現在位置

  1. ホーム
  2. /
  3. レポート
  4. /
  5. 評価の準備運動。アートプロジェクトの「評価」ってどうやってやるの?

評価の準備運動。アートプロジェクトの「評価」ってどうやってやるの?

BACK

2022.09.28

執筆者 : 佐藤恵美

評価の準備運動。アートプロジェクトの「評価」ってどうやってやるの?の写真

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年7月に実施した第3回の「ジムジム会」では、「ファンタジア!ファンタジア!−生き方がかたちになったまち−」(以下、ファンファン)のディレクター・青木彬さんをむかえ、東京アートポイント計画の大内伸輔の進行のもと、「評価」についてディスカッションしました。

「ファンタジア!ファンタジア!」悩みからスタート

大内伸輔(以下、大内):今年度の東京アートポイント計画では、年度始めに目標を設定し、半期ごとに一緒に事業を振り返る「評価シート」の運用を始めるなど、事業評価のしかたをアップデートしています。その「事業評価」について、「ファンファン」の青木さんから相談がありました。青木さんによると「昨年度末に事業評価をしようとしたら、評価の素材や基準の設定など足りないものがあることに気づいた。今年は事業が終わってからではなく、事業を進めながら評価について考えたい」ということでした。ならばいっそのこと、この課題をジムジム会で共有して考えていけるといいんじゃないかと。それで今日は、事業評価について青木さんの問題意識を中心にみんなで話したいと思います。では青木さん、ファンファンでの事業評価について課題になっていることからお話しください。

青木彬(以下、青木):ファンファンは5年目の事業ですが、年度末に事業報告書を書きながら、自分たちの「ここができなかった」「ここを改善したほうがいいな」など振り返りをしています。ただ毎年同じ課題を引きずっていることに気づき、大内さんに相談しました。年度末に一度振り返るだけだと徐々に忘れてしまう。報告書を書いてすぐに目標をたて、1年を通して取り組むことが重要だと思ったのです。

大内:東京アートポイント計画でつくっている「評価シート」ですが、これまでは年度始めに目標を立ててもらい、年度末にその目標について評価するというサイクルでした。今年度からは評価のタイミングを上半期と下半期の2回にわけたほか、評価のプロセスを共催団体と共有するかたちに変えました。
ファンファンでは自発的に、その評価シートの「目標」の欄に、通常の目標に加えてさらにブレイクダウンした細かな目標を記載しました。こうすることで、より具体的なアクションに通じる内容となっています。なぜブレイクダウンした目標を追加したのですか。

ファンファンの評価シートの一部。赤い部分がブレイクダウンした目標

青木:昨年、非営利団体向けの「事業のロジックモデルをつくろう」という講座に参加したことがきっかけです。事業としてのコンセプトを具体的なアクションや目標に落とし込むワークショップで「このくらい具体的な内容にしないと、次のアクションも漠然としてしまうんだな」と気付いたのです。それまでは、自分たちの活動が「わかりにくい」面があるのも面白いと思っていましたが、もっとわかりやすい言葉に落とし込むのも重要だと痛感しました。

大内:一つの達成目標に対して、さらに複数の達成目標をたてていく方法は、「ロジックモデル」の特徴でもありますよね。前回のジムジム会での「理念」の話にも共通すると思いますが、立ち戻る部分を常に確認しながら事業を進めていけるといいなと思います。このあとみなさんとのディスカッションに入っていきますが、話すポイントをいくつか青木さんにつくってもらいました。

数値でははかれないからこそ、独自の評価方法が生まれていく

青木:今回、ディスカッションしたいなと思うポイントは、おもに「自己評価」「外部評価」「評価の素材の集め方」「10年事業を続けるための姿勢」の4つです。

大内:それでは、各チームにざっくばらんに聞いてみたいと思います。「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)は5年以上続くプロジェクトですが、評価についてどのような悩みを抱えていますか。ディレクターの中村さん、いかがでしょう。

中村圭(HAPPY TURN):島に暮らしていると、日常の面でも「庭の草を刈っているか」「仕事をちゃんとしているのか」など、島の人たちから暮らしの「評価」を日々受けています。一方「HAPPY TURN」のようなアートプロジェクトは、必要性を感じてもらえないこともありますが、なかには理解してくださる方も少しずつ増えています。目先の評価ではなく心に響くかどうかという活動の評価もいただけているんだな、とじわじわ感じています。 

大内:島の人々の暮らしに直結した場所で行っているプロジェクトなので、一つひとつ関係性を丁寧に積み上げていますよね。多摩エリアで活動する「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」(以下、多摩の未来の地勢図)の宮下さんはいかがでしょうか。市などの行政とも連携していますので、外部評価も常に意識していると思います。

宮下美穂(多摩の未来の地勢図):お話をききながら我々の「評価軸」はなんだろう、と考えていたところです。我々の法人が以前行っていた事業(小金井アートフル・アクション!)では、小金井市も入れて評価委員会をつくりました。当初は、よくある来場者数など数値をもとにした評価が中心でしたが、最終的には数値化せず、どのように客観性を持たせるかを議論し、長大な報告書をつくりました。さまざまなエピソードを抽出し、教育関係者・文化政策関係者・市民などさまざまなステークホルダーの方からコメントももらいました。

