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座談会:ミュンスター彫刻プロジェクト2017を振り返る→2027

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2018.08.21

座談会:ミュンスター彫刻プロジェクト2017を振り返る→2027の写真

「ミュンスター彫刻プロジェクト」は、ドイツ北西部の都市・ミュンスターで10年おきに開催されている芸術祭。1977年から始まり、昨年に5回目が開催されました。日本のアートプロジェクトの歴史のなかでも、ミュンスター彫刻プロジェクトから影響を受けていると述べられることが多々あります。会期中は世界中から人々が作品を見に訪れ、日本の作家としてはこれまでに川俣正さん、曽根裕さん、荒川医さん、田中功起さんなどが出展しています。

そんなミュンスター彫刻プロジェクトへの招聘を目指すスタディ、「2027年 ミュンスターへの旅」が9月にスタートします。ナビゲーターを担当する佐藤慎也と居間 theaterが、昨年それぞれ現地に行き、体験して来た「ミュンスター彫刻プロジェクト2017」の振り返りをおこないつつ、スタディに向けた興味関心・目指すところを話しました。

>座談会メンバー
 佐藤慎也居間 theater(東彩織、稲継美保、宮武亜季、山崎朋) *稲継はスカイプにて参加。

・掲載写真は、全て居間 theater、佐藤慎也撮影によるものです。

芸術祭を巡る時間

 私たち居間 theaterは、昨年(2017年)の「ミュンスター彫刻プロジェクト」で初めてミュンスターを訪れました。3ユーロの地図を買って、みんなで美術館の横のレンタサイクルで自転車を借りて、1日中回りました。(佐藤)慎也さんとは残念ながら数日違いで出会えませんでしたが、帰って来て感想を話したとき、率直な感想として「楽しかった!」がありましたよね。今でもみんなで写真を見返して思い出に浸るという(笑)

佐藤 僕もミュンスターは初めて訪れたけど、街の中に彫刻(パブリックアート)を10年おきにつくっていくこのプロジェクトが、日本のアートプロジェクト(の歴史)とどう関係があるのか、今まで不思議に思っていました。行ってようやく分かったのだけど、ここで彫刻と呼んでいるものは、狭義の意味の彫刻を街に置くということだけではなかった。

確かに最初は、例えば初回の1977年につくられたドナルド・ジャッドの作品のように、パブリックアートのような彫刻作品だったのかもしれないけど、その後、場所との関係や街の人たちとの関係が変化していって、それに伴って「彫刻」はさまざまな拡がりを持ってきたのだろうなと改めて思いました。

いわゆる彫刻的なものはもちろんのこと、場所と一体となった映像インスタレーションだったり、毎回決まった時間におこなわれるパフォーマンスだったり、現代的な美術の動きが確実に反映されていたように思います。それが10年という準備時間を使って街の中に実現していき、それを街の人たちがさまざまに向き合い、受け入れたり、反発していきながら、また次の10年に向かっていくのだろうな、と。もはや彫刻は、その話し合いのための触媒でしかないようにも見えました。

Donald Judd 《Ohne Titel [Untitled]》1977

宮武 私も、10年かけて作品が街の人のものになっているんだなと感じました。パブリックアートが居場所になっている。先ほど例に出たジャッドの作品を見に行ったら、普段からよくそこに来るという男性が、「どこから来たの?」と声をかけてくれたことが印象的でした。きっと彼にとってそこは自分の居場所でもあり、外の人との出会いの場でもあるのだろうな〜と。ほかにも、家族で水辺の風景を楽しんでいたり、カップルのデートスポットになっていたり、落書きがされていたり。

 やっぱり、時間の感覚が面白かったですよね。新作だけでなく、10年、20年、30年、40年前につくられて、そのまま街に残されている作品もたくさんあって。私たちは過去の作品を自転車でめぐりましたけど、場所を移動する(横移動)のと同時に時間も遡っている(縦移動)ような感覚になったりして、散歩やサイクリング的なことも相まってか、時間を旅しているような「気持ちいい」感じがよかった。

