ファンタジア! ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―

「当たり前」を解きほぐし、創造力を育む

「墨東エリア」と呼ばれる墨田区北東部は、2000年代初頭の住民主導のアートプロジェクトをきっかけに、現在も多くのアーティストが暮らす地域。そこを舞台に、地域の人々がアーティストや研究者との出会いを通じて、豊かに生きるための創造力を育む「学びの場」を生み出す試み。他者との対話で生まれる気づきを通して、自分自身の想像の幅を広げ続け、自分のなかの常識や「当たり前」を解きほぐす小さな実験をしかけている。

実績

墨東エリアでアートスペースやアートプロジェクトの運営にかかわっていたメンバーらを中心にスタート。本事業が指す「学びの場」とは、これまでの「当たり前」を解きほぐす対話が生まれるような場。そのため、対話することを重視した多様なプログラムを開発してきた。

2018年度からは、現在も継続して発行している広報紙『ファンファンレター』の発行や、ヒアリング企画「WANDERING」を実施。『ファンファンレター』は、複数の人が集まり、オリジナルのスタンプなどを使って手作業で制作しており、誰かと協働作業を行うことが前提となった設計となっている。「WANDERING」は、相手にヒアリングしながら墨田区の白地図の上に対話の軌跡を落としこんでいくプログラムで、本人も気づかなかった発見に至ることを目指している。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、対面で集まりにくくなった2020年度には、『ファンファンレター』に組み立て式の付録をつけ、近隣飲食店のテイクアウトと連動させたり、「WANDERING」のオンライン版ムービーを制作したりするなどといった「みじかい間、少し遠くまでの対話」を実施。また、事務局内でラジオ番組風にオンラインで情報共有をする「ラジオの時間」を設けるなど、日常のなかでの創造力を忘れず、変化する「日常」や「生活」に柔軟に応答してプロジェクトを継続した。

そのほかにもアートや教育、まちづくりなど様々な分野の研究者やアーティストをゲストに招いたトーク企画「ラーニング・ラボ」や、「安心して楽しく“もやもや”しよう」をテーマに公募メンバーが定期的に集う活動「ファンファン倶楽部」、墨田区で行われてきた文化活動のアーカイブをつくるプログラム「スミログ」といったプログラムを展開。「スミログ」では、記録に残りやすい大きなアートイベントのみならず、朧げで小さな出来事などの記録も集め、「何をアートイベント/文化事業と定義するか」という問いを携えながら、記録の整理や活用方法を模索している。

また、アーティストとともに地域にかかわり、自分たちのまちや現在を見つめ直すプログラムも開催。2019年度から2020年度にかけては、アーティスト集団・オル太とまちの歴史についてリサーチを行い、それをもとに映像インスタレーション展「超衆芸術スタンドプレー 夜明けから夜明けまで」を展開した。2021年度からは、アーティストの碓井ゆいと、1919年に発足した福祉施設「興望館」との協働プロジェクトを始動。興望館のセツルメント運動や地域の歴史をリサーチし、写真や保育日誌、同人誌などの膨大な記録に出会いながら、こどもたちと一緒にZINEをつくるワークショップ「トナリのアトリエ」や、地域福祉とアートのつながりを考える展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」を実施した。これらの企画を通して、表現と社会活動の間の領域を模索したり、暮らしのなかに脈々と流れる創造力のあり方について考えたりしながら、アートプロジェクトの足元を問い、現在を見つめ直している。

2021年度には、東向島駅の近くに「藝とスタジオ」をオープン。これまでかかわった地域団体や参加者と関係を育み、新たな人々に出会うために、拠点交流の場として活用している。オープンスタジオを不定期で開催し、事務局メンバーの関心ごとから「リソグラフ」「アクセシビリティ」「ソーシャルワーク」などのテーマでプログラムを企画。他団体とも連携しながらプログラムを実施することで、新たな人を呼び込み、さらなる関係性をつなげている。ほかにも「すみだ地域福祉・ボランティアフォーラム」や「すみだボランティアまつり」に参加し、墨田区内で“福祉とアート”をテーマに活動する団体としての働きを積み重ねている。

