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「アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座」レポート【前編】

2022.12.19

執筆者 : 村田萌菜

「アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座」レポート【前編】の写真

コロナ禍も3年目を迎え、いまやウェブ会議をはじめ、オンラインの活用は私たちの日常風景の一部になりました。アートプロジェクトの現場も例外ではなく、コロナ禍以降さまざまな企画を映像コンテンツとして収録したり、オンラインイベントにシフトするだけでなく、オンラインと対面を組み合わせた開催も浸透しています。

誰もが映像の配信・収録の担い手になり得るいま、「企画に適した機材の選び方・使い方とは?」「専門業者にはどのように相談・交渉したらいいのか?」という具体的な疑問だけでなく、「そもそもオンラインを想定した映像コンテンツの制作とは、なにからはじめるべきなのか?」という漠然とした不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか。

そうした声に応えるべく、Tokyo Art Research Labでは、2022年8月21日(日)、8月28日(日)、9月4日(日)に、全3回の対面講座「アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座」を開催しました。

会場はアーツカウンシル東京のレクチャールーム+アーカイブセンターである「ROOM302」です。コロナ禍を契機に、この部屋の一角は収録・配信スタジオ「STUDIO302」へとリニューアルされ、2020年7月のオープン以降、さまざまなオンラインプログラムが実施・配信されています。

講師を務めたのは、写真家の齋藤彰英さん。齋藤さんは「STUDIO302」開設初期から、このスタジオでのプログラム運営に携わるひとりであり、自らもコロナ禍を経て本格的に配信・収録技術を身につけました。

第1回と第2回では、映像コンテンツ制作の段取りと、配信や収録に用いる機材の扱い方を学び、第3回は「STUDIO302」のシステム設計と空間づくりを担当したいわさわたかしさんをゲストに迎え、実際に講座参加者たちがトークイベントを配信・収録する実践の場がひらかれました。

ここではレポート【前編】として、第1回と第2回の様子をご紹介します。

企画を迷子にしないための進めかた

第1回の内容は「映像コンテンツ制作に向けた段取り」と「映像収録に必要な機材の操作方法と注意点」です。

講座には、配信・収録の経験値も専門領域もさまざまな参加者が集まりました。

ずらりと並ぶ機材を前に、おのずと技術的なことへの興味や期待がつのりますが、齋藤さんは自身もアートプロジェクトの担い手として現場で獲得してきたものを共有することで「参加者自身が今後の活動を考えるきっかけにしてほしい」といいます。そこで、まずは具体的な知識に先立ち「映像コンテンツ制作に向けた段取り」という、心構えの重要性について取り上げました。

講師の齋藤彰英さん。

コロナ禍を経たいま、受け手の「慣れ」も相まって、企画においてオンラインの活用が真っ先に浮かぶことは自然な流れといえるでしょう。齋藤さんがこれまで引き受けてきた映像コンテンツ制作の現場でも、最初からオンラインや対面とオンライン併用での実施ありきで進められている状況があったといいます。なかには演出を詰め込みすぎて、やりたいことが掴みきれなくなっていた事例も。

そのような経験をふまえて、齋藤さんが問いかけるのは「オンラインの活用は、その企画にとって最適な方法かどうか検討されているか?」という企画づくりの根幹です。

イベントの開催形態は、対面、収録配信、ライブ配信など多岐にわたりますが、それぞれに得意・不得意や運営方法の相性があると、齋藤さんはいいます。オンラインの活用も、あくまで数ある「届け方の選択肢」のひとつに過ぎません。

だからこそ、いきなりやりたいことを詰め込むのではなく、まずは企画の主旨に立ち戻ること。そして、達成したい目的のために必要な手段を選ぶことが大切なのだと強調します。では、具体的にはどのように進めていけばよいのでしょうか。

齋藤さんは「やっていくうちにそれぞれのやり方が生まれてくると思う」と前置きしたうえで、映像コンテンツ制作の配信・収録のための段取りとして6つのポイントを挙げました。

① 主旨の優先順位を考える

企画において最も重要な目的や要素とは何か検討し、その優先順位を整理する。
例)詳細な情報伝達、アーカイブ性、広域性、社会状況に応答した即時性・即効性、視聴者の参加性(相互性・共同作業)、ライブ感、深度/専門性…など

② 手段を考える

対面、収録配信、ライブ配信など、開催のかたちによって異なる特性や運営方法の相性があることを理解したうえで、①で整理した企画主旨に最適な手段を選択する。

③ 時期・場所・予算を考える

いつ頃に、全何回行うのか、会場として使える場所の特性、予算枠の上限など、今あるリソースでできることから企画の条件を明らかにする。
例)基本となる運営メンバーの構成(外部委託しない範囲)、準備・広報期間、会場環境(屋内外、ネット環境)…など

④ 規模を考える

③で洗い出した条件をベースに、より詳細に企画の規模を検討する。
例)映像コンテンツの長さ、出演者の人数、演目・演出方法、二次公開の有無…など

⑤ 運営メンバーを考える

企画において必須の役割とその担当者を検討し、まずは必要最小限で実現する方法を考えていく。そのうえで、基本の運営メンバーに加えて外部委託が必要かどうか、必要ならばどの役割を委託するか検討する。