サイクリングをしながら作品をめぐる。素朴な顔で見上げる一行。
これを眺めていたのでした。 Ilya Kabakov 《”Blickst du hinauf und liest die Worte…” [“Looking Up. Reading the Words…”]》1997

稲継 そう。思い返すと、ミュンスターでの体験にとって「移動」ってすごい大事だったんだな〜、って。自分の足で、街を捉える感覚が点から面になっていくのと、作品鑑賞とがセットになっていたことがとっても面白いポイントだったんだなぁ。
自転車で通り過ぎるスピードと、車で通り過ぎるスピードでは、当たり前だけど全然目も耳も状態が違う。地図片手に本気を出せば全部チャリで回れるっていう規模感(空間、作品数)が、個人的にとても好みだったんだなって。

佐藤 一方で僕は、プロジェクト側が用意した完璧なナビアプリを使って回ったことで、街を把握しにくかった、という贅沢な悩みもあった。それを見て自転車さえ漕げば、目的地に着いてしまうから。やっぱり、日常の近くにあって、気が向いたら作品を見る、みたいな感じが理想なのかな? 観光客として行くと、どうしても効率を重視してしまう。どうやったら効率から距離を取れるか、とか。

山崎 私は街の第一印象が記憶に残ってて。駅を挟んで反対側の「盛えている方面じゃないほう」に出てしまったからか、さびれていて治安のよくない街なのかと思ってしまいました。宿泊したホテルのすぐそばでは、昼間から酒瓶をもったおじさんたちがうろうろしていたり。ただ、それらは必ずしもネガティブな印象というわけではなくて、そのような土地で芸術祭がおこなわれてきたというのは一体どういうことなのだろう? 街と芸術祭との関係は? その歴史は? と、興味がわいた経験でした。結局そのあと、旧市街や広場や教会のある方面へ行ったので、この第一印象はすぐに塗り替えられることになったのだけど……。

旧市街である中心街の様子。切妻造りの建物が並ぶ。まちの中心には教会。

佐藤 ちなみに、ミュンスターは第二次世界大戦で大きな被害を受けて、旧市街のほとんどが破壊されたけど、その後に住民の要望があって、一部が復元されたそうです。その中で残った歴史的な建築物としては旧市庁舎が有名で、昨年のプロジェクトでは、パフォーマンス的作品の会場として使われていました。

稲継
 パフォーマンスは私たちも見ました。こんな重要文化建築みたいなところでやるのか! って。

 たしか、「壁に寄りかかったり装飾に触らないよう気をつけてね」と言われたよね。結構ラフな感じだった思い出がありますが……(笑)

旧市庁舎でのパフォーマンス。パフォーマーが空間全体を動き回る。 Alexandra Pirici 《Leaking Territories》2017

佐藤 一方、現代建築としては、ボレス+ウィルソンの代表作であるミュンスター市立図書館があり(ジュリア・ボレス・ウィルソンはミュンスター生まれ)、そこの地下にも映像作品が展示されていました。ほかにも、中世の要塞跡が、ナチスの秘密警察によって拷問や処刑のための場として使われていて、そこにもとても印象的なレベッカ・ホルンの作品が常設されていたりする。本当に街のあちこちに彫刻が埋め込まれているという感じでした。

ミュンスター市立図書館。奥の教会との対比が印象的。
Rebecca Horn 《Das gegenläufige Konzert [Concert in Reverse]》1987/97

稲継 「ドクメンタ」で有名なカッセルも、ミュンスターも、第二次世界大戦で一度街が破壊されてるんだねぇ……。

山崎 あと、芸術祭がおこる発端となったのが、彫刻(ジョージ・リッキー「三枚の正方形」)を街におくことをめぐる論争だったということで、観光や地域活性を目的としてつくられた日本の芸術祭とは性質が違うのだろうけども、しかし、私は結局「観光客」としてしか街に行けていないので実感がもてない部分もある。そのあたり実際どうなのかな? という関心があります。

