アートプロジェクトと併走する学びの場――シリーズを振り返る(小山冴子)|これからの航路に向けて レポート①

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2026.03.24

執筆者 : 櫻井駿介

アートプロジェクトと併走する学びの場――シリーズを振り返る(小山冴子)|これからの航路に向けて レポート①の写真

 2026年2月24日、これからの時代のアートプロジェクトのかたちを考える企画「これからの航路に向けて」をアーツカウンシル東京の会場およびオンラインで開催しました。本企画では、2025年度に事業を終了する「Tokyo Art Research Lab(TARL)」と、その一環として2022年度からはじまったシリーズ「新たな航路を切り開く」、さらにその成果のひとつとしてウェブサイトtarl.jpに実装したアートプロジェクトの「年表」について振り返りました。

このレポート記事は、オンライン配信の文字起こしをベースに編集・再構成し、プログラムの流れに沿って以下の3本にまとめたものです。

    1. アートプロジェクトと併走する学びの場――シリーズを振り返る[現在の記事]
    2. 思考の道具としての年表――その機能と可能性
    3. これからの航路に向けて

* プロジェクトの詳細はこちら
* 配信アーカイブはTARL公式YouTubeチャンネルにて3月末に公開予定

 オープニングは「アートプロジェクトと併走する学びの場――シリーズを振り返る」と題し、「新たな航路を切り開く」の企画・実施に伴走してきたプログラムオフィサーの小山冴子が、TARLのこれまでの変遷を辿り、「新たな航路を切り開く」の実践について語りました。

プログラムオフィサー・小山冴子

Tokyo Art Research Lab のはじまり|アートプロジェクトに必要な知の獲得と言語化、そして共有

小山: Tokyo Art Research Lab(TARL)は アートプロジェクトを実践する人々にひらかれ、ともにつくりあげる学びのプログラムです。2010年の開始時点から、現場の課題に応じたプログラムやコンテンツの開発、ゲストや講師とともにワークをおこなうゼミや講座、プラットフォームとしてのウェブサイト運営などを通じて、社会におけるアートプロジェクトの可能性を広げることを目指しさまざまなプログラムを実施してきました。

 2010年に発行した一番最初のTARLのシラバスには以下の通り書いてあります。

国内各地で現存する事例を掘り下げて検証する。未検証の現場を分析する。このことによって 生活圏のなかでアートプロジェクトを実施していくために必要な「知」と「スキル」の確立を目指していく

Tokyo Art Research Lab シラバス「『アートプロジェクト』を研究するプロジェクト始動!)

 各講座でまとめられた成果物は、PDFデータとしてもtarl.jpで公開されています。これはアートプロジェクトに関わるさまざまな地域の方にもひらかれたものです。また、TARLが2010年に発行したレポートでは、本事業のディレクター・森司が次のように書いています。

アートプロジェクトを展開する上で必要な知をアートプロジェクトに関わるみんなで更新可能にする、オープンソース化という環境の整備はTARLの目指す最終ゴールの1つだ

Tokyo Art Research Lab ―REPORT 2010―「TARL トラの巻」)

 TARLウェブサイトは 2022年に大幅なリニューアルをおこない、さらに2025年には地域との連携や実践課題に向き合う方法を考える、文化事業の担い手のためのプラットフォーム「tarl.jp」としてアップデートしています。まさにTARLでは、立ち上げの頃からアートプロジェクトに必要な知の獲得と言語化、そして共有を目指して、講座の開講や資料の制作、ツールの開発、ウェブサイトの構築などを進めてきたのです。

東京アートポイント計画との連携|研究成果やスキルを現場に提供する循環

小山:  TARLの大きな特徴は、東京アートポイントと連動したプログラムであることです。アーツカウンシル東京では2009年から、地域社会を担うNPOを中核に 東京都とアーツカウンシル東京が共催でアートプロジェクトを実施し、社会に新たな価値観や創造的な活動を生み出すための創造拠点「アートポイント」をつくる事業「東京アートポイント計画」を実施しています。

 東京アートポイント計画では、当たり前を問い直す、課題を見つける、異なる分野をつなぐ――そうしたアートの特性を活かし、実験的なプロジェクトをとおして、個人が豊かに生きていくための関係や仕組みづくり、コミュニティ育成に取り組んできました。これまでに都内各地で62団体と49の事業を実施しています。

発表スライドより(東京アートポイント計画の活動)

>共催事業一覧はこちら

小山: このように、都内各地でさまざまなアートプロジェクトが動き、実践を続けていると、その時々に必要な技術や掘り下げるべき事柄・課題が出てきます。それらを研究し、必要なツールを開発したり、課題となっている事柄自体を探求するような取り組みの場としてTARLという事業がありました。

発表スライドより(東京アートポイント計画とTokyo Art Research Labの関係)

小山: つまりTARLはアートマネジメントを学ぶだけではなく、アートプロジェクトの現場と併走する学びの場である、ということが大きな特徴です。アートプロジェクトを実施していると、活動のなかで、これまで見えてこなかった課題が見つかることがあります。それは、実施するプロジェクトの性質はもちろんのこと、地域や社会と関わる活動だからこそ見えてくるものです。

