くるとのおしらせ

神津島を舞台にしたアートプロジェクト『HAPPY TURN/神津島』の企画や、島の伝統、伝承、地域文化などを発信する定期刊行物です。2021年度までに28号を発行しました。活動拠点である「くると」での配布のほか、島内の各世帯へ一斉配布されています。

*クレジットは最新号のものです。

エピソードが宝物!仲間と取り組む楽しい評価

3月2日(水)、2021年度最終回となる第5回ジムジム会を開催しました。2021年度は東京アートポイント計画の共催団体が順々にホスト役となって、ジムジム会運営チームと協働で開催。今回のホストは「アートアクセスあだち 音まち千住の縁(以下、音まち)」チームが務めました。

 ジムジム会は、2019年度より東京アートポイント計画が開催している〝事務局による事務局のためのジムのような勉強会〟です。
東京都内各地でアートプロジェクトを実施する東京アートポイント計画参加団体(※芸術文化や地域をテーマに活動するNPO法人や社団法人など)とともに、プロジェクト運営事務局に必要なテーマを学び合うネットワーキング型の勉強会です。

ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)

振り返りの年度末、評価について考えよう

今回のテーマは年度の終わりということもあり「エピソードが宝物! 仲間と取り組む楽しい評価」と題して「評価」について考えます。定量的な成果のみではかることの難しいアートプロジェクトの現場においてどのように考えたらよいのか?ホストの音まちディレクター吉田武司さんからはじまりにあたり以下の呼びかけがありました。

「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」は、音を通じて人と人との縁を見つめなおす、足立区千住の市民参加型「まちなかアートプロジェクト」として2011年から活動してきました。

その活動もなんと今年で12年目となります。長くもあり、短くもあるこの年月、それをちゃんと次につなげていくべく、音まちでは「Memorial Rebirth 千住」を事例にこれまでやってきたことを本にまとめています。

さて、振り返るといったとき、みなさんはどんな風に振り返っていますか?音まちでも、2016年からさまざまな方法で活動の振り返り方を右往左往しながら試してきました。アンケートをまとめてみたり、関わってくださった方々にヒアリングもしました。最近ではよく聞くようになったロジックモデルも。

今回のジムジム会では、音まちがこれまで試してきた振り返りの方法もみなさんにもシェアできればと思います。「評価」といってしまうとなかなかとっつきにくく聞こえますが、楽しくこんな方法でもいいんだ!と自分たちのための振り返り方をみなさんと模索できればと思います。

音まちディレクターの吉田武司さん(左)

今回、音まちチームと「評価」について取り組もうと思った理由は2つあります。

1つは2020年に出版された『アートプロジェクトのピアレビュー 対話と支え合いの評価手法』において同じく東京アートポイント計画事業の「TERATOTERA」(2010-2020)とピアレビューを実践していたこと。

アートプロジェクトのピアレビュー 対話と支え合いの評価手法

書籍の紹介テキストに

本書は、「アートの現場が、自身の強みを知るための評価手法」として「ピアレビュー」を提案するものです。ピアとは、理解しあえる同業他者。外部の仲間の視点を借りて、お互いを「映し鏡」に評価しあうのが「ピアレビュー」です。

とあります。これまでジムジム会が実践してきたことは「理解しあえる同業他者」との対話の場をつくってきたことです。お互いの課題や試行錯誤をもちよって、「映し鏡」にしてみる。それぞれがヒントを得て新たなチャレンジをはじめることを目的としています。音まちはピアレビューの先駆者。あらためてジムジム会の場で実践について聞こう!となりました。

ピアレビューについての実践紹介

2つめは、呼びかけ文にもある「Memorial Rebirth 千住」が歩んだ約10年を、絵物語、事業にかかわってきた人の声、そして多様な評価分析の手法でひもといた書籍『アートプロジェクトがつむぐ縁のはなし 大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住」の11年』を制作したことにあります。本書は3月17日に完成。第三章「評価を学ぶ」にて詳しく紹介しています。下記の「TARL図書室」よりPDFで閲覧することができます。

