2018 ―

日々、さまざまなひとびとの関わりによって活動拠点は表情を変えてゆきます。このまちにどんな風景をつくりたいのか、思いを巡らせながら拠点となる場を見つけてみてください。

Tokyo Art Research Lab「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば」の再生リストはこちら

ケーススタディ・ファイル

2011年以降に生まれた多様なアートプロジェクトを取り上げ、どのようにプロジェクトが発生し続いてきたのか、これからどこへ向かおうとしているのかを、実践者が語ります。

ゲストは、岩井成昭さん(美術家/イミグレーション・ミュージアム・東京 主宰)、滝沢達史さん(美術家)、青木彬さん(インディペンデント・キュレーター/一般社団法人藝と)、アサダワタルさん(文化活動家)、清水チナツさん(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)、中村茜さん(株式会社precog代表取締役)、松本篤さん(NPO法人remoメンバー/AHA!世話人)、キュンチョメ(アートユニット)です。

「広報のデザイン」を考える。|アートプロジェクトの運営をひらく、〇〇のことば。

アートプロジェクトの運営にまつわる「ことば」を取り上げ、現場の運営を支えるために必要な視点を紹介する動画シリーズ「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば。」から「広報のデザイン」を公開しました!

この動画では、東京アートポイント計画で、アートプロジェクトの中間支援に携わる専門スタッフ(プログラムオフィサー)が、『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(略して「ことば本」)から「ことば」を選んで、紹介しています。

今回取り上げた「広報のデザイン」について、ことば本では以下のように書かかれています。

広報のデザインーー活動を、広く伝えるために

どんなに素晴らしい活動でも、それについての情報が発信されなければ、存在が世に知られることはない。イベントの告知という狭い意味での広報ではなく、常態としてある自分たちの活動をどう人々に届けるのか。活動を続けるための広報を考えていくことが大切だ。

では広報に取り組む際、どのようなメディアを活用するべきだろうか。プレスリリースを発信するのか、ウェブサイトを構築するのか、チラシやパンフレット、活動記録集などの紙媒体を制作するのか。新聞や雑誌へのインタビューや、レビュー掲載依頼などはもちろん、シンポジウムや報告会、展覧会などのプログラムを行うことも広報のひとつとなりうるだろう。口コミが力を発揮することもある。伝えたい内容に合わせて、手段、タイミング、予算などを検討し、広報計画を立てる

アートプロジェクトの活動は、一言では伝わりづらいものが多い。例えばまちなかで展開するアートプロジェクトでは、こどもからお年寄りまで、地域のさまざまな世代や背景の人々に情報を届ける必要がある。アートや アートプロジェクトに関わった経験や関心のない人々も多く、そんななかアートの専門用語を並べても関心を惹くのは難しいかもしれない。どんなことばを用いて、 どんな大きさの文字をレイアウトして、どんな写真を添えれば、興味を喚起し、参加したいと思ってもらえるだろうか。

対象に合った情報発信の方法を探り、戦略を立てることが自分たちの活動に光をあてることになる。その計画的な取り組みが、自身の活動に社会性をもたせ、存在価値を高めていく。

『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本<増補版>』アーツカウンシル東京、2020年、52-53頁より。本書は、以下のリンク先よりPDFダウンロードにてお読みいただけます。

東京アートポイント計画が、 アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>

これだけ多くの情報があふれている世の中。誰に対して、どんなアクションを期待するのか、という狙いを定めた情報発信が重要です。
漠然と「やってるよ!」と情報をオープンにするだけでは、たくさんの情報に埋もれてしまうことや、予想していたかたちで情報が届かないことも多いでしょう。(しばし、その偶然が良い結果を生むこともありますが…)

確実に誰かの元に情報を「届ける」ために、どんな視点をもち、どのように計画を立てると良いのか。「広報のデザイン」を考えるためのヒントが載った発行物をご紹介します。

『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』では、広報計画を立てるのにつかえるワークシートや、計画時に考えるとよいポイントなどを紹介しています。

一度書いた文章は、ほかのメンバーや企画を知らない人にも見てもらいましょう。意味が通っているか、論理的な流れになっているか、内容が抽象的ではないかなどをチェックします。ただ単にやりたいことや思いを書くだけでは、伝わらなかったりするものです。
まずは「伝わらない」ことを出発点に、伝えるためにはどうすればよいか、広報担当を中心にチーム内で検討しましょう。

chapter 3 ふかめる 「ことばを磨く」
(『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』、p.46)

思考と技術と対話の学校 基礎プログラム2 [技術編] 2016 アートプロジェクトの現場で使える27の技術

『アートプロジェクト運営ガイドライン—運用版』では、プレスリリースや印刷物の制作についての具体的なポイントもご紹介。情報の送り漏れが無いように、メディアリストをつくっておくことも有効です。

アートプロジェクト運営ガイドライン―運用版

遠くの人か、近くの人か。世代は、興味関心は…。情報の行き先や受け手を考える

誰に情報を届けたいか、情報をキャッチした人にとってほしいアクションは何か。東京アートポイント計画でも、事業の歩みを紹介する「展覧会」を開催してみたり地域(離島)密着型のローカルなかわら版をつくったり子供に事業コンセプトを伝えるための絵本をつくったり、試行錯誤を重ねてきました。