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HAPPY TURN/神津島

島をめぐる「幸せなターン」を見つける

豊かな自然、神話や独特な風習が残る神津島村を舞台に、人々が島での暮らしに愛着をもち、自分ごととして島にかかわる土壌を育むプロジェクト。新たな価値観との出会いや発見によって、自分自身でつかむ変化のきっかけを「幸せなターン」と捉え、これからの生き方のヒントを探る。もともと島に住む人だけではなく、移住者や観光客、島を離れて暮らす人ともつながりながら、それぞれの考え方や文化を学び合う場をひらいている。

実績

2019年、島の中心地にほど近い通りにある元中華料理店を改装し、誰もが自由に使える広場のような活動拠点「くると」をオープン。大きな黒板や駆けめぐられる庭、音楽が流れるスピーカーのあるスケルトンの建物が生まれ、もともと島に暮らしていた人や移住者、たまたま通りがかった人、旅人など、大人からこどもまで多くの人々が行き交う風景が生まれている。

2021年度からは「アーティスト・プログラム in 神津島」を実施。島外からアーティストを招聘し、島の文化のリサーチや、島民との交流を通じて作品制作や発表に取り組んできた。アーティストの大西健太郎は、島に流れ着いた漂着物や、島の土や枝葉を組み合わせて、島民たちとともにオリジナルの盆栽をつくった。そして、それらの盆栽を持って島内を練り歩く「くると盆栽流し」では、こどもたちが自分のつくった盆栽に見せたい風景を探し、普段は見過ごしてしまうような島の魅力やおもしろさにあらためて触れる機会になった。美術家の山本愛子は、島ならではの素材を集め、刻んだり煮立てたりする染色ワークショップ「景色から染まる色」を開催。常連さんのみならず、草木染に興味を持って訪れた新たな島民たちも参加した。島の資源や染色の工程を学ぶとともに、何気ない景色にひそむ素材から生まれる思いがけない色や、布に定着した模様を楽しんだ。2022年度には、再び大西健太郎や山本愛子とワークショップを実施したほか、アーティスト集団・オル太は住民の話などを手掛かりにパフォーマンスや展示を島内の空き家でひらいた。また、ミュージシャンのテニスコーツとは「くると冬まつり2022」を開催。大人やこどもと島を巡り、島に伝わる唄や踊りを披露した。2023年度には美術家・馬喰町バンドの武徹太郎らを迎え、「くると冬まつり2023」と題し、島に伝わる民話に着想を得た演劇を上演したり、神津島の唄や踊り、参加者がそれぞれの得意技を披露したりした。島内の人々を巻き込こみながら準備に取り組んできたことで、事業に誰もが参加できる余白が育まれた。

そのほかにも、神津島福祉健康まつりへの出展や、島の空き家にある庭の草刈りをきっかけに島民が交流する「島の庭びらきプロジェクト」、島を出た人から島に住む人にメッセージを届ける映像シリーズ「やーい!~島をつなぐビデオレター~」の公開、やりたいことをみんなでやってみる「くると部活動プロジェクト」など、さまざまな企画を実施。部活動では「畑部」「まめでんきゅう部」「おどり部」など、拠点スタッフを顧問として、さまざまな世代が交流する場となっている。ウェブサイトでは、島で「幸せなターン」をしている人を探し、そのインタビューから一つの物語を共有する「HAPPY TURN/神津島 通信」を掲載しているほか、島内の全世帯に向けて活動を届ける『くるとのおしらせ』を発行するなど、島をめぐるさまざまなかかわりしろを生み出している。