アートプロジェクトがつむぐ縁のはなし 大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住」の11年

様々な手法で成果の可視化を試みる

音まちでの実践から評価に使えるツールや手法の共有がありました。その一部をご紹介します。

●スタッフアンケートを素材にしたワードクラウド分析

「Memorial Rebirth 千住」は200人ものスタッフが参加することのあるプログラムです。スタッフへのアンケートが参加の動機の経年の変化や、「地域との縁をつくる」という目標に対する成果の可視化となります。アンケートに登場するキーワードを自動で分析し、事業がどう評価されているかを可視化するオンラインツール、「ワードクラウド」作成サイトの紹介がありました。

●縁のひろがりを可視化するステークホルダー図

アートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の主たる目的は、「縁」を生み出すこと。プロジェクトを通じてどのような関係者の縁が育まれているかを円環状に可視化したステークホルダー図も作成しました。多くのアートプロジェクトは「関係する人々の縁を育む」ことが求めるべきこととして設定されます。いかにこのような縁(=円)を育てていくか。この可視化は振り返りのツールとして使えそうです。

※ステークホルダー分析については2019年のジムジム会でも学びました。

>ジムジム会 #03レポート「打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた

●「音まちに関わって」。エピソードから変化をたどるインタビュー

プロジェクトに関わってどのような変化がおこったか。音まちではプロジェクトに関わる様々な当事者にインタビューをおこない、広報紙に掲載してきました。ライフヒストリーをたどりながら語られるエピソード。そこにはアートプロジェクトの持つ価値が立ち現れます。

「今年のハイライトは?」確認しあって、次へ

ディスカッションの時間では東京アートポイント計画に参加した年が同期のペアにわかれて「今年のハイライト」を語り合いました。それぞれの事業が何を「価値」としているか。何気ない日常の風景や、地域の人々とのエピソードのなかに普段は見落としているアートプロジェクトとしての価値が見つかるかもしれない。理解しあえる同業他者との対話で今年の成果を振り返り、次の年への見通しを確認する。反省会になってしまいがちな「振り返り」ですが、今回は「できたことを見つけること、それらの価値を同じ目線から認めてもらうこと」を裏テーマにしました。アートプロジェクトと向き合い、映し鏡となる仲間が都内各地にいること。東京アートポイント計画を卒業しても、相談できる間柄でいれること。そんな関係性を確認しあって、次へ。〝事務局による事務局のためのジムのような勉強会〟は、2022年度も続きます。

参加した皆さんの声

他団体の今年のハイライトを知ることができ、参考になりました。
音まちのアンケートのまとめ方や他団体とお互いに評価をし合う手法を試し方など、こんなまとめができたらわかりやすく見える化が出来るんだろうなと思う点が多々ありました。

ピアレビューの取り組み、素晴らしいなと思いました!ジムジム会は本当にそのような場になっていたなと感じます。

シンプルなハイライトの振り返りでも、同業の仲間とすることでたくさん気づきがあったのが良かったです。ちょっとしたことに自分達のプロジェクトの特徴、課題があることに気づけました。

事業評価について考えているところだったので、刺さる話がいっぱいあった。もやもやしているだけじゃなくて、音まちが行っていたようなビジュアライズなども参考にしつつ、できることからやっていきたいなと思った。そしてその時にただ闇雲にやるだけじゃなくて、自分たちに必要な評価や指標についても考えていきたい。

ピアレビューの大切さを感じました。吉田さんが最後におっしゃていたように、孤独をかかえつつも、レビューしあえば、あわせ鏡のように自分の跳ね返ってきます。話すこと、聞くこと、そうして見えてくることが、ぐるぐる乱反射しながら活動の輪郭やたいせつなことが見えてくるような気がします。

