さまざまな立場の人々とアートで協働する、先輩団体の背中に学ぶ【ジムジム会 2025 #1 レポート】

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2025.12.22

執筆者 : 遠藤ジョバンニ

さまざまな立場の人々とアートで協働する、先輩団体の背中に学ぶ【ジムジム会 2025 #1 レポート】の写真

東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局(共催団体)が集い、活動を展開する際の手法や視点を学び合ったり、悩みや課題を共有し合う勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2025年9月10日、府中市の「LIGHT UP LOBBY」で開催された第1回の様子をレポートします。

ジムジム会は2019年にはじまり、これまで広報、事業評価、チームビルディング、アクセシビリティなど、アートプロジェクト運営におけるさまざまな悩みが議題に上がってきました。6年目となる現在、学び合うテーマにも徐々に奥行きが生まれつつあります。

ACFの新拠点「LIGHT UP LOBBY」に、共催事業3団体を含む総勢約20名が集合しました

2025年9月10日、今年度第1回目のジムジム会が開催されました。今回のテーマは「アートと文化の接点から考える共生や地域との協働」。2023年度まで東京アートポイント計画に在籍していた、いわゆる“卒業団体”のNPO法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウ(以下、ACF)の新拠点のドアを叩き、お話をうかがいました。卒業後も、府中市を中心に自治体や企業と連携して、地域の人々や高齢者、障害のある人々など、さまざまな人々が参加できるプロジェクトを精力的に展開しているACF。その実践について、活動紹介と2本のトークセッションから学びました。

アーティスト・コレクティヴ・フチュウの現在地

はじめに、ACF事務局長・新井有佐(あらい・ありさ)さんが現在の活動を紹介しました。2019年から共催団体として活動をスタートして以来「誰もが自由に表現できるまちづくり」を軸に、4年間の共催期間中から地域に根ざしたさまざまなプロジェクトを展開してきたACF。

ACF事務局長の新井有佐さん
LIGHT UP LOBBYの壁面にある棚では、ラッコルタの活動で寄せられたユニークな素材たちやこれまでに制作したドキュメントなどを紹介しています

その活動のひとつが「ラッコルタ-創造素材ラボ-」です。これは、地元企業に不要な部材を提供してもらい、それらを表現のための“創造素材”として再活用する仕組みです。例えば梱包作業で出た段ボールの小片や、洋裁教室で使用していた布、墓石の石材見本などの素材を譲りうけ、アーティストの新たな視点を加えたワークショップを実施し、作品を制作します。普段なら廃棄されてしまう部材が、プログラムのなかで作品として甦る。そうした価値転換のプロセスを提供企業に共有することにより、循環型の仕組みと地域のつながりを発展させてきました。

「仕組みづくりの過程で、多くの人や企業に出会えたのが面白かった」と新井さん。いまも府中市や企業と協働するなかで、ラッコルタで培ったノウハウを応用して共創の輪を広げています。

もうひとつが「おとのふね」。府中のコミュニティFM放送局「ラジオフチューズ」で放送していたラジオプログラムです。府中にゆかりのあるアーティストや、独自の取り組みを実践する地域の方などを招いて「一人ひとりの暮らしや生活のなかに息づくアートや表現」の視点でおしゃべりを届けてきました。

LIGHT UP LOBBYの正面外観。駅直通の連絡通路に面していて、まちを行き交う人々の風景に溶け込んでいました

また、共催事業卒業後、地域に根ざした文化活動を支援したいというスターツコーポレーション株式会社の想いと合致し、新たな活動拠点「LIGHT UP LOBBY」が誕生。これまで共催期間中も拠点を持たないことについて活発に議論をしてきたACFですが、2025年の春より本格稼働をはじめ、コワーキングスペースとしての活用やACFが主催するイベント、ワークショップの会場などになっています。

府中のなかにある「地域資源の再発見とその循環」や「暮らしのなかにあるアートや表現」というローカルな視点からスタートしたACFのプロジェクト。共催開始から約7年の歳月を経た今、これまでの活動をベースにして、自治体や企業のニーズに寄り添うかたちへと各事業を発展できるようになりました。

異なる立場のステークホルダーと手を取り合うことで「日頃の活動では出会えなかった多様な人々とつながりはじめている」と新井さん。活動に厚みと広がりが増してきたと協働の手応えを語り、2つのトークセッションへとバトンを渡しました。

