「主体」を見つけ、「共」を育てる/郊外都市を「ふるさと」に(APM#02 後編)
執筆者 : 杉原環樹
2017.03.14
全国のアートプロジェクトの担い手は、日々、どんなことを考えながら活動しているのでしょうか。東京アートポイント計画の新企画「ART POINT MEETING」は、彼らがアートと社会についての思考と言葉を共有する、トークイベントです。2016年6月26日、その記念すべき第一回が、東京・神保町のMACRI神保町で開催されました。地域を超えてプロジェクトの担い手が集まった、イベントの模様をライター・杉原環樹がレポートします。
後半の「クロストーク」は、ひとつのプロジェクトの可能性を体験するコーナー。今回は、福島県を舞台に2015年12 月5日に開催された「幻のレストラン」を取り上げます。食とアートをテーマに活動するアーティストのEAT&ART TAROさん、福島県三島町で「森のはこ舟アートプロジェクト」に関わる三澤真也さんは、食を通して地域の歴史を再発見する同プロジェクトを、どのように作ったのでしょうか。
さて、休憩を挟んだ後半の「クロストーク」。ひとつのプロジェクトを掘り下げるこのコーナーでは、「ヤマ・ウミ・えご」と題し、アーティストのEAT&ART TAROさんと、福島県の「森のはこ舟アートプロジェクト」に関わる三澤真也さんが登場。彼らが昨年行った、食をテーマとするプロジェクト「幻のレストラン」(森のはこ舟アートプロジェクト・西会津×三島エリア協働プログラム)について話しました。
三澤さんが住む三島町は、前半に登場した矢部さんの住む西会津町の南側に位置し、自然との交流や、独自の狩猟採集文化が残る地域です。ただ一方、その人口は5年間で2000人から1600人に減り、福島県内でも人口減少率の高いエリアだと言います。
「幻のレストラン」は、この三島町と西会津町を結ぶ道としてかつて栄えた、「西方街道」へ注目することから始まります。山深い三島町では、現在のように流通網が発達するまで、海産物が非常に貴重な存在でした。そんな時代に、「塩の道」とも呼ばれた西方街道は、海の食べものを運んでくる経路であったと同時に、いまでは希薄になってしまった両町の交流を支えてきたのです。EAT&ART TAROさんは、こう語ります。
「かつての人々は、この街道の向こうに海を想像していたのではないか。現地を回るなか、そんなイメージが生まれました。また、住民の方々が日頃、隣町のことをあまり意識しないという現状を見て、イベントでその両者を混ぜ合わせたいと考えたんです」。
そこで彼が取り上げたのが、海藻の一種である「えご(草)」です。この食材を溶かして固めた寒天にも似ている食べ物は、海産物の乏しい当時から、刺身の気分が味わえる郷土料理として地元で愛されてきました。「西方街道・海と山の結婚式」という副題のついた「幻のレストレラン」では、そのタイトル通り、イベント会場を結婚式場のように装飾。三島町と西会津町の町長を含む両町の人々に、えごをはじめとした地元の料理をあらためて味わってもらい、街道の歴史を想像してもらう仕掛けが施されました。
「ART POINT MEETING」でも、その追体験のイベントが。EAT&ART TAROさんが用意したのは、寒天状にしたえごに、黒蜜ときなこをまぶした2種類の料理。多くの参加者が初めて食べるえごの食感に驚き、会場も盛り上がりを見せていました。
「幻のレストラン」を作るにあたり、「地元のおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔が見られたら成功だ、という従来の考えを踏襲したくなかった」と三澤さんは言います。
「重要なのは、これから地域を担う若い人たちが、本当に楽しめるものにすることでした。そのため、最初はみんなで普通にバーベーキューをするなど、人と人をつなぐことをやったんです。『レストラン』という発想も、そこから来たものでした」。
こうして交流を深めたEAT&ART TAROさんと地元の人たちは、リサーチを兼ねて西方街道の散策に出かけたと言います。専門家や利害関係者とは異なる視点から、日常の延長として地域を見つめ直すことで、地域にもともとあった郷土料理という資源を、アートを通して再デザインする「幻のレストラン」の構想が固まっていったのです。
「一日限定のイベントを、地域に残していくことを考えたとき、大切なのは、そこに魅力的なストーリーを感じることができるということでした。地元に対して何の利害もないアーティストこそ、それをできる存在なんです」と三澤さん。一方で、EAT&ART TAROさんも、「自分はその町に住んでいない部外者。でも、だからこそ、地域の魅力をニュートラルな目線から発見し、自由なことを言えると思うんです」と語ります。
アーティストが全面的にデザインするのではなく、地元の人が手を加えられる余白があることが重要。この視点は、前半のスピーカーたちの主張とも重なるものでした。
「クロストーク」終了後、前半に登場した矢部さんと馬場さん、森の三人で、今回のイベントを振り返る短いトークが行われました。
このトークでも、着目されたのは「余白」や「余地」という言葉。馬場さんは、小川さんが「オーガニック」を「適当」という言葉に言い換えたことに注目し、合目的的になりがちなプロジェクトが多いなか、ゲームをするという「無駄」な時間を通して、活動を円滑にしている東南アジアのスペースは、「工作的だと感じた」と話します。
それを受けて森は、EAT&ART TAROさんや三澤さんが、地元の人と最初に食事をしたり、道を歩いたりしたことを取り上げ、「それらはただの食事や散策なのか、それともプロジェクトのための調査なのか、見分けがつかないものになっている。しかし、とにかく人がつながることから、始まるものがあると思います」と語りました。
外部からある場に訪れ、隠れた価値を見出すアーティスト。しかしその役割は、「生活に非日常を持ち込むだけでもない」と矢部さん。「東日本大震災のとき、アートはむしろ、日常的な安定を感じさせる働きが求められたと聞きました。。一方、『幻のレストラン』では、普段の食の見方が変わったとの意見もあり、その感覚は生活のなかでも残るはず。そんな、日常と非日常の反転が起こりやすい仕掛けづくりが重要だと思います。」。
こうして、3時間におよぶ、第一回の「ART POINT MEETING」は終了。
イベント後、今後、地方の試みにどう関わっていくかを森に尋ねると、「僕は地方のプロジェクトにこそ、教わるべきポイントがあると思うんです。東京と言っても、エリアによっては地方と同じ問題を抱える場所もあり、一括りにできない。解像度を上げ、その場に本当に必要なプロジェクトを作ることが大切だと思います」との答えが。
一方、福島から参加した矢部さんは「東京に求めること」をこう話してくれました。
「それぞれの地域には、それぞれの問題があります。その意味で、東京で上手くいっているモデルを福島でやろうと思っても、通用しません。でも、自分たちで問題を発見するためにも、外部の試みを知ることは重要。今回のような全国のプロジェクトをつなぐ機会は、東京以外には作れないと思うので、今後もそうした役割を期待したいです」。
全国からアートプロジェクトの担い手たちが集まった、今回のイベント。「アートと社会をつなぐ」というと、とかく大義名分が前面に出されがちですが、図らずも多くのの登壇者から、そうした教科書的ではない時間や場所、行為の重要性が語られたのが印象的でした。そして、すべてのプロジェクトに共通していたのは、あくまで自分たちの生活や日常空間からイベントを立ち上げようとする、その「必然性」だと感じます。
「ART POINT MEETING」は今後も約半年に1回のペースで開催。多様なプロジェクトを担う人々の知恵と言葉が交差する場として、機能していくことが期待されます。
(撮影:冨田了平)