すごく基本的なことですが、アートプロジェクトは、いろいろな出会いでできているんだな、と改めて感じる会でした。

ピアレビュー、日々のエピソードのストック、拠点スタッフの記録など、音まちのみなさんからは活動を振り返る事や説明する言葉を見つける事について学ばせていただきました。自分たちの言葉や意義をこれからもう少し外に伝えていく活動をしていく中で、今までの活動をまずは自分たちからきちんと振り返りたいと思います。また、今年のハイライトトークは拠点スタッフの人たちとも話してみたいと思いました。

これまでのジムジム会の様子は、こちらから見ることができます。

happening.|東京プロジェクトスタディ1 わたしの、あなたの、関わりをほぐす~共在・共創する新たな身体と思考を拓く~

「スタディ1 |わたしの、あなたの、関わりをほぐす〜共在・共創する新たな身体と思考を拓く〜」は、誰もが誰かの翻訳者であることを前提としながら、自分と異なる認識世界を持つ他者と共在・共創するコミュニケーションについて再考したプログラムです。

身体性や感覚が異なる者同士が意思を伝え合おうとして生まれた視覚身体言語(手話)、感覚をつなぐ伝達方法としての触手話、点字や手書き文字、音声ガイドなどの多様なコミュニケーションを起点に、一人ひとりの身体と記憶、ことばと感覚にまつわるディスカッションやワークショップ、リサーチを重ねました。

本書は、活動のなかで生まれた試行錯誤を紹介し、読者と新たなコミュニケーションを生むための一冊です。

視覚によらない ひとめぼれについて 考えてみよう

もくじ

Workshop 身体と思考をほぐす世界の捉え方
Recording notes 感覚や発見を書き記す
happening 新しいコミュニケーションの回路をつくる

旗を立てる―「東京で(国)境をこえる」3年間の記録

『東京で(国)境をこえる』は、多くの在留外国人が生活する東京において、「見えない国境(壁)」は存在するのかという問いを出発点に、異文化間の距離や接点を探り、在留外国人と日本人の日常的な出会いの場を生み出すことを目指すプロジェクトです。活動記録や制作物など、プロジェクトの3年間の記録を一冊にまとめました。

人と人とが体の底に共通して持つ交歓する力と笑顔とで、多くの人がより生きやすい社会を作りたい。そしてそれは、考えや理念を同じくする者同士ではなく、異なる他者が協働する歓びを知ったその先にあるのではないか。

(p.3)
もくじ

はじめに

Chapter 1  活動の記録 振り返って見えるもの
「東京で(国)境をこえる」準備会(2019〜2020)
「kyodo 20_30」(2020年度)
2020年度活動記録
「kyodo 20_30」(2021年度)
2021年度活動記録
「ここから展」
「意味をこえる身体へ:ショットムービープログラム」
「新大久保お散歩学派」
「話しあうプログラム サカイノコエカタ」

Chapter 2  制作物
2020年度
 「東京で(国)境をこえる」ロゴマーク
 「東京で(国)境をこえる」ホームページ(2020年度)
 「kyodo 20_30」制作ノート 01〜04
 「東京で(国)境をこえる」2020年度活動記録
2021年度
 「東京で(国)境をこえる」ホームページ(2021年度)
 「東京で(国)境をこえる」活動紹介カード
 「話しあうプログラム サカイノコエカタ」フライヤー
 kyodo 20_30 成果発表会「ここから展」フライヤー
 「東京で(国)境をこえる」はなんですか?(活動紹介動画)

事務局座談会
おわりに

YATOの絵本

『500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」』は、「すべて子ども中心」を理念とする『しぜんの国保育園』や東向山簗田寺を取り巻く町田市忠生地域の里山一帯を舞台に、地域について学びながら、500年後に続く人と場のあり方(=common)を考えるアートプロジェクトです。

本書は、YATOで大切にしていることやその活動イメージを、小学生に思い描いてもらえるように、YATOの活動で生まれたキャラクターや地域リサーチで学んだ年中行事などを絵本にしたものです。こどもから大人まで、「YATOの絵本」を手に取った方が、YATOが目指す「500年続くお祭り」を、一緒につくっていく仲間になってくれることを願っています。