課題として捉えず、日常に浸透させていく。府中市との連携事業から

続いてのトークセッションでは、ACFメンバーの宮川亜弓(みやがわ・あゆみ)さんと府中市 文化生涯学習課の中司愛子(なかつか・あいこ)さんが登壇。アーツカウンシル東京プログラムオフィサー(以下、PO)の大川直志(おおかわ・ただし)を聞き手に、自治体連携の取り組みを紹介しました。

(壇上右から:大川、中司さん、宮川さん)

東京アートポイント計画では2024年度より、自治体に伴走し、文化事業への参加機会の提供を図る「東京都・区市町村連携事業」に取り組んでいます。

その連携自治体のひとつが、東京2025デフリンピックの開催地のひとつに選ばれている府中市でした。共生社会実現にむけた機運が高まるなか、文化事業を推進していきたい一方で、「そもそも誰が共生社会の対象なのか」「どんな手法があるかわからない」といった課題や「文化事業の担い手の声を集めて現状を把握し、これからの施策に活かしたい」というニーズがありました。そこで、同じ府中を拠点に活動していたACFをアーツカウンシル東京が紹介し、2024年度から活動がスタートしていきました。

まずは共生社会に関する声や課題をヒアリングするプログラム「共生社会を聞いて、みる」を実施することに。ここにACFのラジオ番組「おとのふね」のノウハウが生きています。

このプログラムはACFの宮川さんをパーソナリティに据えたラジオ形式で実施。府中市の中心市街地にあるけやき並木通りにテントを設置するなど、市民が気軽に足を運べる場所で行われました。ゲストには、府中市の高野律雄市長、UDフォントを手がける書体デザイナーの高田裕美さん、府中市聴覚障害者協会会長の小野寺敏雄さんなどを招き、公開収録・クローズド収録を織り交ぜながら、それぞれが思い描く“共生”のかたちについて聞きました。

府中市の中司さんはこのプログラムについて「話の内容自体がとても興味深くて、思わず聞き入ってしまいました。ただ、もしこれが講演会のような改まった場だったら、個人的には参加していたかどうかはわかりません。けやき並木通りのように開かれた、ふらっと立ち寄れる場だったからこそ、参加のハードルも下がっていたのだと思います」と、場づくりの重要性を実感したと語りました。

収録当日は、グラフィックレコーディングを導入し、視覚的にも話題を捉えやすくなるよう工夫しました

また、収録したラジオを動画コンテンツとしてアーカイブ化する過程では、字幕などの情報保障のあり方について考える貴重な機会にもなったと中司さん。ACFの宮川さんもそれに続いて、「手話を母語とする小野寺敏雄さんとの収録には手話通訳が入るなど、番組制作のプロセス自体が多くの学びに満ちていた」と振り返りました。

翌2025年度は、「共生社会を聞いて、みる」で得られた手応えをもとに、誰でも参加できるプログラムのかたちを模索しながら「織物BAR in FUCHU」を開催することに。「織物BAR」とは彫刻家・久村卓さんの主宰するワークショップで、カウンターにいる「店主」のレクチャーを受けながら、好きな毛糸や布をオーダーし、各自で手のひらサイズの織物をつくります。ACFではその“府中版”として、LIGHT UP LOBBYにカウンターを設置し、手話通訳を配置し、ろう者の方々も参加できるよう企画しました。

ジムジム会終了後に行われた、ACFのメンバーによる「織物BAR」実演の様子。バーカウンターのような場所で並んで織るなかで、お隣さんと自然な会話やコミュニケーションが生まれます

プログラム初日に訪れたろう者の方が、別の日に友人とともに再訪したり、参加者の一人がそのままカウンターに入って店主役を買って出て、ほかの参加者にレクチャーを始めたりと、プログラムのなかで思わぬ出会いやさまざまな交流が巻き起こる豊かな時間となりました。

本事業で「共生社会」というテーマに取り組んできたなかで、宮川さんは「課題として構えるよりも、アートの力で日常にどれだけ浸透させていけるかが大切だと感じました。今後も連携の機会があれば、多くの方々の日常に自然と入り込んでいける、そんな事業にしていきたい」と締めくくりました。