⑥ スケジュールを考える

①〜⑤をふまえて、事前準備から当日、実施後までのタスクを洗い出し、スケジューリングする。
例)広報素材の用意、スライド資料の有無確認・用意、当日のテクリハ、記録の編集・公開…など

もちろん、すべての制作がこの段取りで進められるとは限りません。それでも齋藤さんは、こうしたポイントをおさえながら準備することで、運営メンバーのあいだで企画が目指すべき到達点を共有できるだけでなく、専門業者に外部委託する場合であっても、企画の目的に適したシステム設計を一緒に検討できるといいます。また、そのためにも要となるのが、全体を取り仕切る進行役の存在です。

講座では「舞台監督」に例えられましたが、映像コンテンツ制作の配信・収録の運営メンバーには、テクニカル担当とは別に、企画を俯瞰し、適宜必要な判断をする役割が重要です。

これは従来のプロジェクト運営にも通じる部分ですが、第3回で実施されたトークイベントでは、この進行役について具体的に深堀りしています。トークの様子はレポート【後編】のほか、Tokyo Art Research LabのYouTubeチャンネルにて映像が公開されているので、ぜひあわせてご視聴ください。

安全で心地よいプロジェクト運営の基本

続いては「収録に必要な機材の操作方法と注意点」の解説です。

カメラ、マイク、照明、その他の機材について、基本的な扱い方から気をつけるべきことまで一つひとつ丁寧に紹介します。

意外と頑丈な機材もあれば、ちょっとした扱い方で破損してしまう機材もある。

内容はカメラの機構や専門用語にも及びますが、齋藤さんが「配信・映像にかかわる人々が、撮影にあたりどのようなことを気にかけているのか、そのこまやかさを共有できたら」というように、この講座で語られるのは教本に載るような知識・情報だけではありません。

事故を防ぐためのケーブルの取り回し方法や、出演者の気分を高める道具選びのコツなど、ひろく「プロジェクトを安全に、気持ちよく、チームで運営するために必要なこと」について、これまで齋藤さんが現場で培ってきた知見が共有されました。

こうした解説をふまえ、参加者は一眼レフカメラ、シネマカメラ、ハンディカメラの3種類のカメラに触れて、明るさを調整する3つの要素(絞り/シャッタースピード/ISO感度)の操作を中心に体験しました。

水平器の見かたや三脚の操作性の違いなど、実際に触れることで初めて得られる気づきも多く、参加者たちも楽しんでいる様子でした。

特性だけでなく操作方法やボタンの位置も違う3種類のカメラを、実際に触りながら比較する参加者たち。

もしもの事態に対応できる土台づくり

第2回のテーマは「配信に必要な機材操作と注意点」についてです。

まずはライブ配信のシステムについて、ハード面とソフトウェア面をあわせて確認しました。

各機材の役割を理解することで、トラブル発生時の原因究明や対応がしやすくなる。

その後、参加者たちは2グループに分かれて実技練習にうつります。

第3回に控えたトークイベントの練習も兼ねて、簡易なオンライントークイベント「昨日の夕飯、何食べた?」をメンバー内限定で配信。機材セッティングから配信・収録まで、ひととおりの流れに挑戦しました。

実はこの「昨日の夜ご飯」というトークテーマは、齋藤さんが現場でマイクチェックをする際、出演者にたずねる質問なのだといいます。誰もが考え込まずに答えられる話題だからこそ、自然な流れで出演者の声量を確認できるだけでなく場の緊張もほぐしてしまう、齋藤さんの人柄がにじむテクニックです。

ちょっとしたことではありますが、参加者からも笑みがこぼれ、お互いに指示や声をかけやすい雰囲気が生まれているようでした。

ロールプレイングを交えて、配信・収録の流れを体験する参加者たち。

また、ライブ配信においては、事前のテクニカルリハで不具合が無かったとしても、配信映像では音がズレていた、といった問題が生じることも珍しくありません。

実際に練習でも「音声」がブツブツと途切れる事態が発生。そこで、齋藤さんが音に関する機材をたどりミキサーを確認すると、プラグの挿し込みが不十分な箇所を発見しました。順を追って原因を見つけ、適切な対応をする。ライブ配信の構造を理解していることで、トラブル発生時の対処だけでなく、機材の予備を用意するといった事前の備えも可能になります。

緊張感もあって現場はついピリピリしがちですが、技術的な対応をするひと、全体の進行を判断するひと、といった役割分担をお互いに理解することで、皆で考える、乗り越える、受け入れるという、チームでプロジェクトを安心して運営する土台がはぐくまれるのです。

技術的な知識だけでなく企画や運営に対する心構えを確認したところで、次回はいよいよ実践です。

レポート【後編】では、第3回の参加者の様子やトークイベントの内容をご紹介しています。ぜひ、あわせてご一読ください。

(執筆:村田萌菜/編集:櫻井駿介

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