今年度で卒業する3団体の「はじまりの目標と現在地」、その門出から学ぶ
執筆者 : 遠藤ジョバンニ
2024.03.25
東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、アートプロジェクトにまつわる課題や疑問についてともに学び、知見を共有する勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。 2023度は全体のテーマを「活動拠点」として、進めていきます。6月開催の第一回では、各共催団体の事務局が拠点のひとつ「Studio04」に集まり、今後の活動に向けてキックオフを行いました。その様子をご紹介します。
東京アートポイント計画は今年で15年目。社会に対して新たな価値観や創造的な活動を生み出すための拠点となる「アートポイント」をつくることを目的として、これまで東京都内各所で45事業を実施してきました。
「アートポイント」とは、人々が集まり創造的な活動を行う場所やコミュニティのこと。必ずしも具体的な施設や建物である必要はありませんが、継続的に活動を続けるうちに、やはり集まりやすく活動を行いやすい、「自分たちの場所・拠点」が必要だと感じることは多く、これまで実施してきた事業の多くが、活動の中で自分たちの拠点をつくってきました。
アートプロジェクトを動かしていくうえで重要な役割をもつ「活動拠点」ですが、「場所」があればすぐに機能していくものではありません。地域の参加者や事業の外部パートナーといったさまざまな人々との関係、そしてそのつながりから生まれるプログラムの一つひとつが重なりあって、その場は豊かになっていきます。
そこで、今年度のジムジム会では「活動拠点」をテーマに年間の活動を組み立てました。
今年度は新たに3事業(ACKT、カロクリサイクル、めとてラボ)の拠点がオープンすることもあり、「場」をつくっていくために各団体がどのような活動をしているのか、どのように拠点を運営しているのか、どういった関係性のなかで事業が成り立っているのかなどを共有しあうことで、これからの運営のヒントとし、枠を超えて関わりしろを広げる機会となるよう設計しています。
また、これまで事務局スタッフのみで実施してきたジムジム会ですが、今回より、アーツカウンシル東京とともに事業を推進している東京都、各事業の関係者(国立市、UR都市機構)、アーツカウンシル東京の外部評価委員の方々にもご参加いただき、「東京アートポイント計画」の全体像や意義を改めて確認する時間をもちました。
まずは、「東京アートポイント計画」として実施している事業にどのようなものがあるのか、お互いを知るため、8団体それぞれにプレゼンしていただきました。
前半は、事業の概要と直近の活動について紹介いただき、後半はプロジェクトの伴走者であるアーツカウンシル東京の担当プログラムオフィサー(以下、PO)とともに整理した運営面・企画面での課題や目標から、今年度中心的に取り組むことや目標を宣言してもらいました。
以下、それぞれのプロジェクト概要と掲げている目標のポイントをご紹介します。各団体の活動詳細や実施しているプログラムについては、リンク先からご覧ください。
人口約1800人の神津島村を舞台に、島内外さまざまな立場の人とつながりながら、これからの生き方のヒントを発見できるようプロジェクトを行っている「HAPPY TURN/神津島」。
10年間空き家だった場所を島民と整備してつくりあげた拠点「くると」の活用の幅を広げるため、今年度はスタッフの企画による「小さな部活動」を定期的に開催し、住民と拠点との接点を増やしていくことと、共催事業の卒業を見据えて、助成金の申請や運営体制の見直しを目標にあげました。
「転勤などで移住者が多くさまざまな人々が混ざるこの島で、くるとは島暮らしを豊かに生きるための入口になっているはずだし、これからもそういう場でありたい」と話す事務局スタッフの飯島さん。
事業を立ち上げたばかりのころは、たった2人きりだったスタッフも現在では6名に。拠点「くると」が人々をつなぐ重要な場となっていることが窺えました。
「墨東エリア」と呼ばれる墨田区北東部は、2000年代初頭の住民主導のアートプロジェクトをきっかけに、現在も多くのアーティストが暮らす地域。そこを舞台に、地域の人々がアーティストや研究者との出会いを通じて、豊かに生きるための創造力を育む「学びの場」を生み出す試みを行っている「ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―」(通称:ファンファン)。近年は「アートと名付けられない創造力」をテーマに、地域福祉との協働を中心にプログラムを展開中です。
2021年度に墨田区の東向島に「藝とスタジオ」をオープンしたファンファン。もとは町工場だった場所をDIYで整備しました。
今年度はその拠点を多様な人々にひらいていくことを目標に、オープンスタジオの運営に力を入れていくと明言。
現在は、リソグラフを使ったワークショップや勉強会などを定期的に実施しながら、地域の人々をはじめ、さまざまな方に拠点を使ってもらえるよう目指していますが、事務局スタッフの宮﨑さんはオープンスタジオを実施するにあたり「自分が思っている”オープン”って本当に”オープン”なのかというモヤモヤがあった」とのこと。