織物の素材となる布の切れ端は、ラッコルタで地元の洋裁教室やアパレル企業から提供されたものが使われています

表現がもたらす暮らしの豊かさ。株式会社チャーム・ケア・コーポレーションとの連携から

続いてのトークセッションでは、ACFメンバーの宮山香里(みややま・かおり)さんと株式会社チャーム・ケア・コーポレーションの事業構想室 菊水尚(きくすい・なお)さんが登壇。「企業との連携事業での取り組み」について語りました。聞き手はPOの佐藤李青(さとう・りせい)です。

(写真右から:佐藤、菊水さん、宮山さん)

チャーム・ケア・コーポレーションは、首都圏や近畿圏を中心に約100施設、全国で約6000名の入居者が暮らす介護付有料老人ホームを運営しています。入居者の暮らしの質を高める取り組みの一環として、若手アーティストの作品を公募して施設内に展示するほか、若手アーティスト支援事業にも力を入れています。2021年頃からは、実際にアーティストを施設に招き、アートにまつわるレクリエーションや余暇活動を実施するようになり、そのなかでACFと出会いました。

ホームに入居する高齢者は「家族に迷惑をかけたくない、自分の最期は自分で整理したいという想いから入居される方がほとんど」と語る菊水さん。ホームでは充実したサービスを提供しているものの、住み慣れた家や土地を離れることで寂しさを感じ、コミュニケーション不足から心身の不調をきたす方も少なくないそうです。

作品を鑑賞するだけでなく、自ら手を動かして表現する時間を設け、人とのかかわりが自然と生まれる場をつくりたい。そんな思いが高まりつつあった転換の時期に、ACFとの協働がはじまりました。

ACFでは、90代前後のご入居者様とアートを介したコミュニケーションの可能性を探求するために、「未来の記憶」をテーマに一連のプログラムを実施。ひとつはラッコルタの素材に触れるアートワークショップ。もうひとつが、昭和の8mmフィルム上映、音楽を通した交流によって五感を刺激し、記憶の想起を促すワークショップです。

参考レポート:「未来の記憶」プロジェクト

(上:ラッコルタの素材を使ったワークショップの様子/下:昭和の8mmフィルム上映会の様子※ともに提供写真)

ACFの宮山さんは「さまざまな入居者と出会って、コミュニケーションの方法を探り、試行していきました。施設に入居する“超高齢者”という枠組みで捉えがちですが、一世紀近い歴史を生きてきた豊かな“個人”にスポットを当てたいと考えていました」と説明。個性や背景を引き出す「その人らしさ」を大切にした企画によって、本人、入居者同士、介護スタッフや家族、それぞれが少しずつ発見を積み重ねる機会になりつつあったと手応えを語りました。今後も、都心部の施設を中心に、ワークショップで実践と探求を続けていく予定です。

チャーム・ケア・コーポレーションとの協働により、超高齢者の表現活動について深い学びの機会を得たACF。宮山さんはそのなかで「誰もが自由に表現できるまちづくり」の実現のためには、表現する側のみならず「表現を受け留める側の柔軟性や度量も問われているのでは」と思い至ります。「受け入れる度量」と「客観的な思考」が「共生社会の実現に欠かせない共通項」だと自身のキャリアに引き付けながら、マクロな視点で考えを述べました。

長期的な活動のなかで、ローカルに立ち返りながらも、社会の価値転換の起点をアートプロジェクトで生み出していけたら――。未来への展望を語って、トークセッションは幕を閉じました。

これからのジムジム会に向かって

アートプロジェクトの事務局同士の日々のモヤモヤや悩みを共有してきたジムジム会。これまでアクセシビリティを議題にしたことはありましたが「アートと文化の接点から考える共生や地域との協働」という大きなテーマを全面に据えたのは今回が初めて。事例発表が終わったあとも、先輩後輩が入り交じり、情報交換の輪が自然と広がっていました。

都内各地で、それぞれの視点からアートプロジェクトに取り組む事務局のメンバーたち。さまざまな属性の人が集うアートプロジェクトだからこそ、そこには「共生社会」に近づくヒントや気づきが詰まっているのかもしれません。

持ち帰った学びの“種”がどう芽吹くのか、各プロジェクトのこれからにぜひご注目ください。次回のジムジム会では、どんな学びが待っているのでしょうか。


撮影:小野悠介(13、14枚目を除く)

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