 必然的にTARLが実施する講座の内容や手法も課題に応じて変化してきました。都内各地で実験的なアートプロジェクトを実施するとき、東京アートポイント計画と連携することで時々の現場の課題に応じたプログラムを構築し、研究成果やスキルを現場に提供するという循環が生まれます。この連環によってTARLは社会の変化に応答し続けてきたのです。

Tokyo Art Research Lab の変遷|アートプロジェクトを継続する環境づくり

小山: TARLの変遷を大まかにまとめてみると、だいたい4年ごとに大きな変化があることがわかります。2010年にリサーチ型の人材育成プログラムとしてはじまったTARLでは、「つくる」「支える」「評価する」「伝える」「記録する」の5つのカテゴリーで、さまざまな形式で10の講座を開催しています。アートプロジェクトをはじめるための基礎的な講座や、プロジェクト運営のノウハウを学ぶ講座、批評家養成講座や評価についてのゼミ 、アートプロジェクトのアーカイブやドキュメンテーションを考える研究会、あるいは法律について学ぶプログラム。そして1990年代からの日本におけるアートプロジェクトを検証するリサーチプログラムなど、さまざまなものがありました。

 その後、アートプロジェクトを継続するために必要な環境整備や、担い手を育てる方法を考えるなかで、アートプロジェクトを動かすマネジメントの基礎を学ぶスクールプログラム「思考と技術と対話の学校」を2014年に開始します。

 さらに、2017年にはそのコンセプトを「“動かす人”から“紡ぐ人”の育成へ」と更新し、アートプロジェクトを他者に伝えるための言葉や体験づくりの技術を養うプログラムを開催しました。

 2018年にはアートプロジェクトをつくる技術に力点を置き「東京で何かをつくるとしたら?」という投げかけのもと、ナビゲーターと公募で集まったメンバーがチームとなりスタディを重ねる「東京プロジェクトスタディ」というシリーズがはじまります。ここでは、東京アートポイント計画に伴走する専門スタッフ、プログラムオフィサーが、スタディマネージャーとなり、議論と実践を深めていきました。

発表スライドより(TARLの変遷)

小山: このスタディから生まれたプロジェクトのうちいくつかは、その後の東京アートポイント計画の実施に繋がるなど、TARLには新しいアートプロジェクトをつくるための取り組みという側面もありました。現場の実践、そして積み上げのなかで、これからのアートプロジェクトを継続するための技術は何か、いま必要なものは何か、現場の声を聞きながら検討し進んできたというプロセスがTokyo Art Research Labのこれまでの歩みとなります。

Tokyo Art Research Lab の変遷|「新たな航路を切り開く」まで

小山: こうしたTARLの変遷を経て、2022年からスタートしたプログラムが「新たな航路を切り開く」です。2011年以降に生まれたアートプロジェクトとそれらを取り巻く社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズとしてはじまりました。ナビゲーターは P3 art and environment(P3)統括ディレクターの芹沢高志さんに務めていただいています。

 2022年は、新型コロナウイルス感染症の拡大、いわゆるコロナ禍というものが、さまざまな波がありつつも落ち着きを見せはじめた頃でした。その後、2023年の5月には「5類感染症」に移行し、コロナ禍の法的な制限は実質的に終了しますが、2022年はまだまだ混乱し、さまざまな困難や状況の変化が数多くあった時期だったと記憶しています。

 そうした流れのなか、TARLでもこれまで続けてきた「思考と技術と対話の学校」を一区切りとし、次の展開をどうしていくのか、何が必要なのかを今一度議論するタイミングでした。

小山: 「新たな航路を切り開く」を実施する前提として、TARLでは2010年に、東京藝術大学の熊倉純子教授をコーディネーターに迎え、日本におけるアートプロジェクトを検証しそれらの活動を考察・分析するプログラムを実施していました。その内容を素材に再編集し、水曜社から出版された書籍が『アートプロジェクト:芸術と共創する社会』です。ここには日本型アートプロジェクトの年表が参考資料として付属していました。この本が出たことによって、アートプロジェクトの変遷を流れで捉えることのできる資料ができたともいえます。

 それから10年が経ち、社会状況が変わるなかでも、TARLではこれからのアートプロジェクトをどうしていくのか、これからのプロジェクトをつくる人々を育てる必要性を変わらずに持ち続けています。そうすると、まずはその担い手となる人々がこれからのプロジェクトを考えるための資料が必要となるはずです。さらに、熊倉教授のアートプロジェクトの本から約10年が経過していたこともあり、あらためて今を考えるために参照する「年表」が必要なのではないか、という議論となりました。また、年表をつくるのであれば、紙ではなくてオンライン上で展開する年表とすることで、これからの時代は活用の幅が広がるのではないかと考えたのです。