また、2021年度には、「ウェブサイトをつくる」を軸に、プロジェクトの軸や伝えたいことを見直す企画を実施しました。そこでの気づきやもやもやを、オンラインで公開しています。

私達が届けたい情報は、届けたい人に届いているのか? 届いたところで読み間違えられていないか? Twitter や Instagram などでは情報の本質的な部分が抜け落ちた状態で伝わり、表層だけでバズったり・炎上したりといったことがしばしば起こります。そういった事態にどのような心持ちで対処すればよいのでしょうか。

『ウェブもやもや事典』

ウェブもやもや事典

Tokyo Art Research Labのウェブサイトでは、上記のような東京アートポイント計画事業の実践だけではなく、さまざまな実践者の「アートプロジェクトの伝え方」を紹介する冊子も発行しています。

アートプロジェクトを紡ぐ─伝える・ひらく・つなげるためのヒント集

それぞれのプロジェクトらしい発信に向けて、ぜひさまざまな前例を参考にしてみてください!

Tokyo Art Research Lab「アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば」の再生リストはこちら

非営利団体のブランディングとは? 「理念」を整理することからはじめよう!

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年6月に行われた第2回では、コミュニケーションデザイナーの柏木輝恵(かしわぎ・きえ)さんを迎え、「非営利団体のブランディング」について考えていきます。

ブランディングに必要なのは「会議」よりも「話し合い」

情熱を持って活動を始めても、日々の多忙な業務のなかで、活動の意義やその成果を振り返ることがあとまわしになりがちなアートプロジェクトの現場。東京アートポイント計画に参加する非営利団体もこうした悩みを抱えています。

今回のジムジム会の目的は「プロジェクト発信のポイントを考えるための想いが伝わるブランディングや理念の考え方、整理の仕方を知る」こと。一見非営利団体には縁がなさそうな「ブランディング」という観点から、レクチャーとグループワークを通して自分のプロジェクトを見つめ直し、言葉にしていきます。

講師は、兵庫県加古川市でコミュニティづくりや組織支援を行うNPO法人シミンズシーズの事務局次長をつとめる柏木輝恵さん。柏木さんは10年以上にわたり非営利団体とのチームづくりやコミュニケーションの場づくりに携わるなかで、たびたび「思いが伝わらない」という現場の悩みに触れてきました。そこで思いを伝えるには、団体の「理念」を軸にしたブランディングが重要だと考え、『NPOのための思いを伝わる言葉にするワークブック』(発行:NPO法人シミンズシーズ)を制作しました。

今回はこの本にあるワークシートを使ってワークショップを行っていきます。

[ジムジム会 第2回の流れ]

  1. 柏木さんによるレクチャー
  2. 事前に記入したワークシートをもとに団体内で話し合う
  3. 2で話し合ったことを、他団体と共有、フィードバックをもらう
  4. 3の内容を、また団体内メンバーで話し合う

「今日は、ためらわず、感じたことを出し合ってください。Zoomを介した話し合いですのでリアクションも3割増しでお願いします」と柏木さん。ブランディングに必要なのは「『会議』よりも『話し合い』」と話します。

「ブランド」とは信用や信頼を得ること

まずは柏木さんのレクチャーから始まりました。私たちの日常生活において「ブランド(Brand)」は身近なもの。その語源をたどるとBurned」という牛を区別する焼印のことだそうです。つまり、自分が飼っている牛がどれかを識別するために入れた印が、品質を保証し、価格差を生んで生む印となっていきました。

誰もが知るブランドを思い浮かべると、その特徴は明確で一貫性があります。その背景には「志」があり、それにともなう行動や表現が一体となり、それが信頼や信用につながっていく。さらにほかとの「差異化」があるのも重要です。

しかし一貫した「志」をどのように伝えると、具体的な参加や関わりにつながっていくのでしょうか。そのポイントは「ゴールデンサークル理論」と呼ばれるものがあります。

ゴールデンサークルとは、中心から「Why(なぜ)」→「How(どうやって)」→「What(何を)」と外側に広がっていく円。その順で伝えることで共感を生みやすいという理論です。人は「なぜそれが生まれたのか」「なぜそれをやっているのか」に心を動かされる。そのストーリーが人を動かし、共感を呼ぶのだそうです。

「Why」というストーリーが共感を呼ぶ

「なぜ(この取り組みをしているのか)」を伝えるには、まずは「自分たちは何者か」、つまりアイデンティティや存在意義につながる「理念」を明らかにする必要があります。

今回のワークショップではその部分を考えていきますが、「理念」は抽象的な言葉でもあるので、具体的なブランディングの用語「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「スピリット」「スローガン」にわけて考えるとイメージしやすい、と柏木さん。「ミッション」が日々果たすべき使命であるのに対し、「ビジョン」はその先にどんな社会や地域を描くかという未来のこと、「スピリット」は一人ひとりの大切にすべき精神のことなど、理念と一口にいっても目的によって何を語るかが違ってくるのです。

