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仲間や先輩と手を取り合って次を考える。

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2023.03.09

執筆者 : 遠藤ジョバンニ

仲間や先輩と手を取り合って次を考える。の写真

東京アートポイント計画に参加するアートプロジェクトの事務局たちが集い、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年12月にひらかれた第5回は、アーツ千代田3331のROOM302にて、9つのプロジェクトから30名近くのメンバーが集まり、久しぶりに対面で顔を合わせました。

今回のテーマは「ジムジム会2022 歳末学び合い〜解決のヒントはおとなりさんがもっている〜」。2022年夏から秋にかけて、各プロジェクトの事務局メンバーはそれぞれがもつ課題や興味関心にあわせて、東京アートポイント計画にかかわる団体や、以前かかわっていた団体を訪問するヒアリングを実施しました。

ヒアリングは、各事務局の個別具体的な疑問や課題を出発点にして、「このプロジェクトの手法がいまの我々にとって参考になりそう!」「似たようなテーマを扱っている先輩事務局は、どうやってプロジェクトを展開していったのか具体的に聞いてみたい!」と、トピックの洗い出しをしたうえで、話を聞きにいく団体を決定しました。

今回のジムジム会では、それぞれがヒアリングで得られた感触・気づき・学びを、ほかの事務局へ「おすそわけ」すべく、話を聞いたチームと聞かれたチームとで壇上に上がって報告しました。「どんな視点で、なぜ、どんなことを聞いたのか」「どんなことを知れたのか」「ヒアリングを受けて、自分たちの活動について新しい気づきがあったか」この3つを軸に、アーツカウンシル東京の担当プログラムオフィサー(PO)も交えて発表した当日の模様を、レポート形式でお伝えします。

ホームムービーというアーカイブの活用から、現代を捉えてみる

まずは、「めとてラボ」「移動する中心|GAYA(以下、GAYA)の発表から。このグループは、「アーカイブ」をテーマに、お互いにヒアリングを行いました。

視覚言語(日本の手話)で話すろう者、難聴者、CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり、自らの感覚や言語を起点とする創発の場づくりに取り組む「めとてラボ」。共催1年目となる今年度は、異なる身体性の人がともにいられる「場」づくりに向けたリサーチを重点的に実施しました。

プロジェクトを行いながら、「手話のアーカイブ」もテーマに上がってきています。手話は、ニュース映像などの記録以外に、その時代・その地域でいきた人々の暮らしのなかでつかわれている様子がなかなか残っていません。また、時代の変化とともに、言語である手話自体も常に変化しているため、記録に残らないことで忘れさられていく表現もあります。そのなかで、めとてラボでは現在、ある家族の手話での日常会話を収めたホームムービーを見つけたことをきっかけに、生活のなかにある手話のアーカイブを収集したり活用したりする試みを画策中です。

・「めとてラボ」アーツカウンシル東京公式ウェブサイト

GAYAは、8ミリフィルムに残された昭和のホームムービーを囲み、アーカイブから語りの場をつくるプロジェクトです。今年度は他領域との協働をすすめ、活動地域である世田谷区内の医療関係者らと連携した映像活用方法の開発なども行っています。運営団体であるremoは、GAYAとは別の事業の一環で、視覚障害がある方と映像鑑賞をする取り組みを続けており、さまざまな身体性や背景をもつ方と映像を活用していく可能性を探っています。

・「移動する中心|GAYA」公式ウェブサイト

ヒアリングではごく私的な記録であるホームムービーを他者とともに鑑賞することで、どんな気づきがあるのか、GAYAの取り組み共有をもとにディスカッションを行いました。ホームムービーを囲みながら対話することで、そこに直接は映っていない記憶や時代の雰囲気、歴史の断片が現れます。それをふまえて、アーカイブから滲み出てくる豊かな文化を感じられる可能性などについて、両者で意見交換をしました。また、アーカイブ映像の活用実践の先輩であるGAYAがもつ、映像を取り扱う上での注意点や運営・企画面での知見は、めとてラボのこれからのプログラムでも参考になり、「今後、なにかのかたちで協力できるかも」という話も。GAYAにとっても企画を一緒に考えることは新しいチャレンジになっていきそうです。今後の相互協力関係の可能性を感じられるヒアリングとなりました。

異なる防災へのアプローチに学び、次の展開を一緒に考える

NPO法人プラス・アーツの事務所にて。

被災地に蓄積されてきた記録物(禍録=カロク)をもとに、防災にかかわる知識や表現技術・課題などをさまざまな手法で伝え、災禍と災禍の間(災間)を生きる人々が、次に備えられるようなネットワークの形成を目指す「カロクリサイクル」。共催1年目の今年度は、ワークショップの開催や配信番組、リサーチの様子をまとめたレポートなどを積極的に発信しました。