小山: そこで、P3の芹沢高志さんにナビゲーターとして入っていただき、これからの時代を考えるためのプログラムを構築することとなります。特に年表をつくるにあたり、アートプロジェクトは関わる人々も規模もさまざまであり、全体を網羅することが難しいというなかで、芹沢さんの目線をひとつの軸にした年表制作をお願いすることとなりました。

 芹沢さんは、このシリーズに寄せたテキストで以下のように書いています。

激動する時代のなかで、ものの見方から行動様式に至るまで、さまざまな局面で本質的な更新を余儀なくされている。それはアートプロジェクトについても同様で、私たちは今、アートプロジェクトのあり方や進め方に関して、新たな時代に対応する変更を求められている。

 芹沢さんは 2002年に北海道で開催された、とかち国際現代アート展「デメーテル」のディレクターや、横浜トリエンナーレ2005のキュレーターなど、さまざまな国際芸術祭を手掛けてきました。また、そのかたわら、小さな活動体が集まる事業「アサヒ・アート・フェスティバル」の事務局長の経験や、個人としてもさまざまな地域の小さなアートスペースにも目配せしながらそれら全体の環境を考えているということもあり、その目線をもって「新たな航路を切り開く」がはじまることとなりました。

「新たな航路を切り開く」の展開|2011年以降の社会とアートプロジェクトを俯瞰する

小山: これからの時代を考えるにあたり、「新たな航路を切り開く」では、大きく分けて3つのプログラムを実施しました。

 ひとつが、実践者の語りを中心とした映像資料の制作です。まず「ケーススタディ・ファイル」というシリーズでは、2011年以降に生まれた多様なアートプロジェクトを取り上げ、どのようにプロジェクトが発生し、続いてきたのか、これからどこへ向かおうとしているのか、13組の実践者が語っています。震災以降、どういうモチベーションで、どういうきっかけがあって、何を考えながら、どのように展開させてきたのかということを聞き、それを映像資料としてアーカイブしました。また同時に、社会全体を俯瞰する視点から、独自の専門性を持つ5名の方が語る映像シリーズ「アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」も制作しています。さらに、2011年までにおいても独自の航路を切り開いてきた3名のゲストが語る映像シリーズ「3つの航路」も公開しています。

 二つ目のプログラムが、ゼミナール形式の演習「自分のアートプロジェクトをつくる」です。これは毎年約14名の参加者を募集し、約4ヶ月の間に、その人自身が何を課題意識とし、自分のなかにどんな問いを持っているのかを深める企画となっています。

 三つ目が、2011年以降のアートプロジェクトと社会を俯瞰する年表の制作です。2022年からデータの収集・整理をおこない、現在、ウェブサイトtarl.jpに実装しています。

tarl.jp 年表ページ

小山: この年表には、いくつかの基準でデータを掲載しています。ひとつは、ここまで紹介した「新たな航路を切り開く」の各プログラムに出演いただいた実践者たちに関わる出来事のデータが軸として入っています。かれらは、この15年ほどを俯瞰するために声をかけてきた人々でもあり、その周辺の出来事に加えて芹沢さんが監修した「社会的な出来事」が加わることで、さまざまな個人がどのように動いてきたのかが見えるのではないか、という狙いがあります。

 ベータ版としてウェブサイトに年表を実装したのは2025年の1月でした。そこから機能やデータを追加してきましたが、実際に触っていると 2011年以降の出来事のみならず、もう少し広い目線で見てもいいのではないかという議論になりました。そこで2010年以前のアートプロジェクトやそれにまつわる動向として、先ほどご紹介した『アートプロジェクト:芸術と共創する社会』の年表などを参照し、新たに項目を加えています。

 そうすると、約30年にわたる年表となるのですが、たとえばファーレ立川が30周年を迎えていたり、30年という単位で考えるとさまざまな節目や展開が見えてきます。さらに、まちなかのアートプロジェクトや美術館ではラーニングが重視され、まちの中に出ていくこと、人々の学びの場として開いていく流れもあります。そうした文化施設と街場のアートプロジェクトの関わり合いが見えてくるきっかけとして、わたしたちが所属する公益財団法人東京都歴史文化財団所管の都立文化施設の変遷や、アーツカウンシル東京によるアートプロジェクトの展開の一部も加えています。年表の掲載項目についての詳細は、tarl.jpの「年表の使い方」ページをご覧ください。

小山: わたし自身はTARLのはじまりから関わっていたわけではありません。ですが、これまでの資料や流れを辿ってみると、当初からアートプロジェクトを継続するためにはどういった知見が必要なのか、環境を整えるにはどのような取り組みをすればいいのかを考え続けてきた事業であるということを、あらためて振り返ることができました。

 ここからは、ウェブサイトtarl.jpに実装した「アートプロジェクト年表」について、ゲストの萩原俊矢さん、聞き手の櫻井駿介さんとお話をしていきたいと思います。

* 撮影:森勇馬
* 2026年2月24日実施「これからの航路に向けて」の収録音声をもとに編集・構成

>レポート②「思考の道具としての年表――その機能と可能性」はこちら

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