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打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた

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2019.12.27

執筆者 : きてん企画室

打って出る/NPOの届けかた・つなぎかたの写真

ジムジム会とは、「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」のこと。2019年度は「届けかた・つなぎかたの筋トレ」をテーマに掲げ、アートプロジェクトの運営にまつわる考えかたや方法を共催団体と身につけていきます。今回も“ジムジム会の事務局”であるきてん企画室がレポートをお届けします!(前回のレポートはこちら

■ゲスト:入谷佐知さん(認定NPO法人D×P)

第3回のテーマは、「打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた」。ここでの「打って出る」とは、戦略的に届けたり、相手とつながること。その実践者として、認定NPO法人D×P(ディーピー)(以下、「D×P」)の入谷佐知さんをゲストにお迎えしました。

D×Pは一人ひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会を目指しています。これまで関わった生徒数は約4,000名。不登校経験・中退経験、経済的困難などの「生きづらさ」を抱えた10代が多く集まる通信制・定時制高校で、「人とのつながり」をつくったり、進路や就職に関するサポート、「いきるシゴト」を一緒に考える取り組みをしています。

ゲスト:認定NPO法人D×P(ディーピー)広報・ファンドレイジング部/経営管理部 部長・入谷佐知さん

■ 「共感」で集まる寄付とは? NPOの戦略広報・ファンドレイジングを学ぶ

NPO経営におけるD×Pの特徴は、財源の半分以上を寄付収入で構成していること。2018年度の全体収入約8,000万円のうち寄付収入が5,533万円。マンスリーサポーターと呼ばれる定額寄付会員は600名以上。また高校生と対話するボランティアも常時募集しており、現在約400名が登録、その多くがアクティブに活動しています。

公益事業を手掛ける非営利法人にとって、寄付やボランティアの存在は大きな推進力。なぜなら、財源だけの問題ではなく、団体の活動方針や社会的な理念に「共感」してくれる証でもあるからです。目指すべき方向性を明確に打ち出し、きちんと成果を報告し、ステークホルダー一人ひとりと丁寧なコミュニケーションをとれてこそ集まる「共感」のかたち。D×Pのコミュニケーションやファンドレイジングは、いったいどのような考えかたで運営されているのでしょうか?

東京アートポイント計画の参加団体も、多くはNPO法人や一般社団法人などの非営利型組織です。アートプロジェクトや表現をめぐる活動を通して、どのように人と関わり、社会における価値創造につながっていくことができるか。そのヒントを学ぶべく、今回は入谷さんにたっぷりお話を伺いました。

◼︎組織にまつわる思い出のすべてが広報につながる

そんなD×Pの広報・ファンドレイジング部兼経理管理部の部長である入谷さんは、インターン生も含めた仲間に、「広報・ファンドレイジング部は、一方的に伝えるのではなく、双方向のコミュニケーションでD×Pと仲良くなる人をつくるチームです」と伝えているそう。

また入谷さんは、「D×Pにまつわる思い出のすべてで、D×Pは記憶される」と言います。

「広報とは何かを偽ったり取り繕うものではなく、ここにいるスタッフ全員がD×Pをかたちづくるもの。いくら言葉で示しても、実態が伴っていないと意味がない。だから、事務所の雰囲気づくりから日々のコミュニケーションまで、すべてを大切にする必要があるんです。たくさんの方に応援していただくには、地道な実践が欠かせないと思っています」。

◼︎一番多い寄付理由は「お願いされたから」

寄付集めを始めた当初、「どれだけ支援対象がしんどいか、大変かを伝えなければ財布の紐なんて緩むはずがない。身を切られるような思いをさせてこそ、 寄付集めの担当者なんだよ」と知人に言われた入谷さんは、2013年度の活動報告書をシリアスなトーンで制作しました。しかし、「高校生の“かわいそう”を売っていることになるんじゃないか」ともやもやし、次年度からは明るいトーンにデザインを変更。(※最新号、2018年度の報告書ページはこちら

実際、D×Pの寄付者にヒアリングしたところ、「高校生がかわいそう」と思って寄付した人は少ないことがわかりました。ビジョンへの共感や、寄付をすることへの充足感など理由はさまざま。「知人に寄付をお願いされたから」という理由も多いそうです。

入谷さんも、新しく出会った人や、D×Pについて話した知人に向け、「よかったら寄付をお願いします。断っていただいても大丈夫です」と、声がけすることを心がけているそう。このときのポイントは、寄付を断っても相手との関係性が変わらないように一言添えること。