※ 共催団体は下記の通り変遷

  • 2017~2020年度:特定非営利活動法人神津島盛り上げ隊
  • 2021年度~:一般社団法人シマクラス神津島

移動する中心|GAYA

ホームムービーを囲んで、語りの場をつくる

2015年から世田谷区内で収集・デジタル化されてきた、昭和の世田谷を映したホームムービーを活用して、語りの場をつくるコミュニティ・アーカイブプロジェクト。初詣、海水浴、運動会、遊園地、雪遊びといった、8ミリフィルムに写された記録をきっかけに、自分たちの生きる「いま」を考える。また、プロジェクトをともに動かす担い手の育成も目指す。

実績

世田谷文化生活情報センター 生活工房が主導するプロジェクト「穴アーカイブ」の一環として、2015年から世田谷区内で収集し、デジタル化されてきた16時間分のホームムービー。「移動する中心│GAYA」は、そのリソースを生活文化資料として活用し、語りの場をさまざまな場所につくっていくことを目指してはじまったコミュニティ・アーカイブプロジェクトである。

2019年度から、オーラル・ヒストリーを集める「サンデー・インタビュアーズ」のメンバー募集を開始。8ミリフィルムの映像に写り込んでいるロスト・ジェネレーション世代を主な対象とし、毎月第4日曜日に集合。対面で集まれなかった2020年のコロナ禍以降も、オンラインで活動を継続した。活動では、映像をじっくりひとりで「みる」、気づいたことをみんなで「はなす」、気になったことを人や資料に「きく」という3つのステップに繰り返し取り組んだ。このプロセスを通して、「昭和」という時代に向き合いながら、わたしたちがいまどのような時代に生きているのかを振り返り、市井の「誰か」の世田谷の暮らしやまち並みの記録を借りることで、「わたし」の視点を獲得することを試みた。

また、3つのステップについては、その手法や事例をまとめたプロジェクトサイトをつくり、開発したプログラムが広く活用されることを目指した。特に継続参加しているメンバーは、自分なりの「きく」方法を開発する方もいた。あるメンバーは、勤務先であるデイサービスの現場で、高齢者の方々と一緒にムービーを見て話をきくことを試みた。例えば、雪遊びのシーンを見たとき、そこに写っているものや光景から想起された当時の暮らしぶりが語られる。その言葉は聞き手にとって、過去の価値観を経由して現在を知る手がかりや、その語り手の人生に触れ、より深く理解するきっかけになる。異なる世代をつなぐ試みとしての可能性が見えた。

2022年度からは、そうした「多世代交流」の可能性を探るため、世田谷区内の医療関係者等と連携したプログラムを展開。映像を観ながら対話する場を、在宅医療の現場で設けてもらうなど、今後の他領域への展開に向けて試行錯誤を重ねている。

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記憶・記録を紡ぐことから、いまはどう映る? 見えないものを想像するために

他者の記憶やまなざしを借りて、まちの姿を捉え直す

社会状況や人の営み、ときには自然災害によって移ろいゆく土地の風景。いま、わたしたちが目にしている風景は、どのような出来事の変遷を経て、形成されてきたのでしょうか。それをなぞろうと、他者の記憶や記録というフィルターを通して風景を眺め直したとき、「いま」の捉え方はどのように変容するでしょうか。

今回のゲストは、記録の少ない敗戦直後の東京の姿を探るため、米軍やアメリカ人個人によって撮影された写真を収集し、アメリカが見た「Tokyo」と日本人にとっての「東京」の差異に着目して研究を行ってきた佐藤洋一さんと、東日本大震災や戦争の記憶をもつ人やまちを訪ねたりしながら、そこで出会った風景や言葉を記述することで土地の記憶の継承に取り組む瀬尾夏美さんです。

いま見ている風景や知っている出来事について、視点をずらしたり、他者の記憶やまなざしに出会ったりすることで、わたしたちが生きる時代について考えることにつながりうるのか。史実からはこぼれ落ちてしまう声を、どのように継承しうることができるのか。このような問いを抱えながら、お二人が重ねてきた実践、そこから生まれた問題意識や可能性について話を伺います。

