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REPORT

ディスカッション2「誰と暮らす?どう住まう?―これからの『家族』のカタチを考える」レポート

公開日|2020.03.16

開催日:2020年2月5日(水)
ゲスト:首藤義敬(株式会社Happy 代表取締役)いわさわたかし(岩沢兄弟/有限会社バッタネイション 取締役)
モデレーター:上地里佳(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

左から:首藤義敬(株式会社Happy 代表取締役)、いわさわたかし(岩沢兄弟/有限会社バッタネイション 取締役)、上地里佳(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

「いまの社会で、これからの実践を立ち上げるための新たな視座を獲得する対話シリーズ」として全4回にわたってひらかれる対話の場「ディスカッション」。各回にそれぞれテーマを設け、独自の切り口や表現でさまざまな実践に取り組むゲストを迎えながら「これからの東京を考えるための回路をつくること」を試みます。
第2回のテーマは、「これからの『家族』のカタチを考える」。多世代型介護サービス付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」など、型にはまらないユニークな場所づくりを展開する・首藤義敬さんと、空間デザインユニット「岩沢兄弟」で空間づくりを通したコミュニケーションデザイン・プランニングを行ういわさわたかしさんのお二人をゲストに迎えます。

「今回のディスカッションでは、家族に関わる試行や実践を重ねているお二人のゲストをお招きし、さまざまな“家族のカタチ”について考えていきたいと思います。お二人の活動は「家族」を閉じたかたちではなく、地域にひらこうと試みながら、関係性や場所を築いているのも特徴です。そこから、アートプロジェクトにおけるコミュニティや拠点形成のあり方とも重ねながら、お話を伺っていきたいと思います」(上地)

モデレーターの上地から、今回のテーマにあたっての想いが語られた後、それぞれの活動を共有しながら、これからの「家族」のカタチと、コミュニティ形成のあり方について、考えました。

「共存」できる環境をつくる:首藤義敬

首藤さんが運営する兵庫県神戸市の介護付き高齢者シェアハウス「はっぴーの家ろっけん」(以下、はっぴーの家)は、従来の介護施設とは違う、一風変わった形態が特徴です。看板のない6階建ての建物には約30名の高齢者が入居し、施設の1階にあるリビングスペースは入居している・していないに関わらず誰もが出入り自由。集う人たちは、認知症の高齢者から外国人、地元の子供たちにノマドワーカーまで、年齢も職種も国籍もバラバラ。入居者の親戚というわけでもなく、さまざまな背景を持った人々が1週間に約200人以上も訪れるといいます。

彼らは一体何を求めて、この場所に集うのでしょうか。「『はっぴーの家』に特別なルールはなく、集まる人たちはみんな思い思いの時間を過ごしています。誰も否定されずゆるやかに関係し合う環境下で、いろんな化学反応が起きるので、自然とみんなの『居場所』になっていくんです」と首藤さんは説明します。

「“介護付き高齢者向けシェアハウス”としていますが、社会のためや高齢者のためにこの場所をつくったわけではないんです。もともとは自分たち夫婦が子育てに対する不安を抱えている最中、祖父母の介護も重なり、家族にとって一番良い教育や介護の環境はどんな世界なのか、改めて考えるようになったことがきっかけ。そこで生じた課題を解決するための場所として『はっぴーの家』をつくりました。自分たちにとって心地良い場所をつくれば、それに共感する人もきっといるはず。自分の『エゴを社会化』したんです」(首藤)

自社のWEBや広告を一切出さず、口コミやメディア取材のみで認知されていった「はっぴーの家」。この環境の近くで子育てをしたいと、東京から移住してきた方もいるそう

施設ではみんながバラバラな背景を抱えているがゆえに、衝突も頻繁に起こるそう。けれど、「無理に誰かを矯正しようとするのではなく、その人がその人のまま存在でき、共存できる環境をつくることが仕事」と首藤さん。

「ここで実践しているのは、『日常の登場人物を増やす』こと。みんながゆるくつながれば、もっと生きやすくなるのでは?という思いでやっています。『遠くのシンセキより近くのタニン』という概念のもとに、たとえ他人であっても近くの人たちのコミュニティが豊かであれば、いろんな世代が暮らしやすくなるのではないかなと。限定的な家族観だけでなく、こうした選択肢を増やすためにこの場所を運営しているんです」(首藤)