そして、事業がうまく進んでいなかったり、組織体制が揺らいでいるときには「寄付して」とは言いづらいもの。明るく胸を張って寄付のお願いをするためには、広報だけでなく、実態が伴っていることが大事だと強調されました。

型にとらわれることなく、目の前の人たちの声に耳を傾け、直接対話することで新たな活動につなげる。まさに広報コミュニケーションの基本のきを教わるようなレクチャーでした。

「組織にあったマネタイズモデルを考えることが大事」と、図を示しながら話す入谷さん。

◼︎ワーク:機会損失を洗い出す「ステークホルダー分析」

前半のレクチャーを受け、後半では、ステークホルダー分析図を書くワークを実施。

D×Pでも、組織の周囲にどんな人がどのくらいいるのかを図に書き出すところから広報活動の見直しを行ったと言います。ステークホルダーを洗い出すことは、機会損失に気づき、新たな施策を考えるヒントになります。

参加団体もそれぞれステークホルダー分析図を書きました。「親しいか、遠いかのどちらかで中間層がいない。これはSNS活用が苦手だからかも」「こども達にアプローチするなら、まずその親世代とのコミュニケーションが必要」など、さまざまな発見があったようです。
ステークホルダー分析図ワークで書いてみたサンプル。円の中心に近いほど、活動に共感してくれ、事業に参加してくれたり何かしらの応援をしてくれている人々。円の外側に行くほど、つながってはいるが具体的に巻き込めているか不明な人々。D×Pの場合は、寄付者との関係性で分析図をつくり、施策を考えている。(※出典:日本ファンドレイジング協会資料 ステークホルダーピラミッドより)

◼︎ディスカッション:寄付で関係は変わる?

ジムジム会の最後は、質疑応答とディスカッションの時間です。クラウドファンディングに取り組んでいた団体からは、「『寄付をしなくても関係が変わらないように』とおっしゃってましたが、寄付をしたことで関係性は変わると思いますか」との質問が。

入谷さんは、「変わると思っていますし、変えかたをデザインできるとも思っています。初期は寄付した方に対して『ありがとうございます、ありがとうございます』と何度も頭を下げるような気持ちでしたが、最近では『D×Pのコミュニティにようこそ!』とお出迎えするようなコミュニケーションしています」

D×Pに寄付したことがあるという参加者が、「寄付をしてすぐに報告書が届いたことに驚きました」とコメントすると、「すぐに気持ちは冷めるし、寄付したこと自体忘れてしまうので、D×Pをいかに思い出していただけるかを大事にしています」と話されました。オンライン上で寄付が入金されると、すぐにメール返信、SNSグループへの招待、報告書送付ができるようにしているそう。

また「マンスリーサポーターの月の退会人数やその理由を教えてください」という質問については、「退会者は月1〜3名で、お子さんの進学や退職など、生活の変化のタイミングで寄付をやめられるかたが多い」とのこと。一人ひとりの退会理由もしっかりヒアリングして、たとえネガティブな理由であっても真摯に受け止め、丁寧に対応されているそうです。

終了後のアンケートには、さまざまな刺激を受けた参加者の言葉が。

寄付についてのお話でどんな内容なのかはじめは想像できていなかったが、団体を運営していく上でのビジョンや考えかた、運営方法など、とても参考になりおもしろかったです。活動を理解してもらうためにはやはり何を大切にするのかはっきりさせることがとても重要だと思いました。

内外の関係者との関係づくりをとても細やかに丁寧に設計し実践されているのが印象に残りました。

ステークホルダー分析は、頭のなかでの常にステークホルダーを思いうかべてやっている“つもり”でも、書き出してみるとやっぱりちがいますね!見える化されてスッキリしました

「事業(イベント)」への寄付は集まるが、団体に対してではないので、団体の全体の活動に対してもらえるようにしたい

参考にしたい! すごい! わかりやすい!たしかに!と思うことが多い反面、すごすぎて自分の事業に合わせて何を生かしていくかはゆっくり考えたいと思いました。

次回のジムジム会のテーマは、「手段を選ぶ/SNSのつかいかた・つづけかた」。2020年も事務局のトレーニングはつづきます。よいお年を!

お話の最後に入谷さんは、「寄付集めを始めようと思うなら、まずは自分が寄付してみるのもよいかもしれません。もちろん、その寄付先がD×Pだとうれしいです!」と笑顔でさらっとアピール。しっかり「打って出て」いらっしゃいました!
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