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“インフラ”としてのネットワーク|「ジムジム会」の4年間を振り返る

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2023.03.27

執筆者 : 岡野恵未子

“インフラ”としてのネットワーク|「ジムジム会」の4年間を振り返るの写真

東京アートポイント計画」では、2019年度から「事務局による事務局のためのジムのような勉強会(通称:ジムジム会)」という取り組みを続けています。東京アートポイント計画に参加する団体が集まり、それぞれの悩みや得意技を持ち寄って、プロジェクト運営のために学び合うネットワークをつくっています。

コロナ禍でも試行錯誤を続け、これまでに20回以上開催してきたジムジム会。改めて振り返ると、同じ「ジムジム会」といえど、年度によってその役割やかたちを変えながら進んできたことが分かります。ジムジム会は何のためにネットワークづくりをしているのか? この先どこに向かっていくのか? 4年目の担当者として、これまでのジムジム会を振り返りながら考えてみたいと思います。

1年目:毎月、みんなで朝活。テーマは「届け方・つなぎ方の筋トレ」

トレーニングジムでは、エクササイズをがんばると、「いい感じですね!よいフォームです」とトレーナーが褒めてくれ、ちょっとさぼると「もう1回やりなおし」と厳しく反応してくれたりして、モチベーションが刺激されますよね。プロジェクト運営でも、反応したり、相談したりできるような仲間がいることで、持続的な活動の支えになるのではと考えました。
月1回、お互いに刺激し合い、みんなで運営のための筋肉をムキムキさせていきたいと思っています。

2019年度担当・坂本有理によるブログ記事から

初年度は秋からスタートし、月1回、ROOM302(アーツ千代田3331内)に集まって実施。日々忙しいアートプロジェクト事務局が、1日を有効に使えると良いのではと、“朝活”スタイルで午前中に開催しました。

企画・運営には、広報コミュニケーション事務所「きてん企画室」の中田一会さんをパートナーに迎え、プロジェクトをはじめたり、広げたり、続けたりするために大切な「アートプロジェクトの広報」にテーマを絞って行いました。ウェブサイトや広報紙、ドキュメントなどを切り口に、ゲストトークや各プロジェクトの事例紹介などを通して学び合いました。

広報紙を特集した回で紹介された「ファンタジア!ファンタジア!ー生き方がかたちになったまちー」の広報紙、「ファンファンレター」をきっかけに「HAPPY TURN/神津島」の「くるとのおしらせ」が生まれるなど、東京アートポイント計画内で“かわら版”のプチブームが起きるというエピソードも。

2019年度のレポートはこちらから

2年目:突然のコロナ禍。オンラインでの実験にも挑戦

2019年度スタートし、2020年度はさらにバージョンアップして開催しよう……と企画していた矢先、今回のコロナ禍がやってきました。勉強会どころか、各プロジェクトでももちろん「移動する/集う」ことができません。
人と集まり、交流することで地域社会を豊かにすることを目指してきたアートプロジェクトにとって、大変困難な状況です。しかし、そういったタイミングだからこそ、新たな「文化事業のありかた」を探ることもできるはず。この危機は、事務局の運営力を鍛えるときであり、「文化事業を止めない力」を養うときではないでしょうか
そこで2020年度のジムジム会は、オンラインから始動することにしました。「移動せず/集わず」にできるアートプログラムの可能性や方法を話し合い、共有し合いたいと考えています。

ジムジム会2020始動にあたってのnote記事より

2020年度のジムジム会は、緊急事態宣言下のなか、「どうやって開催するか」「そもそも何のためにジムジム会が必要なのか」を考えるところからはじまりました。東京アートポイント計画のスタッフも、プロジェクト事務局のメンバーも初めて経験するコロナ禍。どう動くのが正解なのか、誰にも分かりません。当初は対面レクチャー形式での実施を考えていましたが、方針を変更し、完全オンライン形式へとシフト。全体テーマには「社会状況に応じたアートプロジェクト運営の工夫をお互いに考える」を設定しました。月に一度オンラインで集まり、この状況下で困っていることや挑戦していることを共有したり、ディスカッションなどで互いに話したりする時間を多くとりました。

