アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のリスクマネジメント

アートプロジェクトの心構えや、現場で求められる技術について掘り下げていく全4回の公開講座シリーズ「技術を深める」。第3回は、市民参加型アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉事務局長の吉田武司さんをゲストにお迎えしました。さまざまな人がかかわり、まちなかで展開するアートプロジェクトには、どのようなリスクが潜み、どういった仕組みでリスクをマネジメントすることができるのでしょう。吉田さんの知見を共有いただき、実践的なワークを通して考えた講座の模様をレポートします。

アートプロジェクトとってのリスクマネジメントの必要性とは

最初にファシリテーターの橋本誠から、リスクをテーマに講座を開催する理由や、具体的なリスクの洗い出し方についてイントロダクション・レクチャーがありました。アートプロジェクトになぜリスクマネジメントが必要かというと、プロジェクトに関わる人や物事を守るためです。リスクは「法規・社会通念・人や環境に起因するもの」の3つのアプローチ別に洗い出すことができます。こうしたリスクを可能な限り想定し、対策(回避・予防・軽減)を重点的に打つことが必要となります。リスク整理の方法は、ひとつのプロジェクトを時系列に準備段階・実施段階・終了後の3つの時制に分けることも可能です。続いて、ゲストの吉田武司さんから〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉を事例にお話いただきました。

ファシリテーターの大内伸輔(左)、ゲストの吉田武司さん(右)(撮影:川瀬一絵)。

《Memorial Rebirth 千住》実施体制

アーティスト大巻伸嗣さんによるプロジェクト《Memorial Rebirth 千住》は、無数のシャボン玉で見慣れた景色を幻想的な空間へと変貌させるアートパフォーマンス作品です。千住のまちで7年続くもので、昨年11月に実施された際には、ボランティア含む総勢133名のスタッフが参加し、のべ3,000人以上が来場。スタッフは、年齢や住まい、職業やモチベーション、かかわり方の密度も様々。全スタッフが同レベルで全体把握をするのは困難なため、受付、屋台運営、会場設営など持ち場ごとにチームをふりわけるとともに、チームリーダーを配置。各リーダーが全体の動きを把握し、チームメンバーと情報共有しながら準備を進める体制をとっています。

想定されるリスクは時期によって変化します。運営の核を担う事務局は、隔週で行う進捗確認の中で随時リスクを整理。また共催者や、コアにかかわるメンバーとは月に1度程度ミーティングをし、リスクを確認しているそうです。また、これまでの7年間のノウハウを元に、課題や経験については、できる限りマニュアル化しています。

撮影:川瀬一絵

《Memorial Rebirth 千住》プログラム実施までの流れ

実施に向けて、準備段階から実施まで、どのようにリスクマネジメントをしているのでしょうか。プロジェクトが動き出す春の時期。会場を決め、周辺の設備や住民、アクセス、まちのイベントなどをリサーチします。この時点のリスク対策としては、応急手当の講習をスタッフ向けに行い来場者への対応に備えること、さらにボランティア保険の加入によって、関わるスタッフも守ります。個人情報の取扱い方についての指導や、会計講座なども行い、予めルールをスタッフ間で共有しておきます。7〜9月の夏の時期には、作品にまつわる講習やワークショップを通して作品への理解を深めたり、プレ企画を実施して地域住民へ活動の周知と協力を仰ぎながら、本番を想定したリスクを再確認。また、かかわるメンバーとは日々の集まりや決起集会などの交流会を通して、信頼し合える関係づくりを行います。10月以降は広報物を制作し、雨天時の対応や進行表・備品リスト・緊急時マニュアルなどの最終確認を行います。万全の準備をして11月の実施に至りますが、想定外の事態が起きることもあります。そうした場合には主催チームが緊急で集まり、相談して対応します。

アートプロジェクトの特徴のひとつは、さまざまな立場、年齢、モチベーションを持った人たちがかかわることです。このようなプロジェクトのリスクマネジメントにおいて大切なのは、立場や知見が異なる人を活かせる体制づくりと何でも言い合える関係や場をつくること。そのために、「“ちょっとしたこと”の積み重ねが“人”や“こと”を守ることにつながるのではないかと実感しています」と吉田さんはレクチャーを締めくくりました。

撮影:川瀬一絵

グループワーク

講座の後半では、参加者はグループに分かれ実践的なワークショップに取り組みました。架空のプロジェクトの企画書をもとに、準備・実施・終了後、それぞれの段階におけるリスクを想定して、付箋に書き出していきます。書き出したリスクを「影響度と発生確率」で評価しながら、机上の模造紙に分類し、グループメンバーで共有。さらに、影響度と発生確率の高いリスクから順に、予防と発生時の対策方法を検討し、発表しました。

レクチャーやワークショップを通して、参加者たちは、リスクマネジメントへ向き合うための態度と、実践的な技術について学ぶことができたのではないでしょうか。吉田さんのお話の中で、挨拶をすることやともに食事をすることなど、人と人の信頼関係を築くことの大切さに言及されていたことが印象的でした。今回の講座が、参加者それぞれの現場での運営のヒントになっていくことを願っています。

