15年目のアートプロジェクトに、行政とアートNPOのパートナーシップを学ぶ——足立区シティプロモーション課×「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」【ジムジム会2024 #4 レポート】

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2025.03.31

執筆者 : 杉原環樹

15年目のアートプロジェクトに、行政とアートNPOのパートナーシップを学ぶ——足立区シティプロモーション課×「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」【ジムジム会2024 #4 レポート】の写真

東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、活動を展開する際の手法や視点を学び合ったり、悩みや課題を共有し合う勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2024年度は全体のテーマを「パートナーシップ」として行っています。2025年2月19日、足立区千住の「仲町の家」で開催された第4回の様子をレポートします。

行政と組むことで、どのような可能性がひらけるか?

アートプロジェクトの事務局と、まちで活動する人々との「パートナーシップ」について学んできた、今年のジムジム会。その最終回に当たる今回は、足立区で活動する「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(以下、「音まち」)と、足立区シティプロモーション課の協働について知ろうと、音まちの運営する「仲町の家」をみんなで訪れました。

「音まち」は、まちに芸術文化を通じた「縁」をつくるアートプロジェクトとして、2011年に開始。2021年まで足立区、東京藝術大学(以下、藝大)、NPO法人音まち計画(以下、音まち計画)、アーツカウンシル東京、東京都の5者で共催し、東京アートポイント計画(以下、アートポイント)として実施しました。アートポイントからは2021年に卒業しますが、活動はその後も足立区、藝大、音まち計画の3者で継続。2024年度にはその代表的なプログラム「Memorial Rebirth 千住」(以下、「メモリバ」)を実施するにあたり、再び共催事業として展開することになりました。

また、アートポイントでは2024年から本格的に、基礎自治体と組んでアートプロジェクトを行う「東京都・区市町村連携事業」を開始したという背景があり、「音まち」は区市町村との連携のモデル事業としても位置付けられています。冒頭にマイクを握ったプログラムオフィサーの櫻井駿介(さくらい しゅんすけ)は、「行政と組むことでまちなかでの活動の可能性がひらけるのではないか。今後、行政と組む事務局もあると思うので、今日はたくさん質問してください」と参加者に呼びかけました。

お話を伺ったのは、「音まち」のディレクター吉田武司(よしだ たけし)さんと、シティプロモーション課長の栗木希(くりき のぞみ)さん。2015年から音まちに関わる吉田さんは、それ以前にはアートポイントのプログラムオフィサーや、アートプロジェクト「三宅島大学」開催時の三宅村役場の職員など、さまざまな立場からアートプロジェクトに携わってきました。一方の栗木さんは、「まちの魅力をつくる仕事」と紹介するシティプロモーション課に入って7年目、課長を4年勤めています。会の前半では、お二人から足立区やシティプロモーション課、音まちの活動について聞きました。

まちへの誇りを醸成するための、シティプロモーション課の試行錯誤

東京23区の最北東に当たる足立区は、23区内で3番目の面積と4番目の人口を擁し、江戸時代に「江戸四宿」のひとつ「千住宿」として栄えた歴史を持つエリアです。そんな足立区は近年、7エリアで再開発が進み、5つの大学が誘致されるなど、「100年に1度」とも言える変化の時を迎えています。

この背景のひとつが、2005年、北千住駅前再開発の終了や少子高齢化、つくばエクスプレス開業などで地域が変化するなか、新たな戦略として策定された「足立区文化・産業・芸術新都心構想」です。2006年には藝大の千住キャンパスが開校。足立区と藝大は同年「アートリエゾンセンター」を組織し、教育や福祉分野との事業も展開してきました。そしてこの藝大の誘致が、「音まち」にもつながりました。

「音まち」と足立区の関係性の特徴は、地域文化課などではなく、シティプロモーション課が所管している点です。足立区では、区役所のすべての事業を貫き、まちの魅力を上げることを担っているこの「シティプロモーション課」ですが、もともとは、まちの売り込みや知名度向上を目指し、地方都市に多くつくられてきたものでした。その場合、プロモーションの対象の中心となるのは、まちの「外」の人たちです。しかし、都市型の先駆となった足立区では、区民、つまり「中」の人へ向けたプロモーションを展開している点に大きな特徴があると、栗木さんは言います。