「より多くの人がスタジオに来やすいように、事前に情報が出ていると安心してこられるかなとか、駅から来るとき身体的な面で来やすくなるアナウンスができたりするのかなとか、そういうことを考えていきたい」と、アクセシビリティを意識した取り組みもはじめており、同じ「東京アートポイント計画」の共催事業である「めとてラボ」や、外部団体との連携企画も積極的に進めています。
職種も年齢も多様なメンバーが集まり、身近なところにある「表現」を通して「だれもが表現できるまち」を目指すアートプロジェクト「Artist Collective Fuchu[ACF]」では、府中市で異なる視点に触れ、互いの違いを尊重し、自由で活発な表現ができる土壌づくりを行っています。
ACFは、2022年度から大東京綜合卸売センター(府中市場)場内のひと区画を間借りし「やど(仮)(かり)」という拠点を運営中。現在は、作品展示や8mmフィルムの上映会などのイベントを不定期で開催しています。
今年度の大きな目標は、「ラッコルタ―創造素材ラボ―」(以下、ラッコルタ)の活動を主軸として、拠点や府中市内外で事業を展開していくこと。
ラッコルタはACFが地域での活動を拡充していくため、府中市との連携を模索し、2021年に市と市民が協働で事業を実施し地域課題に取り組む「協働事業提案制度」に採択されて生まれたプログラムです。府中市内の企業がもつ廃材(ダンボールや布、革製品など)を創作の場に活用する仕組みづくりを行っており、地域の企業や市の担当課と密接に関わりながら事業を進めることで、市内外から声をかけてもらえるようになってきました。
担当POの佐藤は「府中市内外で福祉、教育関係者といった方々と出会い、共同企画を計画するなど活動が広がっているが、同時に多くの問い合わせがきているので、数ある事業をどのように対応していくかが課題」とコメント。
限られた人数と時間、資金のなかでどのようにプロジェクトを動かしていくのか事業の仕組みづくりを検討しながら、行政や府中市内外の企業のほか、新たな外部パートナーとの協働にチャレンジすることで持続的な事業運営を目指します。
「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」は、国立市文化芸術推進基本計画が掲げる「文化と芸術が香るまちくにたち」の実現に向け、行政と市民、市内外の人々が交流し、新たなまちの価値を生み出していくプロジェクトです。
ACKTは事業が立ち上がってから1年ほど拠点となる場所を探し続け、去年の12月にJR南武線の谷保駅の目の前に築70年ほどの「さえき洋品店」という古い建物をみつけました。
現在は、事務局スタッフだけでなく、手伝ってくれるボランティアも募りながら、ワーク・イン・プログレス的に月に2~3回ほど集まって拠点を整備しています。
今年度は、拠点となる「さえき洋品●(てん)」で、さまざまなアクションを起こして行くことと、パートナーである国立市との事業におけるビジョンの共有強化を図り、同じ目線で事業を進めていくことを目標に掲げています。国立市の担当職員の井田さんは「(ACKTの目標のなかに)地域課題を浮かび上がらせるとあるが、市の立場としてはこの課題に一番に取り組んでいきたい。浮かび上がらせたうえで、ACKTの活動を通じて、課題を緩和できたらと思っている」と、意気込みを語りました。
これからひらかれるであろう拠点を起点として、地域の人々とだけでなく、共催間でも手を取りあっていくことが国立市を豊かにする大きなポイントとなりそうです。
多摩地域の文化的、歴史的特性を踏まえ、その「地勢」を探ることを通して、一人ひとりが自分の暮らす足元を見つめ直すプロジェクト「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」では、地域における創造的な中間支援のあり方を模索しながら、さまざまなプログラムを行っています。
多摩広域エリアを対象に、小学校の図工教員や児童養護施設と連携したプログラムなどを実施していますが、「(多摩地域で出会ってきた教員や施設職員は)学校や既存の組織なかでは解決できない問題を抱えているんじゃないかと感じていて、それに対して何ができるのかなというところを常に考えている」と、話す事務局の宮下さん。
事業を進めていくなかで、小学校や児童養護の現場から見えてくる厳しい課題に直面しつつも、事業運営の基盤やプログラムづくりを試行錯誤する様子が伺えました。
今年度は引き続き連携プログラムを行うほか、「生きることの表現」をテーマに、ワークショップやディスカッションを軸としたプログラムを開催し、小金井市にある拠点「シャトー小金井」の2階部分を地域にひらいていくことを試みます。
また、奥多摩地域の小学校を起点にした活動の展開も検討しています。
視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり、異なる身体性や感覚世界をもつ人々とともに、自らの感覚や言語を起点にしてコミュニケーションを創発する「場」をつくるプロジェクト「めとてラボ」。
昨年度は、福島県や長野県、愛知県などの文化施設やろうコミュニティを訪問し、ろう文化やデフスペースについてリサーチを行ったり、ろう者の家庭で撮影されたホームビデオの上映会や、手話通訳環境の整備やツール開発のための勉強会「つなぐラボ」などを実施してきました。
今年度は、リサーチやヒアリングで得た学びを活かし、オープンなイベントを開催していくことと、日本聴覚障害者建築協会や筑波技術大学、研究者や専門家とも協力しながら中長期的に国内外のデフスペースのリサーチを進めていこうとしています。