<開催概要>
日時:2018年2月7日(水)19:00〜21:30
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:第3回 アートプロジェクトのリスクに向き合う技術〜関わる人や物事を守るリスクマネジメントとは?〜
ゲスト:吉田武司(アートアクセスあだち 音まち千住の縁 事務局長)
ファシリテーター:大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、橋本誠(一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

東京アートポイント計画 2009-2016 実績調査と報告

2009年に始動した東京アートポイント計画。事業実績データや共催団体へのアンケート調査のデータ分析、共催団体に対するヒアリング調査を行い、その結果を検証、考察をすることにより、8か年の事業の結果(アウトプット)、成果(アウトカム)、波及効果(インパクト)を総括するための調査報告書です。

もくじ

はじめに 調査について

第1部 事業実績分析

第2部 アンケート調査

第3部 インタビュー調査
小川 希 (一般社団法人Ongoing)
宮下美穂 (NPO法人アートフル・アクション)
渡邉梨恵子、富塚絵美 (一般社団法人谷中のおかって)
長島 確 (一般社団法人ミクストメディア・プロダクト)
舟橋左斗子、渡辺孝明 (足立区)

第4部 鼎談:結果を踏まえて

思考と技術と対話の学校 2017アニュアルレポート

アートプロジェクトを「紡ぐ力」と「動かす力」を身体化するための思考と技術と対話の学校のアニュアルレポートです。「言葉を紡ぐ」「体験を紡ぐ」「技術を深める」「アートプロジェクトの今を共有する」の講義内容をまとめています。

もくじ

「紡ぐ人」になる 森 司

「思考と技術と対話の学校」とは
アートプロジェクトを紡ぐためのアプローチ
2017年度実施概要

言葉を紡ぐ
講座の流れ
受講生インタビュー

体験を紡ぐ
講座の流れ
受講生インタビュー

技術を深める
アートプロジェクトの今を共有する

紡ぐことへの挑戦 坂本有理
プロフィール一覧
Tokyo Art Research Lab(TARL)とは

Traveling Research Laboratory(WEB)

アーティストのmamoru、下道基行、デザイナーの丸山晶崇が中心となり、2014年に活動を開始。随時、メンバーを更新しながらフィールドワークの手法やアウトプット、リサーチ過程におけるさまざまな要素、ふるまいに関するグループリサーチを行ってきた「旅するリサーチ・ラボラトリー」。

これまでの旅と活動から得たキーワード、考察や観察を「Field Note」に記し、「Archive」には旅やイベントのレポートを兼ねて発行された印刷物などを掲載。旅するリサーチ・ラボラトリーによる4年間の試行錯誤を共有しています。

日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み<奥能登国際芸術祭>

芸術祭が群雄割拠する日本で、数々の芸術祭のディレクターを務めてきた北川フラムさんが「日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み」としての新たな芸術祭を立ち上げました。それが昨年9月に石川県珠洲市で開催された<奥能登国際芸術祭>です。コミュニケーションディレクターとして、「最涯」と称される珠洲(すず)市に7万人を超える来訪者を集めた福田敏也さんは、どのような広報活動に取り組んだのでしょうか。当日行われた講座の様子をレポートいたします。

芸術祭とは何なのかという問い

コミュニケーションディレクターを引き受けた福田さんは、自問自答を続けながら広報プランニングに取り組んでいくことになります。「芸術祭の存在理由とは何なのか?」「珠洲が振り向かれる理由は何なのか?」。歴史をたどれば、かつて大陸交易が盛んだった時代の物流の要衝で、祭りや芸術などの文化があり、美しい儀礼や食文化が今日まで連綿と残されてきた珠洲。しかし、一方で日本の商業機能が江戸に移ったあと、その役割を終え、高度経済経済の恩恵も受けることなくフリーズドライされてしまった珠洲。交通アクセスも悪く、過疎地でもある珠洲での芸術祭開催を決めた北川さんに、「北川フラムにとっての芸術祭とは何なのか?」を今一度問い直す自問自答のドキュメントを書いたといいます。

奥能登国際芸術祭公式写真(撮影Naoki Ishikawa、画像提供:奥能登国際芸術祭実行委員会事務局)

総合ディレクター北川フラムさんの答え

北川さんに確認した自問自答ポイントは次のようなものでした。「連続的に持続されていくことを考えよう。過疎はマイナスじゃない。過疎だからこそ奇跡的に守られてきたもの、そこにこそ超プラスがある。地元で守り続けられてきた価値に気づいている人の最先端にいるのがアーティストだとすれば、彼ら・彼女らこそが土地の独自性に想像力を働かせることができるはずだ。これは、ダメなものを上から目線で助ける活動じゃない。守られてきた価値に敬意を払い、素晴らしさに共鳴する活動である。重要なのは気づきの伝染、さらにそこから生まれるコミュニティと未来への引き継ぎなのだ。」

