ゲストに尋ねてみる。山出淳也さん、アートの現場の悩みごとを相談させてください!
執筆者 : 中田一会(きてん企画室)
2021.04.27
2020年12月16日、「つどつど会(都度集うアートマネージャー連絡会議)」第2回をオンラインで開催しました。
>第1回レポートはこちら
北は秋田から南は大分まで、幅広い現場を手掛ける5名のアートマネージャーが集まり、情報共有や相談を重ねていくつどつど会。今回は「悩みを持ち寄る」をテーマに、メンバーのうち2名が活動を紹介しつつ、悩みを共有するところからはじめました。
*つどつど会#02 悩みの発表者
・三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた/秋田県)
・岡田千絵さん(公益財団法人墨田区文化振興財団/東京都)
寄せられた悩みは、目標、成果、組織、記録などさまざま。
それに対し、他メンバーやアーツカウンシル東京スタッフがそれぞれの現場におけるチャレンジや成功事例・失敗事例を引き合いに出しながら、解決の糸口をともに探りました。
約2時間に渡るつどつど会のなかで、それぞれのエピソードから出たアイデアやヒントを一部ご紹介します。
<目標と成果>
*目標も戦略的に設計する
・ストーリーに合わせた目的・目標設定をする(例:前年度は◎◎だったから今年度は△△△を狙う)
・たとえば行政事業で「文化浸透」が目的の場合、指標が曖昧なので、行政側からオーダーがなくとも組織側で成果数字を決めて計測するようにしている
・成長を大事にする事業では、狙いに対して何割できたかという「達成率」を取り入れた
*測りやすい方法を編みだす
・常に報告書があることを前提にし、全事業でアンケートをしっかりとる
・大量集客ができていたプログラムをツアー形式に変更したとき、「経済波及効果」を指標に取り入れた。参加者の総数は減るが「何泊とまったか」をアンケートにいれて、地域への経済波及効果を示せた。企画変更の時点で指標も変更しておき、指標を一つに絞らないことも重要
・ビジネスの現場でも用いられる「バランス・スコアカード」を採用し、複数の視点で評価するようにしている
<組織と人>
*組織図を描いて組み直す
・組織のことで悩んだらまず「体制図」を描くと課題が見える。全員で体制図つくってみるのいいかも
・アーカイブの議論で大事なのも組織図をつくること。誰が権限を持って何を管理しているかを明らかにする必要がある。ただ、アート組織は図が書きにくいことも
・二人組でチームつくり、その上に事務局長が立って事業を振り分け、問題が起きたら事務局長に戻して解決する仕組みをとる方法をとってみた
*負荷や得意を把握する
・スケジュールが過密にならないように、負荷が偏らないように、チーム編成を工夫して常に計測する
・組織内部でできない内容や量は、外部パートナーと連携してどんどん依頼できる体制をとっている
・スタッフごとの得意なことをしっかり把握して上手に頼む
<業務内容>
*相談事業は手掛ける範囲を決める
・BEPPU PROJECT「CREATIVE PLATFORM OITA 」では、さまざまな経営課題をクリエイティブの力で解決する『クリエイティブ相談室』(以下相談室)を開設している。大分県の企業は相談室に無料で相談できる。相談室は、内容に応じてクリエイターと企業のマッチングをおこない、クリエイターと企業が契約してから実際にプロジェクトが開始する
・相談までは公的事業の無料枠でやるが、技術料はちゃんと明確にすることにしている。費用がわかることで相談者もリアリティを持って判断ができる
*料金表を関係者で共有する
・案件ごとの料金表はつくっているが、少し外側の関係者が人づてに安価で仕事を受けてしまうことも。これからは関係者ともしっかり料金表を共有することに
<成果発信>
*参加団体にヒアリング・発表してもらう
・企業連携の事業においては、参加企業に売上への貢献、就労への貢献など数字を含めた成果をヒアリング。成果発表会を開催しメディアを含め多くの方に成果を公表している
*行政とは「計画」を元につきあう
・市の総合計画は、組織全員でその内容を把握するようにしている。その上で、どうやって自分たちの活動が活動できるか考えようにしている
・行政側の計画書のどこに、それぞれのプログラムが紐付いているかを逐一資料にして明示している。議会対応はマネージャークラスが専任でつき、ノウハウと資料を貯めている
・人事異動などの影響でむしろ行政側が根拠となる計画がわからなくなることも。行政外のアートマネージャーが計画を読み込み、論拠を構築できることが大事