「役割」が固定されない関係:いわさわたかし

空間や家具・什器から映像、コミュニケーション設計まで、地域やコミュニティに根付いた幅広いクリエイティブ制作を手がける兄弟ユニット「岩沢兄弟」 で活動するいわさわたかしさん。アーツカウンシル東京主催の「HAPPY TURN/神津島」でも、プロジェクトの活動拠点となる空間づくりを担当(詳細はこちら)。「空き家となっていた場所だったので、そこに住んでいた方の“家への想い”を想像し、『丁寧に壊す』ということを意識しながら改装を進めていった」と神津島でのプロジェクトを振り返ります。

そんないわさわさんは近年、自身の空間デザインのスキルを生かして、祖母宅の改装を手がけたそう。そこで「家族」という関係性に改めて目を向け、さまざまな想いを巡らせたと話します。

「千葉にある実家の建て替えを機に、数年前から、祖母と両親、私と妻、子供の一家で変則的な同居生活を行っています。実家を離れて20年以上経っていたこともあり、そこで自分の知らない間に両親や祖母の老いが思いのほか進んでいることに気づいたんです。定年で退職した父は一日中テレビを見ている状況で、家族間のコミュニケーションの課題について向き合う必要が出てきました」(いわさわ)

そうした課題を抱えながら生活を続けるうちに、祖母が骨折。介護が必要となり、実家から斜め向いの祖母宅に母親が住むようになってからは、テレビ漬けだった父の孤立がますます加速したといいます。そこからいわさわさんは、これまで積み重ねてきた課題を解消するためにも、祖母宅をみんなが集える場所にしようと、改装を実施しました。

改装した祖母宅の間取り。父親が孤立せずにテレビを見ることができるスペースをつくったり、壁にデジタルサイネージを設置して家族写真を流したりと、コミュニケーションを促す工夫を各所に施したそう

「部屋の間仕切り壁をとってリビングを広くし、いろんな人が集えるように可能な限りオープンな空間にしました。キッチン・食事スペースのそばに祖母の介護ベッドを置き、父のテレビ空間も同居させたことで、場所のあり方が多様になった。すると、祖母が自分の意思で積極的に動き、自由な振る舞いをするようになったんです。家族間でも『役割はあるけれど、固定されない』という柔軟な関係ができ、居心地良く過ごせるようになった気がします。そうした環境を保てるように、日々意識していますね」(いわさわ)

改装後の生活では、家にお客さんを呼んで一緒に食事をとることも多くあるそうで、家族以外の人とも交流が生まれる状況を、ゆるやかに展開しているといいます。

「けれど、父の孤立はまだ解消されず……その膜をゆっくりとはがしていくような日々ですね。次は家のなかに子供向けの美術教室などを設けて、父が子供たちとの関わりに自然に巻き込まれるような状況をつくろうと構想中です」(いわさわ)

「家族」のなかに、他者を介入させる

それぞれの活動紹介を経て、ディスカッションへと移ります。まず、上地が話題に挙げたのは、“さまざまな人が集える場”というお二人の空間設定における特徴から、「『家族』という構成に他者を介入させる」ことについて。そこには、どのような狙いがあったのでしょうか。

―いわさわさん(以下、I):そもそもは父親の孤立を防ぐため、というのが大前提にありますが、一方で自分への負荷を軽くしたい、という想いからそうした状況を生み出すようにしています。というのも、家族のこととなると、自分のなかで重く捉えないようにしても常にどこか引っかかるものがあり、語りづらくもなる。けれど、家のなかに家族以外の他者も関われるようなひらかれた環境があると、少しずつ視点を広げられるんです。そこから見えてくるものもあるんじゃないかなと。

―首藤さん(以下、S):僕たち家族も「はっぴーの家」でいろんな人との交流が増えたことは、とても良かったです。僕も奥さんも自営業なので、子供と接する時間を多くは捻出できない。けれど、この家に集まる人たちと一緒に食事をしたり、遊びに行ったりと、いつのまにか自分の知らないところで子供の交友関係が広がっていたんです。自分たちだけで子育てを背負わなくても良いんだと思えて、楽になりました。


個人的な「家族」だったものが、他者を介入させることでかたちを変え、ひらかれた関係性になっていく。外に小さな関係をいくつも編み出せる環境が心を軽くしたと、お二人は話します。そうした話を受け、モデレーターの上地からはこんな意見も語られました。

