tarl

REPORT

「Multicultural Film Making—ルーツが異なる他者と映画をつくる」#7 フィクションの部 DAY1〜2「撮影準備」

公開日|2022.03.18

2021/10/30 10:00-17:00、11/7 10:00-18:00

ドキュメンタリーの部が終わり、フィクションの部が始まるまでの1ヶ月強のインターバル期間で、メンバーたちはグループごとに作品制作に取り組む。その一方で運営チームは、フィクションの部での映画撮影のための準備にとりかかる。本来であれば、その準備も重要な映画制作の一部であり、メンバーたちにも参加してもらいたい気持ちはあったが、期間、予算ともに限定的な条件のため、運営チームのみで進めていくことになった。

脚本
「ある外国から来た女性が、日本人の恋人と別れて、自分の国に帰ることを決めます。そんなとき、その人は日本にきたばかりの留学生と出会います。ふたりはこのまちについて、色々と話して特別な東京ツアーに出かけます。」
これは、監督のテイがプロジェクト開始時に書いた粗筋である。この主人公は、テイが日本で出会った、同じく台湾出身の知人がモデルとなっていると聞いたことがある。人がそこにいる“理由”を見失ったとき、何を寄りどころとして自分の居場所を確認していくのか。テイ自身も明快な答えを持っていないこともあり、この粗筋にはその一番大事な部分が抜け落ちていた。そこに入っていくるのは、ドキュメンタリーの部でのフィールドワークやインタビューを通して拾い上げられた風景、言葉、エピソードである。メンバーの様々な経験や想いを重ねあわせながら、テイが脚本を仕上げていく。

ロケハン
撮影する場所を探すロケハン(ロケーションハンティング)もこのインターバル期間で行った。テイの脚本の作業が進むごとに運営チームで打ち合わせをして、それぞれのシーンに必要なロケーションをピックアップしていく。テイから様々な要望が出されるが、今回は商業的な映画制作ではなく予算も限られているため、基本はスタッフの人脈を駆使しながら安価で使用させてもらえる場所を見つけていった。屋内のシーンはそのようにしてなんとか目処がついたが、一番苦労したのは屋外のシーンであった。「新しいまち」をテーマにした映画をつくろうとしているため、自ずと屋外のシーンが必要になる。そして屋外も同様に(そこが公共空間であっても)そこで撮影をする“許可”を取らなければならない。しかし許可を取ろうとすると“この区の公園は夜間使用禁止”や“三脚や照明を立てることは禁止”などといった厳しい条件を突きつけられる。そして管理する主体も、警察、行政の土木課、管理を請け負っている建設会社など様々で、それぞれに手続きが必要となる。映画制作の業界では当たり前のことであるのかもしれないが、初めて体験した者としては“公共の空間”とされている場で撮影することの異様なハードルの高さに面食らってしまった。

キャスティング
このプロジェクトではキャストはすべて参加メンバーが担うことになっているが、ここまでの活動でメンバーたちのバックグラウンドを聞く限りでは、演技経験のあるものはひとりか、ふたり程度。しかし今回のプロジェクトでは決して演技力があればうまくいくとは限らない。そこで、まずはテイが気になるメンバー数人に声をかけ、個別にオーディションを行った。そのオーディションは、簡単な模擬演技はあったものの、演技審査というよりリラックスした面談形式のもの。テイから現状の脚本の内容を伝え、それについてキャスト候補のメンバーから、どう思うか? 似たようなエピソードを持っているか? と聞き取りを行った。運営チーム内で多少の共有はあったものの、テイの最終判断でキャストが決定した。

フィクションの部 DAY1

10月2日、フィクションの部DAY1が始まった。ドキュメンタリーの部でA期、B期と二手に分かれていたメンバーたちが一同に集まる。改めて胸元に名前(どのように呼ばれたいか)を書いたテープを貼り付け、「初めまして」「久しぶり」と挨拶を交わしながら、少しぎこちない空気のなかで自己紹介が始まる。テイは、はじめの挨拶で「フィクションの部、不安です……。」とこぼした。笑いながら冗談で言ったことではあるが、“どのようにメンバーたちと共に作品をつくれるのか?”と“これからつくる映画は本当に面白いものになるのか?”というふたつのプレッシャーに挟まれているのだろう。

DAY1最初のプログラムは、ドキュメンタリーの部DAY3での取材を元にしてメンバーたちが制作した映像作品の上映会。ドキュメンタリーの部の最終日以降も、グループごとに連絡を取り合って制作してきた成果を皆で鑑賞する。映像編集自体がはじめての経験だったメンバーも多いなか、多くのクオリティの高い作品が映し出された。すべての作品は、取材を受けてくれた人たちを誠実に映していると感じたし、環境音をうまくインサートしたり、黒い背景を効果的に用いたり、字幕を入れて内容を補足したりと、内容を“伝える”ためのクリエイティブな工夫が各所に見られた。