大内:数値ではなく言葉だと膨大なものになりますよね。

青木:アートプロジェクトは参加者数だけで測れない部分が大きいので、エピソードに対しいろんなバックグラウンドの人たちからフィードバックを得るのはいい方法ですね。ファンファンは最近、福祉施設と共催事業をスタートしました。施設の方々に、事前/事後のアンケートを取ろうと思っています。どのように設問を設定するかを考えていたところなので、宮下さんのお話は参考になりました。
「HAPPY TURN」も「多摩の未来の地勢図」も地域性が違うので、活動する場所によっても評価方法は変わっていきますよね。数値に表しにくいからこそ悩みます。

大内:だからこそ、新しいチャレンジがどんどん出てくるのは面白い点でもあります。

どんな人にも伝わる方法を探る

青木:今年からスタートした3つの事業は、社会課題をテーマとした事業だと思いますが、評価についてどのように考えられているのでしょうか。

大内:「めとてラボ」の和田さんはいかがですか。

和田夏実(めとてラボ):いまは事業をどう説明するかに悩んでいます。さまざまな人を巻き込むときに、はっきり言い切らない余白も大事だけれど、伝わらないのでは意味がないかなと。特に我々が関わっていく、ろうの方や高齢の方に同じ目線で伝えていくことが重要だと感じています。先日ろう学校にリサーチにいきましたが、その学校の先生にじっくりと時間をかけて話をしたら、伝わった実感がありました。ただ、これから事業の発信を進めていくうえで、会ったり直接話したりできない人に伝えるときに、誤解なく自分たちの思いが伝わるか、悩んでいます。

大内:「めとてラボ」は翻訳やコミュニケーションについて考えているチームでもあるので、言語や身体の違いのある人に伝わるよう、慎重になりますよね。ジムジム会は悩みを投げ合う場なので、これからもぜひ悩みをぶつけてください。ちなみに青木さんは活動を始めたとき、地域の人にどのように共有していきましたか。

青木:直接会って話したほうが早いと思ったので、コミュニティのハブになっているカフェにいって、2時間くらいお茶をするなどしました。

大内:メディアをどのようにつくるかも重要ですよね。以前、墨田区で「墨東まち見世」というプロジェクトを実施していたときに、高齢者にどう伝えるかを研究してチラシをつくっていました。文字を大きくして電話番号をバーンと入れて。「HAPPY TURN」でも通信を発行していますが、島の人に親近感をもってもらうために手書きにしていますよね。編集を担当している飯島さんにも、この4つのポイントについてきいてみたいのですが。

飯島知代(HAPPY TURN):『くるとのおしらせ』は1ヶ月に一度発行していて、30号以上つくっています。島に住んでいる方々は屋号を持っていて、年配の方には「君はどこ(の屋号)?」ときかれたりするのですが、最近は「『くると』の者です」というと「ああ、あそこね」といわれることもあり、年配の方たちにも届いているのかなと実感しています。
それから、この4つのポイントのなかでは「自己評価」について、チーム内だけではなく個人単位でやってみてもよいかもと思いました。

エモーショナルな部分をどうやって評価につなげる?

大内:その視点は今回入れていなかったかもしれませんが、運営するスタッフ一人ひとりにとっての目標も大事ですよね。自分の成長がチームの成長につながります。
Zoomのチャットにもコメントがきているので読みますね。「アートプロジェクトは数値ではなくエモーショナルな部分で評価されることが多い印象です。そのエモーショナルな部分をどう評価するかが難しい」と。たしかに、エモーショナルな部分をいかに冷静にみせるかですよね。

青木:評価の手法ではないかもしれませんが、最近は記録を動画に残すようにしています。動画は、現場を体験していない人にもエモーショナルな部分を共有できる素材だと思っていて。場の雰囲気を生のまま伝える方法の一つだと思います。

大内:SNSの隆盛もあり、動画は伝えるツールとしてより身近になりましたよね。紹介ムービーをつくっているプロジェクトも多いですが、たしかにエモーショナルなことを伝えられるメディアだと思います。そろそろ時間ですが、青木さん、何か聞けていないことなどありますか。

青木:聞けていないポイントもありますが、この4つのポイントは全部つながっている課題だと思います。我々「ファンファン」が活動する墨田区では、文化的な活動を長く続けている人が多い地域です。ここで長く残っていくにはどうすればよいか、評価の方法を探りながらこれからも考えていきたいです。

大内:東京アートポイント計画の事業は「10年単位で考える」といったことをキーワードにもしています。まずは10年続けるために、1年目、2年目、3年目と一つひとつステップを踏みながら目標を立て、振り返るようにしていけたらいいなと思います。

📝  📝  📝  📝  📝

今回のジムジム会は、グループワークやレクチャーなどをせず、「評価」というテーマで悩みや工夫をゆるやかに共有する場となりました。評価を考えることで、事業がどう伝わっているか、どう受け止められているかを抽出していくことは、活動を続けていくうえで重要なプロセスです。1年目の事業から5年以上続く事業まで、それぞれ課題や視点は違いますが、それらを言葉にすることでお互いに気づきの多い会となりました。

(執筆:佐藤恵美

SHARE

プロジェクトについて

関連レポート