<奥能登国際芸術祭2017>コミュニケーションディレクターの福田敏也さん。

「知らせる」から「評判を拡げる」への転換

北川さんとのすり合わせで疑問が晴れ始めた福田さんは、もう一度珠洲の特異性に目を向けます。忘れ去られた古き良き日本が守られた、貴重な地域価値を再認識してもらうためのきっかけになる芸術祭を、ただ「知らせる」のではなく、その「評判を拡げる」「気づきの連鎖を発生させる」「芸術祭コアファンから動かす」という発想の転換。そこにヒントがありました。残すべき地域価値に気づく人を増やす、気づきのコミュニケーションこそが、地域価値の維持装置としての芸術祭を継続して機能させることになるのではないか。

また、かつて大陸との交易をしてきた珠洲だからこそ、こまめにバイリンガル発信すれば広くアジア諸国まで届くのではないかと福田さんは考えました。そして、アーティストたちが珠洲の地で何を発見して作品制作にいたったのか、というストーリーをアーティストの言葉を通じて知ってもらうことで、芸術祭を開催する意味を珠洲市民に届けることに力点を置いたコンテンツをつくりました。アーティストが発見した珠洲という文脈で発信することで、アートや芸術祭のファンにも評判が拡がる流れを生み出す広報です。

フリーペーパー「おくノート」。

福田さんの考えた広報戦略

実際の広報ツールとしては、珠洲市の食や文化を紹介するフリーペーパー「おくノート」(全4部)と公式ウェブサイトの特集記事として公開されたインタビューシリーズ「珠洲を語る」を中心に据えて展開していきました。そしてその内容を多くの芸術祭ファンに見てもらうためにFacebook広告も活用しました。「おくノート」は、当初の珠洲を紹介するという路線から芸術祭情報提供に移行するなど、進行に合わせたシフトチェンジを経て、珠洲市の各家庭へのポスティング配布も継続的に行ったそうです。「珠洲を語る」では、珠洲の魅力の発見者という視点で、アーティスト、地元サポーターやボランティアスタッフなど異なる層の言葉を等価に扱い、他の芸術祭との差を明確にしながら、「評判を拡げる」コミュニケーション活動に取り組みました。

教頭の坂本有理(左)、コーディネーターの中田一会(中)、ゲストの福田敏也さん(右)。

珠洲の人たちの反応

講座の最後に行われた質疑応答では、地元の賛否についての質問もありました。県民性もあるかもしれませんが、賛成反対にはっきりわかれることはなく、少し遠巻きに見られている印象もある一方で、作品解説やサイト管理の仕事を通じて、作品の面白さを共有したり、珠洲に芸術祭が来たことの誇りを感じてもらえた手応えを福田さんは感じたそうです。北川さんは近隣住民を重要なターゲットと位置づけ、年配の方にも面白がってもらえるような、わかりやすい芸術祭を意識的に設計していたといいますから、その一定の成果はあったのではないでしょうか。

講座のなかで特に印象的だったのは、「都会人論理を疑う」という言葉。冬の北陸のごちそうはカニだから、お店に行けばおいしいカニにありつけるはず、という名産品とお店がパッケージされているという、思い込みはないでしょうか?珠洲の人たちにとってのカニは、市場に買いに行くのではなく、人からもらうもの。それは都会では見かけなくなった、貨幣経済を介さない、豊かなコミュニケーションの現れであると感じました。地域創生が叫ばれ、芸術祭が乱立する現代において、福田さんのお話から芸術祭広報のあり方を見つめ直すヒントがあったのではないでしょうか。

<開催概要>
「技術を深める(第2回)」
日時:2017年11月21日(木)19:00~21:00(18:45開場)
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:アートプロジェクトを伝えるための技術~地域と芸術をつなぐ、広報、PR、コミュニケーション・デザインとは?~
ゲスト:福田敏也(博報堂-Chief Creative X Technology Officer/大阪芸術大学デザイン学科教授/777 Creative Strategies代表取締役/FabCafe LLP. Founder & Creative Director)
コーディネーター:中田一会(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/コミュニケーション・デザイン担当)

アートプロジェクトの運営スキルを身につけよう・事務局ビギナー編

アートプロジェクトを“動かす人”を対象に、ミニレクチャーや実践ワークをとおして運営に必要なスキルを養う公開講座「技術を深める」シリーズ。第1回は事務局ビギナーを対象に開催し、事務局運営に必要な「技術」に迫りました。その様子をレポートいたします。

本講座は、2016年度に「思考と技術と対話の学校」で開催された基礎プログラム2「技術編」の内容をまとめた冊子『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』を教材に展開しました。

アートプロジェクトの現場にいると、とにかく毎日が目まぐるしく、目の前のことに精一杯になってしまいがち、疲弊して周りが見えなくなってしまいがちです。そんな現場の現状をなんとかしたいという想いから生まれた冊子。アートプロジェクトの事務局長や映像作家、編集者など様々な立場の活動を、「技術」の側面から読み解き、現場の課題と向き合うための手がかりを収録したヒント集です。