足立区で同課が設けられた背景には、足立区民を対象にした世論調査で住んでいるまちのイメージを「汚い」「治安が悪い」と答えるなど、住民が地域に対して愛着はありつつも誇りを持てない状況があったと言います。実際、足立区には「治安」「学力」「貧困の連鎖」「健康」という4つのボトルネック的課題があると栗木さん。そこで同課では、4つのプロモーションとして「磨く」「創る」「つなぐ」「戦略的報道・広報」をキーワードに、こうした課題に対して継続的にアプローチをしてきました。

そのひとつが、広報物改革です。同課ではポスターやチラシなどの企画から完成まで伴走する作成支援を行っており、その数は年間450件。今回の会に参加した同課の菊地敬太(きくち けいた)さんは、「区の広報物には‟届くけどよくわからない”という印象があるため、目的や対象を明確にした広報物づくりを目指している」と話します。例えば、健診受診を促すチラシは、以前はそれまでのフォーマットを踏襲した文字だけのものでしたが、伝えたいメッセージを明確にし、大きくビジュアルを入れることで、健診率が1.4%(2000人)アップしました。

当日のスライドより

また、野菜を食べて健康寿命を延ばすことを促すキャンペーンには、若者世代に情報を届けることが難しいという課題がありました。そこで、身近なファミリーレストランやコンビニなどに協力してもらい、野菜摂取を啓発する取り組みを展開。セブン-イレブンと足立区のおいしい給食レシピを再現した商品を共同開発したり、大型商業施設や鉄道事業者とコラボ企画を実施するなど、多くの民間との協創に取り組んでいます。

こうした「創る」プロモーション活動は予算化されていませんが、そのなかで唯一予算化がされているのが「音まち」だといいます。では、この活動はなぜ生まれたのか? 

その始まりは2010年、シビックプライド醸成のための提言書に、「音まち」と関わりの深い現代美術作家の大巻伸嗣(おおまき しんじ)さんと藝大教授の熊倉純子(くまくら すみこ)さんのコメントが掲載されたことでした。これを見た職員が区内の大巻さんのスタジオを訪問。その後、アートポイントの説明会に訪れました。「当時は藝大を誘致したものの、学生の姿を見ないとの声が上がっていて。そこでもっと藝大との距離を近づけたいと、『音まち』の活動が始まったんです」と栗木さん。運営には音まち計画、足立区、藝大が関わりますが、それぞれに役割を分担し、「関係者全員が汗をかいていることが特徴」だと語ります。

当日のスライドより。それぞれが役割を分担し、全員が汗をかく

市民を巻き込んだ「音まち」の活動。まちに広がり出した地域活動

「ここから、よっしーの番」と、栗木さんから親しげにマイクを渡された吉田さん。栗木さんの最後の言葉を受けて、「どのくらい汗をかいているかというと、隔週火曜に関係する3者で運営会議を行い、毎回20〜30人が参加しています。区からも係長以下3名が必ず参加していて、こうした体制はほかのプロジェクトで見たことがない」と話し始めます。

そんな「音まち」では、現在、通年で主に6つのプロジェクトを展開しています。

今回の会場になった「仲町の家」は、2018年にオープンした、築100年以上の日本家屋を利用した文化サロンです。ここでは自主イベント以外にも、拠点形成事業のパイロットプログラムとして外部の企画開催に協力することもあり、現在は年間25プログラムほどの利用があるといいます。

一方の「メモリバ(Memorial Rebirth 千住)」は、先述の大巻さんと協働し、無数のシャボン玉で風景を一変させる、2024年で10回目の大規模開催を迎えたイベントです。もともとは千住で行われていましたが、その後、西新井や加平、舎人と足立区の他の地域でも開催。運営に多くの市民が関わることでも知られ、運営チーム「大巻電機K.K.」は大規模開催以外にも、大学や地域のお祭り、福祉施設などで小さな「メモリバ」を年5回ほど開催しています。

「Memorial Rebirth 千住 2024 舎人公園」 (撮影:冨田了平)

2013年から運営する「イミグレーション・ミュージアム・東京」は、海外ルーツの方も多い区の特徴を背景に、海外ルーツの人々と協働し、空き店舗や小学校を一時的なミュージアムとして活動してきました。2021年からは区内の小中学校で多文化社会を学ぶアウトリーチプロジェクトも行い、これまでに小学校12校と中学校2校で実施しています。

同じく、2011年からと長い歴史を持つ「千住だじゃれ音楽祭」は、作曲家の野村誠(のむら まこと)さんと取り組む、音楽とだじゃれを掛け合わせたプログラム。運営チームである「だじゃれ音楽研究会」では老若男女30人ほど(登録は120人ほど)が活動し、現在も2025年10月に開催予定のイベント「キタ!千住の1010人」に向けて、関係各所との調整が進んでいます。

