アーティストのmamoru、下道基行、デザイナーの丸山晶崇が中心となり、フィールドワークの手法やアウトプット、リサーチ過程におけるさまざまな要素、ふるまいに関するグループリサーチを行う「旅するリサーチ・ラボラトリー」プロジェクト。2014年~2017年、Tokyo Art Research Labのプログラムとして実施。
丸山:どちらかというと後者ですね。必要だからとはじめて、それを結果として仕事につなげるのがそんなに苦手ではないのかもしれません。いまACKTで、国立市内のギャラリーやアトリエ、店舗を使って展示を行う回遊型の「Kunitachi Art Center」というプログラムを行っていますが、これももともと個人的な仲間たちとはじめたものでした。それが結果的にいまでは予算をつけてもらえるものになっている。個人的な動機と仕事をつなげるという意識を、どこかにもっておくことが大切なのかもしれません。
2023年5〜6月に開催された、国立市内のギャラリーやアトリエ、店舗を使った展示を巡る回遊式の「Kunitachi Art Center 2023」。
例えば、当時はACKTとしての共催事業ではなく有志の活動でしたが、「Kunitachi Art Center」の第1回は最初の緊急事態宣言が出る直前の2020年3月20日から4月5日の開催です。当時は人を集めていいのかと、かなり戸惑いました。これは、地域で活動していこうというときには致命的な状況だった。なので、今年5月の新型コロナウイルスの感染症法上の「5類」への移行は大きかったです。ちょうどその時期に、新しい拠点も借りました。
また、こうした新しい状況になり、ACKTとして行政と組んで活動することのよさも見えてきました。「Kunitachi Art Center」もACKTの事業になることで、いままでにはなかった層に向けてボランティアの募集ができたり、会場となる場所の幅も広がっています。会場を展示作家のアテンドで回るツアープログラムも、コロナ禍のなかや自分たちだけではなかなか開催が難しかった。自分たちの活動と、まちとのかかわりのチャンネルが増えてきている。そうした複合的な要素が「やっとはじまろうしている感じ」につながっているのかなと思います。
ナビゲーターは、人と環境の相互作用に焦点をあてながら、社会状況に応答して発生するアートプロジェクトをつぶさに見続けてきた芹沢高志(P3 art and environment 統括ディレクター)、ゲストに迎えるのは、北川フラムさん(アートフロントギャラリー主宰)、小池一子さん(クリエイティブ・ディレクター)、南條史生さん(キュレーター/美術評論家)の3名です。活動を始めたときの時代背景やモチベーション、活動の中で見えてきた変化や現在地など、それぞれの航路を紐解きながら、これからの社会とアートプロジェクトの形を考えます。
2009年にはじまった東京アートポイント計画では、2022年度までに56の団体と共催し、45のアートプロジェクトを展開してきました。また、その担い手のための学びの場「Tokyo Art Research Lab」(以下、TARL)には計1869名の受講生が参加。まちなかに小さな文化やコミュニティの種、そしてそれを担うプレイヤーを広げてきました。
1946年に創立された英国アーツカウンシル(The Arts Council of Great Britain 以下、ACGB)は、芸術文化事業の助成や助言を行う専門機関で、アーツカウンシル東京にとっては重要なモデルであり、まさに「似た他人」です。けれど、そこで志向される「芸術」「文化」の像は時代ごとにさまざまで、小林さんは「プロダクトかプロセスか、ACGBは表看板を常に変えるようにして活動してきた」と指摘します。
こうした背景のもと、英国では文化政策自体にも明確な根拠を求める傾向が強まります。その最たる例が1990年代後半にはじまる「エビデンス主義文化政策」です。「what counts is what works」(重要なのは何が効果的かということ)をスローガンにしたこの時代には、プロジェクトの段階に応じた評価を規格化した「ツールキット・アプローチ」や、より定性的に活動を測る「セオリー・ベースド・アプローチ 」など、さまざまな手法によって文化的な取り組みが評価されるようになりました。
小林さんが紹介した英国でのアーカイブの例より。「1979年に開催されたコミュニティ・アーティストの全国集会の報告書」(出所:Fisher, G. ed. (1979) Community Arts Conference Report 1979, Northern Arts and Gulbenkian Foundation, available at “A Restless Art”)(左)と、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジと英国映画協会(BFI)が中心となり、地域社会に関する映像を蒐集している「ロンドン・コミュニティ・ビデオ・アーカイブ」のウェブサイト(右)。