今回のファシリテーターは、基礎プログラム2「技術編」で企画運営を担当し、冊子編集にもかかわった坂本有理、坂田太郎 、及位友美の3名。会場には、制作スタッフやコーディネーターなどの仕事を始めて半年〜10年以上という幅広いキャリアをもつ参加者が集まりました。

ファシリテーターを務めた及位友美(左)、坂本有理(中央)、坂田太郎(右)

講座は、冊子の目次「はじめる」「うごかす」「ふかめる」「のこす」の4章に沿って進行。ポイントごとに、受講生に手を動かし考えてもらうワークを行いました。

はじめる

まず自分がどのような立ち位置にいるのかを把握することが大切。どんな立場や距離感で、どのように、なぜかかわるのかひとつひとつ確認し、息切れせず継続的に運営することを目指します。チームづくりや、会議の設計、関係者間のコミュニケーションについて考えてみることも有効です。

ワーク1:自分の現在地をつかむ
10分間で自分とアート、アートプロジェクトとのかかわり方を模造紙に書き出し、グループ内で自己紹介がてら内容を発表します。

ワーク2:体制図をかいてみる
自分がいまかかわっているプロジェクトやチームの体制図を模造紙に書き込み、グループ内で発表。体制ができているのか、不具合は生じていないか、図に落とし込みながら確認していきます。

うごかす

互いの立ち位置が見えチームとしての一体感が出てきたら、いよいよ実行に移していきましょう。ここで重要なのは、社会と企画の関係性を考え、伝える相手の顔を思い浮かべかたちに落とし込んでいくこと。企画書の作成や資金集め、プレゼンテーションなどを行うとき、なぜこの企画・プロジェクトをいまやらなければならないのか? を考え、説明できるようになっている状態が理想的です。

ワーク3:申請書を読み解く
企画提案書や申請書を書く際、相手や目的に合わせ、相手が求めていることは何なのか、応募要項などをよく読み込み、ポイントを端的に説明できるよう準備する必要があります。

実施会場を探すための企画申請書をもとに、なぜこの企画を実現したいのか? 社会性は、独自性はどこにあるのか? を受講生が読み解き、発表を行いました。

ふかめる

実施するには、伝えるためのことばを磨くことはもちろん、感受性を高める、相手に関心を持ち話をよく聞くなどのコミュニケーションの精度を上げることが必要不可欠。また、組織内でディベートを行ったり、プロジェクトを実施する地域に住む人々に開かれた拠点をつくったりするなどの工夫も大切です。

ワーク4:メールニュース原稿に赤入れする
参加者に配られたのは、東京アートポイント計画が発行するメールニュースで実際に配信されたプロジェクト紹介記事の初稿と、最終稿。最初に書かれた原稿は、一番言いたいことが何なのかが見えづらいものでした。ブラッシュアップしていったものが最終稿です。2つの原稿を読み比べていきます。

のこす

アートプロジェクトを動かすときに皆が直面する課題の一つが、どうやって残すか。プロジェクトは多くの人が関わり、常に動き、変化していくものです。それをどのように記録・アーカイブし、伝えていくか頭を悩ませる事務局も多いのではないでしょうか。

冊子には、評価・検証のためにデータを残す事例や、10年後、20年後にそれを参照しプロジェクトに参加した者以外が実践してくれる可能性も考慮しドキュメントにまとめた事例、残す意図を考慮した上でプロに映像撮影を頼む事例などが紹介されています。

まとめ

本講座の参加者からは、「ワークを通し自分のことを振り返りながら受講できただけでなく、他の受講者のことも知ることができた」などの感想をいただきました。

ファシリテーター一同、運営に携わる人々が本書をもとに、普段の活動の中で立ち止まって、思考をしたり新たな一歩を踏み出したりするヒントを受け取る時間になればと願っています。今回の内容が気になった方、実際に事務局運営で壁にぶつかっている方、仕事の進め方に疑問を感じている方、ぜひ今回の講座で使用した『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』を手にとってみてはいかがでしょうか。冊子は、ウェブサイトからお申込みいただけるほか、PDFでダウンロードもしていただけます。

【開催概要】
「技術を深める(第1回)」
日時:2017年10月3日(火)19:00〜21:30
会場:3331 Arts Chiyoda ROOM302(千代田区外神田6-11-14 3F)
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)※冊子つき
テーマ:第1回 アートプロジェクトをはじめるための技術~アートプロジェクトの運営スキルを身につけよう・事務局ビギナー編~
ファシリテーター:坂本有理(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、坂田太郎(P3 art and environment リサーチャー/サイト・イン・レジデンス) 、及位友美(voids/コーディネーター)

アートセンターのような《さいはての「キャバレー準備中」》(EAT&ART TARO)