こもれびに集う人と人 谷あいに響く声と声 土地の自然を体に感じ、文化を未来に手渡していく遠い昔から形づくられてきた谷戸の地で、500年続くお祭りが新たにはじまります。

もくじ

YATO図鑑
YATOの年中行事
YATOのあゆみ

YATOの郷土詩

『500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」』は、「すべて子ども中心」を理念とする『しぜんの国保育園』や東向山簗田寺を取り巻く町田市忠生地域の里山一帯を舞台に、地域について学びながら、500年後に続く人と場の在り方(=common)を考えるアートプロジェクトです。

本書は、YATOの活動の一つ、忠生とその周辺に暮らす人たちに話を聞く「聞き書き」の記録をまとめたものです。この土地に生きたひとり一人の記憶を、500年先まで受け渡していこうと模索しながら、人々の語りを「郷土詩」というかたちに紡ぎ直しました。

語り手の姿をおぼろげにし、語られた時代を混在させることで、この土地が育んできた詩(うた)を浮かび上がらせることはできないか

(p.5)
もくじ

はじめに

第一章 龍の池
第二章 損な時代に生まれて
第三章 ある冬の情景
第四章 うちの親父のこと
第五章 新しい暮らしの古い習わし
第六章 騙すもの騙されるもの、食べられるものみんな
第七章 馴染んでゆく台所
第八章 この坂の上から
第九章 この谷の下から
第十章 流れを変える
ある視点1
第十一章 新しい人たち
やとのかんそく①
ある視点2
第十二章 緑はどこへ行った
やとのかんそく②
第十三章 光の池

おわりに

ファンファン倶楽部 「やってみる時間」をやってみるための本

これまで当たり前だと思っていた考えを解きほぐす「対話」を生み出し、地域の文化資源の活用から「学びの場」 を創出する『ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―』。その一環で実施している「ファンファン倶楽部」は、「安心して楽しく“もやもや”しよう」を合言葉に、気になること、やってみたいことをメンバーが持ち寄り、実験的なワークショップやディスカッションを行う企画。持ち寄ったものを全員で共有し、実践することで、めいめいの当たり前を解きほぐす方法を模索する取り組みです。

とにかく、一旦手を動かして目の前に現れた何かを見ることで、想像の通りにはいかないことがわかったり、そこから意外なことを思いつくことができたりする。

(p.1)
もくじ

はじめに
ファンファン倶楽部のあゆみ
これまでのやってみる時間
「私たちのエッセイを書く」でみんなが書いたエッセイ
おわりに

アートと名付けられない創造力へ向かって 「ファンタジア!ファンタジア!」が墨田で考えていること

それまで当たり前だと思っていた考えを解きほぐす「対話」を生み出し、地域の文化資源の活用から「学びの場」 を創出する『ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―(通称ファンファン)』。プロジェクトを実践するなかで感じた、アートに近接する、まちづくり、福祉、ケア、教育などとのあいだのモヤモヤについて言葉を綴りました。2021年度の活動記録に加え、ゲストとの鼎談や事務局メンバーの座談会等も収録しています。

微弱な創造力を、まちの中で、あるいは歴史の中で見つけていくためには、今まで自分たちが当たり前に信じてしまっていた「アート」の価値観やアートプロジェクトのある種の型について再考し、ときにはそれらを思いきって手放すことも必要でした。そうやって自分たち自身の〝当たり前〞 を疑い、想像の限界を更新していく作業こそが、ファンファンにとってのアートであり「安心して自分自身が変われる技術」だと言えるものです。

(p.13)
もくじ

はじめに 小さくやわらかな実践に引き寄せられて

Chapter 1
活動紹介:トナリのアトリエ

Chapter 2
座談会:社会課題を解決するとき、アートはどこにあるか?
―「活動」と「作品」の線引きをめぐって

Chapter 3
コラム:セツルメント運動から考えるアートプロジェクトの現在

Chapter 4
座談会:「手前から考える」ことから歩きだす
―2021 年度の活動を振り返って

おわりに 不確かさをひらき続ける意思表明として