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REPORT

ディスカッション1「場所をひらくことは何を生み出す?―物語が滲みあう場を立ち上げる」レポート

公開日|2020.12.11

開催日:2020(令和2)年11月10日(火)
ゲスト:田中伸弥 (社会福祉法人ライフの学校理事長)、冨永美保+林恭正(tomito architecture)
モデレーター:上地里佳(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

新たなプロジェクトや問いを立ち上げるためのヒントを探る対話シリーズ「ディスカッション」。アーツカウンシル東京プログラムオフィサーの上地里佳が企画・モデレーターを務め、独自の切り口でさまざまな実践に取り組むゲストを招いて展開しています。例年は、3331 Arts Chiyoda内 ROOM 302にて行っていましたが、本年度は新型コロナウイルス感染対策を考慮してオンライン上にて開催しました。

第1回(2020年11月10日)のテーマは「場所をひらくことは何を生み出す?」。建築設計事務所として小さな住宅から公共建築、パブリックスペースなどに多様な居場所づくりを行う「tomito architecture」から冨永美保さん、林恭正さん。そして、地域にひらかれた学び合いの拠点「社会福祉法人ライフの学校」の理事長を務めている田中伸弥さんをゲストに迎えます。仙台を拠点に活動する田中さんは、オンラインでの参加です。

「2020年は新型コロナウイルスの感染拡大にともない、世界規模で活動自粛をせざるをえない、先行きが見えない不安な状況を共有した年でした。この会場でも、人との間はアクリルパネルによって区切っていますが、今後他者との物理的距離をとりながらウイルスのような見えない存在と共生することが当たり前になったとき、まちなかに拠点をもって展開されるアートプロジェクトはどう変化していくのでしょうか。他者との関係性をつむぎ、交流する場。アートプロジェクトの基盤となる「拠点」の可能性について、私たちはより一層考えていかないといけません。『tomito architecture」と『社会福祉法人ライフの学校」が協働して手掛けられたプロジェクト『嫁入りの庭」には、そのヒントがあるのではないかと期待しています」(上地)

モデレーターの上地から「ディスカッション」の概要、そして開催にあたっての目的について話されたあと、それぞれゲストの活動紹介へと進んでいきます。

「生と死」の距離感を見直す:田中伸弥

田中伸弥(社会福祉法人ライフの学校理事長)

大学卒業後から現在にいたるまで15年以上にわたり福祉の現場に携わっておられる田中伸弥さん。「社会福祉法人ライフの学校」を立ち上げることになったのは、これまでに現場で培った経験と、20代中盤に立て続けに起こった家族の事故や病気を通じて「死」との距離感について考えたことがきっかけだと言います。

「本来、生と死は一続きのはずですが、いまの社会では極端なほど「死」を遠ざけて考えられていて、身近に感じる機会がすごく少ないです。特養(特別養護老人ホーム)であれば、死についてきちんと考えられる居場所がつくれるのではという思いが「ライフの学校」立ち上げの根本にあります。たくさんの人々の生や死を十把一絡げにするのではなく、人生単位で受け入れる。例えば天災によって200人が亡くなったという認識なのではなく、1人が亡くなった事件・事故が200件あったということに置き換えて考える、そうしないと大事なものを見失うんじゃないかと思うんです」(田中)

田中さんは昨年、社会福祉の現場でさまざまな挑戦をしている若手スタッフたちの想いを伝えるイベント「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」にてプレゼンテーションを行い、見事「ベストヒーローズ賞」を受賞した。

「ライフの学校」では、全ての人が「生きること」「死ぬこと」を全うするための足がかりとして、日本の看取り文化を再構築しようと試みておられます。例えば、施設内での駄菓子屋や図書館の設立、子供の孤食を減らすための子供食堂のオープンなど。入居者を孤立させず、最期を迎えるまでを職員はじめ地域住民を巻き込んだ交流を図っています。従来の福祉施設の型にはまらず、地域にとってのひとつの拠点となっている「ライフの学校」。より一層の多世代交流を促すための次の一手としてひらかれたのが「嫁入りの庭」です。

「『もっとひらかれた場にするには』と考えたとき、施設と地域を分断している垣根を取り払うべきなのではないかと気付きました。そうすれば視界がひらけて風通しもよくなる。そして、そこに庭をつくろうと。ただ、完成されたひとつの作品としての庭ではなくて、可変的でメンバーだけで自走していけるような場所でないと、みんなの拠点にはなりえません。そう考えたとき、私たちが入居者の一人ひとりの個人史を大事にしているのと同じように、土地土地の文脈を丁寧に読み解いてものづくりをしている『tomito architecture』なら相談できるのではと思い、依頼しました」(田中)

まちを知り、さまざまな関係性のなかで建築を考える:tomito architecture

冨永美保+林恭正(tomito architecture)