企業のブランディングとNPOのブランディングの違いについて、「理念を軸にすること自体は変わりません」と柏木さん。ただ、商品を売る場合はマーケティングを行い市場で何か求められているかを基準にすることが多いですが、NPOの場合は、内部から「変えたい」という思いからスタートしているのではないか、と柏木さんは話します。その思いを理念として言葉にしていく。できるだけ短く、コンパクトに伝えていくことが重要です。

「さまざまなプロジェクトを行うなかで、団体として変わる部分と変わらない部分があると思います。そのなかでも変わらない部分が、団体として受け継がれるDNAと考えてみてください。その部分を紐解くことが『自分たちらしさ』のヒントになるでしょう」

エピソードから「自分たちらしさ」を言葉にしていく

ここからはワークショップへと移ります。事前にそれぞれがワークシートに記入した次の2つのことを、団体内で共有していきました。

  1. 喜ばれたエピソード
  2. 私たちの活動の意義と大切にしている行動や価値観

活動6年目の「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)のチームを中心に、どんな話がされたのかを紹介していきます。HAPPY TURNでは、4人のメンバーが参加しました。「信用や信頼につながるブランディングのためには、意図をみんなが共有してパッと答えられるのは重要だと思う。その言葉ができたら、どこかに貼っておくのもいいかも」とメンバー。

HAPPY TURNでは、「くると」というスペースをつくり、週に3回ほど開放しています。「くると」に集う人はワークショップに参加したり、スタッフとして掃除のアルバイトをしたり、ただ来て話して帰ったり、と利用方法はさまざまです。

「1. 喜ばれたエピソード」を一人ひとり紹介するなかで子育てで忙しいお母さんたちに喜んでもらった」経験が複数話されました。「家で子育てをしていると社会から孤立してしまうけれど、『くると』に来ると、社会とつながることができる」と話すメンバーも、自身が子育てをしながら運営に携わります。

またほかのエピソードとして「子供が『ここで友だちができた』と話していたのが印象的。特に、Iターンで移住した家族の子供はなかなか関わりがつくりづらいですが、ここで友だちができた、と。子供たちが両親ではない大人に出会う経験も重要ではないか」と話されました。

次に二つ目の項目である「活動の意義」として「いろんな人がいるなかでいろんな価値観に触れ合える」「やってみたいことが安心してできる」「自分とは違う価値観と向き合える」があがりました。さらに「大切にしていること」は「だれでも来られる場所にしておくこと。自分たちの常識を押し付けるのではなく、見守ったり寄り添ったりすること」などがあがり、HAPPY TURNでのプロジェクトの意義を再確認していきました。

20分ほどメンバー間で話し合ったあと、HAPPY TURNはほかの3団体と合流し、話しあったことを共有していきます。ほかの団体からは「HAPPY TURNは島という地域の特徴が現れているプロジェクトだと思いました。その『島らしさ』が外に発信されるといいですね」などのコメントがありました。

その後、また団体のメンバーのみで話し合っていきます。ここからさらに言葉をしぼっていく作業です。HAPPY TURNも、キーワードがたくさん出ました。「自由」「安心」「楽しい空間づくり」「つながる」「解放」「他者や自分と向き合う」「遊びごころ」「しる」「やってみる」「いきやすさ」「オープンマインド」「ウェルカム」「であう」………。時間内には絞りきれませんでしたが、一人ひとりが活動への思いを言葉にし、共有する経験は貴重な時間となりました。

活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくために

最後に、柏木さんから理念を策定していくステップが紹介されました。

理念策定のステップ

  1. 素材をさまざまな角度から洗い出す
  2. 素材を抽出する
  3. (文章にしたり、箇条書きにしたり)抽出した素材を項目ごとにまとめる
  4. 項目間の整合性を確認する
  5. まとめた素材を短く・らしく磨いていく

「今回は限られた時間のなかで1や2を行いましたが、理念をつくりそれを言葉にしてくにはもう少し時間をかけて取り組む必要があります」と柏木さん。

「今日のようにまずは団体のなかで話して、すり合わせていくのが大事です。『何をやるか』も日々も重要なことですが、『何のために』という本質的な部分、どこに自分たちらしさがあるのか、もぜひ心に留めてください。短い言葉で内外にわかる状態にしていくのが行動につながるのではないか、と思っています」

ジムジム会終了後の参加者アンケートからは、各団体の手応えが見受けられます。

「他の団体の方と話しながら考えることで、別の角度から自団体の特色が見えてきました」

「団体としての目的やプロジェクトの意味などなんとなく理解しているつもりでしたが、いざ言語化となると自分の言葉で話すのは難しいな、と感じました。もっと考える力や知識を身につけていきたい」

「理念とミッションがごちゃごちゃになったり、個人軸のスピリットと組織軸のバリューが混ざったりして会話をするからかみ合わないのかもしれないという気づきもあり、再度皆で整理しながら話し合いをしようと思いました」

自分たちの「らしさ」を改めて見つけ、メンバーで共有し、言語化していく。活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくための重要なステップとなったようです。

(執筆:佐藤恵美