A期、B期の上映が終わった後、フィクションの作品づくりがスタートした。まず、それぞれに台本が配られる。そこには脚本やロケ地の情報などがまとめられていて、撮影の現場で常に携帯するものである。また、それぞれが必要な情報を自身の判断で書き込むノートとしても機能する。台本がメンバー全員に渡ったところで、脚本を輪読してストーリーを全員で共有する。すべての漢字に振り仮名をふってはいるものの、初めて読む日本語の文章に苦労しているメンバーもいる。それでもなんとか読み終えたメンバーに、テイはこう伝えた。

「脚本を読んで、なんかあれ? 聞いたことがあるセリフ、と思ったと思います。ドキュメンタリーの部DAY2のみなさんのポートレイト、本当にいろんなセリフをちょっとずつ脚本に入れました。だからドキュメンタリーの部がなかったらこの作品はなかったと思います。このストーリーは、本当に私たちのストーリーだから、これからみなさんと一緒にがんばろうと思います。」

その後、テイからキャストが発表された。まわりのメンバーは拍手でそれを受け入れる。そして次は撮影クルーの振り分けに移る。このプロジェクトでは、参加するメンバーの人数に応じて5つの部署に分けて映画制作に取り組む。プロデューサーのひとりである森内が“役割”についてメンバーに伝える。

「チームが大きくなって、全員でひとつの作品をつくるので、仕事を分けないといけません。やる作業が全然違います。でも、自分はこの仕事しかないんだと思ってやっていくとだんだんと作品への関わり方が薄くなってしまうので、作品がどうやったら面白くなるかは常に意見を出して。役職が強くなっていくとヒエラルキーの関係になって、会社とかバイトとか、お仕事の関係性になってしまうんですけど、そうじゃなくて常に丸い状態なんだっていう意識を持って役割を担ってほしい。」

それぞれの部署についての説明を受けたメンバーたちは、自身の希望をアンケートに記入。それを運営チームで取りまとめて、各部署へ配置する。結果として以下のようなメンバー構成となった。

「俳優部」主役/助演:ジウン、トシキ
「演出部」助監督/制作:エイスケ、ショウ、コンスタンチャア
「美術部」小道具/衣装/メイク:キン、セイブン、パイヴァ、ヒョンジン
「撮影部」カメラオペレート/照明:カイル、チョウ、JP
「録音部」マイクオペレート:アントン、ケイ、パイ

部署に分かれたメンバーたちは、DAY1とDAY2にかけて、それぞれの役割を学びながら撮影の準備に入る。各部署には、運営チームからひとりずつスタッフが配置され、サポート役を担当。最初はスタッフがリードしながら進めることになるが、だんだんとメンバーたちが自身の判断で撮影を進めていくよう促す方針をとる。

フィクションの部 DAY2

DAY2は、拠点であるROOM302に戻り、撮影のリハーサルを行う。数カ所の重要なシーンをピックアップし、擬似的に環境をつくり、実際に撮影してみて課題を確認しながら本番の撮影に向けて準備することが目的だ。各部署の様子を観察すると、まだまだ仕事に対する姿勢にばらつきがある。打ち合わせでポンポンとアイディアが出る美術部、三脚を組み立てるのにも手こずる撮影部、マイクをかかげて「つかれた……。」とつぶやく録音部、現場を仕切ろうとする気合はあれどもスムーズに進まない演出部、そして自分が映るモニターを恥ずかしそうに眺める俳優部。「名前……JPさん?」と未だに名前を確認している声も聞こえてくる。

なるべくアドリブを取り入れたいというテイの意向もあり、脚本もまだまだ空白の部分が多い。そのため、ひとつの定まったイメージを全員で実現していくといったシンプルな流れができない。それで無駄な時間を食うこともあったが、一方でその余白がメンバーの主張を少しずつ引き出していく。チョウがテイに中国語でカメラアングルを提案すれば、常にテイの横に付いているショウが積極的に演出のプランを提案する。手が空いた美術部のセイブンがコードの巻き方を練習する横で、不安そうにモニター越しに演技をチェックしていたテイが、トシキの強烈なアドリブに吹き出す。「コーヒーのテイクアウトが、サラダのテイクアウトになっちゃった……。」

「本番の撮影は時間がけっこうギチギチなんだけど。でも、皆それぞれがこだわりたいところを捨てたくない。うまくバランスをとってやっていきたい。」

最後のオールスタッフミーティングで演出部のショウは本番への意気込みをこう語った。なんとなくそれぞれの役割が見えてきたメンバーたちの次のステップはいきなり本撮影。無理があるとは理解しつつも、その少し無理な状況をどのようにそれぞれが乗りこなしていくのか。引き続き追っていきたい。

執筆:阿部航太(プロデューサー、記録)