ヒアリングでは、2009~2011年まで東京アートポイント計画の共催事業だった「イザ!カエルキャラバン!in東京」の運営団体、NPO法人プラス・アーツを訪問。同じく災禍を扱うプロジェクトの先輩から、防災の楽しさをアート的な視点で伝える事業のデザインや、地域の人たちとの持続可能な運営の仕組みづくりについて学びました。プラス・アーツの活動と比較して、場の開き方や参加者の対象年齢も異なるカロクリサイクル。今後は、このヒアリングから生まれた関係性をいかして、双方の都内の活動拠点である江東区での連携を探っていくことになりそうです。

・「カロクリサイクル」アーツカウンシル東京公式ウェブサイト

・「NPO法人プラス・アーツ」公式ウェブサイト

さまざまな協働先とつながり、持続可能な事業運営の姿を描く

多摩地域を舞台にプログラムを展開する「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting(以下、地勢図)は、府中市で活動する「Artist Collective Fuchu[ACF](以下、ACF)を訪問。自分たちのミッションを、他の事務局の活動を知ることで見直したいと考え、まずは“ご近所”であるACFに、どんな活動をしているかなどを話しにいきました。現在は、ACFのメンバーが地勢図の活動にも参加するなどの行き来もはじまり、連携も強まっているそうです。

・「多摩の未来の地勢図 cleaving art meeting」公式ウェブサイト

・「Artist Collective Fuchu[ACF]」公式ウェブサイト

墨田区でプロジェクトを展開する「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-」は、事務局やプロジェクトの運営、チームのディレクションについてなどを、先輩である地勢図に聞きました。地勢図は共催2年目ですが、運営するNPOは10年以上活動を続けており、長期的な展開についてのヒントをもらいました。

・「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-」公式ウェブサイト

壇上では、拠点運営の方法や、行政をはじめとする外部機関とどう連携しているか、事業パートナーと自分たちのミッションをどう重ね合わせているか、それぞれの試行錯誤や工夫なども共有。3つの事務局はそれぞれ、運営者の世代も、運営団体としての経験値もさまざま。東京アートポイント計画のネットワークをとおして、プロジェクト同士で質問しあったり、相談できたりする環境があることの大切さにもあらためて気づいたヒアリングでした。

プロジェクト参画までの手立てを先輩に聞く

音まち計画の拠点で、展覧会の会場にもなった「仲町の家」にてヒアリング。

海外に(も)ルーツをもつ人々と映像制作のワークショップを通じて、多文化交流の新たなプログラムの開発を目指す「KINOミーティング」。共催1年目となる今年度は池袋と葛飾で2回のワークショップを実施しました。

ヒアリング先は、2011~2021年度まで共催していた「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」を運営するNPO法人音まち計画。国内に在留する海外ルーツの人々の、日本での日常生活に焦点をあてたプログラム「イミグレーション・ミュージアム・東京」では、多国籍美術展「Cultural BYO…ね!」を12月に開催していました。KINOミーティングのメンバーは、展覧会を視察し、会場となった仲町の家でヒアリングを行いました。

・「KINOミーティング」公式Facebookページ

・「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」公式ウェブサイト

「多文化共生」がテーマの両プロジェクト。ヒアリングでは、展示作品の公募方法や、幅広い参加者を募るための広報戦略、地域にある外国人コミュニティとの関係性のつくり方、海外ルーツをもたない方のプロジェクトへの参画方法に関する話題が上がり、「一度つくった関係性が冷めない工夫」がプログラムを豊かにするポイントになりそう、という手ごたえを感じた時間になりました。

プロジェクトを500年続ける徹底した仕組みづくりに触れる

YATOの拠点である町田市の簗田寺にて。

国立市で、行政と連携してアートプロジェクトを実施する「ACKT (アクト/アートセンタークニタチ)(以下、ACKT)と、神津島で人々が島に愛着をもち、当事者としてかかわる土壌を育むことを目指す「HAPPY TURN/神津島(以下、HAPPY TURN)。この2つの事務局は、昨年度まで東京アートポイント計画として展開した「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」の運営団体である、社会福祉法人東香会に話を聞きにいきました。

ACKTは、プロジェクト2年目。今年度は活動拠点の調査を進めつつ、遊休地にテントを張り道行く人々とのかかわりや接点をつくる「・と -TENTO-」や、地域の資源をつかって土器をつくるワークショップを開催。共催6年目となるHAPPY TURNは、拠点運営を軸にアーティストプログラムや、教育機関との連携などを進めました。これから拠点をひらくために準備しているACKTと、すでにある拠点「くると」をどう運営・維持したらよいか考えているHAPPY TURN。拠点や場のひらき方や続け方を探っている両事務局は、そのヒントを得に、YATOの拠点である町田市の簗田寺を訪れました。