おおらかな運営と質の担保

佐藤 そうそう、会期中の開館時間の長さにも驚きました。毎日、朝の10時から夜の20時まで開いていて、金曜日なんて夜の22時まで開いている。だから見る側は、朝から晩までヘトヘトになるまで回ることができる。見る側も大変だけど、何よりその時間を運営しているほうも非常に大変だと思う。

宮武 実際にどう運営されているのか、という興味はかなりありますよね。それと見る側にも運営側にもおおらかさがあるというか。突然現れて道を封鎖した作品(パフォーマンス)にも、みんななんだかんだいって手伝ったり。人気作品はオープン前から並び始めるけどスタッフはいなくて。列の統制がされていない長蛇の列も、そこにいる人同士で情報交換しながらみんなで待つ、みたいな光景がよく見られて。見る側と運営側になんとなくのコンセンサスがあるような。でもそれも、40年の蓄積なのかなとか、一方で問題は色々あるのかな、とか……。

中心街で突然、「アートのメジャー」と書いてある大きな定規を広げ始める。かなりでかいので、スタッフだけでなく周りの人が手伝っている。

 昔の作品に普通に落書きされてて、しかも「ちょうどいいから」って感じでスケボー練習の場みたくなってるけど、でもそのことに誰も「キー!」ってなってない感じとか。

山崎 廃スケートリンクでのピエール・ユイグの作品は長蛇の列ができていて、入場するまでに1時間ほど待ったのだけど、入ってみると場内は思いのほかお客さんが少なく閑散としていて。でもそれは観客の鑑賞体験の質をきちんと担保するために必要なコントロールなのだとわかった。劇場にしろ美術館にしろそれ以外の場所にしろ、作品を観たりつくったりするときにはいつもこの体験を思い出します。

稲継 「体験」としてのクオリティを守るためには、見たい人は何時間だって待たせるけど、日本的な「お待たせして申しわけありません」というノリのスタッフはひとりもいなくて、並んでる最中はノーケアで、最後の最後に「もうすぐ順番だよー、やったね!」的なスタンスだったね(笑)

入口で入場制限がされていて、一組が出ると一組入る。外には待機列ができている。 Pierre Huyghe 《After ALife Ahead》2017

10年という時間軸で考える

稲継 ところで、いま滞在制作で「越後妻有 大地の芸術祭」に来ているんですけど、ミュンスターを経験したあとに越後妻有を経験すると、単純に、これまでより面白く感じることがたくさんあるし、考えるアンテナが増えたような感じです。当然、問題にしている点もテーマもモチベーションも、芸術祭を取り囲む財源やらあらゆる状況も違うわけで、比較することにそんなに意味はないのかもしれないけど……。でも、初回の作品なんかは2000年につくられて18年たった現在、かなり作品が自然に還っていて、素直に感動しました。これ、つくられた当初のものと随分佇まいが違うんだろうなー、とか。「時間」のこととか、より精度の高い気持ちで見られるというか。

佐藤 そういう意味でも、最初の話に戻るけど、10年という時間の単位を考えることには意味があると思います。一般的な芸術祭は3年おきに開催されることに対し、10年という時間を取ることはどういうことなのか。しかも「彫刻」という概念は、10年という時間によって少しずつ変化していっているわけだし。

 「公共」というテーマは一貫しつつ、2017年のミュンスターは、デジタル化時代における身体性・公共対個人の領域の関係性、などが大きなテーマとしてもあったと、記事で読みました。

宮武 2017年の作品は、映像やパフォーマンスも含め屋内のものも多かったけれど、どの作品がどんな風に10年後やその先に残されていく・いかないのかというのも気になりますよね。パフォーマンスを主に扱う居間 theaterにとっても、何をつくって何を残せるのかを考えることは重要だと思います。

