年表を作る 2011年以降のアートプロジェクトを振り返る

実践者の視点から10年の軌跡を辿り、新たな時代を思考するための手がかりを探す

この10年で、わたしたちを取り巻く社会状況はめまぐるしく変化しました。これまでの考え方では捉えきれないような状況が次々と発生し、新たに炙り出される課題に応答するように、さまざまなアートプロジェクトが生まれました。しかしこのような状況は、どこかで一区切りつくようなものではなく、わたしたちはこれからもまた新しい状況に出会い、そのたびに自分たちの足元を見直し、生き方を更新する必要に迫られるでしょう。激しく変化し続けるこれからの時代に求められるアートプロジェクトとは、一体どのようなものなのでしょうか。

「新たな航路を切り開く」シリーズでは、2011年以降に生まれたアートプロジェクトと、それらをとりまく社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えていきます。ナビゲーターは、人と環境の相互作用に焦点をあてながら、社会状況に応答して発生するアートプロジェクトをつぶさに見続けてきた芹沢高志さん(P3 art and environment 統括ディレクター)です。

ここでは、2011年以降に生まれたアートプロジェクトを俯瞰し、年表を制作します。同シリーズでのプロジェクト「アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」や、「ケーススタディ・ファイル」、演習ゲストとの対話の中で得た実践者たちの視点も組み込みながら、社会にひらかれ、成長を遂げるものとして更新していきます。年表をつくるなかで、プロジェクト間のつながりや、社会との関係、コミュニティとのかかわりなど、新たな分類が見えてくるはずです。

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詳細

進め方

  • 「新たな航路を切り開く」の各プログラムの進行に合わせて、リサーチメンバーで内容を検討しながら年表を制作
  • 2011年以降のアートプロジェクトについての事例を調査
  • 社会的な出来事とアートプロジェクトの連関を検討
  • 10年を俯瞰する年表として事例を精査し、整理
  • 年表から見えてくるトピックを洗い出し、「新しい文脈」の発見
  • ウェブサイトでの年表の実装方法を検討

めとてラボ

誰もが「わたし」を起点にできる共創の場を

視覚言語(日本の手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり、異なる身体性や感覚世界をもつ人々とともに、自らの感覚や言語を起点にコミュニケーションを創発する場をつくるプロジェクト。手話を通じて育まれてきた文化を見つめ直し、それらを巡る視点や言葉を辿りながら、多様な背景をもつ人々が、それぞれの文化の異なりを認め合うための環境づくりを目指している。

実績

めとてラボでは、誰もが「わたし」を起点にできる共創的な場づくりを目指し、その環境や仕組み、空間設計などを含めた幅広い視点からのリサーチを続けている。また、活動のなかでさまざまな専門家や実践者と出会い、ヒアリングやディスカッションを通して視覚言語やろう文化を複数の視点から捉え直すことで、これからの活動にとって必要な取り組みを発見しながら実験を重ねている。

2022年度は、拠点づくりのためのリサーチと、手話通訳環境の整備と技術やツールの開発を目指す「つなぐラボ」を開始した。手話は視覚を起点としている言語で、音声言語は聴覚を起点としている。そこには、視覚と聴覚のそれぞれからなる言語体系ゆえのリズムや、対話の重なり方、空間の使い方などさまざまなズレが生じる。「つなぐラボ」では、このズレを意識しながら、いかに共創へと接続するかを模索していくために、手話通訳の現場においてどのようなルールや条件、進め方のリズムが必要なのかを探究し、技術やツール開発を行うことを目指している。2022年度は、異なる文化や感覚の間をどのようにつないでいくのかを検討するため、手話通訳者だけではなく、さまざまな言語間の通訳者、翻訳者にヒアリングを行った。
2023年度は、東京都美術館で行われたクリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」の企画のひとつとして実施した公開研究ラボ「パフォーマンス×ラボ」のプロセスをまとめた冊子『(からだ)と(わからなさ)を翻訳する ――だれもが文化でつながるサマーセッション2023「パフォーマンス×ラボ」の実験』を制作。芸術作品を伝えるための情報保障について探求した。
2025年度には、市民参加型のまちなかアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」のプログラム、野村誠 千住だじゃれ音楽祭「キタ!千住の1010人」に企画協力として参加。音楽劇に対してからだや手話をつかった視覚的な表現で楽しめるよう、翻訳に挑戦したほか、手を使った表現と組み合わせた演奏を提案するなど、さまざまな対話と実験を重ねた。

