東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、活動を展開する際の手法や視点を学び合ったり、悩みや課題を共有し合う勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2024年度は全体のテーマを「パートナーシップ」として行っています。10月18日に国立市の「Kunitachi Art Center 2024」を見学した、第2回の様子をレポートします。
まちに広がる活動を、ひとつの枠組みでつないで見せる
アートプロジェクトの事務局は、行政や地域の施設、まちで生活する人たちとどのような関係を築くことができるのか。そんな「パートナーシップ」のあり方を探るべく、すでに地域で協力関係を広げている現場を訪ねている今年のジムジム会。その第2回では、国立市で「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」を展開する一般社団法人ACKTが開催していた、回遊型のイベント「Kunitachi Art Center 2024」をみんなで回りました。
地域のギャラリーやカフェ、ショップなど、普段は展示をしていないお店も含む複数のスペースをひとつの枠組みでつなぎ、参加者をまちの新しい顔に出会わせる「Kunitachi Art Center」の取り組み。そのはじまりは、ACKTのディレクターで、国立市で複数の機能を兼ねたスペース「museum shop T」も運営するデザイナーの丸山晶崇さんが、同じ地域で活動する「Gallery Yukihira」や「STUDIO322」のメンバーと話していた際、少し離れた互いの拠点を歩いて回ったらおもしろいのではと、何気なく思いついたことに端を発します。
「最初は身内同士の話で、大きくしようとは思っていなかった」(丸山さん)という取り組みは、コロナ禍による最初の緊急事態宣言が迫る2020年3月に第1回を迎え、15箇所のスペースに、多摩を拠点とするアーティストらが作品を展開。その後、第3回までを有志で行いました。並行して、2021年にはACKTと東京アートポイント計画の共催事業として「ACKT」がスタート。「Kunitachi Art Center」も、第4回より共催事業の一環として開催することになりました。現在、ACKTでは、参加作家とスペースのフォローや、広報、ボランティアの募集など、事務局機能を担当しています。
「ギャラリーって、普段はなかなか入りづらいですよね。でも、Kunitachi Art Centerのような機会をつくると、新しい人にも来てもらえる」。そう話すのは、ギャラリー代表の福嶋幸平さん。よく行くカフェが参加しているから、ほかの店にも入ってみる。「そんな日常を拡張させる体験は、国立のような住宅地でこそ重要だと思うんです」と語ります。
会場の堀さんにお話を聞くと、「国立に住んで5年目。クリエイターも多いまちですが、普段は個人で活動しているので、あまり出会う機会がなくて。今回の催しに参加して、初めて仲間として認めてもらえた感じがします」との声が。Kunitachi Art Centerは、地域のなかでのつながりを求めるつくり手にとっても、貴重な機会になっているようです。
この作品は、2015年から国立で開催された全国公募の野外彫刻展「くにたちアートビエンナーレ」の一環で、2018年に設置されたもの。大学通りやさくら通りには、この展示の際に制作された彫刻が多く残っています。「一方、野外彫刻は市民にはなかなかアクセスしづらく、そうした意識から市民参加型の取り組みとしてはじまったのが、僕たちの活動であるACKTです。今回の『Kunitachi Art Center』には山本さんにも参加していただいています」と加藤さん。イベントの背景への理解を深めつつ、さらに谷保方面へ歩きます。
「普段から地域の方々に文化に親しんでもらいたいと思ってまちに携わっている」と語る加藤さんは、「Kunitachi Art Center」をやって良かったこととして、「国立に30年ほど住んでいるご夫婦に『こんな場所があるんだ』と言ってもらえたこと」とコメント。こうした、まちのなかにインパクトのある場所が点在していることを実感したという感想は、いろんな参加者から聞かれたと言います。
「Artpoint Radio 東京を歩く」では、都内にあるさまざまな拠点を訪ね、その運営にかかわっている方にインタビューを行い、その様子をラジオとレポート記事の2つの形式でお届けします。 拠点によって、その業態や運営の手法、目指す風景はさまざま。そうした数多くのまちなかにある風景には、運営者たちの社会への眼差しが映し出されているのではないでしょうか。 本シリーズでは、拠点の運営にかかわるひとびとの言葉から、東京の現在の姿をともに考えていきます。
今回お話を伺ったのは、STUDIO322を運営する3人、赤羽佑樹(あかば ゆうき)さん、いしかわみちこさん、佐久間茜(さくま あかね)さんです。赤羽さんといしかわさんは写真家、佐久間さんはイラストレーターとしてそれぞれ活動をしています。3人の出会いやこの場所の使い方、そして東京アートポイント計画の一環としてACKT(アクト/アートセンタークニタチ)が実施し、STUDIO322も企画に携わるアートイベント「Kunitachi Art Center」についてもお話を伺いました。
佐久間 :共用で使っている大きい部屋みたいな感じですよね。Kunitachi Art Centerに合わせて1年に1回オープンスタジオをするくらいが、リズム的にはちょうどいいのかもしれない。イベントの期間中、実際にここを開けてるのは2週間とか3週間だけですけど、そのためのやり取りは、1年間通してずっとしているから、場所としては閉めているんだけど、周りの人とずっとかかわってはいるんですよね。
Kunitachi Art Centerと322
――Kunitachi Art Centerの立ち上げにもかかわっていると伺っています。その経緯について詳しく聞かせてください。
赤羽 :ここにSTUDIO322を構える前の段階で、今年(2024年)もKunitachi Art Centerの企画運営を共同でやっているスペース「museum shop T」さんと、「Gallery Yukihira」さんとは別々に出会っていたんです。museum shop Tの丸山さんに自分の作品を買っていただいたのがきっかけで、ばったり会うと立ち話をしたりする関係でした。そのなかで、今度国立の方面に引っ越すんですよと言ったら、それなら一緒に何かやりましょうって話になって。最初はKunitachi Art Centerとしてではなく、museum shop TとGallery Yukihiraが共同で展示をやって、そこに僕が作家として参加するかたちでした。そうしたら、せっかくつながりができたから、もうちょっと広くできるといいよねという流れでKunitachi Art Centerをはじめることになりました。
――Kunitachi Art Centerの企画が立ち上がった段階で、322としては赤羽さんお一人というより、3人で一緒にという感じだったんでしょうか?