*外部事例を共有する場をつくる
・寄り合い的な場に行政の人を招き、他地域の事例を見てもらうタイミングをつくる
*すぐに出せる資料を常につくる
・公共事業の場合、実施意義や成果についての詳細な問い合わせを受けることもある。そういった際にすぐに数値が提示できる資料や業務報告書をつくっておく習慣が重要
<記録と継続>
*公的機関にゆだねる
・記録を誰かに託すことまで考える。アーツカウンシル東京の場合、国会図書館のデジタルアーカイブ部門にウェブサイトの収集をしてもらっている。サーバーやドメインの契約が切れてもコピーサイトが残る仕組み
・印刷物も国会図書館のような公的アーカイブを上手に使うのはおすすめ。綴じている本は何でも受け付けてくれるし、タイトルに「ジャーナル」とつけると記事ごとに検索できるようになる仕組みも
*プラットフォームにゆだねる
・長期的な視点だと難しいけれど、お金がかからなくて世界からアクセスできる場所としては残りやすいのはSNSアカウント。事業が終了した瞬間にウェブサイトが消えたとしても、かろうじてFacebookページが残っていることで参加者の人に向けたその後の情報発信ができた経験も
蟻川小百合さん(みずつち市民サポーターズ/新潟県)
「別府の組織体制を変えた話を聞いて似ているなと思い出しましたが、さいたまトリエンナーレのディレクターチームでは、チームのマネジメントを担当するスタッフがいて、常に全体を見ながら様々な調整をしてくれたので助かっていました。
アーカイブを残すことを誰かに委ねるという発想、いろいろ考えられそうと思います。新潟は市民プロジェクトの記録集をサポーターズが自ら作りました。自主映画をつくるアートプロジェクトを市民プロジェクトで続けていますが、市内の文化芸術活動を伝える一つのメディアになりたいと考え、ドキュメンタリーを撮る活動に力を入れるようになってきています」
大政愛さん(はじまりの美術館/福島県)
「評価、構造化、組織図作り、評価、記録、リソースの認識、本として残すか、ウェブ上に残すか、などなど、様々なトピックが出て、参考になることも多くありました。評価に関しては、最初に指標を決めてもなかなか振り返るタイミングが難しく、模索しております。自分たちのための評価と、協働していくための評価、外にみせていくための評価は、少しずつ異なるのかななどと思いました。
自分の活動では、今日お話がでた議会対応など直接的な行政とのやりとりはないので少し課題や対応は異なってくると思うのですが、法人内やグループ内での説明などにも役立つ部分もあるだろうなと感じました。すぐに解決することが難しい悩みも多いのですが、多様な手段や視座を伺うことができ、『いつかこうしていきたい』というアイデアもいただいています」
岡田千絵さん(公益財団法人墨田区文化振興財団/東京都)
「議会対策って何をすればいいのかわからないと思ってましたが、行政の5ヶ年の基本計画や条例をバイブルにする。と分かっていれば怖くない。色々な地域の行政との話を聞いてそこは常識なのだと実感しました。
報告書や報告会を念頭にアンケートや情報収集の準備をすることは目からウロコでした。でも、確かにそうだと思います。また、組織図を共有する、視覚化するというのは早速やってみます。プロジェクトに参加している団体とそれを共有しながら打ち合わせをすると、団体ごとの事情や特徴が把握しやすそうです。
それから現場が混乱しそうな時はバランス・スコアシートなどを活用して、組織や事業の目標を明確にすることで、組織体制の立て直し、スタッフの疲弊を防ぎたい。。後回しになりがちかもしれないけれど、アートマネージャーのキャリアパスとして、自分の記録やアートマネージャーの仕事をどう発信するかも大事ですよね」
月田尚子さん(NPO法人BEPPU PROJECT/大分県)
「組織運営、スタッフのモチベーション維持・育成、仕事のボリューム、アーカイブの方法などは規模は違えど同じ課題を抱えていたので、とても共感できました」
三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた/秋田県)
「組織体制の在り方、事業のつくり方、行政とのコミュニケーションの取り方など、他の団体でどう取り組まれているかという参考事例や実践的な助言をいただけて、とても参考になりました。
組織の中で話しているだけでは解決しないことも、ある程度近い状況を経験し・理解いただける方々との会だからこそ、適度な客観性をもって助言いただけるんだなと思います」
レポート執筆:中田一会(きてん企画室)