運営は、急遽オンラインシフトになったことで、配信技術を学びつつ、オンラインだからこそできる実験の要素も取り入れて実施しました。オンラインドキュメントを使ったリアルタイム議事録かるたタイプの議事録(後日各団体にお届けしました)、「人間が登場する画面は飽きてきたのでは」という意見から生まれた人形劇方式での進行など、様々な方法を試しました。

また、東京アートポイント計画のスタッフが主催する「ジムジム会」は9月で終わりましたが、こういった交流の場を求める声が上がり、参加団体が自主的に行う続・ジムジム会や、よりゆるやかなオンライン交流会である「ゆるジムジム」も生まれていきます。さらに、東京アートポイント計画と連動して実施するTokyo Art Research Labでは、ジムジム会の手法を活かし、全国各地のアートプロジェクトの現場から参加者が集うつどつど会を行うという展開にもつながりました。

>2020年度のレポートはこちらから

3年目:各プロジェクトの「得意技」や「悩み」に注目。参加団体がホスト役を担う

ジムジム会のなかでも「オンラインで以前にも増して素早くミーティングが進むようになり、直近の事柄ばかりがフォーカスされ解決されていく。それではアートプロジェクト運営に必要な長期の目線を事務局員が持ちにくいのではないか」という声もありました。
この時代だからこそ先を見据え、プロジェクトのことを考えるためにはどうしたらいいのか…?(中略)
今回の「今年鍛えたい筋肉」でそれぞれの団体の課題感や関心のあるテーマを持ち寄ることができました。次回からは、そのなかからテーマを絞り深めていきます。

2021年度担当・村上愛佳によるnote記事から

2021年度は、「これからの思考・アクションのための出会いの場」をテーマに開催。前年度、参加団体によって自主的に行われた「続・ジムジム会」の流れを経て、参加団体が企画・運営を担うホスト役となり行いました。企画・運営にあたっては、東京アートポイント計画のスタッフとともに、各団体がもつ知見や経験を他の団体へ共有することを意識しました。

例えば、海外ルーツの方との協働を行う「東京で(国)境をこえる」がホスト役となった回では「ことばを壁にしない。『やさしい日本語』を使おう」をテーマとし、実際にプロジェクトの広報で行った「『やさしい日本語』を使ってプロジェクトを伝える」ワークに、全団体がチャレンジ。「やさしい日本語」とは、日本語学習中の外国の方々などとのコミュニケーションに活用されている、簡単でわかりやすい日本語です。いつも使っている事業紹介文を因数分解し、書き直していくことで、自分たちのプロジェクトで捨てられない要素を見直すきっかけになりました。

その他、昭和のホームムービーを活用した取り組みを行う「移動する中心|GAYA」のチームが「プロジェクトの記録」をテーマにしたり、様々な事業評価手法に取り組んできた「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」が「評価」をテーマにしたりと、各プロジェクトの知見や経験を他の団体と共有するなかで、プロジェクトの個性を見直すことができました。

▼2021年度のレポートはこちらから

4年目:そろそろまちへ繰り出そう。新しいメンバーと学び直し、出会い直し

(撮影:加藤甫)

そして2022年度。実は、ジムジム会の運営は毎年担当スタッフの体制が変わっており、私は今年度からの担当です。対面で実施した初年度から丸々2年間、参加団体のメンバー同士が対面で集まる機会をつくることができませんでした。この間、多様なメンバーからなる新規団体が増えたり、継続事業の事務局メンバーも変わったりしています。そして、社会的には少しずつ「“集まれそう”な予感」がある。そんななかで、担当になってまず考えたのは、今年度は「学び直し」や「出会い直し」の年なんじゃないかな、ということでした。