2014年に結成された建築設計事務所「tomito architecture」。設計を行う上で、そのまちの日常をつぶさに観察して、出来事や建物、風景などの関係性に注目しながらプロジェクトに取り組んでいます。過去に、神奈川県真鶴半島にある「真鶴出版」という宿泊できる出版社の拠点をつくる際には、半島にある色々な素材を採取して、まちの断片が垣間見える建築をつくり上げました。

「先ほど田中さんからもあった『庭(や建築)が一瞬を切り取った“作品”にならないように』というのには深く共感します。建築も庭も固定的なものではなく、私たちの手を離れて成長していくものなのだという前提を心がけています。『真鶴出版』の宿をつくったときもそうですが、特に『嫁入りの庭』も現地へ訪れる度に新しいことが起こっていて驚かされます。私たちが『こういう風に利用されるだろう』と想定することを軽々と超えてきて、結果的にすごくおもしろい場所になりました」(冨永)

地域と施設とを隔てるようにあった垣根を取り払った「嫁入りの庭」。嫁入り道具のように、植物や思い入れのある家具が運び込まれた庭は、さまざまな人の記憶や物語が詰まっている。

歴史を振り返ると、「ライフの学校」のある地域はかつて一面田んぼだったそうです。そこが50年ほど前から住宅地として区画されはじめ、いまでは住宅エリアの南端、地図で見るとちょうど田んぼと住宅地の境目にあります。「夢のマイホーム」が謳われた時代にこの土地へ移り住んだ人も多く、現在、その世代の方々が自宅を離れて「ライフの学校」をはじめとした福祉施設で暮らしています。いまこのエリアで見られる軒先の植物や庭は、徐々に管理する人が少なくなっているという現実があります。

「では、一緒に引っ越してきてみてはどうか!というのが、最初のご提案でした(笑)。それでプロジェクト名が『嫁入りの庭』となりました。プロジェクトがはじまって間もない頃、リサーチのためまち歩きをしていると、とにかく庭先の素敵な植物たちが目につきました。植物を世話されている高齢者の方々が、こういった風景とともに施設に移ってみてはどうだろう、と思いました。その後、植物に限らず、まちにどんな資源・素材があるのか、そのなかに「嫁入り」させてもらえるものがないかを田中さんや施設の職員さん達と探して、色々なものをまちから発掘するというプロセスを経て設計を進めました。ただ、日々『この素材をどう使おうか』と考えているうちに、気がつくと新しいものがわーっと集まってきて、どんどん増えいくんです。なので、初めから細かく計画することをやめて、変化する状況に身を委ねながら場当たり的に設計を進めることになりました」(冨永)

環境、または関係が気を抜く瞬間

「ライフの学校」「tomito architecture」それぞれの活動紹介を経て、いよいよディスカッションがはじまります。2組が協働してつくった「嫁入りの庭」は、どのようにして設計が進められたのでしょうか。モデレーターの上地やオンライン上での参加者たちからの質問にも答えながら、多面的な魅力を持つ、この庭について語っていただきました。


上地:「嫁入りの庭」の設計を進めていくにあたって、現場ではどんなコミュニケーションを重ねていったのでしょうか?

冨永美保(以下、冨永):最初に、田中さんから「福祉施設を地域にひらくためには、この庭のあり方がすごく大事なんです」というお話がありました。今後入居者の方が亡くなったときには、この庭をきっかけに故人の死を地域単位で悼み、考えたいと話されていたのを覚えています。そのほかにも死生観や、人が人を看ることなど、田中さんとの対話を通じて「この庭は色々な人の色々な時間との関わりしろを持つ必要がある」と気付きました。具体的な庭の設計の話は、だいぶあとになってからでしたね。

上地:良い余白のある庭になりましたよね。冨永さんが「状況に身をゆだねるような設計」だと仰っていましたが、だからこそ、「嫁入りの庭」に集う人が使い方を工夫したり、遊びに取り入れたり、関わりしろが生まれていることを感じました。

冨永:関係性がいちばん豊かに編み込まれるような場所に余白があるといいなと思いながら設計しました。逆に言えば、そのほかは「なるようになれ!」という感じです(笑)。「tomito architecture」は、一から十まで緻密に設計しきるというよりは、時間軸に対して強度のある骨組みだけをつくりたいという意識が強いです。変化に耐えうる土台さえつくれれば、あとは好きに利用者の方たちと一緒に、それぞれに自走してほしい。その骨組みづくりこそが設計者のやりがいだと思っています。

林恭正(以下、林):「嫁入りの庭」には、余白と並んで「隙」というキーワードもありました。僕は工事中、一ヶ月間「ライフの学校」に常駐してみなさんと寝食をともにしながら庭づくりに加わったのですが、最初入居者の方はやはりよそ者に対して警戒していました。けれど滞在する時間が長くなるにつれて素の部分が出てきて、いつからか「隙」を見せてくれるようになっていくのです。(滞在詳細はこちら>>「庭の嫁入り日記」)
また、時間をかけてそこにいないと見えない風景やローカルコミュニティに隠れている慣習や情報が垣間見えるようになっていきました。まさに、 環境が気を抜いてくれた、と言えるかもしれません。隙を見せてくれたときにこそ、地域の日常や個別具体的な物語が見えてくるものです。研ぎ澄まされた合理性が問われる現代において、ある種無駄に見えるようなことの価値が見出される時間だったように思います。