他方、新しく始まったプロジェクトもあります。2021年に始まった「1DAYパフォーマンス表現街」では、1日限定で、千住ほんちょう商店街の軒先をステージに見立て、全国から公募したパフォーマーたちによるパフォーマンスを実施。出演者は、「うまくなくてもええじゃないか、やってみてもええじゃないか」をテーマに、そのスキルに限らず先着順で決められ、定員50名のところ2024年には67組の応募があるなど、年々盛り上がりが増している催しです。

もうひとつ、2024年に始まった「千住藝大おばけキャンパス」は、先述の熊倉さんやドラマトゥルクの長島確(ながしま かく)さんの企画で、人の少ない藝大千住キャンパスの特徴を活かし、その校舎をおばけやしきに見立てるもの。演出には音楽や映像、心理学などさまざまな専攻の藝大生の技術が生かされ、学生が学んだことを地域にひらくプログラムになっています。

こうした活動を行う「音まち」ですが、栗木さんはその行政内の課題を、予算取り(財政調整)が難しいところと説明。アートプロジェクトは、一過性のイベントではなく日常的な営みとしてありますが、行政的にはどうしてもイベントだと捉えられることも多く、費用対効果が求められたり、区民への広がりが気にされたりする場面もあるといいます。

しかし、音まちの活動を続けてきたことで、メディアでの北千住エリアの紹介のされ方がアートに絡んだものとなったりと、芸術文化が盛んなまちとしてのイメージは着実に浸透。「個人的にはこれも『音まち』の成果と考えている」と話します。

当日のスライドより。音まちの活動を通じてさまざまな人がつながり、新しい動きが各所で起こっている。

会議の時間や細かな数値を大切にし、まちなかに活動の種を見出す

会の後半では、栗木さんと吉田さんに、櫻井も交えたディスカッションが行われました。

二人の話を聞いた櫻井が、「音まち」による小学校や商店街などの利用は、区との連携があるからこそではないかと尋ねると、吉田さんは、実際、そうした交渉は行政から声をかけてもらうとスムーズだとし、最初の声かけは区の人にお願いしていると話します。

他方、自治体では単年度事業が多く、職員の異動もありますが、シティプロモーション課ではどのような引き継ぎをしているかを問われると、栗木さんは、新しい職員も「最初はわからなくても、隔週の全体会議に出ているとわかってくる」と返答。吉田さんも、新しい人には「だじゃれ音楽研究会」のような市民の集まりに参加してもらうことを意識していると話します。これに4年目の菊地さんも頷き、「会議に出たり資料を読むだけではなく、「メモリバ」でシャボン玉の機械を運ぶなど、一緒に作業をするなかで自分ごとになっていった」と自身の経験を振り返りました。

アートプロジェクトでは、たびたびその評価の難しさが課題となります。この点に関して栗木さんは、参加者やかかわり手の広がりは役所内で丁寧に共有するようにしていると話します。

それに対して、役所向けの資料づくりを担当するNPOでは、「数値では測れないとはいえ、数値で判断されることもあるので、できるだけいろんな数を用意するようにしている」と吉田さん。例えば来場者内の区民数や、グループメールやメールニュースの参加者・登録者数、パブリシティの数など、可能な限りいろんな数値を記載。「そうした資料から次の予算取りに向けた物語を一緒につくっていくイメージだ」と説明します。

では、「音まち」では、プロジェクトの「ビジョン」、将来像をどのように捉えているのでしょうか? そう問われた栗木さんは、「シティプロモーション課として区民の誇りを高めるという目標や戦略はあるが、『音まち』に5年後はこのようになっているべきなどの事業方針はない。つくるとそれだけになってしまうし、私たちの課はチャンスがあれば新たな価値や物事をつくっていくことが仕事」とコメント。対する吉田さんも、メモリバの活動が地域的にも領域的にも広がっていることを例に、事業らしさを失わないようにしつつ、次につながる種を意識することが運営側のビジョンだと、柔軟な方針を大切にしていると語りました。

さらに、行政としてNPOと協働する利点を聞かれた栗木さんは、「そもそも藝大と区だけでは音まちの運営はできない。NPOがあることでイベントが実行できるなど、なくてはならない存在」と返答。また、「東京都・区市町村連携事業」を担当するプログラムオフィサーの大川直志(おおかわ ただし)は、今日の感想を聞かれ、栗木さんが「音まち」を機に文化活動とかかわりができたと話したことに触れ、「行政の担当者と話をしていると、地域のつくり手との関係がないという声が非常に多い。そんななかで、行政の方がまちの地域活動を深く認識されているのが素晴らしいと感じた」と話しました。