Tokyo Art Reaserch Lab公開講座「アートプロジェクトの今を共有する(第3回)」には、現代美術アーティストのEAT&ART TARO(以下、TARO)さんをお招きし、最新作《さいはての「キャバレー準備中」》のお話を中心に伺いました。誰もが毎日関わる「食」は、日本各地で行われる芸術祭やアートプロジェクトなどでも、様々な役割を担っています。特に地域型芸術祭においては、土地に根付く食文化や名産品を活かしたメニュー開発や、地域住民が運営するレストランなどの取り組みも増えています。そんななか、食をテーマに作品をつくるアーティストのTAROさんが、芸術祭の現場で求められる役割はどのようなものなのでしょうか。食がつなぐアートと地域のあり方について話が展開された当日の様子をレポートします。

人々を食でつなげてきたEAT&ART TARO

調理師として働いていたTAROさんは、美術館やギャラリーでのケータリングをきっかけに、10年ほど前から作品制作を始めます。自らが注文した飲み物が自分の次に注文する人に渡っていき、“次の人におごる”連鎖を生む《おごりカフェ》や、離れた場所にいる人と宅配便を使って手づくりの食事などを交換し合う、文通ならぬ《食通》など、食で人々をつなぐ作品を手がけてきました。

千葉県市原市で開催された<いちはらアート×ミックス>(2014)では、おにぎりをおいしく食べるためという設定で運動会を行う《おにぎりのための、毎週運動会》を発表し、幅広い世代を集めました。“運動会の後のおにぎりのおいしさ”を味わうことを大切にしたため、食材にはあえてこだわらず、どこでも手に入るものを選んだといいます。

作品は広く地元住民に愛され、市原市の3つの小学校では、会期終了後も、運動会競技の大玉ころがしはおにぎりころがしに姿を変えて受け継がれています。2017年の同プロジェクト実施時には、ほぼ地元住民に運営も引き継がれ、運動会に対する住民たちの主体性と熱意を感じたため、自身は身を引き、作家名自体を冠することもやめたそうです。

いちはらアート×ミックス 2014で行われた《おにぎりのための、毎週運動会》の様子。

越後妻有の主婦たちとの協働作業

<大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015>では、越後妻有「上郷クローブ座」で地元の主婦たちが郷土料理中心のコース料理を提供する動きを、《「上郷クローブ座」レストラン》として演劇仕立てで展開しました。主役となる主婦のみなさんに気軽に参加してもらうため、あえて演劇であることは伝えず、あくまでも料理を出すときにお客さんに少し話しかけるだけ、と伝え、帰宅後に夕飯の支度ができる時間設定にするなどの工夫をし、大きな疑問も持たれずにうまく事が運んでいました。しかし、2017年に演出家が参加した公演では、「どうも演劇をしている気がする」「稽古ってどういうこと?」などと少しずつ主婦たちの疑問が膨らんできてしまい、今後、プロジェクトが一筋縄では立ち行かなくなることを懸念したTAROさん。2018年夏の大地の芸術祭における発表に向けて策を練っているそうです。

《さいはての「キャバレー準備中」》

アートセンターのような《さいはての「キャバレー準備中」》という作品

続いて、本題である最新作《さいはての「キャバレー準備中」》のお話に。奥能登半島の突端にある石川県珠洲(すず)市を舞台とする「奥能登国際芸術2017」のためのリサーチを続けるうち、かつてフェリー待合所だった海沿いのレストランが廃業したという知らせを受け、視察に向かいました。珠洲には珍しいフランス風のしつらえから映画「華麗なるギャッツビー」に登場する舞踏会のシーンを連想したTAROさんは、元レストランを「準備中の」キャバレーに変貌させることを思いつきます。常に準備中のキャバレーの片隅で飲食を楽しみながら、芸術家たちが集ったフランス発のキャバレーのように、芸術祭スタッフや珠洲市職員、ボランティアスタッフやアーティストなどが集う、アートセンターのような作品が誕生しました。

観客に滞在してもらうための食

“準備中のキャバレー”というキーワードに惹かれた人々が集うようになり、イベント告知時にはチケットが数日で売り切れたり、1日の最大集客数が1200名に達したりと、大きな評判を呼ぶようになります。会場構成は、裏口から厨房を抜けて中に入ると、自由に過ごせるカフェあり、最後にキャバレーの楽屋のようなしつらえがある空間を設けました。料理を主役とせず観客が場所にとどまってもらうための要素と考え、地元食材だけを用いるのではなく、キャバレーにありそうなパフェやクリームソーダなどを出しました。

主催者からのオーダーとの向き合い方

これまでにたくさんの芸術祭に招聘されてきたTAROさんですが、主催者からのオーダーに応えようとリサーチに力を入れすぎると、何をつくっていいかわからなくなったり、地元で困っていることを解決してあげなければと考えすぎて、かえって作品が魅力を失ってしまうこともあったといいます。時にはオーダーをそのまま受け入れず、アーティストができることに向き合うのも重要なこと。オーダーとのバランスをとりつつも、作品をどう別の次元にジャンプさせるかを重視して考えを巡らせていくそうです。