自らの身体や言語を見つめ、それに合う空間を設計していくことは、それらを肯定していくプロセスでもある。拠点づくりでは、“ろう者の身体感覚や手話言語からなる、会話空間を起点とした空間設計があるのではないか”という視点から、アメリカにあるろう者のための大学・ギャローデット大学の取り組みから生まれた「デフ・スペース」に着目。国内にあるデフスペースを再発見すべく、拠点や文化施設、各地域のろうコミュニティのリサーチのため、福島、長野、愛知を訪れた。2023年度には米・ギャローデット大学と筑波技術大学大学院にてデフスペースデザインの研究をしていた福島愛未を招いたイベントを行ったほか、一般社団法人日本ろう芸術協会とともに西日暮里に新たな拠点「5005(ごーまるまるごー)」をオープン。内装や什器の設計においても、デフスペースリサーチで得た知見を取り入れている。

この活動をもとに、2024年度から「デフスペースリサーチ」がプログラムとして始動し、「家」をテーマに、各地のろう者の家やその設計の過程をリサーチした。年度末には展覧会「DeafSpace Design ろう者の身体×家」を開催し、写真や映像の展示、トークなどを通して、空間を見渡せる吹き抜けの構造や、工夫された照明の配置など、「見る」ことを中心にデザインされたデフスペースの特徴を紹介した。
2025年度は、展覧会でのトークで見つけた「気配」というキーワードをもとに、日本的なデフスペースの家を新たに取材。また、これまでのリサーチで得た知見をまとめた冊子「DeafSpace-ろう者の身体感覚から考える空間-」を制作した。

2023年に日暮里にオープンした5005では、めとてラボの拠点として文化拠点プログラムを実施。2024年度からは、「5005開放日」として毎月3日間ほど誰もが来られる日を設定し、ワークショップや勉強会なども同時に行った。2025年度からは、名称を「めとてオープンデー」に変更し、毎月1回、誰もが来られる日を設定し、プロジェクトの紹介やワークショップを行うなど、交流の場として動かしている。

また、暮らしのなかにある手話をどのように継承し、保存していくのかという観点から、各地に残る地域特有の手話言語のリサーチや、暮らしのなかにある手話の記憶・記録をアーカイブするための取り組みも実施。ろう者の家庭で撮影されたホームビデオを鑑賞しながら対話を行う「ホームビデオ鑑賞会」では、聴者とろう者がともに集い、ホームビデオを見ながらの対話を通して、ろう者の暮らしのなかにある文化や時代の変遷に考えを巡らせている。2024年度にはホームビデオを一般公募するなど、プログラムの運営やかかわりをひらく取り組みも実施。2025年にはアーカイブの可能性と豊かさを広く伝え、鑑賞会を実施してく主体を育てるために、ゼミを実施。公開型の勉強会とゼミ生での振り返り会等を通して、アーカイブの意義を掘り下げ、鑑賞会をファシリテーションできる人材を育成することを目指した。

2023年には、こどもの遊ぶ様子を映像で記録し、遊びが生まれる背景を研究する「アソビバ」プロジェクトがはじまった。また、手話言語の豊かさを掘り下げるためCLワークショップ等も継続的に実施。この活動から、「め」と「て」で伝えあうなかで生まれた手話や視覚言語の可能性を探求する「イマジナリープロジェクト」が発足し、ワークショップを複数回開催。その成果として、体験型展示「イマジナリー!」を開催した。

2026年度はアーツカウンシル東京の「拠点形成事業」として継続・実施する。

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カロクリサイクル

カロク(禍録)をめぐる表現とネットワーク

各地に蓄積されてきた「過去の災禍の記録=禍録(カロク)」を読み込み、現在に応用するためのプロジェクト。災禍の歴史をたどり、地域の歴史を掘り起こし、それらに向き合う人々と出会い、話し合い、ワークショップや展示を通じて表現を行う場をつくることから、災間期をともに生きるためのネットワークづくりを目指している。

実績

東日本大震災以降、仙台を拠点として、災禍にまつわる記録を活用し、体験を語り継ぐための実践を行ってきた一般社団法人NOOK。2022年から活動拠点を東京に移し、これまで培ってきた知識や技術をいかし、災間期を生きるためのアートプロジェクト「カロクリサイクル」をスタートさせた。