東京アートポイント計画は、アーツカウンシル東京や東京都、そして非営利団体という3者が行う「共催事業」です。公共事業ゆえ特有ルールが色々とあるため、ジムジム会1回目では「共催事業のきほんのき」を全員で学び直す時間をつくりました。新メンバーだけでなく、元々関わっていたメンバーからも「改めて事業の流れが分かった」という声が聞かれるなど、担当スタッフと団体メンバーとの共通言語を獲得できたようです。その後は「広報(非営利法人のブランディング)」や「評価」、「アクセシビリティ」などのテーマで学ぶ回を実施。「評価」と「アクセシビリティ」の回は、日々の事業や「ゆるジムジム」のなかで参加団体から出てきた悩みやアイディアを膨らませ、一緒に企画を行いました。

また、運営自体も新たな学びの多い1年でした。今年から参加している「めとてラボ」は、事務局メンバーのなかに手話ユーザーが多いチーム。ジムジム会としてはじめて手話通訳を導入、これまでトライアルでやっていたUDトークも本格的に運用しました。通訳の依頼時間や事前打ち合わせ、画面表示の方法など、失敗と改善を繰り返しながら、東京アートポイント計画のスタッフ自体のOJTとなりつつ、参加団体のメンバーにとっても、「さまざまな人がいる場所」となったことは、これからアートプロジェクトを運営していくにあたって良かったのではないかな、と思います。

秋以降は、参加団体同士や、過去の参加団体に話を聞きにいくヒアリング企画を実施。各ヒアリングで実りのある話を聞けたのはもちろん、事前に、事務局メンバーと東京アートポイント計画のスタッフとが「どんなことをききたいか」を決める対話を通して各事業の課題やアイディアが言語化されたこともいい機会でした。

それから、なんといっても今年嬉しかったのは、3年ぶりに対面で集まれたことです。12月に行った最終回では、ROOM302(アーツ千代田3331内)に参加団体が集い、上述のヒアリング企画について報告を行いました。オンラインの面白さや便利さはもちろんあります(実際、今回は高知県や神津島から遠隔で参加したメンバーも!)。ただ、対面で集まることで情報量がぐんと上がること、そして終わった後に立ち話で交流したりする余白があったりすることなど、集えてこなかったからこそ実感できるものがありました。

>2022年度のレポートはこちらから

ネットワークのためのネットワークではなく、使えるネットワークに

振り返ってみると、情報共有、個々人や団体としてのスキルアップ、さまざまな状況下でのプロジェクト運営のOJT…と、さまざまな目的が共在しながらジムジム会が進んできたことが分かります。その時々で、社会状況やメンバーの状況をふまえ、かたちを変えながらやってきました。

その中でも変わらないのは、ジムジム会が「インフラ=ネットワーク」であることなのでは、と気づきました。「知り合いを増やすため」といった、ネットワークづくりそのものが目的なのではなく、ジムジム会をもとに新しいチャレンジにつながったり、ジムジム会を通して事業の言語化や再発見を行えたりと、あくまで基盤であることを大事にしています。

ある人から、とある別荘地の水道についての話を聞いたことがあります。そこでは、元々水道が整備されておらず、住民たちが自分たちで開発の計画をし、水をひき、管理運営も自治的に行っていたのだそうです。その「みんなで頑張った、つくった」感を、そこのコミュニティでは共有しているんだよ、だから普段からお互い様という関係性なんだよ、と。もちろん、いい話だけではなく、大変な面も、トップダウンで整えられるべきだという面もあるでしょう。ただ、ジムジム会のネットワークについて考えた時、なんだかその水道の話を思い出したのです。

立場や肩書きに関係なく、そのコミュニティに関わる人みんなが、かたちを変えていい、使っていいネットワーク。ジムジム会があるからできることがある、ジムジム会も様々な状況に応答できる。そんな、それぞれのプロジェクトが活動を広げるためのインフラとなるネットワークとして、これからもジムジム会を進化させていければ、と思います。

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