スタッフとの関係性が可能にすること

これまでに数々のプロジェクトを可能にしてきたTAROさんにとって、実現を支えてくれるスタッフの存在は大きなものです。経験上、ボランティアに頼るだけではスタッフが集まらないことを知っていたTAROさんは、食事を提供して得た利益から給料を支払うことでお金をまわしました。

今回のキャバレーでも、ホールをまわしてくれるスタッフがいるからこそ、会期中も自身が裏方にまわることができ、会期後に作家本人がいなくなった後も、地元住民だけで継続してもらえる可能性を探ることにもつながりました。実際に、看板をそのままにしてキャバレーを残すよう調整しているそうです(本講座終了後の2018年1月12日付け、<奥能登国際芸術祭>お知らせページで《さいはての「キャバレー準備中」》の貸館開始が発表されました)。

講座の最後には会場からの質疑応答も行われました。「何をもってプロジェクトの成功と考えるか」との問いに対して、TAROさんは「アーティストである自分としては、珠洲という最涯の地にキャバレーをつくることができた時点で成功と考えています。例えば人口を増やすなど、成功を図る物差しは様々ですが、それはそれ。とはいえプロジェクトの様々な側面を楽しんでもらえたり、評価してもらえるのは素直にうれしいし、その人たちの考える成功はそこにあるのだと思います」と答えました。

今年行われる大地の芸術祭では、北川フラムさんから「革新的な作品を頼むよ」と言われているというTAROさん、どのような作品を生み出すのか、今から楽しみです。

<開催概要>
「アートプロジェクトの今を共有する(第3回)」
日時:2017年12月22日(金)19:30~21:00(19:15開場)
会場: ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費: 無料
テーマ:EAT&ART TARO《さいはての「キャバレー準備中」》の舞台裏~食がつなぐアートと地域の次なるかたち~
ゲスト:EAT&ART TARO(現代美術アーティスト)

札幌国際芸術祭2017が生まれる時(細川麻沙美)

アートプロジェクトの今を共有する(第2回)のゲストには、10月1日に会期を終えたばかりの<札幌国際芸術祭2017>で事務局マネージャーを務められた、細川麻沙美さんをお迎えしました。

近年、日本各地で芸術祭が行われるなかで、それぞれの芸術祭は行政からのオーダーに応えつつも、独自性を求めて試行錯誤する傾向が見られます。音楽とのコラボレーションを試みた<Reborn-Art Festival>や、宇宙というカテゴリーに着目した<種子島宇宙芸術祭>などはその一例と言えるでしょう。<札幌国際芸術祭>もまた、初年度から音楽家をゲストディレクターに迎え、音楽と芸術の境界を探るような試みに特徴がありますが、手法も言語も違う異ジャンルが融合を図るには難しさもつきまといます。その困難に事務局がどのように向かい合ったのか、細川さんにお話をうかがいました。その様子をレポートいたします。

札幌国際芸術祭2017が生まれる時

ゲストディレクターの大友良英さんが、芸術祭の企画の初期から名前をあげていたアーティストが、テニスコーツでした。ミュージシャンである彼らには、できあがったものを提示するのではなく、場にいる人を巻き込みながら、そこでしかできないことを試みてもらう活動を想定し、大友さんはここに「芸術祭ってなんだ?」という問いの糸口があると考えたようです。大友さんがこれまでの活動を通じて知り合った表現者たちと、大友さんの近著のタイトルでもある、まさしく「音楽と美術のあいだ」を探りながら、札幌の市民を企画段階から巻き込んでつくりあげられる芸術祭は、即興性の高いものになっていきました。

札幌国際芸術祭2017バンドメンバー(企画メンバー) 撮影:クスミエリカ 提供:札幌国際芸術祭実行委員会。

即興性を保ち、越境を可能にするための作法

イベントの即時性や即興性は参加者のワクワク感を増幅させますが、同時に事務局は、その開催速度に四苦八苦していました。アーティスト同士の直接的なやりとりから、急遽翌日にライブが行われるなど、日々同時多発的に行われるイベントの数々に、事前告知ができないばかりか、事務局も全貌を把握できていない状況。それでもアーティストや企画者の主体性にできる限り委ねる、という大友さんの意図を担保するため、事務局はできる限りルールを決めすぎず、先導するリーダーがある程度の道筋をつけ、最低限の予算と環境を整えたうえで自由な発想を促すよう努力しました。

札幌国際芸術祭2017前夜祭の様子(撮影:小牧寿里、提供:札幌国際芸術祭実行委員会)。

また今回の芸術祭では「音楽と美術のあいだ」のような表現やイベントを実現させるため、現場での模索が多く試みられたと感じているといいます。アーティスト自身はその間を簡単に越境する、というよりその意識なく表現をしていると思われますが、現場を支える側となると音楽と美術、双方のプロがいなければ、アーティストたちがストレスなく自由に越境していくことは難しいものです。仕事の進め方や共通言語も違う異業種間の意思疎通はなかなか困難で、どのように体制を組めばお互いのストレスを軽減できるのか、開催を通じて実践していました。