佐久間 :Kunitachi Art Centerでは322に初めて来る人もいれば、毎年この機会に来てくださる知り合いの方もいて、たくさんの人が来てくれるから「最近どうしてんの?」みたいな話をするきっかけになるのもいいなと思っています。単純に作品を見てもらえるのも嬉しいし、ちゃんと話すうちに「今度撮影してほしいんだよね」みたいな話も出てきて、それぞれの仕事につながるきっかけにもなっているのかな。ずっと閉じて使っているだけじゃなくて、ひらくことによっていろんな人が来て話すきっかけになればいいな、と思っています。
佐久間 :イベント好きっていう言葉だけだとちょっと違うかもしれないけど、さっき赤羽さんが話してたように、みんな面白くないと思うことはやりたくないんだと思うんです。たぶんKunitachi Art Centerも、事務的なことで細かく気になっちゃうことはあるけど、より良くしたいとか、こうした方が楽しそう、面白そうみたいなものを共有しているんだと思う。そういう方向性が似ているのかもしれないですね。
赤羽 :つい最近ですが「Kunitachi Art Center 2024」で地域がテーマのトークイベントがあったんです。小平市にある「WALLA」というスペースの運営チームが出ていたんですけど、僕たちに比べてWALLAはひらくことをすごく意識しているように思ったんですよね。地域にいる人たちの目線も含めて、その場所がどのように見られるのかも意識している。WALLAにも道に隣接した大きなガラス面の窓があって、そこから中を覗くと作品が展示してあるっていう風景を意識的につくっている気がしたけど、322は全然そういうのがないって思ったんですよ。
この場所は、普段はシャッターも閉めちゃうし、近くの人たちにこの場所に自分たちがいるということを積極的には見せていない。でもKunitachi Art Centerになると、この場所を公開して、見てくださいってなるじゃないですか。なんというか、かかわりたくないわけじゃないんですよ。地域の人たちや、Kunitachi Art Centerに参加してくれてる人たちとか、むしろかかわりたい気持ちがあるからオープンスタジオの機会があるんですけど。
赤羽:あらためてになりますが、いまはバランスがちょうどいいと思っていて。いろいろ話しましたけど、やれることがあればやりたいし、まちにひらくことが面白そうであれば、やっぱりひらいてみたい。でも、いまKunitachi Art Centerで年一度のペースでオープンスタジオをやっていて、それが生活のバランスとしてもいいんです。生活、制作、仕事のバランスを保つ上で、この場所はもう不可欠な状態になっているから、やっぱりここを手放さないようにしたいですね。作品が大きく取り上げられたいとかそういう野望よりも、つくっていたいっていう思いがあります。そして、ずっと制作したいのと一緒で、ずっとこの場所がないと困るみたいな感じです。だから維持していきたいなと思っています。一見、つまらない答えかもしれないけど。
「Artpoint Radio 東京を歩く」では、都内にあるさまざまな拠点を尋ねてその運営にかかわっている方にインタビューを行い、その様子をラジオとレポート記事の2つの形式でお届けします。 拠点によって、その業態や運営の手法、目指す風景はさまざま。そうした数多くのまちなかにある風景には、運営者たちの社会への眼差しが映し出されているのではないでしょうか。 本シリーズでは、拠点の運営にかかわるひとびとの言葉から、東京の現在の姿をともに考えていきます。
Hand Saw Pressはリソグラフ印刷とDIYのスタジオとして、2018年武蔵小山にオープンしました。オープン以降、4度の引っ越しを経て、2023年に現在の大田区に移転しました。スタジオには壁一面に、チラシやポスターなど、カラフルなリソグラフの印刷物が広がっています。リソグラフとは、理想科学工業株式会社が販売しているデジタル孔版印刷機のことを指します。もともと、単色や2色刷りの印刷物を高速で大量に印刷する事務用印刷機として発売されたもので、ズレやカスレが生じる独特の風合いが特徴です。