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アートプロジェクトにおける記録・アーカイブ

2018.04.11

アートプロジェクトにおける記録・アーカイブの写真

最終回となった「技術を深める(第4回)」は、アートプロジェクトにおける記録・アーカイブをテーマに開催しました。アートプロジェクトは、アーティストがつくり上げた作品やそこに関わった地域の人々との関係性など、その場に居合わせるからこそ感じられることがたくさんあります。しかし、プロジェクトの一部始終を残らず記録することはできません。そのプロジェクトの価値や魅力を、当日の現場を経験しなかった人や後世に、どのように残していけばよいのでしょうか。

講座では、映像ディレクターの須藤崇規さん、〈アーカスプロジェクト〉コーディネーターの石井瑞穂さん、〈PARADISE AIR〉エデュケーター/コーディネーターの金巻勲さんを迎え、レクチャーと参加者を交えたディスカッションを行いました。

初心者でもうまく撮るには?

舞台作品のディレクションや映像撮影などを行なっている須藤さんから、「撮るコツ10選」と題し、写真や映像に関する基礎知識や、撮影の具体的なコツを伝授。機材によって苦手とするシーンを理解する、主題はひとつに絞る、撮るときの高さを変えてみるなど、今日から意識できそうなコツがたくさん。熱心にメモをとる参加者の姿が見られました。また、大量に撮ったデータの整理・保存方法についても、日付別に分けるなど具体的な提案が。誰が見てもわかりやすく整理する必要性についても触れられました。

須藤崇規さん。

続いて、コーディネーターの橋本誠が、使える状態になっているもの=アーカイブという、本講座におけるアーカイブについての定義について触れました。またTARLでアーカイブしている全国各地のアートプロジェクトに関する記録集や、参考図書『アート・アーカイブの便利帖』、記録を整理する際に便利なツール『アート・アーカイブ・キット』などについて説明・紹介を行いました。

媒体をうまく使いこなす

〈PARADISE AIR〉の金巻さんは、現代のネット環境と既存のアーカイブの手法をうまく使いこなす事例を紹介。〈PARADISE AIR〉は、2013年から千葉県松戸市を拠点に活動を開始し、これまでに国内外から約100組のアーティストによるアーティスト・イン・レジデンスを受け入れてきました。運営に携わっているメンバーは、〈PARADISE AIR〉以外の仕事にも携わっているため、普段のやりとりはチャット中心。写真など記録データもすべてクラウド上で共有・活用しているそうです。また、写真はメンバー内で共有するだけでなく、instagramなどを通じ一般にも公開。「#p_air」で検索すると、これまでの写真を見ることができます。

〈PARADISE AIR〉は、クラウドやウェブサイト、SNSを活用する一方で、紙媒体の持つ役割も重視していると言います。年度ごとにテーマを決め、アートプロジェクトについてあまり知らない人でも思わず手に取りたくなるような、デザイン性もあり親しみやすいドキュメントブックを発行。中に使われている写真は、プロが撮ったものとスタッフが撮ったものを混ぜているとのこと。すべての記録をプロに頼めない場合でも、考え方によって、写真をうまく使い分ける事例が紹介されました。

ファシリテーターの橋本誠(左)と、ゲストの金巻勲さん(左)。

歴史的な視点を持ち記録・アーカイブを考える

最後に登壇したのは、〈アーカスプロジェクト〉の石井さん。1994年にプレ事業として始動した〈アーカスプロジェクト〉は、茨城県の主催事業で、守谷市に拠点を置き活動しています。国内外からのアーティスト・イン・レジデンスの受け入れをメイン事業とし、その補足的活動としての記録・保存も実施。時代の移り変わりと共にアーカイブズは増え、記録を保存する媒体も変わっていきます。フロッピーディスクやVHSなど、今ではほとんど使われなくなった媒体に残されている記録も、使いやすい媒体に変換するなどして大切に保存しているそうです。

国内のアーティスト・イン・レジデンスでは先駆け的存在である〈アーカスプロジェクト〉。これらのアーカイブを後世にどのように残し、伝えて行くかも大きな課題です。現在は、過去の記録を整備・調査する事業「アーカスアーカイブプロジェクト」を3カ年計画で実施しています。

石井瑞穂さん。

これからの記録・アーカイブ

ゲストの話を受け、参加者はグループごとに、今、アーカイブで悩んでいることや課題について話し合い、代表者が発表。リサーチをメインにした制作など記録に残しにくいものをどのように扱うか、その場の熱量が映像には残りにくいことへの悩み、著作権や肖像権についての悩みなどが共有されました。

最後に、ゲスト3名からの感想や指摘をいただきました。

須藤さんは、「紙や物に関しては様々な残し方が研究されてきたが、映像は誕生して100年ちょっとしか経っていない。保守的にならず、楽しみながらやっていきたい」と、映像技術の進化するスピードや可能性について言及しました。

金巻さんは「たくさんの記録媒体がある中で、それらをどうつなげていくかを考えるのが大事。アーカイブを日常生活に例えて考えてみると共通項も見つけやすいので、どんどんチャレンジしてほしい」とアドバイス。

石井さんからは「残したものをどう価値づけ、日本の現代美術の歴史の中にどう位置付けるか考える必要がある。アーカイブの専門家がもっと増える世の中になってほしい」という、長年活動してきた拠点にいらっしゃるからこその感想をいただきました。

新しく誕生した滞在制作拠点からの視点や、歴史を持つ滞在制作拠点ならではの話題の提供もあり、そもそも「撮る」とは、「残す」とは、「アーカイブ」とは何なのかを考える良い機会となりました。

<開催概要>
日時::2018年2月21日(水)19:00~21:30(18:45開場)
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:第4回 アートプロジェクトを記録・アーカイブする技術〜写真・映像の記録撮影から保存・活用まで〜
ゲスト:石井瑞穂(アーカスプロジェクト コーディネーター)、須藤崇規(映像ディレクター)、金巻勲(PARADISE AIRエデュケーター/コーディネーター)
ファシリテーター:橋本誠(一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

プロジェクトについて

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