札幌国際芸術祭2017・事務局マネージャー細川麻沙美さん。

事務局の動きは一般の方にはなかなか分からないものです。ですが、追われるような連日の現場対応に事務局は少人数で何とか対応しました。芸術祭の評価は、どうしても動員数や経済効果といった数字で測られがちですが、前回はかなわなかった市民参加を積極的に受け入れることで、メディアに取り上げられる機会も実際にかなり増えました。

コーディネーターを務めた橋本誠(左)と細川麻沙美さん(右)。

運営ボランティアを入れないことが可能にしたこと

前回の様々なボランティア活動の中には、会場の監視や運営もその活動に含まれていました。こういった時にただの労働となってしまうような活動は、その人員確保や調整に事務局が時間を取られることにもなりがちです。そのためコストがかかる部分もありますが、運営にはボランティアを入れずに運営会社に任せることにしました。事務局がそういった対応に終われることがなくなり、調整にかかっていた手間が省かれた結果、即興的なイベントに対応できる余裕を担保できた、と細川さんは感じているといいます。これは芸術祭を終えてから実感した新たな発見。ボランティア活動には、能動的な意思を持って参加してもらいたいと考え、前回から参加してくれている常連ボランティアを中心にディスカッションから始めました。時間を制限しないかたちで関わってもらうことができたうえに、活動に参加してもらう人には責任感をもって全うしてもらうことを可能にしました。

前回の芸術祭終了後にたちあがったSIAFラボは、ラウンジとプロジェクトルームを拠点に芸術祭のアーカイブや研究機能としての活動を続けており、引き続き次回開催に向けての活動の軸になっていきます。2020年の<札幌国際芸術祭>がどんなかたちに進化していくのか、期待しましょう。

<開催概要>
「アートプロジェクトの今を共有する(第2回)」
日時:2017年10月12日(木)19:30~21:00(19:15開場)
会場: 3331 Arts Chiyoda (東京都千代田区外神田6-11-14 3F)
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費: 無料
テーマ:集まれアートマネージャー!~音楽と美術、芸術と生活のあいだの祭典「札幌国際芸術祭2017」の試みを紐解く~
ゲスト:細川麻沙美(プロジェクト・コーディネーター/札幌国際芸術祭事務局マネージャー)
コーディネーター:橋本誠 (アートプロデューサー/一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

美術館と図書館の機能が混ざり合う、太田市美術館・図書館(小金沢智)

最新の芸術祭やアートプロジェクト・文化事業から注目トピックを紹介していく公開講座「アートプロジェクトの今を共有する」シリーズ。第1回では、美術館の名を冠しながらも、周辺街区との連携や、市民参加型のプロジェクトを積極的に展開する太田市美術館・図書館のコンセプトと取り組みに注目し、事例として取り上げました。会場には、4月にグランドオープンしたばかりの同館の取り組みに関心を寄せる、たくさんのお客様にお集まりいただきました。その様子をレポートいたします。

市民とのワークショップによって設計された新たな文化交流施設

日本博物館史の振り返りから、同館学芸員・小金沢さんのお話はスタートしました。館内に工房が併設されるなど、教育普及機能を備えた宮城県美術館、美術館がゆるやかにまちに開かれるきっかけとなった金沢21世紀美術館など、美術品の収集や研究という従来の機能にとどまらず、教育普及機能の拡充や美術館の外にまで及ぶ活動の広がりを見せる傾向があります。そこから22万人が暮らす太田市へ目を移すと、図書館は4館あるものの美術館はありませんでした。

太田市美術館・図書館は、空洞化がすすむ太田駅周辺の賑わい創出を目的に生まれた施設です。市が太田駅北口ロータリー跡地を買い上げ、まちづくり拠点型の文化交流施設として整備するという方針が、2013年5月の政策会議において発表されたことをきっかけに動き出します。建築の基本設計は、建築家の平田晃久さんと市民によるワークショップを経て検討され、最終的に美術館と図書館という異なる施設が複合的に混ざり合うようなプランが採択されました。太田市直営の施設として、総合ディレクションをスパイラル/株式会社ワコールアートセンターが、収書支援を紀伊国屋書店が担う形で、2017年1月14日にプレオープン。4月1日には晴れてグランドオープンを迎えました。同月23日には、遠田誠さんによる演出・振付の開館記念パフォーマンス「オオタドン」が花を添えました。太田市の歴史や名物などを盛り込んだ祭唄に乗せ、地元のチアダンスや太極拳のチームなどが勇壮な踊りや唄を活き活きと披露する映像からは、市民ひとりひとりが持つ地元への誇りが感じられます。

開館記念パフォーマンス「オオタドン」(撮影:Shinya Kigure+Lo.cul.P)