2022年度は、「リサーチ」と「ネットワークの形成」を主軸として、事業発信やワークショップを実施。都内の災禍にまつわる歴史を探るため、東京都慰霊堂や都立第五福竜丸展示館など戦災や震災、水害等に関する施設への訪問やまち歩き、活動関係者へのヒアリングを行い、そこで得た気づきや考えをnote『カロク採訪記』で定期的に発信。ワークショップ参加メンバーも執筆に加わり、さまざまなネットワークが広がりつつある。オンライン番組『テレビノーク』では、各地の災禍のリサーチや記録活動に携わる担い手などさまざまなゲストを迎え、知見や技術を共有し合う場をつくった。これらのプログラムを各年度でも年間を通して実施し、2025年度までで『カロク採訪記』は26本の記事を発信、『テレビノーク』は38本を配信した。

また、過去の記録に触れたり、実際にリサーチや記録したりする活動を通して、新たな表現をつくるワークショップ「記録から表現をつくる」も開催した。絵画やテキストなどの記録物から表現を試みている実践者とフィールドワークを行ったり、参加者が関心のあるテーマを設定し、参加者が関心のあるテーマを掘り下げながらリサーチや制作を進め、記録から生まれる表現を探ったりすることに挑戦。2023年度からは参加者有志が、その成果を発表する展示も行ったが、これは2024年度、2025年度にも続き、参加者自身がチラシの作成に携わりイベントなども自主的におこなうようになっている。

そのほか、ふたつ以上の土地をオンラインでつなぎ、同時に映像や本などの資料を見て、ディスカッションを行う「カロク・リーディング・クラブ」や他団体と協働しながら江東区を中心とした災禍・防災・まちづくりに関する勉強会も実施しながら、対話を重ねるための場づくりと地域に根ざしたネットワークづくりを試みている。2023年度には東京と名古屋をオンラインでつなぎ関東大震災と伊勢湾台風の記録を読んで対話を行ったほか、「てつがくカフェ」を開催した。2025年度には、マーシャル諸島と佐渡島に暮らす同世代の二人による往復書簡『島しょかん通信』を実施。それぞれの島で生活を送りながら気づいたことを記録し、交換し合う形式で進められ、全10回の書簡をnoteに公開した。

2023年度からは江東区・大島四丁目団地内に構えた拠点「Studio 04(ぜろよん)」を中心に活動している。「窓」を巡る語りと写真で構成した展覧会「とある窓」では、公募で集まったリサーチャーは地域の人たちに話を聞き、文章にまとめ、展示用の冊子づくりまで行った。
2024年度に実施した展覧会「現代・江東ごみ百鬼夜行」では、区の歴史やごみに関する資料、新たに創作した物語などを展示。家庭のごみを持ち寄り「おばけ」をつくるワークショップを実施すると、会場にはこどもたちが制作した「ごみおばけ」が増えていった。展覧会の様子は江東区のLINEや情報番組などで地域の話題として取り上げられた。
2025年度には、東北、沖縄、広島、台湾、韓国、マレーシア、シンガポール、マーシャル諸島など、これまでに訪れた地域で聞いた戦争にまつわる語りや風景、残された記録をもとに、「戦争」と「戦後」を多角的に見つめ直すことを目的として、展覧会『歴史の蟹・戦後80年を歩く』を開催。戦争の終結後も続く社会的・歴史的影響を踏まえ、各地の資料や証言を編み直して展示し、来場者が記憶と記録を共有しながら対話と学びを深める場を創出した。戦後80年を生きる私たちが、過去の経験をいかに受け継ぎ未来へつなぐかを考える機会となった。また、本展は新たな取り組みとして「記録から表現をつくる」の参加メンバーとともに企画したもので、カロクリサイクルとしても新たな取り組みとなった。

開室日には、企画目当ての人だけでなく、近隣のこどもたちや外国籍の住民なども、本棚にある本を読んだり、おしゃべりをしたりするなど、さまざまな過ごし方をしている。

2026年度はアーツカウンシル東京の「拠点形成事業」として継続・実施する。

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KINOミーティング

異なる「ルーツ」と出会い、協働の場をつくる

海外に(も)ルーツをもつ人々とともに、都内のさまざまなエリアで映像制作を中心としたワークショップを行うプロジェクト。背景の異なる人々との出会いや対話を軸とした映像制作を通して、新たなコミュニケーションや協働のあり方を発見する場をつくり出す。また、参加者が主体的にかかわれるプログラムの研究・開発も目指している。

