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[資料紹介]新たな視点を獲得したい

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2022.12.13

執筆者 : 佐藤李青

[資料紹介]新たな視点を獲得したいの写真

実践からの「気づき」を紡ぐ

いまを生きる社会をどのように捉えればいいのだろうか? アートは、どのようなアプローチがとれるのだろうか? まちなかを活動の起点とするアートプロジェクトは、社会のいろいろな分野や立場の人たちとかかわるなかで、常にこうした問いかけにさらされています。プロジェクトを仕掛け、実践することで社会の変化に応答していくためには、常に自らの視点や思考を更新していくことが必要になります。

『氾濫原のautonomy|自己生成するデザイン』にはNPO法人アートフル・アクション!事務局長の宮下美穂さんが12年にわたる「小金井アートフル・アクション!」の実践で獲得した「気づき」を振り返り、より深めるために交わした5名との対話を収録しています。

「答えの出ないことを、どのように持ちこたえるのか」「結び直すこと、つなぎ直すこと」「日常生活を礼拝にすること 問題は向こう側にはない」「呼応することと、応答する力 作用としての場」「ほどく――緩やかなつながりの中に解体し、飛び火し、更新していくこと、照らし合うことの可能性」。それぞれの対話のタイトルを拾うだけでも、宮下さんが示す問いかけの深さを感じられるかと思います。

最終章は、本書の解題ともなる宮下さんの書き下ろしです。

一人ひとりの中で、あるいは人々の中で何かが生成されてくる過程そのものに内在する、ある種の抜き差しならない必然の回路がデザインで、その中には、それぞれの人の過去や未来も包含されているのではないかと思います。

その回路が機能する時、手先のことというよりも、経験のブリコラージュのようなものとして、複数の人々の中で互いの経験が自治/autonomy的に創発し合う状況が発動し、そして機能することを自己生成のデザインと考えたいと思います。一人ぼっちでもなく、集団、でもなく、一人ひとりの回路の発動が、隣にいるその人とのずれや齟齬を伴いつつ共創するということです。

最終章のこの言葉に行き着くまでに、どのような応答がなされたのか? ぜひ、本書を手に取って読み解いてみてください。

『氾濫原のautonomy|自己生成するデザイン』

その後のNPO法人アートフル・アクションの実践の一部は『わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編』で読むことができます。

『わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編』

『いま「合奏」は可能か? 心・技・体を整えて広場にのぞむために』は、数々の音楽に関するプロジェクトをディレクションしてきたVINYLSOYUZ LLC/NPO法人トッピングイーストの清宮陵一さんを中心にまとめたインタビュー集です。「公共空間を営みの場所として取り戻すには?」。本書のスタート地点となる問いに答えるために、清宮さんは「音楽、ひいては芸術活動は必要不可欠な要素である」といいます。一方で「音楽という形のないものが公共空間で鳴らされることには不安を招く側面もたしかにありうる」とし、「安全性や健全さを過剰に求める社会においては、一見よくわからない芸術活動は“ノイズ”として真っ先に除去される」ものだと続け、本書の内容を次のように記しています。

本書は、イベント制作者や文化行政担当者など、さまざまな立場で芸術活動を自ら行なったり芸術活動をサポートしていったりする人たちを対象に、その実践の過程でどうすれば心が安らぎ、技が磨かれ、体のバランスを保てるのか―ある種人間の根源的な部分を、法律、まちづくり、医療、宗教、音響といった多分野にわたるスペシャリストにインタビューし、そうした活動のベースを支えうる「提言書」としてまとめたものである。

それぞれのインタビューの冒頭に掲げられた言葉を拾って読むだけでも、本書がどのような「提言」をしているかを垣間見ることができると思います。「“どんな未来をつくるべきか”という“そもそも”の視点で、ルールや仕組みを改善していく」「“トライアル”によって何が起こるのかを可視化してみて、その風景を共通言語に空間を共につくっていく」「相手の心の来歴を知り、自分との関係性の“いま”を把握しながら当事者へと巻き込んでいく」「子どもの頃の音の原体験の中に“よりよく生きる”ための対話の接点を見つけ出していく」「その人に取って、本質的なものとは何か、そのことだけを目的にして音楽にも集中していく」。どれもがこれからの実践を後押しするような具体的で力強い言葉です。その提言は、音楽に限らず、「まち」をフィールドに多様な人が集まる「広場」をつくろうとする活動にとって役立つものとなるでしょう。

『いま「合奏」は可能か? 心・技・体を整えて広場にのぞむために』

『芸術祭ノート』は、写真家の港千尋さんが、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督を務めた経験をもとに執筆した本です。本書にはプロキシミティ、スタイル、マイクロヒストリー、リアセンブリングなど現在の社会のあり方を考えるためのキーワードが語られています。また、次のような実践的なエピソードも紹介されています。

言葉をモノとして作ることは、コミュニケーションの手段でもある。あいちトリエンナーレ2016ではテーマとコンセプトが決まった段階で、冊子を作ってみた。まだアーティストが決まる以前の、キュレーターチームが集まりはじめた段階である。目的は『虹のキャラバンサライーー創造する人間の旅』というテーマをヴィジュアルで伝えるようなツールを作ることだった。記者会見で配布するだけでなく、アーティストやスタッフに配るための、最初の印刷物である。あえて大判にして写真を大きく扱い、そこにテーマにまつわるさまざまな本からの引用を載せた。コンセプトを理屈で説明するよりも、視覚的聴覚的に感じてもらいたいと思った。その時点ではまだディレクション、キュレーション、デザインはほとんど初顔合わせだったが、その編集プロセスを通じてコミュニケーションが頻繁に行われ、短期間で作ることが出来た。紙の媒体は対外的な説明のツールとしてだけでなく、新しいチームの創成のために役立ったように思う。

本書は、港さんからの引き継ぎ書のように、「これから」の実践をつくるための考え方や手法が散りばめられています。読んで、考えて、それを誰かと話してみる。そして、自分だったらどうするかと次の実践を構想する材料として使ってみるのもいいかもしれません。

『芸術祭ノート』

港さんが編集長を務めた機関紙『ART BRIDGE』を併せて読むのもおすすめです。

『ART BRIDGE』は1号から6号まで発行されている。

考を深める、視点をひらく

社会のさまざまな分野とかかわっていくことは、そう容易なことではありません。異なるバックグラウンドをもった人たちと実践をつくるためには、互いのもっているものを出し合うだけでなく、両者を行き来するような言葉をもつことも求められます。

Tokyo Art Research Lab(TARL)での対談シリーズ「思考を深める/想像を広げる」では、アートプロジェクトの実践者と他分野・他領域のゲストが対話を行いました。3年間の活動記録は、3冊の講義録に収められています。

アジア、場所、生と死、公と私、音/音楽、セクシャリティ――毎回、異なるテーマを掲げ、全18回、のべ56名が語り合いました。ゲスト同士は、その場で初めて出会う方も多く、互いに言葉を探しながら議論を重ねた記録にもなっています。どのように議論が進んだのか、というところも読みどころです。そして、対話を読んで気になったゲストの著書や、その後の実践を追ってみるのもおすすめです。

『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2014
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2015
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2016

また、TARLのYouTubeチャンネルでは、P3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さんをナビゲーターとした対談シリーズ「アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」など、アートプロジェクトと社会にかかわる最新の議論を収めた動画もアップしています。

TARLのYouTubeチャンネルではさまざまな動画を公開中!

ここで紹介した本や動画は、このウェブサイトでは「思考の種」というキーワードに入っています。このキーワードから新たなコンテンツに出会うこともできます。こちらからも、ぜひチェックしてみてください。

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