行政の担当者と、『文化』のフレキシブルな捉え方を共有する

その後、会場にマイクを向けると、音まちの活動や、音まち計画と足立区の関係について聞いた会場のメンバーからは、多くの質問が飛びました。

カロクリサイクル」の中村大地(なかむら だいち)さんは、「音まち」に「大巻電機K.K.」や「だじゃれ音楽研究会」などの市民主体の活動が多い背景について質問。これに吉田さんは、こうした活動においても資料の用意や予定の設定にはNPOが関わっており、必ずしも市民だけで自走しているわけではないが、長年活動するなか、「1DAYパフォーマンス表現街」にメモリバを出したいという提案があるなど、自発的な動きが生まれ始めたと答えました。

すると今度は、栗木さんから参加者に向けて、行政との関わりにおいてどんなことを感じているかとの質問が。これに、国立市の「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」の安藤涼(あんどう りょう)さんは、自分たちも市と協働しているが、その関係には足立区と音まちほどの親密さはなく、その関係をどのように縮められるかが課題と話します。それに対して栗木さんは共感を示し、担当者によっても関係は大きく変わるはず、と話しました。

めとてラボ」の和田夏実(わだ なつみ)さんからは、シティプロモーション課が担う広報物の作成支援について、その業務の内訳を尋ねる質問がありました。これに栗木さんは、デザインなどを外注することはあるが、キャッチコピーやレイアウトラフの作成などは内製で行っているとし、同課は役所内の広告代理店のようなイメージと説明します。

さらに和田さんからは、シティプロモーション課の未来へのまなざしについてもう少し聞きたいとの声も。それに対して栗木さんは、同課の目標は唯一「区民がまちに誇りを持てるようにすること」であり、そのためにやれることはすべてやると返答。そうして一つひとつの事業の質を上げることが必要と話します。その意味でシティプロモーション課のまなざしは未来ではなく「現在」に向いているのではないかと櫻井から問われると、栗木さんは頷き、「自分たちの良さは、あらかじめ決まっていることをやるだけにとどまらず、現実のなかでフレキシブルに動けること。今日はそれをあらためて感じた」と語りました。

会の最後にマイクを振られたアートポイントのディレクター森司(もり つかさ)は、音まちと足立区の話を聞いた感想として、「15年間活動すると、プロジェクトが育ち、学ぶことが多いなと感じた」とコメント。近年、「東京都・区市町村連携事業」で行政との協働を模索していることを踏まえ、その先行例である音まちの活動にとってとくに重要だったのはシティプロモーション課の存在だとし、「文化を専門とする課では、担当者が誠実に文化と向き合うゆえに『文化』の解釈がかっちりしているが、シティプロモーション課は良い意味で『文化』のフレームを取っ払って柔軟に向き合っている」ことがポイントだと話しました。

また、これから行政と活動していくうえで、あらためて「アートプロジェクト」という言葉を上手く使っていく必要があると感じたと言い、「課題は多いけれど、一足飛びではなく一歩一歩やることで進んでいくと思う」と、メンバーたちにメッセージを送りました。

「パートナーシップ」をテーマに、全4回にわたって各プロジェクトの現場を訪ねてきた今年度の「ジムジム会」。そこには、活動における問題意識の共通性に基づくもの(都立第五福竜丸展示館+「カロクリサイクル」)や、まちなかのネットワークを広げるための契機とするもの(「Kunitachi Art Center」×「ACKT」)、既存の制度を考えるための機会をつくろうとするもの(昭島市立光華小学校+「多摩の未来の地勢図」)、そして今回の音まちと足立区のように、NPOと行政の目標の重なりを長い時間をかけて育て、磨き上げたものまで、4者4様のパートナーシップのかたちがありました。

同時に4者には、取り組みの広がりや深化、あるいは活動の持続性を求めるなかで、外部のパートナーとの関わりのなかに、その手がかりを求める姿勢が共通していたように思います。今回のジムジム会を通してシェアされた視点が、参加したメンバーのプロジェクトのなかでどのように生かされていくのか。これからも注目したいと思います。

ジムジム会 参加メンバー一同

撮影:小野悠介(7枚目写真、スライド除く)

プロジェクトについて

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