実績

団体が過去に実施した映像制作のプロジェクト「Cross Way Tokyo―自己変容を通して、背景が異なる他者と関わる」と「Multicultural Film Making ―ルーツが異なる他者と映画をつくる」にかかわったメンバーが、ワークショップクルーとして参加者をサポートする体制を構築。経験者が継続してプログラムにかかわれるような仕組みづくりに取り組んでいる。

2022年度は、池袋・板橋・大山・要町を対象エリアとしてワークショップを開催。中国や台湾、タイ、ベトナム、アメリカなどにルーツをもつ7名の参加者が集まった。参加者は3人1組のグループとなって、インスタントカメラや録音機、ビデオカメラを活用し、対象エリアにまつわる「思い出」をテーマに、まちなかでの撮影・編集、上映を行った。お互いがもつルーツや経験、まちへの記憶について何度も対話を重ね、それぞれの価値観を反映させた『変身』『ひみつ』『JST(日本標準時)』という3つの作品を完成させた。

2023年度には、まちを歩きながら、写真と映像、インタビュー音声を用いて映像を制作するワークショップとして「シネマポートレイト」を北区と新宿区で開催。新たに、過去の参加者を対象にした「ステップアップワークショップ」も始動した。参加者が互いの日常生活に密着し、対話を重ねる短編ドキュメンタリーや、「再会」をテーマにしたフィクションづくりにも挑戦し、演技やシナリオ制作、カメラオペレーターなど必要な技術と思考を培う場づくりを行った。ワークショップの最終日には上映会を行い、詩人・管啓次郎と漫画家・かつしかけいた、写真研究者の村上由鶴、行動学者・細馬宏通をゲストに迎え、言語も文化も異なる人々が協働し、作品づくりに取り組む場の可能性について言葉を交わした。

2024年度は過去の参加者を対象とした映画制作を通年で実施。15名の参加者とともに、3つの季節を舞台にしたオムニバス映画『オフライン・アワーズ』を制作するワークショップを行った。それぞれの体験をもとにした脚本の執筆をはじめ、演出、美術、技術、俳優といった役割を参加者が交互に担いながら進行。言語や制作意識の違いによるコミュニケーションの課題にぶつかりながらも、表現の可能性と向き合い、対話による他者との協働のあり方を模索した。3月には東京都写真美術館にて試写会を開催。映画と制作のプロセスを収めた「メイキング映像」を上映し、参加者によるトークイベントも実施した。

2025年度は、クリエイションの現場における多文化共生の実践や方法の可能性や課題を検討するため、コンテンポラリーダンスカンパニー「んまつーポス」および美術家・西尾美也氏をゲスト講師として招聘し、「アートと多文化共生の研究会」を開催。各講師の実践事例や手法の共有を通して、創作の現場における多文化共生の可能性や、協働から生まれるコミュニケーションのあり方について考察する機会とした。
また、多文化共生や協働について考える機会を創出することを目的として、教育機関等を対象に上映会開催パートナーの募集を行い、4つの大学において上映会を実施した。企画者である教員との意見交換や学生からのフィードバックを得るなど、上映と対話を通して、多文化的背景をもつ人々による協働や表現への理解を深めた。

さらに昨年度の映画制作に参加したメンバーを対象に、ワークショップへの参加経験が個人にどのような影響を与えたかを検証することを目的として、参加メンバーの中から7名を選出し、日常生活の様子を記録するとともに、KINOミーティングへの参加のきっかけや、参加を通して生じた意識や人間関係の変化について聞き取りと撮影を実施。その映像を追加し、メイキング作品を大幅に更新した。
2月には、これまでの取り組みを広く共有し、多文化的な背景をもつ人々の語りや協働から生まれる表現について考える機会を創出することを目的として映画祭を開催。更新したメイキングを含むKINOミーティングによる作品のほか、招待作品として『人間ピラミッド』(監督:ジャン・ルーシュ)、『夏休みの記録』(監督:川田淳)を上映した。また、制作者や専門家を招いたトークセッションを実施し、多文化的背景をもつ人々による協働や表現とその可能性について議論を深めた。

今後は事業を通じて開発した手法やツールをもとに、各地でのワークショップや上映会等を実施していく。

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ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)