―上地(以下、U):「家族」という関係性のなかでは、お互いにとって大切なことをどこか共有しづらい状態があるような気がします。私自身も、普段の自分が抱えている価値観のまま家族と話をするのは、難しく感じてしまう。そういうときにも“他者を介在させる”ことによって、解決できることがあるように思いました。


首藤さんは、そういった家族間におけるコミュニケーションの不自由さを「お互い過ごした時間が一番濃密な記憶のなかで、そのまま時間や関係が止まっているから」だと説明し、こう続けます。

―S:たとえば認知症の母親を介護する子供は、いま現在の自分が母親の世話をしている感覚になるけれど、母親にとってはいつまでも自分の子供だという認識なんです。だから、コミュニケーションが噛み合わないことも出てくる。感情と背景がぶつかって、冷静になれないこともあります。その意味で、僕は「家族」が一番難しい関係性だといつも感じているんです。

「余白」がもたらすもの

ディスカッションの後半は、参加者からの質問をもとに進行。「『場所』や『空間』を立ち上げるときに、大切にしていることは?」という質問を受け、「コミュニティづくり」に対するお二人の認識について意見が交わされます。

―I:こうした話をする際、よく「コミュニティデザイン」という言葉で語られることが多くありますが、僕のなかでは「場」も「コミュニティ」も、それ自体を自分たちがデザインできるとは考えていなくて。もっと、その手前にある課題を表出させ、共有することにデザインの役割があると思っています。その先のことは私たちでなく、みんながつくっていけるように橋渡しができれば良い。その一歩手前の部分を整えることを大事にしています。

―S:すごく共感します。僕にとって「コミュニティ」は“現象”なので、最終的な結果でしかない。よく若者から「コミュニティをつくりたい!」と相談を受けることがありますが、最初から「コミュニティづくり」が目的にあってもダメなんです。そうではなく、その前段階にある、“価値”のデザインをすることが大切。訪れた人たちが、その場所に価値を感じて集うようになれば、「コミュニティ」は勝手にできていく。とてもシンプルな仕組みなんです。


場所そのものの価値を育てていくのは、あくまでもそこに集う人々。その前段のところでいかに丁寧に課題を探り、集いたくなる魅力を注げるかが重要だといいます。そしてその魅力は、役割を固定しない「余白」から生まれるものだと、お二人は続けます。


―I:場所に決まった役割や枠組みをつくってしまうと、「こうあるべき」という理想や正しさが押し付けられるような価値観が持ち込まれてしまうんです。そこに縛られすぎると不自由になる。だから、意味や役割を固定しない、ということは意識しています。

―U:岩沢兄弟が手がけられた「HAPPY TURN/神津島」のプロジェクトも、最初から何をする場所なのか定めないまま拠点づくりが進められていましたよね。けれど、そのように役割を定めなかったからこそ、多彩な場の使われ方が展開され、魅力ある場所が生まれています。

―S:「はっぴーの家」が看板を掲げていないのも、100人いたら100通りの使い方をしてもらえれば良いと思っているから。訪れる人たちも、肩書や役割を気にせず「お互いがお互いにどうでもいい」というゆるい関係が心地良いそう。いわさわさんの家族のエピソードでも語られた「役割はあるけど固定しない」という表現は、場所にも人にも通ずるキーワードで、まさに真理だなと思いました。

枠組みをとかしていく

「家族」について考えるとき、そこには老いや介護、育児や住まいなど、さまざまな課題がついてまわります。さらに社会の状況や生活環境も変化していくなかで、私たちはそれらの課題とどのように向き合い、どんな視点のもと、「家族」との関係を見つめることができるのでしょうか。
首藤さん、いわさわさんの実践を紐解いていくと、家族やコミュニティ、場所などに対するアプローチは、いずれも「他者を介入させる」「固定しない」といった、ある枠組みをゆるやかにほどき、溶かしていくような方法にたどりつきます。そうすることで、これまで抱えていた課題が自分だけの固有のものではなくなり、他者に共有され外にひらかれていく。縛られていた枠組みから解かれて、自由に振る舞うことができる。「こうあるべき」「こうでないといけない」と規定するのではなく、大切なのはそのとき、その状況に合わせて一番心地良い関係にかたちを変えていくこと。そうした視点を得ることで、「家族」という関係はいつでも更新しつづけることができるものなのかもしれません。今回のディスカッションで生まれた対話から、そんな可能性を感じることができる時間となりました。

執筆 花見堂直恵
撮影 齋藤 彰英
運営 NPO法人Art Bridge Institute