開館記念展のために太田で生まれた作品たち

続いて、同月26日から開催された開館記念展「未来への狼火」についても作品画像を織り交ぜながらご説明いただきました。地元作家を紹介するとともに、現代美術家たちには実際に太田市に足を運んでもらい、新作を制作しました。藤原泰佑さんは太田のまちの姿を描き、淺井裕介さんは太田の土を用いてボランティアとともに壁画を描き、シンガーソングライターの前野健太さんは太田での詩と歌の制作に挑みました。また、地元の詩人、清水房之丞さんの詩をスロープの壁面に掲示し、太田で両親が出会ったという石内都さんの、母の遺品を撮り続けた写真のシリーズを展示したほか、片山真里さんや林勇気さんといった注目を集める若手作家も名を連ねました。

開館記念展「未来への狼火」会場風景(撮影Shinya Kigure+Lo.cul.P)

美術館と図書館の機能がまざりあうことによる出会いや発見

続いて開催した展覧会は、「本と美術の展覧会vol.1『絵と言葉のまじわりが物語のはじまり~絵本原画からそうぞうの森へ~』」と題し、絵本を全体のコンセプトの題材にしたもの。例えば、須永有さんの絵に長嶋有さん、福永信さんの解説コメントが添えられ、大小島真木さんの作品は、鑑賞者が作品のなかに物語を探し出し、そこから描いた絵や文章を展示室内に埋めるなど、文章と絵画がゆるやかに接続し、流れ出していくようです。

本と美術の展覧会「絵と言葉のまじわりが物語のはじまり」会場風景(撮影:Shinya Kigure+Lo.cul.P)

まちなかでの展開と今後の課題

活動は展示室内だけにとどまらず、館内のいたるところまで拡張し、なかにはまちに飛び出すものもあります。例えば、「まちじゅう図書館」は、図書ディレクターである花井裕一郎さんによる企画で、太田市内の商店や事務所のオーナーが所蔵する思い入れのある本を、太田を訪れた人や市民が自由に手に取り、それをきっかけに館長との会話を楽しんでもらうための触れ合いを生みだす図書館です。2017年1月14日にオープンし、現在は41の施設が参加するまでになりました。

ユニークな活動を続け注目を集める一方、幾つかの課題もあります。ものづくりのまち太田にある地元企業や専門家、また近隣の美術館や自治体、海外のアートセンターとの連携を図るにはどうすべきか。アートプロジェクトをまちなかでどう展開していくべきか、美術館と図書館というふたつの事業をより積極的にコラボレーションさせるにはどうしたらよいのか。また、その人材育成をどうすべきか、など考えていくべきことはまだあるということです。

太田市の文化再生をめざして

最後に設けられた質疑応答のコーナーでは、近隣の館林市在住の方から「もともと車社会なこともあり駅近隣には歩く人もまばらで、文化に対する関心も薄い地域だったが、この施設ができたことで若い親子連れが駅周辺にも集まるようになってきた。また文化に若い世代が目を向けるようになり、太田市の文化再生の兆しが見える」といった変化が共有されるなど、参考になるコメントもありました。

総合ディレクションを担うスパイラルのシニアキュレーター岡田勉さんは「美術館施設としては小さいが、まちなかを使うことで世界一大きな美術館になるのではないか」とおっしゃっているそうですが、そんな壮大な野望を秘め、動き出したばかりの太田市美術館・図書館が今後どのような広がりを見せてくれるのか、ますます今後が楽しみです。

続く第2回では、会期を終えたばかりの「札幌国際芸術祭2017」から、事務局マネージャーの細川麻沙美さんをお迎えしてお話を伺いました。まさに「今」を共有する内容になりましたので、次回レポートにもご期待ください。

【開催概要】
「アートプロジェクトの今を共有する(第1回)
日時:2017年9月15日(金)19:30~21:00(19:15開場)
会場:3331 Arts Chiyoda ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14 3F)
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:無料
テーマ:これからの文化施設とアートプロジェクト
~まちから得たものをまちへ返す「太田市美術館・図書館」の試み~
ゲスト:小金沢智 (太田市美術館・図書館学芸員)
コーディネーター:橋本誠 (アートプロデューサー/一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

アートプロジェクトの「言葉」に関するメディア開発:メディア/レターの届け方 2017→2018

近年、日本各地で増加するアートプロジェクトにおいては、その実施プロセスや成果等を可視化し、広く共有する目的で様々な形態の報告書やドキュメントブックなどが発行されています。それらの発行物は、書店販売など一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要となります。

またドキュメントブックは、ひとつひとつのプログラムのみならず、それを生み出した母体となる団体やプロジェクトの理念や文脈が込められています。複数のプログラムを抱える活動において、そこに通底する価値を広く社会に伝えることは重要です。

本プログラムではアートプロジェクトから生まれた「言葉」(報告書やドキュメントブックなどの発行物)の届け方の手法を研究・開発します。昨年度に引き続き、今年度はアーツカウンシル東京の取り組みから「東京アートポイント計画」「Tokyo Art Research Lab」「Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)」を取り上げ、その発行物を届けるためのメディア開発(パッケージ及びレター)を行います。冊子を届けるだけでなく、事業のアウトプット(発行物)とアウトカム(成果)の関係性を可視化することを目指します。