・「ACKT (アクト/アートセンタークニタチ)」公式ウェブサイト

・「HAPPY TURN/神津島」公式ウェブサイト

・「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」公式ウェブサイト

まずお寺に到着してYATOのディレクターである齋藤紘良さんに言われたのは「では、一緒に掃除しましょう」。みんなで庭の掃除をしてみると、お寺や里山の雰囲気が徐々に伝わってきて、この場所について自然と意識が向いていきました。YATOは「500年つづくcommonを考える」を掲げ、町田市忠生地域の寺院と里山を中心にこどもたちを対象にしたお祭り「YATOの縁日」や、ワークショップを開催してきました(2017〜2021年度共催)。東京アートポイント計画として共催した期間を振り返り、齋藤さんは「やるべきことのリズムができた」「拠点であるお寺や里山を自分の場所だと思ってもらえるようなものにしていきたいし、そのための取り組みを続けています」と話したそうです。

最初の掃除を通して、YATOが「500年」のスパンでやろうとしていることを身をもって体感した、と、ヒアリングに参加したメンバーは語ります。さまざまな人が、多様な関わり方でお寺や里山を訪れるようになる、いわば「アクセスポイント」をつくる工夫や事業展開から、人を巻き込み、活動を長く続けるための仕組みづくりを学びました。

拠点や活動で、排除せず受け止める

地勢図メンバーの森山さん(左)が、神津島の小学校でリサーチする様子。

報告の最後を締めくくるのは、多摩と神津島という地域性の異なる場所でそれぞれにアートプロジェクトを実践する2団体。ヒアリングを希望した地勢図メンバーが、実際に「HAPPY TURN/神津島」の拠点「くると」を訪れました。

こどもたちの生きる力や、それを育む教育に焦点をあてたプログラム「ざいしらべ」を行っている地勢図のメンバーは日々、多摩の地域性や人々の暮らしぶりを、どう活動へ反映させていくべきか考えています。そこで、地勢図で進めている図工教員と連携したプロジェクトのヒントを得るべく、多摩と環境の異なる神津島がどのような教育環境にあるのか、離島という限られたコミュニティのなかでのこどもたちがどう暮らしているのかといった様子や、拠点運営の様子、これまでで変わったことなどの聞き取りを実施しました。

ヒアリングを振り返りながら、HAPPY TURN事務局メンバーの中村さんは「地勢図の方に、この場所をどういう場所にしたいかと聞かれたので、拠点ではとにかく排除をしたくない、という話をしました。家では自由にできないこどもたちも、『くると』では自由に振る舞えるように、ひとまず受け止めてから考えるようにしています」と語りました。同事務局メンバーの飯島さんは「『島の人にちゃんと見られるようとしなくちゃ』と思うあまり、自分が頑固になってしまったり、自分の判断で人を排除しようとしてしまうようなことがありました。いまはそこから変わって『くるととしてはどうしようか?』と、地域のお母さんたちや移住者も巻き込みながらみんなで意見をもち寄って話し合える局面にやっと来ました」と話しました。

「教育」をテーマにはじまったヒアリングでしたが、交流のなかで、地域を舞台に行われるアートプロジェクトが、拠点や活動をひらいていくために大切なこととはなにか、再確認する時間にもなりました。

当日は情報保障として手話通訳(写真右)が導入されていました。

これからも、学び合いの輪をひろげたい!

2019年度からスタートしたジムジム会。これまでは広報や事業評価などの「共通する大きなテーマや参考事例」をピックアップして、他の事務局とともにディスカッションをしたり、ゲストのトークに耳を傾けたりする機会をつくってきました。
ヒアリングでは、そこからもう少し踏み込んだ「それぞれの事業に即した実践的なこと」を話し合う機会になって、事務局同士のつながりも強まり、次の展開や手ごたえを感じたメンバーも多かったのではないでしょうか。

参加者からは、「先輩プロジェクトの話を聞いて、それぞれに時間的なスケールが大きく驚きました。自分達の事業をどのようなスパンで想定するか、今後考えていくきっかけとなりました」という感想や、「実際にやっていることが違っていても、まちや人とのかかわりのなかで通ずるものが、アートプロジェクトの運営のなかでもあるのだとあらためて実感しました」などの声が集まりました。

都内各地で、それぞれの視点からアートプロジェクトに取り組む事務局のメンバーたち。活動が違うからこそ自分たちの活動への気づきが得られたり、違っているけれども共通し合うことが見つかったりします。来年以降の「ジムジム会」は、どんな学びや展開が待っているのでしょうか。

(執筆:遠藤ジョバンニ

(撮影:加藤甫 *1、2、4、8、9、10枚目)

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