田中伸弥(以下、田中):われわれケアの世界で言えば「関係が気を抜く」といったところでしょうか。多くの入居者の方は、普段だと介護者に甘えていることでも、初対面の気の抜けない相手が来ると頑張って自分でやってしまいます。うちの施設はケアをする側・される側という線引きをしないように、「利用者さん」「入居者さん」といった呼び方をしないようにしています。「嫁入りの庭」の前にあった垣根を取り除いたのと同じように、人と人の心理的な垣根も壊して、誰もが対等になれればという思いが一貫してあるからです。ただそれでも、気兼ねないフラットな関係を築くまでにはどうしても長い時間がかかります。関係が気を抜く状況をつくるには、時間をかけて馴染んでいくほかないですね。

庭を「多孔質に」ひらく

冨永:設計がはじまった頃、田中さんに「特養施設の庭だから、バリアフリーを考慮して舗装された地面にしないといけないですか」と聞いたら「決して必要なわけではないです。おじいちゃん・おばあちゃんが一人で行けないなら、誰かが連れて行ってあげればいいんですから!」と言われたのが印象的でした。支え合いが必要になるような未完成な庭だからこそ、自然とみんなで考える場になっていく。そんな姿勢が庭の随所にちりばめられました。

田中:僕ははじめから、入居者さんのためだけの庭にしたくなかったんです。というのも、あまねく人がこの庭を活用することが、結果的に入居している方々に利益をもたらすと思うから。ただ「嫁入りの庭」は、ひらいてからがスタートなので「やっぱりここには舗装が必要じゃないか」という話になることももちろん想定内です。そして、そのときにこそ地域がユニバーサルデザインを学ぶきっかけになると思います。当たり前にここが舗装された道路だと、考えずに通り過ぎてしまう。試して、立ち止まって、変化していく。この庭を通じて、そういったやりとりをしたいんです。

冨永:ひとつずつに立ち止まるので、管理に手のかかる庭です。けれど、そのおかげで新しい登場人物や出来事を生んでいます。夏場には雑草が生い茂るので、みんなで協力して草抜きする必要があるのですが、今年の夏には一時期ヤギも嫁入りしたので一緒に草抜きを手伝ってくれたそうです。そんな豊かな風景をもたらしてもくれました。

:ただひらいていると言っても、全方位にパカッとひらいているわけではなくイメージ的には多孔質なひらき方をしている庭です。だからこそさまざまな世代の人や、ヤギすらも介入することができる。一度ひらいたら終わりじゃなくて、時間が内在しながらひらき続けています。

上地:「ひらく」ことに時間が内在しているというのは、おもしろいです。「嫁入りの庭」は、夏に一度「庭開きの会」を設け、その後も現在進行形で変化している印象です。オープンしてからおよそ3ヶ月、まちとの関係性などに変化はありましたか?

田中:たくさんありますが特に嬉しかったのは、かねてから近所を犬の散歩している人が毎日庭のなかを通って散歩するようになったことですね。彼は最近では自らの話をしてくれて、人生のしまい方についてや「地域の役に立てればな」とこぼすこともあります。「嫁入りの庭」は、いまいろんな物語が立ち上がってきています。このディスカッションの副題には「物語が滲みあう」とありますが、まさに庭のそこかしこから人と人との接点になるきっかけがじわっと滲み出てきています。

交流が生まれ、地域の風景を変える

「看取り」というキーワードからはじまった「ライフの学校」は特別養護老人ホームでありながら、多世代が関わりあうための拠点になるべく、地域にさまざまな仕掛けを展開しています。その活動のなかから生まれた「嫁入りの庭」は、田中さんのこれまでの経験や思いに裏打ちされた庭の構想を、「tomito architecture」がこれ以上ないかたちで表現しました。まちのあちこちから、資材や建材、あらゆる道具、そしてヤギ(!)までもが「嫁入り」をし、徐々に地域の人の流れを変えています。

まちにあるひとつの施設の庭先をきっかけに、これまで関わり合いの少なかったご近所さん同士が改めて出会い、そして交流が生まれはじめています。とはいえ、この庭はオープンしてまだわずか3ヶ月です。田中さんが言うように、まちにひらいてからが「嫁入りの庭」のスタート。きっとこれからどんどんと様子も変わっていくのでしょう。さまざまな人の人生が滲みあうことで、看取ることやともに生きることについて考える習慣が地域全体に根付く日も、そう遠くないはず。年月を重ね、この庭が地域にどんな風景をもたらすのか、楽しみで仕方ありません。

執筆 浅見 旬
撮影 齋藤 彰英
運営 NPO法人Art Bridge Institute


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