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会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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ゆるやかに混ざり合う社会はどう生まれる? 「違い」を「出会い」に変換する

多文化な暮らしをつくるための文化・芸術の可能性を考える

電車のなか、コンビニ、レストラン……日々の暮らしのなかで、異なる文化や言語をもつ人々と場をともにする機会が増えてきています。国境を越えて移動する人々が増加し、多様な文化が同居するいま、「移民」としてではなく、同じ土地に暮らす「わたしたち」となるには、どのような視点やアクションが必要なのでしょうか。

今回のテーマは、「違い」を「出会い」に変換する。「移民」の若者を異なる文化や国をつなぐ可能性をもった存在として捉え、多文化の居場所づくりの研究・実践を重ねる徳永智子さんと、多文化が混在する兵庫県新長田において、それぞれの文化をかけ合わせながら展開するパフォーマンスなどに取り組む横堀ふみさんをお迎えします。

「違う」ことで分断されたままにするのではなく、「新たな発見や出会い」としてつなげるための実践とは何か。同じ土地に暮らし、これからの社会を担っていく一人として、多様性を受け止めながら、これからの暮らしをつくっていくための文化・芸術の可能性を探ります。

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ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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誰と暮らす? どう住まう? これからの「家族」のカタチを考える

住まいの空間や暮らしの仕組みをデザインして、家族を「ひらく」

月日を重ねるごとに、家族と「わたし」の関係性も、生じる問題も変わります。さらに家族を取り巻く社会すらも刻一刻と変わっていくなかで、自分たちなりの「家族のカタチ」を探ろうとするとき、どのような家のあり方や地域コミュニティとのかかわり方があるでしょうか。

あらためて「家族」を「一つの共同体」として捉え直そうとすることで、多くの人にとって自分ごとになっていく(あるいは、なっている)育児や介護に、例えば、家族のなかに「他者」を介入させるような、新しい視点を得られるのではないかと考えています。

今回のゲストは、自らの家族に生じた育児・介護の課題から端を発し、兵庫県新長田で介護サービス付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さん。そして、人々がゆるやかにつながる空間づくりを手がけ、プライベートでもその視点をいかして家族関係を編み直しているいわさわたかしさんです。「家族のカタチ」という、答えのない状況に向き合うお二人の思考と実践について、アートプロジェクトにおけるコミュニティや拠点形成のあり方と重ねながら話を伺います。

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ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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どこまでが「公」? どこまでが「私」? まちを使い、楽しむ暮らしをつくる

建築やグラフィティの視点から、都市空間の「公私」の境界線を探る

アートプロジェクトはまちなかで行うことが多いため、「公共性」について考えさせられる場面に遭遇することがあります。日常生活のなかで「公」的な場所と「私」的な場所は、対比関係にあるものとして捉えがちです。しかし、「公=みんなのもの/場所」として捉えることで、「公」を一人ひとりの「私」が重なり合い、立ち上がっていくものとして考えることができるのではないでしょうか。

今回のゲストは、まちでの一人ひとりの行動や視点に変化を促すことで、都市の印象や公共空間に対する気づきにつなげるユニットmi-ri meter(アーティスト/建築家)と、ブラジルのグラフィテイロに関するフィールドワークを通じて「まちは誰のもの?」という問いをもち、文化人類学的アプローチから「公共性」を考える活動を行なっている阿部航太さん(デザイナー/文化人類学専攻)です。この2組に「公」と「私」との関係性について、それぞれの実践やリサーチについてお伺いします。

「公」と「私」の境界線とは何か。また、公共的な空間と自分との間に、居心地のよい距離感をつくるために必要な思考や身体性とは、どのようなものでしょうか。ゲストの思考と実践から、そのヒントを探ります。

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会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])

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