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「言葉」の文脈を繋ぎ、適切に届けるには?

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2018.05.17

「言葉」の文脈を繋ぎ、適切に届けるには?の写真

「つくる」で終わらせない。ドキュメントの「届け方」を、2017年度も研究・開発しました。

近年、日本各地で増加するアートプロジェクトにおいては、その実施プロセスや成果等を可視化し、広く共有する目的で様々な形態の報告書やドキュメントブックなどが発行されています。それらは、書店販売など一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要となります。

またそれらのドキュメントには、母体となる団体やプロジェクトの理念や文脈が込められています。複数のプロジェクトを抱える団体において、そこに通底する価値を広く社会に伝えることは重要です。

TARL研究・開発プログラム「アートプロジェクトの「言葉」に関するメディア開発:メディア/レターの届け方(2017)」では、アートプロジェクトから生まれた「言葉」(ドキュメント)の届け方の手法を研究・開発しました。

前年度に引き続き、本年度はアーツカウンシル東京の取り組みから「東京アートポイント計画」「Tokyo Art Research Lab」「Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)」を取り上げ、ドキュメントを届けるためのメディア開発(パッケージ及びレター)を試みました。特に力を入れたのは、冊子を届けるだけでなく、プロジェクトのアウトプットとして発せられた「言葉」を、より広い文脈と接続し、可視化することです。

完成|「Words Binder 2017 / Box+Letter」

先に完成品からご紹介します。本年度発送したのは11点のドキュメント(冊子8点、リーフレット形態のもの3点)です。それらを透明のボックスに納め、レターが見えるような形に仕上げました。また、今回はプロジェクトを横断した「言葉」の紹介や、それぞれの背景を紹介するようなコンテンツ(レター)も制作し、添えています。

表側(冊子が見える)/裏側(レターが読める)。
レター表面。ディレクターメッセージと、各プロジェクトの概況を掲載。
レター裏面。2017年度のプロジェクトから生まれた言葉をピックアップして紹介。
内容物一覧。判型も生まれた背景も異なる11種の印刷物をどう物理的に納め、言葉として届けるかが課題でした。

プロセス|届け方の改善と、臨機応変な対応

さて、完成品を先にご覧いただくと、スッと綺麗な形に仕上がっているように見えますが、その過程には様々な試行錯誤がありました。

「11種類のドキュメントを届ける」だけでも、例えばこんな課題があります。

●各プロジェクトの共催団体がそれぞれ年度末に向けてドキュメントを制作するため、印刷物としての判型やボリューム、タイトル等が発送タイミングの直前までわからない。
→サイズや紹介方法を包括できるようハード面・ソフト面双方で工夫する

●「東京アートポイント計画」「Tokyo Art Research Lab」「Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)」という3つの事業を横断するので、それぞれの背景が複雑。
→説明のためのコンテンツ(レター)の構成を検討する

●アートプロジェクトの「成果」をどう表現するべきか?
→各プロジェクトで「何を行ったか」はドキュメントに記載されているが、それらを俯瞰した伝え方をレター上で検討

●美しく、安全に届けるための適切な設計とは?
→前年度、配送業者側で箱を補強されてしまうアクシデントがあったので、避けたい。

こうした「どうしよう?」を前に、研究・開発チームであるデザイナー・川村格夫さん、編集者・川村庸子さん佐藤恵美さん、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサー・佐藤李青中田一会が一つひとつの課題に取り組みました。

2018年1月、前年度の発送物を振り返り、本年度の検討をスタート。
ドキュメントの仕様や基本情報を確認しつつ、ボックスとレターの仕様を決めていく。
プロジェクト成果の見せ方について、様々なアイデアを交わしました。
今回もアーツカウンシル東京・プログラムオフィサーの手作業で発送。作業ラインや工程もデザイナーとともに開発。
300件の制作はなかなか大変。工程上の問題や、外部発注、予算のバランスも適宜調整。

フィードバック|「言葉」は狙いどおり届いた?

こうして2018年3月末、約300件の「Words Binder 2017 / Box+Letter」を全国の文化活動拠点や、研究者、プロジェクトのコラボレーターに向けて発送しました。

「資料として活用します」「この◎◎◎、興味深いですね」といったメッセージをいただきましたが、特に見た目からわかりやすく「ギフト」にしたことで、SNS上でも好評だった様子。また、届いた瞬間から「どういったドキュメントがどういった意図で入っているか」をすぐに理解してもらえ、「どう活用できそうか」のコメントも添えた反応をいただきました。

SNSで投稿いただいた内容を一部ご紹介します。

大分県竹田市の文化拠点「真抄洞 shinshodo」さんの投稿。箱から内容物まで丁寧にご紹介いただきました。全国の拠点で配架していただくのも目的のひとつ。
ドキュメントのひとつを担当いただいた福岡県在住の編集者の方の投稿。各プロジェクトのコラボレーターに他の活動を知っていただくことも大切にしています。
届け方やメッセージの編集方法に注目いただいた投稿も。

まとめ|イメージを共有しやすい「かたち」を選ぶ

前回よりも受け取った方からの反応が良かった要因のひとつには、今回の「透明なクリアケースで荷物を送る」という「かたち」が通常のギフトの配送方法に近いことが影響しているのだと思います。たとえば、実物のハコが届く以前に、ハコのイメージを説明するときには「化粧品をいれるクリアケースの大きいものです」という言葉を使っていましたが、すでにある「かたち」に手を加えることが今回のハコのデザインのポイントになりました。(前年度の配送時の経験(デザインしたハコにガムテープで補強される……)を教訓に、今回の制作の意図を理解せずとも大切に配送してもらうように、という考えもありました)。

前年度のアクシデント。デザインしたハコが配送業者によって補強されてしまった。2017年度は「わかりやすいパッケージ」を目指すことに。

また、レターの裏面には、同封したドキュメントから抜き出した印象的な言葉を配置しました。当初は、ほかのドキュメントと差異化を図るため、また各プロジェクトに横断的な価値を伝えるための独自のコンテンツをつくる案も検討していました。しかし、結果的には、各ドキュメントの要点となるような言葉を選んでひとつのメディアに配置することで、複数のドキュメントを、ひとつの発送物として送るために機能するレターとなり、かつ今後継続していく「フォーマット」を生み出すことにもつながりました。

レターの裏面に、同封したドキュメントから抜き出した印象的な言葉を配置。

いろいろと検討した結果、シンプルなかたちに落ち着いた。と、言ってしまえば元も子もないですが、この一連のプロセスからは、こうした取り組みの課題となる「コスト」面でも進展がのぞめることが見えてきました。つまり、定型の素材を使うことで調達費用を減らす、フォーマットを開発することで運用のコストを軽くする、という可能性です。そうした「かたち」は受け手にとっても理解しやすいものになるのだと思います(もちろん、きちんとした手間をかけること、議論に時間を費やすことは外せないとして)。

アートプロジェクトの現場の課題の解決や、知見の可視化を目指し、様々な課題に挑むTARLの研究・開発プログラム。今回の検証結果やこれまでの蓄積を活かし、より良い届け方を今後も考え、検証していきます。

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