山崎 コレクションとして残されていくものはやはり物質として残るものとしての「彫刻」で、映像インスタレーションやパフォーマンスはそこには含まれないのだろうか、とか。10年後に再設置・再演というのは技術的には可能だろうけど、この芸術祭においてそれがどのくらい意味のあることなのだろう……。やはり10年という時間、その場所にずっとあるということに重要性があるのではないかとか、考えます。その間、とくに注目はされなかったとしても。

稲継 そう考えると、やっぱり「移動」とか「体験にまつわる時間」とかをどういう風にこちらから提案するか、というのはとっても大事だと改めて思った。というか、実は芸術祭において「作品」そのものはもちろんインパクトとして残るけど、一方で移動や鑑賞してない時間をどう過ごすか、というのはその芸術祭の決め手だな、とすら……。

 そういう意味では、例えばミュンスターと越後妻有での時間感覚は違うだろうし、10年という時間単位でも街の歳のとり方はそれぞれだと思います。これから私たちが始めようとしているスタディは東京からスタートしますが、東京の時間感覚はそれこそ違うはずで、東京における「公共」の考えかたもミュンスターとは違うのかもしれない……。ミュンスターを考えることで、様々な都市の10年まで見えて来たら面白いですね! そのスタディを、2018年の東京で始めることにこのスタディの醍醐味がある気がします!

佐藤 それが、9年後の彫刻(美術)のあり方を考えることにもなる。居間 theaterが、いま東京でやっていることは、間違いなくそこにつながっていると思う。だからこそ、このスタディでは、本当に9年後のミュンスター行きを目指すためにも、これまでのミュンスターや芸術祭、それに僕自身は建築が専門なので、美術館を含めた美術のための場を振り返りながら、これからのことを、居間 theaterや参加する皆さんと考えてみたいと思います。そんな貴重な時間になるのではないかと期待しています。

2027を目指したスタディ

宮武 初回は、(ミュンスターで4日間かけて、いま残っているすべての作品を見てきた)佐藤慎也さんによる、ミュンスターを含む芸術祭の歴史をめぐるレクチャーをおこないます。また2回目には、ミュンスターの話を聞くにはこの人しかいない! ということで、美術ジャーナリストの村田真さんをゲストに呼んでお話を伺います。ほかにもゲストを呼ぶ予定ですが、次回のゲストは村田さんと相談しながら決めようと思っています。

稲継 テレフォンショッキング方式や!(笑)

宮武 私たちも先が見えないスタディを楽しむために、毎回のライブ感を大事にしていこうという目論見です。そのほか、実際にミュンスターの事務局に送る手紙をみんなで考えたり、PR動画をつくったり……ということも考えています。予定調和にならないように、みんなでスタディをつくっていけたらと思います。

山崎 途中には、私たちが進めているプロジェクトの現場の様子も覗いていただきます。地理人さんとやっているプロジェクトとか、いろいろと計画しているところです。
 
 われわれはまだミュンスター彫刻プロジェクトの初心者です。これからスタディを重ねることで、パフォーマンス・美術など垣根を越えて、芸術祭やアートプロジェクトについて改めて学んでいけたらと思います。一緒に勉強したいかた、ぜひご応募くださいね!

佐藤慎也と居間 theaterがナビゲーターをつとめる「2027年 ミュンスターへの旅」は8月26日応募〆切!
スタディは月1〜2回程度のミーティングや、フィールドワークを行います。ミュンスター彫刻プロジェクトをはじめ、さまざまな芸術祭に造詣の深いゲストをお呼びし、お話も伺います。

スタディ2:2027年ミュンスターへの旅 
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*ミュンスター彫刻プロジェクトの詳しいフォトレポートが、Tokyo Art Beatのサイトに掲載されています。

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