まちを舞台に編まれる芸術と文化

国立市文化芸術推進基本計画が掲げる「文化と芸術が香るまちくにたち」の実現に向け、行政と市民、市内外の人々が交流し、新たなまちの価値を生み出していくプロジェクト。アートやデザインの視点を取り入れた拠点づくりやプログラムを通じて、国立市や多摩地域にある潜在的な社会課題にアプローチする。

実績

多様な人々との出会いを通じて、まちとともに成長するプラットフォームをつくるために、国立近郊を拠点とするメンバーが中心となり活動を開始。2021年度は、名古屋や大阪など先行事例をリサーチし、文化芸術活動の担い手や活動の生まれ方、その仕組みについてレポートを公開した。その後も、アートプロジェクトについて考える場として映画『ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへ』の上映会と意見交換会を行い、地域に向けた広報の工夫や、さまざまな立場を巻き込むプロジェクトの可能性について語り合うなど、リサーチを続けている。

市内での遊休地を活用するプロジェクト「遊◯地(ゆうえんち)」では、まちのなかで当たり前になった風景、使われていない場所などをまちの余白(◯)と見立て、その場所のもともとの機能とは異なるアプローチから場をひらくことにより、新しい光景や交流を生み出すことを目指している。2022年3月には、パイロット企画としてアーティストのmi-ri meter(ミリメーター)とともに『URBANING_U ONLINE』をJR中央線の高架下空間で開催。普段は閉じている工事用フェンスを取り払い、臨時スタジオとして巨大なテントを設置した。

2022年度にはそれらの経験を活かして、普段なら見逃してしまいそうなまちの隙間にランドマークとなるテントを設置する「・と -TENTO-」を実施。国立駅から続く大通りの緑地帯「大学通り」を会場とし、巨大な地図などを用いながら市内のおもしろい取り組みや、気になっている遊休地、国立の歴史についてヒアリングしたりと、道行く人々とやりとりを交わした。2023年度からはアトリエやギャラリー、店舗を巡ってまちを横断するプログラム「Kunitachi Art Center」を主催。公開制作やまち歩きツアーなども実施し、日常のなかで芸術文化に触れる機会をひらいた。2024年度には国分寺市からの後援や、立川市と多摩信用金庫からの協力を受け、広報エリアを拡大したほか、さまざまなスペースをめぐるスタンプラリーを実施するなど、活動がまちに浸透している。
2025年度の「Kunitachi Art Center」では、テーマを「I’m Learning.」とし、小学校と連携したワークショップや「みんなのラーニングゼミ」といった新規プログラムを創出。これまでKACに関心のなかった教育関係者やまちづくりに関心のある層へもアプローチすることができた。また、初の試みとして、屋外スペースの利用を検討し、JR中央線国立駅南口、旧国立駅舎の東西それぞれの広場をスペースに、2組のアーティストの作品展示を行った。どちらも駅へと向かう動線上にある広場であることから、多くの人が作品に触れる機会となった。

2024年度には、DIT(Do it together:「みんなで一緒につくる」という意味)を進めてきた拠点「さえき洋品●(てん)」を本格的にオープン。お金を介さず地域とつながる企画を一般公募する「ただの店」を実施し、出店メンバー7組が企画を持ち寄り、レコードなどを持ち寄って音楽を再生して語り合う会や、洋裁の相談会など、さまざまな企画を実施した。また、2025年には「ただの店」出店者を通年募集に切り替え、前年度の参加者とともに月1~2回程度、拠点を地域へひらいた。ただの店で企画経験を積んだ出店者が、次のステップとして地域のイベントに参加するなど、まちへの拡がりも生まれている。

拠点のそばにある谷保駅南口緑地の使い方を市民とともに考える「GREEN GREETINGS」では、2024年の開始時から、月に1度ほど、ガーデナーと植栽の手入れをしながら緑地の活用について話し合い、参加者同士が交流を続けている。2025年には入口付近に「GREEN GREETINGS」の案内看板を設置するなど、国立市の環境政策課と連携のうえ、徐々に環境を変化させている。また、緑の手入れだけでなく、体験や交流に重きをおいた企画も検討し、「ドクダミチンキ作り」などのミニワークショップや、モーニング企画を取り入れた。

そのほか、公式メールニュース、フリーペーパー「〇ZINE(エンジン)」の刊行など、定期的な情報発信を行っている。

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多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting

一人ひとりが自分の暮らす足元を見つめ直す

多摩地域の文化的、歴史的特性を踏まえ、その「地勢」を探ることを通して、一人ひとりが自分の暮らす足元を見つめ直すプロジェクト。2011年〜2020年度に東京アートポイント計画と共催したNPO法人アートフル・アクションがその経験とネットワークを生かし、小学校などの教育機関や福祉施設で働く人たち、地域で暮らす人たちとの実践の場づくりを行う。それによって個々人の抱える切実な社会課題に向き合うために人々が協働するネットワークの基盤づくりを進めている。

実績

多摩の未来の地勢図では、「ざいしらべ 図工―技術と素材について考える」「ゆずりはをたずねてみる―社会的養護に関わる人たちとともに」「多摩の未来の地勢図をともに描く」の3つのプログラムを主に行っている。

「ざいしらべ」では、多摩地域の小学校の図工専科教員を対象に、大きな木の根や竹、紅花など個人では手に入れにくい自然素材や大型素材を提供し、伝統的な技術や技法、ICTに関するワークショップなどを通じて、授業での表現や造形の拡張を促すきっかけをつくっている。2021年度には、本プログラムで培ってきた素材や道具を保管するための収蔵庫を東村山市立南台小学校に設置。さらに、多摩地区図画工作研究会とも連携し、技術が持つ広がりや役割、歴史的な背景についても知見を深めている。2023年度には14校と連携し、竹や広葉樹といった素材、布の染めや筆づくりの技法に触れる授業を実施したほか、アーティスト・五十嵐靖晃が奥多摩町立氷川小学校に滞在し、こどもや住民と交流しながら作品制作を行った。2024年度は、小学校を地域にひらく試みとして奥多摩町立氷川小学校の総合学習の授業において、造形作家・下中菜穂とともに獅子舞などの文化や自然を調べ、こどもたちが地域の歴史や慣習についての理解を深め、発表するプログラムに取り組んだ。2025年度は地元の編集プロダクションと連携し、奥多摩に蓄積された生活文化の記憶を掘り起こし、現代の暮らしへの接続を目的に、地域住民へのインタビューをもとにした映像の上映会と対話の場「Re:Satoyama ― 昔の暮らしに学ぶ、明日のデザイン」を行った。
昭島市立光華小学校では、アーティスト・弓指寛治が2024年12月から約1年間、4年2組(途中進級して5年2組)に、生徒として週2・3日程度の頻度で滞在。地域のリサーチやこどもたちとのかかわりから学校内に13mの壁画を制作した。そして、こうした取り組みをもとに関係者などへのインタビューを行い、冊子にまとめ多摩地域の教育機関への配布も行った。

「ゆずりはをたずねてみる」では、困難を抱えたこどもたちと向き合い、日々の業務に多忙な支援者のケアに取り組んでいる。社会福祉法人二葉むさしが丘学園のグループホームのスタッフを中心に、音楽やダンス、こころと体をほぐすためのエクササイズを通して、肩から力を抜き、隣り合う人々とゆるやかに出会い、日々を重ねる場づくりを実施。2021年度からは出張ワークショップを重ね、施設間の交流プログラム構築の可能性を探り、2023年度には「演劇を通して“ケア”を考える連続ワークショップ」へとプログラムを拡張。2024年度はその継続企画として、アートのもつ創造性や身体性からケアする・されることへの根源的な問いを探求する連続ワークショップや対話の場をひらいた。2025年度は集大成として、決まったプログラムではなく、参加者とのコミュニケーションを重ね、各々の関心や問題意識に沿ったプログラムを検討し進める「ケアをパンクで考える/ケアをパンクに考える」を実施した。

「多摩の未来の地勢図をともに描く」は、多摩地域の文化的、歴史的特性などをふまえ、いま自分が住んでいる足元を見つめ直し、現代の暮らしや社会課題に向き合うための方法を模索する連続ワークショップ。2021年度は「辺境としての東京を外から見る」をテーマに、フィールドワークと水俣、ハンセン病に関するレクチャーを開催した。2022年度は「あわいを歩く」をテーマに、参加者が実際にフィールドを歩き、考えることで議論を深めていくワークショップを行った。2023年度には「多摩の未来の地勢図をともに描く2023 ーre.* 生きることの表現」として、「シャトー2F(にーえふ)」を作業場としてひらき、ゲストを招いたワークショップや、映画の上映会など自主企画を実施した。ほかにも、暮らしのなかでの小さな問いをもちよる「たましらべ」では、スタッフや各プログラムの参加者が定期的に集まったり、大学の研究機関に訪問するなど、考えを深める場をひらいている。

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