また、西日暮里駅付近に拠点を構え、今年度の秋ごろのオープンを目指して準備を進めており、聞こえる人、聞こえない人に関わらず多様な人々とのネットワークづくりにも取り組もうとしています。
POの小山は、めとてラボの活動を振り返りながら「今後のアートポイント計画で実施するイベントにももっとさまざまな人に来てもらえるよう、情報保障的な部分も含めて事業を進めていきたいですし、各現場で手話通訳の導入などが日常的になっていけばいいなと思っています」と、団体に呼びかけました。
被災を経験した土地に蓄積されてきた記録物(禍録)や、防災やレジリエンスにかかわる知識や表現の技術、課題等を広く共有するプロジェクト「カロクリサイクル」(以下、カロク)。災間期をともに生き、次なる災禍に備え、災後も活用できるネットワークの形成を目指しています。
カロクはこれまで東北を拠点に災禍の記録や語りを収集し、作品制作や集めてきた記録を読み合い対話する場づくりを行ってきた一般社団法人NOOKが立ち上げました。
事務局スタッフの瀬尾さんはこれまでの活動を通して「東北のことを東北のなかだけで実践していくのではなく、別の場所や体験と結びついていくことで、ある種のケアの場にもなること。語りを語れたという経験がコミュニティを広げていくことやまちづくりにもなっていくということを感じてきた」と言います。そこで、昨年度からは拠点を東京に移し、都内の歴史や災禍の記録のリサーチ、対話や制作をベースにしたワークショップなどを実施。東北で培った経験を活かしながら、全国に協働できる仲間を増やし、新しいプロジェクトをつくっていくことを大きな目標としています。
そんなカロクの拠点は、今回ジムジム会の会場にもなった「Studio04」。
UR都市再生機構(以下、UR)と協働して、江東区大島UR団地内の空き店舗を活用したコミュニティ形成事業を進めています。
URの担当職員である杉本さんは、「団地居住者や自治体運営者の高齢化が進んでいるなか、団地住民のつながりをどのように育んでいくべきなのかが問題意識としてあった。カロクリサイクルとともにアートプロジェクトを進めることで、将来的にこのエリアでいろんな取り組みが行われる拠点ができていったら良いと思っている」と、今後の活動に期待を寄せました。
海外に(も)ルーツをもつ人々とともに、都内のさまざまなエリアで映像制作を中心としたワークショップを行うプロジェクト「KINOミーティング」。対話を軸とした映像制作を通して、東京の「まち」や自身や他者への「ルーツ」について新たな視点を獲得する機会をつくり出すことを目指しています。
KINOは拠点をもたずに活動している事業です。プログラムを行う毎に公共施設などのスペースを活用して、活動を展開しています。
昨年度は、スタッフでまち歩きをしながら地域をリサーチし、在留外国人に向けたワークショップを開発。池袋と葛飾区を舞台に2回ワークショップを行いました。好評だった一方で、ワークショップ設計の都合などから短期的なプログラムとなったため、参加者と継続的な関係を築くことが難しいという課題もありました。
そうした点を踏まえ、今年度は引き続き新たなプログラムを開発していきながら、参加者との関係性を温めていくことを目標に設定。参加者を巻き込んだ地域リサーチや中長期期間でのワークショップの開催、ラジオ番組の配信など、プログラム内での「場」づくりを中心にチャレンジしていきます。
ジムジム会の終了後に「事業開始から6年目、7年目を迎え、卒業を控えた団体の目標が似ていたことを考えると、スタートしたばかりの団体も後にこの課題に直面することになるんだ…!ということがわかって、ジムジム会の意味がすごくある気がしました」と、感想を寄せてくれた参加者がいました。
各団体の共催年数は2年目、3年目の団体もあれば7年目の団体もあり、プロジェクトの目的にもよりますが、活動年数や運営スタッフ数などによって抱える課題や拠点の運営手法はさまざまです。2、3年目の団体は、拠点の環境整備や運営に必要な広報、プログラム開発といった基礎力を身につけていくための目標が多いですが、6、7年目となってくると、これまで積み上げてきた活動を持続していくために、外部資金の獲得(助成金の申請や有料プログラムの開催など)や自治体連携などに力を入れていくようになります。
事業の展望を描いていく際は、当事者間だけでなく、各団体の状況を見聞きし他者の視点を取り入れることで、目的を再確認したり、ときには足元を見つめ直したりすることも重要なことだと実感しました。
発表後は、各団体が交流の時間へ。会場に設置されているカロクリサイクルによる展示作品を囲みながら、はじめましてのご挨拶を行ったり、気になったテーマや課題から今後なにかできそうですね、とそれぞれ興味を持った団体へ積極的に声をかけあう姿がみられました。
取り組みを言語化し共有していく場づくりも大切ですが、こうしたゆるりとした時間を設けることで、新たな企画が生まれることもあります。
アートプロジェクトも、それに伴う活動拠点も、立ち上げてからがスタート。今年度それぞれが掲げた目標を軸に、似た環境にある仲間同士で支えあいながらまずは内側から豊かに。そしてその豊かさを外側へも広げていけるような学び合いを、今後のジムジム会でも実施していけたらと思います。
* 撮影(2、4、8枚目を除く):加藤甫